「『わぁ……!!お母さん、私テレビに出たよ!!』」
「あらあら、あの子ったら……」
「何見てるの?」
カフカの手元を覗き込んだ銀狼が「ピノコニーの中継?」と尋ねると、彼女は「ええ」と頷いた。
「あの子、まだ私のことを母親だって思ってくれてるみたい。もしかしたら、あなたのことも妹みたいに思ってるのかもしれないわね?」
「ならインシァンとホタルはお姉ちゃん?……ま、実際そんな感じだったっけ。それにしたって少し不思議。「言霊」で忘れさせたんじゃないの?」
「確かにそうしたはずよ。「星核」の影響なのか、それとも星が抗ったのかは分からないけどね」
「あなたの失敗なのに、随分嬉しそうじゃない?」
「そんなに星が好きなら、カフカがピノコニーに行けば良かったじゃん」と銀狼は口にするが、カフカは静かにその首を横に振る。
「ふーん。まさか「「脚本」に書かれてないから」、なんてくだらない理由じゃないよね?」
「ええ。ホタルとインシァン……彼女達以上に、「夢」の舞台に相応しい役者がいるかしら?私は「運命の奴隷」じゃないからエリオほど正確に未来が見えるわけではないけど、きっと彼女達はかけがえのない何かを手に入れることになる。そんな彼女達の物語に水を差してしまう方が野暮というものでしょう?」
「それはそうかもね。二人共、似た者同士ってやつだし」
「蒼穹帝国グラモス」あるいは「グラモス共和国」の生体兵器「溶火騎士」、そのたった一人の生き残りであるホタルと、天才クラブ#81ルアン・メェイが創り上げた「知恵」と「繁殖」の混合物にして、星神をその身に宿す「天才の最高傑作」であるインシァン。彼女達はお互いに、お互いが初めての友人であり、そして初めて自らの全てを明かした相手であった。
カフカは「懐かしいわね」なんて言いながら少し古い記憶を思い出していた。
「あの子達、初めての任務も二人だったの。あれは確か……アテューン世界オークションの少し前ね」
「あ、私その話聞いたことないかも」
「なら聞かせてあげるわ。ホタルもインシァンも、あの頃はあまり感情を出すのが上手じゃなかったの。二人共、どこか他人行儀というか……少し、恥ずかしがってたのかしら。けれど、そんなあの子達に初めての「脚本」が与えられたの。内容は「カンパニーの研究所から星核を回収する」なんてものだった。彼女達は素直に引き受けたわ」
「へえ。確かにインシァンなんかはそういうの好きだもんね」
「ええ。「星核を見れる」って、インシァンは少し浮足立ってたもの。反対に、ホタルは星核のことなんて頭に入ってないみたいに、「脚本」を齧り付くように読み込んでたわ。正確に言えば、「死ぬことになる人」の名前を必死に覚えようとしていたの。結局、ロストエントロピーの治療も始めたばっかりだったから上手く覚えられなかったみたい」
「じゃあ、二人共今ほど仲良くなかったの?」
「出発するまではね。帰ってくる頃にはもうすっかり打ち解けてたわ。例えるなら、修学旅行から帰ってきた学生かしら。どんな話をしたか、なんてことは聞かなかったけれど、とても楽しそうだったわ」
そしてカフカは彼女達の初めての任務について、銀狼に物語る。彼女達に自分のお古のスーツやハンドガンを貸したこと、ホタルが「サム」を使った結果耐火素材ではなかったスーツが燃え尽きたこと、インシァンが全く弾丸を当てれずに鈍器として運用していたこと、そして最終的にカンパニーの研究所が位置していた島が地図から消えたこと、彼女達に初仕事を終えたお祝いとしてオーダースーツを贈ったこと。銀狼はスマホゲームのデイリーをこなしながらも、その話に耳を傾けていた。
「やっぱり、二人共昔から変わんないんだね。インシァンは大きな「運命」って枠と、その在り方について知りたいだけで一つ一つの命を必要以上に丁寧に扱わないし、ホタルは命がどれだけ大切なのかっていうのを一生懸命に理解しようとするからこそ、それらを無慈悲に葬ってる。真逆なのに、そのやり方はいっつもそっくりになる。……やっぱり面白い」
「あら?もしかして「もっと早く入れば良かった」なんて考えてるの?流石の私でも、三つ子ちゃんの相手は大変なのだけれど」
「まさか。こういうのは末っ子ポジションが一番美味しいって決まってる。それにあんな人類卒業達と同じ括りにされたら溜まったもんじゃない」
「私は今が一番良いの」と風船ガムを膨らませる銀狼。「私はそんな君も好きよ」とカフカは笑う。夕食を作り終えた刃が彼女達を呼んだ。