星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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かくて、司祭は苦難の道を歩む

 その男は夢に君臨する当主の跡継ぎであるとともに、神に仕える敬虔な司祭であった。かつて思い描いていた理想は、幼さとともに、その心の奥底へと隠し、固く閉ざした。

 

「どうか祝福をお授けください、シペの尊き代弁者よ」

 

 ある従者の声はいつものように、暗い格子の奥、狭い部屋から響く。彼は、それを狭い部屋、僅かな窓越しの光を浴びながら聞いていた。そして、彼は口を開いた。

 

「どうぞ、口にしてください、家族よ。神は我らの祈りと共にあります」

「有り難く」

 

 そして、従者は口にする。勤勉に、偽ることなく、「調和」の下に10年間ルーサン家に仕え続けてきたこと、昨日当主の宴の準備中に料理を落としてしまったにも関わらず刻限が迫る中で怠惰によって「準備は完了した」と嘘を吐いたこと、それ故に主人に解雇されたこと、その欺瞞が心に根を張り寝食もままならないこと……その全てを懺悔した従者に、彼は問いかける。

 

「アナタの心はこれを深く悔い、心を鎮め、道を正し、過ちを改めることを誓いますか?」

「誓います」

「アナタは心の底から指の先に至るまで、我が身を省み、全ての罪を告白することを誓いますか?」

「誓います」

「アナタは心の罪を身を以て雪ぎ、償いに努めることを誓いますか?」

「誓います」

「確かに聞き届けました。あるべき誠実さを、滞ることなく神と家族に示すのです。そうすれば、ファミリーも再びアナタのことを認め、アナタは再び「調和」を歩めるでしょう。さあ、清らかに帰りの道を踏み締めなさい」

「シペと、その尊き代弁者に、全ての感謝を捧げます」

 

 そして、部屋の扉が開く。「次の方、どうぞ」と彼が口にすると、安らかな足音と入れ替わったかように、慌てたような足音が響いた。

 

「せ、誠心誠意懺悔します!ですからどうかお許しください!」

「安心してください、友よ。神は我らの祈りと共にあります。アナタが清く、正しい人間であるのなら、必ずや許しは与えられるでしょう」

「おお……ああ……!どうか、どうか私の懺悔をお聞きください……!」

 

 そして、夢追い人は言う。自分はピノコニーに密航してきたこと、密航船のチケットのために持てるものは全て売り払ったこと、その中には二人の子供達も含まれていること、ピノコニーで成功したら彼等を買い戻すつもりだったこと、密航者だと気づかれハウンド家に追われていること……それらを告白した夢追い人に、彼は言う。

 

「……分かりました。ファミリーは全ての人を受け入れます。ハウンド家には捜査を中止するように伝えましょう。日々懸命に仕事に励み、一刻も早く子供達を迎えられるように努めるのです」

「……!は、はい!ありがとうございます、ありがとうございます!あの子達と共にファミリーに入れるよう努力します!「調和」を讃えます!」

 

 そして、部屋の扉が開く。「次の方、どうぞ」と彼が口にすると、行きよりも軽くなった足音と入れ替わるように、ふてぶてしい足音が響いた。

 

「これはこれは、久方ぶりではありませんか。オーク家次代当主、このピノコニーの中心に立つ男……サンデーさん」

「……ワタシは既に、神が我らと共にあるよう祈りました。どうぞ、アナタも始めてください」

「仕方ありません、いつも通りに」

 

 そして、ピピシ人の富商は言う。朝食で腹一杯になり半分のピザと一本のスラーダを無駄にしてしまったこと、それ以外に特に告白すべき罪はないこと、これからモーターボールの試合を見に行くためなるべく手っ取り早く済ませてほしいこと……その全てを適当に言った富商に、彼は問いかける。

 

「アナタは……その罪を償うために、善き行いに努めることを誓いますか?」

「「罪」?ハハ、まさかファミリーの口からそのような言葉が聞けるとは。それとも、今のファミリーに私を裁く資格があるとでも?まさか忘れている訳では無いでしょう、今のあなた達が「時計屋」の屍の上にいることを。そんなお決まりの台詞を覚えるくらいなら、ピノコニーの歴史を勉強した方がよほど有意義でしょう。……さて、この程度の告解で「調和」の楽園に入るには十分でしょう?次に会う時は、当主としてお願いしますね」

 

 そう言って、富商は部屋を去っていった。

 

◇◇◇

 

「三つの顔を持つ魂よ。ワタシの問いをお聞きください……」

 

「もし強者が権勢と富を以て罪を覆い隠せるなら、誰が彼等を裁けるのでしょう?」

 

「もし弱者が生きるために代価を惜しまないのなら、誰が彼等に保証を与えられるのでしょう?」

 

「もし善なる魂が過ちを犯したなら、誰が彼等を慰めることが出来るでしょう?」

 

「「強きを以て弱きを助ける」ことこそが楽園の根幹なら……」

 

「誰が彼等を苦しみの中で嘆かせるのでしょう?」

 

◇◇◇

 

「……様……兄様……?」

「……」

「……大丈夫?兄様」

 

 ロビンの問いかけに、サンデーは「問題ありません」と答える。仕事の詰め過ぎと、ドリームリーフから戻ってきたばかりだからだ、と。同行しているヴェルトも「この一件が終わったらしばらく休んだ方がいい」と彼に言った。

 

「それにしても災難が重なるな、サンデーさん。「調和セレモニー」に尽力してきたと思えば、このような事件に見舞われ、星核の問題も片付けなければならないとなれば……いや、俺には同情することしか出来ないな」

「いえ、今こうして協力してくださっていることが何よりです。それに「調和セレモニー」は本来、銀河全体の幸福と調和を願うための儀式です。それが悪用されるなど、決してあっていいことではありません。このような状況になった以上、中止は必然です」

「全ての人の幸福が、私達兄妹の幼い頃からの願いなの。そのためなら、夢の主だって説得してみせるわ。きっと事情を話せば、夢の主も分かってくれると思う。もし交渉が上手く行かなかったとしても……私は決して舞台には上がらない。「調律師()」がいなければ、「ハルモニア聖歌隊」は降臨しないの。セレモニーをただのショーに出来るわ」

 

 彼等兄妹の決意を聞き、ヴェルトは「それが聞けて安心だ」と首を縦に振った。

 

「ところで、俺達星穹列車もピノコニーに来てから情報収集していたんだが、「夢の主」についての話だけは全く聞けていないんだ。それこそ、君達から聞いた情報しか知らない状態だ。良かったら、もう少し教えてもらえないだろうか?」

「構いませんよ。夢の主は、まず人前に姿を現すことはありません。それこそ、ワタシ達でも滅多に会うことはありませんから。ですが、今回の件はピノコニーの未来に関わる重要なことであると、彼は自ら出向き、ワタシ達との話し合いに応じると約束してくれました」

「夢の主と会うことになるゲストなんて、数年ぶりになるわね」

「ああ。実り多い結論が出せることを祈っている」

「ええ、私もです」

「……そろそろ面会の時間ね。おもてなしも出来ずに申し訳ないのだけれど、もう少しだけ準備してもいいかしら?」

「構わない。俺はここで待っていよう」

 

 そして兄妹はヴェルトと分かれ、「黄金の刻」を歩いていった。

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