星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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ゲーム続行(その2)

「っ……僕は、成功したのか……?」

 

 知らぬ部屋、知らぬベッドで目を覚ましたアベンチュリンは体を起こすなりそう呟き、辺りを見回す。和洋折衷、まるで旅館のような装いのその場所は、全く彼の記憶にない空間でありながら、それと同時に何処か感覚が覚えているような、不思議な感覚に満ちていた。だが、答え合わせはその直後のことだった。

 

「おはようございます。あなたの勝ち、ですよ。──アベンチュリンさん」

「君は……はは、また会えるなんてね」

 

 そしてアベンチュリンは自らの体を触り、その調子が元に戻っていることに気が付く。「混沌医師でも呼んだのかい?」、そう口にしようとしたところで、彼はお茶を淹れている桜花に「ありがとう」と礼を言った。

 

「……そうだ。僕を助けてくれた「純美の騎士」はどこへ行ったんだい?」

「アルジェンティさんですか?彼でしたら……そうですね、今頃「熱砂の刻」にでもいるんじゃないでしょうか。ああ、あと、金魚ちゃんは「黄金の刻」に遊びに行きました」

 

 「後で、少し会いに行こうと思います」と彼女は言う。アベンチュリンは彼女に一声掛け、部屋の窓を開けた。その外に広がっていたのは、暗く、温かく、質素で、それでいて充足した、本当の夢、「流刑地」の姿だった。

 

「どうですか?あなたの目的地には、辿り着けましたか?」

「……いや、まだだ。でも、ここは確かにその通過点だろうね」

「でしたら、幸いです。ここの憶質は美しい夢よりも幾許か濃度が高いですが、人体に及ぼす影響はずっと少ない。逆に言えば、今ピノコニーに溢れている「夢」は本来の憶質がもたらすものよりも遥かに強く、人を「蝕み」続けている。それこそ、人が「記憶域ミーム」をこの世のものとして感知出来てしまう程に、人は今「夢」に染まっているんです。果たして、これは本当に「調和」の加護なんでしょうか?」

「それは「答え合わせ」かい?」

「あなたが答えを持っているのでしたら、そうかも知れませんね」

 

 そう言って、桜花はクスッと笑う。このピノコニーに張り巡らされた陰謀の全てを見透かしているようにも見えながら、それと同時にその一切に価値を見出していないかのようにも見える彼女。「なら、君は何のためにここに来たんだ?」と彼が言いかけると同時に、彼女は「知りたいですか?」と首を傾げる。アベンチュリンは少し黙った後にその首を横に振った。

 

「それを知ったら、その瞬間が少し味気なくなりそうだ」

「ふふっ、ええ、正しい判断だと思います。それで、アベンチュリンさんはこれからどうするつもりですか?」

「僕は……もう少し調べなきゃいけないことがある。きっともう一回くらい星穹列車(彼等)に会うことになるだろうから……それまでに、出来る限りの準備はしておきたいんだ。君は黄金の刻に戻るんだろう?」

「戻る、というよりは……何度か往復することになりそうです。私にも、為すべきことが幾つか残っていますから」

「忙しいんだね、君も」

「このピノコニーでは、私は主役の座には着いていません。ともなれば、主役のハッピーエンドのために奔走するのが私の務めでしょう?」

「……ああ、そうかもしれないね」

 

 そしてアベンチュリンは腕時計を見た。刻々と、彼の決着の時刻は迫ってきている。自らの帽子を置き去りにしたことを思い出すと、彼はベッドから降りて傍らのコートを羽織り直した。

 

「それじゃあ、そろそろ僕は行くよ。すぐに戻って来ると思うけど」

「目立ちませんか?金魚ちゃんから「孔雀ちゃんのお役に立てて〜!」って女装グッズ(こんなもの)も預かってますけど」

「……やっぱり、「パブ」の誘いを断ったのは間違ってなかったみたいだ。いや、それを知る方法なんてどこにもないんだけどね」

「「運命」というのはそういうものです。いつだってその瞬間にしかなくて、なのに過去にも未来にもその触手を無尽蔵に伸ばし続ける……恐ろしく無責任です。それも、堪らない程に」

「全くだね」

 

 「サイコロの方がよっぽど扱いやすい」、そう彼は笑った。

 

◇◇◇

 

 現実のホテル・レバリー、そのロビーに二人の男が訪れていた。いつも通りの業務に励んでいたコンシェルジュが彼等を見つけると、「何かご要件でしょうか?」と声を掛けると、丹恒がそれに答えた。

 

「俺達は「時計屋」に招待された星穹列車のナナシビトだ。チェックインしたいんだが……」

「星穹列車、ですか?でしたらすでにチェックインされていますが……」

「ああ。後から合流する予定だった。「丹恒」という名前がシステムにあるはずだ」

「分かりました、ただいま確認いたします。それと、こちらの方は……?」

「お、言い忘れてたな。オレの名前は「パム」。ついこの前星穹列車に乗り込んだばっかの新人ナナシビトだ」

 

 そう堂々と大嘘を吐くブートヒル。丹恒も一瞬の間を置いた後に感情を抑えて「こいつは列車が招待状に返事を送った後に加わったんだ。どうにか出来ないだろうか?」と重ねてコンシェルジュに頼む。すると彼女は、先程の星穹列車の皆様も同じような状況であり、前例があるために可能だと丹恒に伝えた。恐らく星のことだろうと思いつつ、「そうしてもらえるとありがたい」と彼は礼を言った。

 

「……あれ?……申し訳ありません、現在夢境にいらっしゃるはずの星穹列車の皆様と連絡が取れず……」

「ああ?それだとなんかダメってのか?」

「申し訳ありません。身元が保証出来るまではチェックインが出来ませんので……」

「なら、僕が保証しよう」

 

 僅かに騒がしくなりかけたロビー。そこに姿を現したのは博識学会、ベリタス・レイシオだった。そして彼は自らの身元を明かすと、「保証人には不足か?」と彼女に尋ねる。コンシェルジュは「め、滅相もありません!」と慌てて手続を再開した。

 

「もう少しだけ手続に時間がかかりますので、先に中のバーラウンジでお寛ぎください。手続が完了し次第、係の者が案内に伺いますので……」

「とのことだ」

 

 そしてレイシオは「君達と少し話がしたい」と丹恒達に持ちかけた。

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