「……なるほど、ここが星穹列車か……」
「おお、ようやく帰ってきたか!」
星穹列車に戻ったブートヒルと丹恒、そしてレイシオを、パムはそう出迎える。「急な歓迎ってのは一体どういう風の吹き回しだ?」とブートヒルが尋ねると、パムは「オマエ達に用があるという乗客が来たんじゃ」と二人に事情を説明した。
「おお、そりゃいいタイミングだな!」
「うむ!……それと、また新しい乗客か?」
「ああ。僕の名前はベリタス・レイシオ。星穹列車と協力関係を築こうと思い、彼等に同行させてもらっている」
「そういうことなら、オマエのことも歓迎しよう!二人には今ラウンジの方で待ってもらっておる。あまり待たせるんじゃないぞ!」
「……待て、二人だと?」
「ええ。私と、もう一人よ」
聞き返した丹恒にそう答えながら、姿を現したのはブラックスワンだった。
「そうじゃ!突然忍び込んできおって……もちろん、星穹列車はどんな乗客だろうと歓迎するが、それにしたって礼儀ってものがあるじゃろう!?」
「ごめんなさい、車掌さん。この列車にはメッセンジャーの気配があったから、ガーデンには慣れているものだと判断してしまったの。それに、どうしても星穹列車の協力が必要だったから」
「お前が例のメモキーパーだな?」
「ええ。こうして現実で会うのは初めてね、丹恒さん。それに、ブートヒルさんも。「アスデナのホワイトオーク」、遅れてごめんなさいね。少し手に入れるのに手こずってしまったの。そしてあなたはレイシオさんね。アベンチュリンさんから聞いているわ」
「あのギャンブラー、僕のことまで話していたのか」
「ベイビー、そんなら一口くらい飲んどくべきだったな。ま、そんなことはどうでもいい。あの女について洗いざらい話してもらおうか?」
喧嘩腰に言うブートヒルに、ブラックスワンは「それなら、彼女に聞いたほうが早いと思うわ」と小さく微笑む。それと同時に、列車の奥から一つの足音が響いた。
「そうでしょう?……黄泉さん」
「ああ。はじめまして……だな。私が黄泉だ」
「……なるほど」
「はぁ!?ホーリーベイビー、まさか裏切ったんじゃねえだろうなガーデン!?」
「誤解しないでくれ。これは、私が彼女に頼んだんだ。わけあってピノコニーを出ざるを得なくなり……どうしても、あなた達に会う必要があった。そこで私は彼女の協力を得て星穹列車に合流したんだ」
「合流、というにはあまりにも強引な気もするが……まあ良い、後はオマエ達で話し合うんじゃぞ!」
「はっ、話が早え。おいニセモノ。オレもアンタに会う必要があったんだ。──そのドクロド真ん中に風穴開けて、とっておきをお届けするって仕事がな!」
そう言って銃を抜くブートヒル。その照準は寸分違わず黄泉の眉間、その骸骨の中央に合わせられ、いつでも完璧なヘッドショットを決められる準備が整えられている。だが、黄泉は「その引き金を引くのは、私が全てを話してからでも遅くはないはずだ」と首を横に振った。
「私には、どうしても果たさなければならない目的がある。そうしなければ、全ての幕が下りてしまうんだ」
「「目的」?そんなの語ってる余裕があんのかよ?」
「ああ。これは、あなた達にも深く関わることだ。それだけが、あなた達の安全を保障できる唯一の方法……星穹列車に、1つだけ頼みがある。今すぐ跳躍を開始して、ピノコニーを……アスデナ星系を離れて欲しい」
「そ、それはどういう……」
困惑するパムに、ブラックスワンは「彼女には悪意も、欺瞞の意志もないわ」と優しく伝える。そして銃口に捉えられたまま、黄泉は話を続けた。
「丹恒、私はピノコニーで、あなたの仲間に同行していた。今、どこにいるかも知っているし、何をしているかも想像がつく。彼女達は間違いなく無事だが……それと同時に、紛れもなく助けが必要な状況にいるんだ」
「……」
「それに、ブートヒル。改めて、このような形での邂逅となってしまったことを許して欲しい。ずっと、あなた達に、巡海レンジャーに会う方法を探していたんだが……このような方法でしか、連絡を取ることが出来なかったんだ。こうでもしなければ、私は本物の巡海レンジャーには会えず、往年の約束を果たすことも出来なかった……、……彼の「遺品」を、あなた達に返すという約束を」
◇◇◇
「今頃、黄泉さんは星穹列車に到着している頃でしょう。今列車にいるのは、ブートヒルさん、丹恒さん、ブラックスワンさん、黄泉さんに……ああ、後、車掌さん」
「レイシオもだ。きっと彼は僕と連絡が付かなくなったことに気付いてる。教授は聡明だからね、必ず今の最大勢力、星穹列車に合流しようとするはずだ」
「そう、ですね」
「加えておきます」と桜花は電子ノートの上に鮮やかな筆跡を走らせ、星穹列車の欄に「ベリタス・レイシオ」と書き加える。そして彼女達が話している傍らには、何人もの人々が意識を失ったままに、まるで遺体安置所のように寝かされていた。「彼等はどうするんだい?」とアベンチュリンが尋ねると、彼女は「そのうち目を覚ましますから、そしたら逃がしてあげてください」と微笑んで答える。
「もちろん、記憶は消してありますから、ご心配なく。アベンチュリンさんが配っていた宝石のおかげで、上手いこと辿れました。人の感覚の乱れを調べるには、人そのものを調べるのが一番手っ取り早いんです」
「まあ、役に立ったようなら何よりだよ。それと……そろそろお風呂から上がったらどうだい?かれこれ1時間くらい入り続けてるだろ?レイシオでも……いや、もっと入るって聞くな……」
「ああ、ごめんなさい。この辺で一度、綺麗にしておきたいと思って。そろそろ、ホタルちゃんに会う時間が迫ってきてますから」
そして桜花はサラサラっと電子ノートの残りを埋め、洗面所から手だけを出してアベンチュリンの方へ放り投げる。そこには各勢力の現在の動向と、それぞれの人物の現在地が記されていた。
「僕の最後の出番は……なるほど、最終決戦ってわけか」
「不満ですか?」
「いいや、完璧だね。星核ちゃんにお礼を言わないとだから」