「改めて、僕の名は「ベリタス・レイシオ」。博識学会の凡人院に所属する学者だ」
ホテルの道を行きながら、レイシオは二人にそう自己紹介する。ブートヒルは「おいおい、学者サマが突然オレ達ナナシビトに何の用だってんだ?」と悪態を吐きつつも尋ねると、レイシオは話を続ける。
「まず、僕は君達に全面的な協力を要請している。理由は後述するが、君達が協力してくれるのなら僕もピノコニーについて共有出来る情報は全て伝えよう。君達がピノコニーの状況に介入するつもりなら、決して無視できないメリットになるはずだ。それと「レンジャー」、僕の前まで身分を偽る必要はない」
「ハッ、さすが学者サマは頭も切れるって訳だ」
「それで、お前が俺達の協力を必要としている理由というのは何だ?」
「僕はカンパニーの技術顧問として、ある1人のビジネスパートナーと共にこのピノコニーを訪れた」
「……待て。今アンタ「カンパニー」って言ったか?」
ブートヒルはその表情も、声色も険しくして聞き返した。しかしレイシオは「その続きによっちゃ、オレの弾丸がその頭を台無しにするかもしれないぜ?」と告げる彼に「そう焦るな」と冷静に答える。
「カンパニーに敵意を抱く人間が多いのは百も承知だ。だがカンパニーも一枚岩というわけではない。君の標的が「
「……いいぜ、今はその口に撒かれてやる」
そしてレイシオは自分が知る限りのピノコニーの夢境での出来事を簡潔にまとめながらも過不足なく説明していく。星穹列車、ファミリー、星核ハンター、仮面の愚者、黄泉、そしてアベンチュリンについて。一通りを話し終えると、丹恒は「そういうことか」と頷いた。
「おいおいベイビー、つまりそのアベンチュリンってやつは敢えて黄泉にぶっ殺されることでその「本当のピノコニー」に行こうとしたってことか?」
「もし星達もそこにいるとすれば、連絡が取れないことにも説明がつくな」
「だが、僕は生憎そこへ行く手段を持ち合わせていない。だから僕は「星穹列車の乗組員がまだ外に残っている」という可能性に賭けた。……やれ、奴の悪い癖が感染ったらしい」
「それで、「協力」というのは具体的には何をすれば良いんだ?」
「今伝えても意味はないだろう。荒波を航海する術を知っているのは、学者ではなく常に船乗りだ」
「オレも同意だ。互いに銃を向けあったその瞬間、頭ン中に説明書なんかねぇからな」
「……分かった。お前がパートナーと、俺達が星穹列車と合流できるまで、俺達はお前に協力しよう」
「感謝しよう。やはり、星穹列車は愚鈍ではないな」
そう言って彼なりの礼を述べたレイシオ。ブートヒルは「ならオレの「予備プラン」を確認してもいいか?」と彼等に尋ねた。
「「予備プラン」、だと?」
「ああ。オレにはメモキーパーの協力者がいるんだが、そいつにバーの方に一本の酒を用意するよう伝えておいたんだ」
「それは合言葉ということか?」
「そう言っても良い」
「確かに「ガーデン・オブ・リコレクション」にはそのような物品を介した伝達方法が存在していると聞いたことがある。このピノコニーでは有効な手段だな」
「ほら、あっちだろ?」とブートヒルは少し早足でラウンジの方へ歩いていく。二人もその後を追って先に進んだ。
◇◇◇
「よう、兄ちゃん。ここで「アスデナのホワイトオーク」ってのを予約したと思うんだが、ちょっと探してもらえるか?」
「「アスデナのホワイトオーク」?そんな予約を取った覚えはないぞ」
「記憶違いじゃないか?」とバーテンダーは言うが、ブートヒルは「おいおい、もう一回思い出してくれよ」と抵抗する。しかし、その甲斐もなく彼は首を横に振った。
「あんな一本数十万信用ポイントもするような酒、予約されてたら忘れるはずがないだろ?俺の給料じゃ弁償なんて無理なんだから、もし予約されてたらメチャクチャに緊張してるはずさ」
「……そうか、ならオレのメモリエラーかもな。悪かった」
そしてブートヒルは少し離れると、「あのメモキーパー、まさか金欠か?」と悪態を吐く。そして彼等は方針を話し合った結果、取り敢えず一杯やりながら状況が変わるのを待とうということになった。
「っし、だったらオレは……お、いいシングルモルト入れてんじゃねえか。「ゲヘナ40年」、ストレートで頼む」
「それが今ある中で一番良い酒だ。君、中々見る目があるな」
「ホテルの奢りだからな」
「僕は……「ある思考のため息」をロックで頂こうか」
「それを酔い覚まし以外で頼む人は初めてだな。だが、君の聡明さには良く似合ってるかもしれない。それで、君は何にする?」
「俺は何でも良い。お前に任せよう」
「分かった。なら今日のスペシャル「ガラスヴィレッジ」を用意しようか。クラシックスラーダに爆発レモン果汁、それをミントでキッとまとめた口当たり爽快な、君のクールな雰囲気にも良く合う一品だ。材料を用意するから少し待っててくれ」
そしてバーテンダーは手際よく彼等にドリンクを用意していく。ブートヒルの「ゲヘナ40年」には弾丸を模した飾りが添えられ、レイシオの「ある思考のため息」にはアクセントに脳の栄養源となる砂糖漬けのレモンが加えられ、丹恒に出された「ガラスヴィレッジ」は敢えて僅かな水気が備わっている。彼等は一様にグラスを手に取り、乾杯した。
「ハッハハ!熟成させればさせるほど強くなる、黒色火薬に過酸化水素のケミカルな味に口の中で炸裂する刺激……全く、シングルモルトはこいつに限るな!」
「……なるほど、悪くない。中々だ」
「ああ、スラーダは初めてだが、これだったら悪い気はしないな」
「君達が満足してくれたようで何よりだ。それと……「予約していた「アスデナのホワイトオーク」はいつ出そうか?」」
「ベイビーが」と、ブートヒルはニッとその唇を上げた。そしてカウンターの上に上げられた瓶。そこには「星穹列車で待ってるわ」という伝言が一言記されている。
「そうとなりゃ一気にまとめて「振り出しに戻る」だな!」
「その慣用表現は正しくないだろう。……いや、今は気にしていても仕方ないか」
「ああ。ひとまず星穹列車に戻るとしよう」