星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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彼女達の再会

「……やっと、全部が揃った。これで、今から本当の「流刑地(ピノコニー)」に向かう君に、本当のことを話せる」

「……本当に、ホタル……なんだよね……?」

 

 歓喜、困惑、驚愕、安堵、不信……あらゆる感情が混ざって、今にも泣きそうな子供のような表情を浮かべる星に、ホタルは静かに「うん、待たせちゃったね」と頷く。そして彼女は僅かに震える星の手を優しく握った。

 

「ほら、あったかくはないかもだけど……君の知ってるあたしの手でしょ?」

「……うん。ちゃんと、ホタルの手。生きてて良かったぁ……嬉しいなぁ……」

「あたしもだよ。もう一度、君の「開拓」に同行できるのを、心の底から嬉しく思ってる。でも……その前に、あたしは君に出来る限りのことを伝えないといけない」

 

 たった一回、深く、深く息を吸い、そしてゆっくりと、ゆっくりと息を吐くホタル。そして、彼女は口を開いた。

 

「改めて、あたしはホタル。そして──星核ハンター「サム」。星々を焼き尽くす、銀河最悪の犯罪者の1人」

「……分かってる。騙してたわけじゃ、ないんだよね」

「うん。あたし達には……ううん、あたしには、そうする他無かったの。だから一個ずつ、ちゃんと説明させて欲しい。あたし達が、あの誰かの夢の中で「死」に遭遇したのは覚えてるよね。私はあの時、危うくあのミームに殺されそうになった。でも、その時あたしはあのミームの中に「黄金の刻」とは全く違う「夢境」の影を感じたの。そう多くはなかったけど、それを裏付けてくれる程度の証拠も集まった。事前に送られてた桜花からのアドバイスとか銀狼の外部からの協力もあって、君達をあの夢境に招くことも出来た。そこで、あたしは君達の前に「死」を呼び出して、もっと簡単に全部を伝える予定だったの」

「……でも、ホタルは──」

「……「脚本」には逆らえなかった。当然、君に説明することも出来なかった。後は君も知っての通りだよ。あたしは「死」に貫かれて、君の腕の中で泡みたいに弾けた。それと一緒に、あたしの意識も憶質に押し潰されたんだ。まるで、深海の水圧で空き缶がぺちゃんこになるみたいにね。その「死」は、それを知らないのに、現実かって錯覚するくらいにリアルだった。……でも、次に目を覚ましたその時、体が全くの無傷だったことに気が付いたの。そして、あたし達が調べてた「本当のピノコニー」に辿り着いたことにも気が付いた。もっと原始的で、本能的で、混沌とした「流刑地」に」

「それが……この先に?」

「そう。だから、あたしは君にその事実を伝えようとしたんだ。でも、あたしが正体を明かすにはまだ早かった。だからあたしはあのメモキーパー達を引き剥がして、どうにかして君を戦場から連れ出そうとしたの。まさか、あのメモキーパーがインシァンと繋がってるとは思わなかったけど……」

「……!そうだ、星核ハンターってことは桜花もホタルの仲間なんだよね?」

「やっぱり、星はもう知ってるよね。星核ハンター「桜花」、あるいは「インシァン・ルアン・メェイ」。スターピースカンパニー曰く「あらゆる生命体の天敵」で、そして、あたしの生まれて初めての友達」

 

 「大丈夫、君達の敵ってわけじゃないから」という彼女の言葉に、星は「ホタルが言うなら」と頷く。ホタルは「ありがとう」と一言お礼を言って、話を続けた。

 

「それで、当然の結果としてあたしの試みは全部失敗した。だから、あたしに出来ることは、「脚本」と「手段」を守って、あのアベンチュリンさんと黄泉さんの戦いの果て、赤い斬撃と稲妻に導かれてこの記憶域まで落ちて来た君達を1人ずつ目覚めさせることだけだったの。そして、あたし達はこの記憶域の深部で再会することが出来た。これが、君が知れる今までの全貌。大丈夫?」

「問題ないね。この銀河打者には簡単な話だよ」

 

 「割と分かりません」という表情をしながらもドヤ顔で語る星に、ホタルは「全てを信じるのは、少し難しいかもだけど」と少し自信なさげに言った。

 

「……でも、これだけは言わせて。星と星穹列車は、正解の道を進んでる。「順調に失敗」してるんだ。私も、このままなら君に全てを証明することが出来る。だから……そのままで大丈夫だよ」

 

 そう言って、ホタルは星の手をそっと握り、目を合わせた。

 

「ゆっくり、ゆっくり深呼吸して……絶対に目を開けないで、頭に曖昧な夢を思い浮かべて……」

 

 そして星が脱力し、確かに肩の力を抜いたのを確認すると、ホタルはゆっくりとカウントダウンを始める。1、2、3──。

 

「……もう、大丈夫だよ、星。あたし達の迎えが来た」

 

 どこか遠くに聞こえる鋭い刃のような叫び声に、雪崩込む明らかに濃厚な憶質。それらは渦の量に奔流し、いとも容易く星の精神を飲み込んだ。そしてそのうちに星の感覚はゆっくりと遮断されていき、最後に残ったのは隣のホタルの心臓の鼓動。そして、彼女は目を開けた。

 

◇◇◇

 

 「ヤペラー」の高速道路、騒がしい星の夜を、1台のオープンカーが悠々と駆け抜けていた。

 

「……やっぱり、君の運転が一番落ち着くね。遅いのだけは気になるけど」

「こんなところで死に急ぐな。安心しろ、免許も更新したばかりだ」

「そういえば、この前取りに行ってたね。「罪悪の都市「ヤペラー」」……こんなところ走るなら、免許なんて要らないのに」

 

 その風に銀髪を靡かせながら、彼女は言う。「もう20システム時間は寝てないでしょ?少し休めば?」という彼女の言葉に、運転席の彼は「死にはしない」と静かに答える。

 

「俺も、お前も奴も、延長線に「(それ)」はない。そうだろう?」

「どうだろうね。……あと、もう少しスピード上げて」

「急ぐなら「サム」を起動すれば良いだろう。どうせ桜花の研究が終わるまで「脚本」は先に進まない」

「……だったら良いかな。今はもう少しだけ、味わう暇があるから」

 

 車はトンネルに差し掛かる。暗い中、ヘッドライトだけが道を照らす。しばしの、手慣れたような沈黙が流れた。

 

「……長いトンネルだね。どこまで続くのかな」

「カフカの下までだ。半システム時間後、俺達の到着とともにヤペラーブラザーフットは滅びる」

「ああ、そんなことも書いてあったね。それが彼等の「運命」ってことなんだ」

「……悪い癖だな。お前はすぐに「脚本」を書き換えようと試みる」

「じゃあ、君は?今度こそ、君はお望みの「死」が手に入るの?」

「答えはいつも通りだ。この星にも俺が求めているものは残っていない」

「そっか。君も大変だね。……運転、代わってあげようか?」

「それで犠牲になるのはカフカが用意したこの車だけだ」

「冗談だよ。でも、そうなるかはまだ分からないでしょ?……確かに、エリオはいつも「運命は1つだけで、人はそれを避けられない」って言ってる。あの人には未来が見えてて、あたし達も同じように自分の辿り着く「結末」を知ってる」

「だが、お前は一度捻じ曲げた」

 

 「そうだろう?」と彼は問いかける。彼女はそれに答えず、ただトンネルを流れる光に目を遣った。

 

「今日が終われば、ヤペラーブラザーフットの名は銀河の歴史から消える。アナイアレイトギャングは「永火官邸」が取って代わり、彼等の下に招待状は送られる。お前の目的地もそこなのだろう?」

「うん。……夢の地「ピノコニー」。あたしとインシァンは、そこへ行く」

「そこでお前がお前の「答え」を得られることを、あるいは一つの解脱に辿り着くことを祈っている」

 

 その言葉に御礼を言い、夢を見る練習でもするかのように、「繁殖(ホタル)」はその目を静かに閉じた。

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