再会を果たした兄妹を邪魔しないままに、ギャラガーは「俺達の話をしよう」と口を開く。
「つっても、お前達の様子を見る感じだともう大体分かってんだろ?」
「少なくとも、ウチにはその顔にでっかく「くろまく」って書いてるように見えるよ」
「なら、俺もそろそろ「誠意」ってやつを見せなきゃなんないみたいだな」
そう言って彼は緩んだネクタイを軽く締め直し、「改めて自己紹介をしよう」と星穹列車の面々に向けて口を開く。
「俺はギャラガー。ドリームリーフの創立者にして「時計屋」の助手であり、この銀河に「招待状」をばら撒いた「虚構歴史学者」だ。以後よろしく」
「「神秘」とは……これまた珍しい陣営ね」
「虚構歴史学者……ってことは、ギャラガーの話って全部デタラメなの?!」
「確かに、「虚構歴史学者」と言えば一概に過去の記録を改竄して歴史を不確かにすることを生業にしてるような奴らだ、そう思うのも仕方ない。だが、俺がお前達に話したことは全て真実だ。「ファミリーが俺を受け入れた」という点だけを除けばな」
「安心して、三月ちゃん。ミカにも確認を取ったけど、ファミリーと「時計屋」、そしてミハイルについての話は紛れもなく本当のことよ」
「それさえ理解してくれれば話を進められる。お前達も知りたいんじゃないか?俺がここまでして星穹列車、ファミリー、カンパニーなどと大量の陣営を巻き込んだ遺産争奪戦を引き起こし、ピノコニーを大混乱に陥れた理由をな」
「確かに、それはメチャクチャ気になるけど……」
「……もしかして「星核」が理由なのか?」
ヴェルトが尋ねると、ギャラガーは「流石は星穹列車のナナシビトだな」と頷いた。そして彼は、よりその点について詳しい事情を打ち明けていく。
「もう分かってると思うが、ピノコニーの美しい夢ってのは記憶域の荒波を埋め立てて作られたちっぽけな陸地みたいなもんなんだ。だが、本来であれば膨大な記憶域の憶質を埋め立てるなんてことは人に出来るはずがない。それこそ「記憶」やら「神秘」の使令レベルは最低でも必要だろうな。もし、それにも頼らずに美しい夢を成したっていうなら……」
「……間違いなく星核が使われているでしょうね」
「そういうことだ。もっと簡単に言えば、「宴の星」そのものがアスデナに落ちた星核による巨大な災いなんだよ」
「待って、この銀河打者も流石に想像してなかった」
溢れる情報量を何とか噛み砕く彼女達に、ギャラガーは「ここからは、少し昔の話になるがな」と話し続ける。
「アスデナの監獄を解放した「時計屋」達だったが、一からピノコニーを作り上げるってのはいくら「開拓」だろうと困難を極めた。それに加えての内憂外患、このタイミングでピノコニー内部に星核の力を狙う輩共が現れ始めたんだ。それは独立戦争時代に落ちたものだったが、ナナシビトの呼び掛けによって決して触れられることはなかった。けれど、それを虎視眈々と狙い続けてる奴らがいたってわけさ」
「……その話しぶりだと、明確に風向きが変わった瞬間があるのね?」
「ああ。ラザリナとティエルナンを亡くして、状況は一気に輩共に傾いた。彼等を失い、「時計屋」が自らの手で「開拓」に臨まないといけなくなったそのタイミングを見計らって、星核はとうとう解き放たれた。「時計屋」がモントール星系のファミリーの協力を得て戻ってきたその時には、ピノコニーは既に星核の力によって共感覚夢境に満たされていた。だが、そこでいきなりファミリーは動いた。一般を遥かに越える星核についての知識と財力をフル活用して彼等は星核を抑えて乱を鎮めると、「調和」の名の下にピノコニーに参画した。それがピノコニー至上最も華やかだったと語られる「夢追い」の時代のことだ」
「でも……いくら星核を使おうと、それだけじゃここまで出来ないでしょ?何か、他のものも代償にしてるんじゃ……?」
「ああ、そうだ。だから奴らは恥も忍ばず……「命」を捧げることにした。人々を美しい夢で酔い潰し、使い物にならなくなった「理性」を夢に沈めることで、それを美しい夢の基盤としたんだ。迷い、怠惰、臆病……そのような負の感情は絢爛豪華な夢に煽り立てられ、無尽蔵に増幅する。それこそが、ピノコニーというより大きな監獄を維持する巨大なサイクルだ」
「それは……背筋が震えるような話だね」
「そんなもんじゃない。俺達が気付いた時には、もう全てが手遅れだったんだ。集まればファミリーに対抗出来る芽があった勢力は全てピノコニーを追放され、全ての実権はファミリーの手に握られていた。故に俺達は「神秘」の力を以てこの記憶域の深淵に潜り、奴らに対抗するべく一つのミームを「虚構」した。お前達が「死へと向かうのは何物」と呼んでいるあの記憶域ミームの本当の名は「ネムリ」。不可能であるはずの「夢の中での眠り」を為す、ファミリーに対抗するための突破口だ」
「だから招待状に「不可能を見届ける」と記されていたんだな。「時計屋」として、見境なくあらゆる陣営に向けて招待状を出したのも、一つでも多くの勢力がピノコニーの真実に辿り着くよう誘導するためだったんだろう」
「ああ。それに「時計屋」の名をファミリーは恐れている。その名を出せば、必ずファミリーの「裏切り者」は馬脚を現すと踏んだんだ」
「なら、「遺産」なんて無かったんだ……」と少し落ち込むなのか。だがギャラガーは「いや、そうとも限らない」とその首を横に振る。
「だが、その前に星核の話だ。それについては……あの小鳥が、そろそろ教えてくれるだろ。なんてったってあのオーク家当主様だ、今このピノコニーの星核について最も良く知っている人間の1人だからな」
「……ワタシの出番ですか」
ロビンとの再会を噛み締めた後、サンデーは尋ねる。「お願い」と星が言うと、彼は少し息を吸って、吐いた後にそれを口にした。
「アナタ達が探している星核は、今──「ピノコニー大劇場」と呼ばれています」
「……ええ。残念だけど、認めるしかない。あれはこの美しい夢に一番最初に現れた建造物なんかじゃなくて、むしろ全てを美しい夢に染め上げた元凶なの」
「おそらくそれを為したのはゴフェルさん……当代の「夢の主」です」
「あの頑固が随分と素直に話すな。事前調査は万全だったか?」
「ええ。ロビンの「殺人事件」の犯人を追っていた際、アナタの次に疑ったのが彼でした。「夢の主」であれば、ピノコニーを裏切ることも決して難しくはないでしょう」
「命拾いしたな、小鳥。あっちを先に尋問してたら今頃どうなってたか」
「いえ、それが必然だったのです。夢の主の痕跡はそう簡単には辿れない。当主達でさえ、彼には会うことは決して容易くありません。それにゴフェルさんは……ワタシと妹をここまで育て上げてくださった方、このような結果になるとは……残念です」
「このまま彼が「調和」の対極に突き進んでいくというなら、私は決して舞台には立たない。私の理想のためなら、どんな力を借りてでも、絶対に止めてみせるわ」
「ええ。ワタシも同じく力を尽くしましょう。……ワタシ達の、理想の楽園のために」
「……そうか。それで、サンデーさんはこれからどうするつもりだ?」
ヴェルトが尋ねると、サンデーは「やることは既に決まっています」と頷く。
「オーク家の当主として、ピノコニーの未来を見捨てることなど出来ません。ワタシはロビンと共に美しい夢へ戻り、何とか夢の主を見つけてこの件について問い質します。もし、そこで「調和」から外れた答えを得られたのなら……ワタシは皆さんと肩を並べて誤ったセレモニーを食い止め、ピノコニーを正すために立ち向かい、そして彼等の罪を償いましょう」
「いいのか?お前達が相手にしようとしてるのは……このピノコニーに巣食い続けた黒い歴史そのものだぞ。俺みたいなちっぽけな「虚構」とはわけが違う。それこそ、一人でも仲間を増やして挑むべきなんじゃないか?」
「あなた達が望むのなら、ナナシビトの先人達のように星穹列車も力を貸すわ」
「困難に立ち向かう、それこそが「開拓」だもんね!」
「夢の主の耳元で爽快スイング響かせてやるよ!」
「サンデーさん、ロビンさん、俺達列車組は傍観者でいるつもりはない。もし君達が夢の主との交渉に向かうなら、俺が星穹列車を代表して同行しよう」
「いいの?ヴェルトさん」
「ああ。第三者がいるほうが円滑に進むはずだ。それに……いざとなれば、味方は一人でも多くいた方がいい」
「そういうことでしたら……お願いします、ヴェルトさん」
「話は整ったみたいね」
ロビンの言葉に、その場の皆が頷く。調和セレモニーの開幕は、一刻一刻と迫っている。「準備が出来たら教えてちょうだい」と言うロビンに、ヴェルトは「すぐに終わる」と答え、少し離れた場所に列車組を集めた。
「流石のヨウおじちゃんでも、多分大変なことになるよね……」
「夢の主はこのピノコニーにおける「調和」の頂点だ。彼と敵対するなら、相応の覚悟が必要だろうな。それに……少し、サンデーさんの様子にも違和感があった。彼の動向にも目を凝らしておく必要がある」
「今出来る限りの備えをしてから臨むべきでしょうね」
「ああ。そこで星に聞きたいんだが、今もアベンチュリンさんからもらったチップは持ってるだろう?少し貸してほしいんだ」
「あ、良いよ」
「はい」とそれを手渡す星。ヴェルトはそれを受け取り、少し観察すると「やはりな」と呟いた。
「やっぱり……って何が?っていうか今アベンチュリンが関係あるの?」
「前も言ったが、ファミリーが犯人だと言うならカンパニーと手を組んで対抗するのが大きな一手だ。そしてこのチップは、彼があらゆる事態を見越して君に渡した、小型の発信機で間違いないだろう。これを使えば、ファミリーの「突破口」をカンパニーに知らせることが出来るかもしれない」
「……あ、だったらこれも……!」
そう言って星が懐から差し出したのは、閉じられた一本の扇子だった。「まさかこれは……」とそれを手に取ったヴェルトに、星はその首を縦に振った。
「もし星核ハンターが協力してくれるって言うなら……きっと役立つと思う」
「……分かった。ありがたく受け取ろう」
「幸運を祈っているわ、ヴェルト」
「ああ。……必ず、帰ってくるとも」
そして、彼等は夢の主の下へ出発した。