星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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ショーダウン・オブ・アベンチュリン

「さあ、最後に勝つのはどちらか──赤黒決めようじゃないか!!」

 

 降り注ぐ、絢爛なるサイコロとチップの雨。スピーカーからは軽快なジャズが鳴り響き、それが彼が望み、仕組んだ展開であることを痛烈に理解させる。その「基石」は存護の使令であるスターピースカンパニー戦略投資部のP47「ダイヤモンド」の権能を分け与えたもの。その圧倒的な力に星穹列車は防戦を強いられていた。

 

「アベンチュリン、あんた本当に裏切って……!?」

「口は利かない方が良い。テーブルで物を語るのは──チップと、サイコロだけだ!」

 

 その言葉と共に「博戯の砂金石」となのかが一つのテーブルのような物に隔離される。それと同時に、二人の手元に現れる2つのサイコロ。僅かに混乱しながらも、星達は手出し出来ずにその様子を見守っている。そして彼がそれを転がすと同時に、なのかもサイコロを転がした。

 

「さあ、ショーダウンだ!」

 

 博戯の砂金石がその手を掲げたその瞬間、互いのサイコロが数字を顕にする。彼の数字が「2」と「5」に対して、なのかの数字は「3」のゾロ目。クラークフィルムランドの巨大なスクリーンに「7対6」と映し出された。

 

「ははっ、良いね!僕の勝ちだ!」

 

 そう言って、博戯の砂金石は高らかに指を鳴らす。高く投げられた1枚のチップは瞬く間に増殖し、チップタワーとなってなのかの上に降り注いだ。

 

「っ、なのか大丈夫?!」

「なるほど……一週回ってシンプルなやり方ね」

「ああ。要はこれは……俺達とアベンチュリンさんでのギャンブルというわけだ」

 

 そのヴェルトの言葉を裏付けるように、博戯の砂金石の攻撃は一層苛烈さを増していく。転がったサイコロは爆ぜ、手から放たれたチップは弾丸の如く宙を飛ぶ。バット、あるいは槍がコインを打ち返し、氷の矢がサイコロを撃ち落とし、重力がチップを叩き落とし、回転ノコがサイコロを斬り伏せる。それは彼の仕組んだ通り、圧倒的な優勢でありながらも、勝ち目は常にどちらにも存在する、恐ろしくフェアな戦いだった。

 一進一退のギャンブルが続く。賭けが起こり、その敗者には等しくダメージが蓄積される。そして博戯の砂金石が1枚のチップを投げると、それは空の隙間を割いてチップを降らせ始めた。

 

「例えどれだけの逆境、どれだけの死地にいようと、人はたった一つの希望さえあればそれに縋り、生き、そして賭け続ける……。「開拓(君達)」の持つ可能性は、僕の全てを賭けるに値する……!!」

 

 「勝負だ、星穹列車──!!」、博戯の砂金石の雄叫びと共に、全員を巻き込む巨大なテーブルが現れる。降り注ぐチップと、宙を舞う数多のサイコロ。彼がその内2つを手に取り、そして手放すと同時に、星穹列車の彼女達もサイコロを手に取り、そして投げる。それをショーだと勘違いした夢の客達の甲高い声援が響いていた。

 

「ショーダウン!!」

「……「2」と「4」、だから7!」

「ウチは10!」

「8よ!」

「「3」「2」、5か……!」

「……「6」「6」!僕の勝ちだ!!」

 

 会場のスポットライトが博戯の砂金石に降り注ぐ。「6」のゾロ目という、この佳境において叩き出された最大値。(これがアベンチュリンの幸運……!?)と、星はトパーズの言葉を思い出していた。

 

「君達にもお見せしよう、これが「オール・オア・ナッシング」だ──!!」

 

 博戯の砂金石の砂金石は浮かび上がり、身体の前でその腕を開く。それと同時に彼の頭上の、何も無いはずの空間も大きく開き、その中の数千枚のチップがまるでゲリラ豪雨のように彼女達の頭上に降り注いだ。

 

「……大丈夫か?」

「なんとかね……!」

 

 疑似ブラックホールとトランクケースの変形したドローンがそのチップを薙ぎ払い、ヴェルトと姫子は再び立ち上がる。「ヨウおじちゃん達頑丈すぎだよ……」「この程度で銀河打者がくたばるわけないじゃん」と星達もその後を追って再起する。「そうだ、それで良い。それでこそ──!」と博戯の砂金石は再びチップを構え、帽子を押さえた。

 

「ああ、どうして人は君達のようになれない?どうして、どうして人は──もっと思い切って生きられない──?!」

 

 その胸のスペードが一層の輝きを増す。来る、そう直感した星はその槍に炎を満たし、博戯の砂金石に突撃する。それを援護するように降る姫子の衛星砲。しかし彼はそれをも難なく弾き、そしてその視界にメインターゲット(黄泉)を収めた。

 

「全く、この期に及んでスロープレイか……本当、イラつかせてくれるなぁ……!」

 

 そして、博戯の砂金石はピノコニーの空へ浮かび上がる。彼の力の反動か、その空模様は大荒れ。雷が降り注ぎ、暴風が吹き荒れ、雨粒が全てを叩く。彼は高笑いしながら、まるでピノコニーの全ての人々に最後通牒を突き付けるかのように言い放つ。

 

「一切の出し惜しみ、一切の後悔の余地もなく誰もが楽しめるよう──誰もに、空前絶後をお見せしよう。今から──僕の、全てのチップを賭ける。理性を捨てての、本当のゲームをしようじゃないか!」

 

 彼の、一切の加減のない力の解放によって、その荒れた空は金色に覆われていく。カンパニーの富を象徴するかのように、雨のように降り注ぐチップ、チップ、チップ。吹き荒れる圧倒的な力によって、星も目を開け、立っているだけが精一杯になる。その中で、彼女は一人静かに、その刀の柄に手を掛けていた。

 

「さあ、君のコールだ。……「使令」」

 

◇◇◇

 

「……出発、か?」

「ああ」

 

 「もしかしたら、あなたの「縁」のある場所にも、立ち寄るかもしれない」と彼女は言う。数百年続く雨は、今なお彼女の和傘を叩いていた。

 

「ピノコニー……「夢」に探し物か?」

「いや、私の探し物は……そこにはないんだ」

「「調和(ファミリー)」が君を受け入れないとしても、行くんだな?」

「ああ。私の道は、誰も望みはしないだろう。私も、そうなのだから」

「其は、他とは一線を画している。誰も目を向けないし、目を向ける必要もなれけば、目を向けるべきでもない。ただ……誰かが、其の影、あるいは其そのものに足を踏み入れるというだけだ。その果てに、影になるとは知らずにな」

「あなたには……私も、そう見えるのか?」

「一抹の色彩が、君を繋ぎ止めている。たった、それだけだがな」

「……私は、それで充分だ。その色が全て消える前に……私は、「第IX機関(「虚無」の果て)」に辿り着く」

 

◇◇◇

 

「……ああ、やっとお会いできました」

 

 金色は、静かに、一切の予兆もなく、全てが止められた。そして、目の前にはただ、微笑みを湛える少女が一人。黄泉には、それが彼女の仕業だと、すぐに理解出来た。

 

「あなたが……「桜花」なのか?」

「はい。はじめまして、黄泉さん。あの件については、あの子がお世話になりました」

「やはり……彼女なんだな」

 

 「あなたには、隠す必要もありませんから」と彼女は笑う。それは彼女の目を通しても、極めて完璧な生命だった。その鮮やかな瞳が、彼女を覗き込んだ。そして黄泉は、「桜花」と彼女が、同じ色をしていることにも気が付いた。

 

「……何故、あなたは私に会いに来たんだ?」

「一度、あなたとはふたりきりでお会いしたかったんです。でも、ここでしか、あなたと二人で話せる時間がなくて。次に二人きりでお会いできるのは、エピローグになってしまいますから」

「そうか。……いや、あなたには言っておこう。あなたとは、初めて会ったのだと理解している。その上で、私はすでに何度もあなたにあったような気がしている。あなただけじゃない、他の全てを、何度も経験したように思えて仕方がないんだ

「それについては……まだ、答え合わせをするには早い、と言っておきましょうか」

 

 「大丈夫です。あなたには、それを知る「権利」がありますから」、そう言って、桜花は指で四角を作り、その景色を収める。「うん、彼の言う通りになりました」と彼女は頷いた。

 

「ここから先は、あなたの選択です。アベンチュリンさんも、私も、あなたの選択に関わるつもりはない。それどころか、彼は私がここにいることすら知らないでしょう」

「そう、なんだな。……最後に、1つだけ聞かせて欲しい。あなたは、どうしてこの夢を訪れたんだ?」

「私は……夢を、叶えに来たんです。生まれて初めての、大切なお友達の夢を」

「そうか。なら……あなたが為すべきことを果たし、目覚めの世界に戻れることを願っている」

 

 黄泉の言葉に、桜花は優しく微笑んで「あなたも、どうかあなたの旅を全う出来ますように」と伝える。そしてその次の瞬間、黄泉が目を閉じ、そして開くと、彼女は姿を消していた。

 金色は、再び動き出した。見境なく、雨粒と共に降り注ぐチップタワーがビルを砕き、彼女達の下へ襲いかかる。黄泉は意を決して、その一歩を踏み込んだ。

 

「……涙雨──」

 

 再び、時が止まる。静かな雨粒の隙間を、彼女が行く。

 

「……降りて溢るる」

 

 その髪が白く靡く。その衣が、黒く染まる

 

「渡り川──」

 

 腕が、脚が、瞳が、赤く染まる。赤い、涙が流れる。

 

「……黄泉路をゆけず」

 

 赤い刃が抜かれる。世界が色を失う。

 

「常世還らむ──」

 

 全てを飲み込むような、赤い一閃が迸った。

 


 

 その刃を収めたその瞬間、雨が、再び降り出した。

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