星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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研究:生命体は、何故眠るのか
最終楽章への奔流(その1)


「速報です。ピノコニーの「調和セレモニー」の開幕まで残り12システム時間を切りました。ファミリーの発表によれば──

 

 星穹列車の社内には、そんなラジオの音声と、リボルバーのカチャつく音が響いていた。メタリックでサイボーグなカウボーイはその銃口を、パムと共に列車の留守を守っていた丹恒に向ける。

 

「い、言ったじゃろう!そういうのは最終手段、何か要求があるのならまずは「話し合い」じゃ!」

「悪いな、ぬいぐるみチビ。今のオレはメチャクチャ大事な用があってマジに急いでんだ、こういうやり方じゃねぇと間に合わねぇ」

 

 服を着た二足歩行の小動物のような車掌、パムがそう咎めるも、そのカウボーイには取り付く島もない。丹恒は「自分の行動が決して望ましくないことは理解しているようだな」と口を開く。

 

「なら、俺からもお前の行動のリスクについて警告しておこう」

「おいおい兄弟、そうカッカしないでくれよ。これはオレ流の挨拶だ」

「二度言うつもりはない。お前の正体と目的について明かせ」

「なんだ、そんなことかよ。オレはブートヒル──「巡海レンジャー」だ」

「巡海レンジャーだと?」

 

 僅かにその目を見開いて聞き返した丹恒に、ブートヒルは「あっはは!そんなに驚くなよ、兄弟」と笑いながら言う。

 

「だが、そいつも無理はねぇな。何せ巡海レンジャーはしばらく表舞台から姿を消してんだ」

「……「巡狩」の義侠が、何故星穹列車をトレインジャックする必要がある?」

「まだ引き金は引いてないだろ?オレはリボルバー片手にお前らとおしゃべりしてるだけさ」

「そ、それをトレインジャックって言うんじゃが……」

「銀河には巡海レンジャーについての逸話が数多く残っている。だが、そのほとんどが決して良い話ではない。現状ではお前を信じるのは難しいな」

「はっ、まさかお前、「巡海レンジャーは全員天才クラブの「原始博士」にテナガザルにされて、今頃ブランコ遊びで忙しい」なんて馬鹿みたいなホラ話まで信じてる口か?そんだったら、オレがアンタらを本物の「開拓(ナナシビト)」だって信じられなくても無理ねぇな?」

 

 そう言って彼は華麗な指捌きでリボルバーを回し、その銃口を丹恒の胸に突き付けた。

 

「この銃、経験豊富なナナシビト様なら分かるだろ?9ミリ、永遠のロマンが詰まってる。率直に言って、今のオレには星穹列車の助けが必要……もちろん、アンタらが本物ならの話だ。もし、アンタらがあの女と同じニセモノだってんなら──バン!この弾丸は容赦無くお前の脳髄をブチ撒けるぜ。お互い、そんなことは望まないだろ?ってわけでそっちから証明……おい、何やってんだ?」

 

 銃口にも全く動じず、丹恒は「少し待っていろ」と資料室に戻って一つの箱を取ってくる。そして彼がその箱を開いた瞬間「おいおいウソだろベイビー!?」とブートヒルは派手に驚いた。

 

「アンタらが「結盟玉兆(それ)」を持ってるってことは──マジで「仙舟」がそうしたってことか!?」

「これは仙舟「羅浮」が星核の災いに見舞われ、列車がそれを退けた際にその礼として景元将軍から贈られたものだ。つまり、仙舟同盟は星穹列車の身元を認めているということになる。これで充分か?」

「チッ……ああ、上等だぜ」

 

 そう言ってブートヒルはリボルバーをホルダーに収める。それを握り、助けを求めれば何千何万の雲騎軍が一気呵成に押し寄せるという凄まじい代物に流石に言葉を失ったのか、妙な沈黙が流れた。

 

「次はお前が身元を証明する番だ」

「巡海レンジャーにそんなまともな繋がりはねぇんだ。こういう時に使える方法ってのは一つ……さ、アンタらが飽きるまで何でも聞いてくれ。追い出すのはその後でも問題ないだろ?」

「何故お前のやり方に合わせる必要がある?」

「仮にも「巡海レンジャー」を名乗ってんだ。中々まともには手に入らない情報もある。合わせといて損はしないぜ?」

「……、……「巡海レンジャー」とはどんな組織だと考えてる?」

「ハッ、「巡海レンジャー」は組織なんかじゃねぇよ。「巡狩」を歩んでて、自分の正義を持ってて、あんま「一般常識」やら「世間」やらに歓迎されてない奴らが多少の繋がりを持ってるってだけだ。アンタが聞きたいような「信念」なんてもんはない。オレらをまとめてるのはたった一つの共通の「ライン」だからな。弱い者イジメはしない、罪のない者は無闇に殺さない……人として、絶対に越えちゃいけないラインだ。巡海レンジャーが集まるとすれば──そのラインを踏み躙った誰かに「巡狩」を果たすその瞬間だけだ」

「……二つ目の質問だ。何故お前は星穹列車にトラブルを持ち込もうとしている?」

「ベイビー、そいつは簡単だ。オレはマジの用事でピノコニーの夢境に行かないといけないんだが、今は招待状がないとロクに通れやしねぇ。んで、ファミリーの招待客として高名なナナシビト様がいるってわけで、その肩書を借りたいんだよ」

「巡海レンジャーもそうなんじゃろ?夢の中で出会ったと聞いたぞ」

「そうそう!そこが本題なんだ。結論から言えば、そいつは「ニセモノ」。巡海レンジャーなんかじゃねぇ。偶然会ったメモキーパーが親切に教えてくれた」

「その「ニセモノ」とやらは一体誰なんだ?」

「そいつは三つ目の質問ってことで良いか?」

 

 ブートヒルに頷き、丹恒は「それで構わない。聞かせてくれ」と答える。彼は僅かに頭を掻き、「ニワカには信じ難ぇがな」と前置きして話し出した。

 

「そいつの名前は「黄泉」。オレの情報網が確かなら……そいつは「虚無」の使令だ」

「……待て、「虚無(IX)」が使令を持つはずがない」

「ハッ、オレと全く同じ反応をしやがる。「其が凡人を見る理由がない」ってな。だが、「使令」ってのは自分の身分を上手いこと隠せんだ。昔オレは「愉悦」の使令と酒を飲んだことがあってな。見た目だけでいや大した事ないピエロ、酔い潰してなきゃ「そう」とは全く気付けなかった。何せ「巡狩」なんて分かりやすいもんでさえ「仙舟同盟」と「巡海レンジャー」に分かれてんだ、「運命」なんて人の創った枠組みに世界の全部が全部収まってくれるなんてことは有り得ねぇ。ましてや「使令」ともなりゃオレらの認識なんて軽く飛び越えて来てもおかしくねぇだろ?」

「確かに、お前が言うことにも一理ある」

「だろ?そうと分かったらさっさとお仲間に連絡した方が良い。言っちゃ悪いが、そいつらは今相当に危険な状況だ。なんてったって、オレらには夢の中も、話の真偽も、「黄泉」の思惑も──一切、確かめる術がないんだからな」

 

◇◇◇

 

「……私は、何もするつもりはないんだが」

「「「それは君が決めることではない」」」

 

 クラークフィルムランドのステージ、両断された巨大なスクリーンの麓。黄泉の耳に、幾重にも「調和」する声が響いた。ピピシ人、オムニック、星間難民──その全てが声を揃え、彼女に語る。

 

「「「知っているか?この「夢」を初めて訪れたものは、まず大地を踏み締めていることを再確認し、それからようやく、揃って空を見上げるんだ。現実でも、夢でも、人が空に憧れるのは変わらない。「黄金の刻」が完成して以来、それは常にそこにあり、幼子を見守る母のように、人々が道楽に耽るその時を静かに包んでいた。だが……その夜空は無惨に引き裂かれ、今は「虚無」の狭間が顔を出している。たった、一回の斬撃によってな」」」

「「一度」……それは正確な答えじゃない。私は確かに二度斬った。ただ──二度目が、少し速かっただけだ」

「「「それは決して本質ではない。この宴には、多くの招かれざる客が集っている。たとえ「調和(シペ)」が遍くをその腕に抱擁するとしても……この夢の平穏のために、その中の何人かにはお引き取り願うしかない……分かるはずだ、「虚無」の人形よ。君に美しい夢は相応しくない」

「本当に、そうだろうか。夢は人に先立たない。夢というのは、常に人の次にあるものだ。相応しいか、相応しくないか、決めるのはこちらの方だと思うが。──そうだろう?ピノコニーの「夢の主」」

 

 黄泉の言葉に、彼等彼女等は「「「また、君を残せない理由が出来たな」」」と静かに答える。そして「「「改めて、君を歓迎し、そして見送ろう」」」と皮肉めいた言葉とともに、さらに彼女を囲む人影は増える。

 

「「「君が信じようと、信じまいと、これが「私」だ。一人残さず、本当のな」」」

「ファミリーの言う「絆」というのは、随分と直接的なんだな」

「「「私の肉体はとうに朽ち果てた。だが、意志はそうではない。オーク家120544人の子供達が、私に代わって悪を探す目であり、私に代わって旋律を聞く耳であり、私に代わって調和を歌う口であり、私に代わって人を思う心であり……そして「私」である。当然、この楽園から望まれぬ誰かを追放するのも、その役目だ」」」

「それは……私に、ピノコニーを離れるように頼んでいるのか?」

「「「ああ、大まかにはその通りだ。だが一つ……これは「頼み」ではない」」」

「……なら、その言葉は止めておいたほうが良い。身を知るのも、生き残る術だ」

「「「それは、「脅し」だな?」」」

 

 「夢の主」の言葉を肯定するでも否定するでもなく、黄泉は静かに言う。

 

「「繁殖」の形代は策謀を張り巡らせ、「存護」の奴隷は大義を為し、「虚無」は空を裂いた。そして「開拓」は、間もなく真実に辿り着こうとしている」

「「「……何が言いたい?」」」

「すまない、少し例え話をしたんだ。あなたであろうと、この夢を端から端まで支配することは出来ないという事実について」

「「「その言葉の意味を、分かっているんだな?」」」

「あなたのように、私について知った上で悪意を見せるものは多くはないが、決して少なくもない。大抵、そのような人々は「その言葉を取り消せ」、と刃を抜く。だが──いつも、言葉は覆らない」

「「「自信は若き人の特権だが……この場面においては決して正しい選択ではない。君の行動の一挙手一投足が歪めば、宇宙に響く「調和」の音は再び集い……「エターナリオン」はその裁きを下すだろう。だが……142人、私がこの手で追放した異邦人の数だ。彼等は私の双翼を折ることも、私の肉体を焼くことも出来る。だが、それでも……私は、こうして今立っている」」」

「だとしても──あなた達は、「死」からは逃れられない。あなた達全員に、それらはいつか降りかかる……」

 

 「だが、まだその時じゃない」、そう言って徐ろに歩き出す黄泉。「夢の主」は「「「それは良い選択だ」」」と頷いた。

 

「どうやら、これが簡単な、良いやり方のようだ」

「「「ああ。君とピノコニーでは属する世界が違う。彼岸に生まれた者と、此岸に生まれた者の墓が並ぶことはない。例えどれほどに「調和」の光が明るくとも……「虚無」を相手することもまたないだろう」」

 

 「「「名の通りだな、「黄泉」」」」と言う彼等彼女等の言葉に、黄泉も忠告を与えた。

 

「これは、彼岸の人間の言葉だ。ピノコニーの「調和」の道は決して立派なものじゃない。道を外れ、その上それは危うく砕け散りそうになっている。この先、あなた達は──限りなく「虚無」に近い結末をたどるだろう」

 

 「どうか、気をつけてくれ」、そう言い残し、真っ二つに両断されたクラークフィルムランドを、彼女はゆったりとした足取りで去っていった。

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