ある日銀髪の美少女が部屋にいてゲームの世界から来たと言うが何のゲームかわからない話 作:キサラギ職員
休日の朝、いつもなら俺はベッドの中でまどろんでいるはずだった。しかし、今日は違う。目を開けると、銀髪の美少女が部屋の中を見渡し、静かにため息をついている。
「お前が独身でよかった。もし配偶者がいたら、相当めんどうになっていたな」
その一言に、俺は眠気が一気に吹き飛んだ。言葉の意味をしっかり理解するまでに数秒かかったが、何を言っているのかすぐにはわからなかった。配偶者? 結婚? それが、どうして「めんどう」なんだ?
「え、ちょっと待って、何の話?」
俺は彼女の言葉の意味を探ろうと、布団から体を起こした。オーナー――この銀髪の美少女は、そう自称している――は、淡々とした表情で俺を見下ろしながら、まるで当然のことを言うかのように話を続けた。
「この部屋の状況を見ろ。もしお前が誰かと結婚していたら、相手がこれを見て激怒するだろう。それだけだ」
彼女は、まるで何でもないことのように言い放つ。その冷静さに、俺は言い返す余裕もなく、ただ部屋の中を見渡した。
「ああ……そういうことか」
彼女の指摘に従って自分の部屋を見回すと、彼女の言うことが理解できた。床には散乱する書類、食べ終わったままの空のカップラーメン容器、そして、洗濯されずに積み上がった服の山。確かに、これはひどい。自分でもこの部屋がどれだけ乱雑かはわかっていたが、普段の生活では気にしないようにしていた。だけど、オーナーがやってきてから、その無秩序さが急に恥ずかしく思えるようになった。
「それにしても、褒めてるのか貶してるのか、よくわからないな……」
俺は自嘲気味に言ったが、彼女はそれには答えず、無表情のまま部屋をじっくりと見つめている。そして、次の瞬間、彼女は何かを決意したかのように目を細め、冷たく言い放った。
「掃除をしろ。しないなら、俺がやる」
その声に、俺は思わず身をすくめた。彼女の瞳は鋭く、まるでこれ以上の抵抗を許さないかのような圧力を感じた。結局、俺は言われるままに動くしかなかった。
こうして、なし崩し的に部屋の掃除が始まった。
俺は嫌々ながら、散らかった部屋を片付け始めた。まずは床に転がるゴミを拾い、不要なものをゴミ袋に詰めていく。オーナーはそんな俺をじっと見つめながら、自分も黙々と動いている。彼女が手に持つ掃除機が、静かに部屋中を這い回り、ホコリを吸い取っていくのを見ていると、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。
「こんなに汚れてるなんて、俺も自分でちょっと反省してるよ……」
俺は心の中でため息をつきながら、机の上に散乱していた書類や雑誌を片付けていく。独身の俺にとっては、散らかっているのが普通だったが、彼女がこの部屋に住むことになってから、その考えが変わりつつあった。
「ところでさ、君って……何のゲームから来たんだっけ?」
俺は思い切って、以前から気になっていたことを聞いてみた。彼女が「ゲームの世界から来た」と言っていたことが、今でも頭から離れなかった。
オーナーは一瞬手を止め、俺の方を見た。彼女の赤い瞳が俺を見据え、その無機質な表情が一層際立つ。
「お前はすでに知っている可能性が高い。だが、素性を明かすつもりはない」
その言葉に、俺は少し驚いた。素性を明かさない? 彼女が何者なのか、どのゲームのキャラクターなのか、俺は知りたかったが、どうやらそれは教えてくれるつもりはないらしい。
「なんだよ、それ……教えてくれたっていいだろ?」
俺は半ば不満げに言ったが、彼女は何も答えない。代わりに、また掃除に戻り、黙々と部屋の片付けを続けた。仕方なく、俺も再び手を動かし始めたが、彼女の言葉が頭の中でぐるぐると回り続けた。何を隠しているんだろうか? なぜ俺に教えたくないのか?
「掃除はこれで終わりだな……。それにしても、疲れたなぁ……」
結局、俺たちは部屋をほぼ完璧に片付け終わった。長時間の掃除に体力を使い果たした俺は、息をついてソファに倒れ込んだ。だが、オーナーは相変わらず冷静で、少しも疲れた様子を見せなかった。
「昼飯はどうする?」
俺は彼女に聞いてみた。掃除が終わると、自然と腹が減ってきた。いつもなら外に食べに行くか、コンビニ弁当で済ませるところだが、今日は彼女がいるから少し違う。
「俺が作る。住まわせてもらっている以上、せめてこれくらいはやらせろ」
オーナーは、そう言うとすぐにキッチンへと向かった。俺は彼女が料理をするなんて全く想像もしていなかったので、驚きと興味を抱きつつ、彼女の動きを観察した。
冷蔵庫を開けて、ありあわせの食材を手際よく取り出していく。卵、ベーコン、トマト……ありふれた材料だったが、彼女の手にかかると、それがまるで特別な食材に見える。彼女は無駄のない動きで包丁を使い、具材を切り分け、フライパンで炒めていく。その様子は、まるで長年料理をしてきたかのように自然だった。
「……すごいな。料理もできるんだな」
俺は、つい感心して声を漏らした。彼女は何も答えず、ただ淡々と調理を続けていた。そして、程なくして完成したのは、シンプルだが香り豊かなパスタだった。見た目も美しく、手際の良さにただ驚くばかりだ。
「いただきます」
食卓に並べられた料理を一口食べると、その味に再び驚かされた。シンプルながらも素材の味を引き出した絶妙な味わいで、料理が得意な人が作ったことがすぐに分かる一品だった。
「……本当にうまい。ありがとう、オーナー」
感謝の言葉を口にすると、彼女はただ軽く頷くだけだった。言葉数は少ないが、その行動には感情が感じられる。彼女が自ら料理をし、俺に食事を提供することで、何かしらの感謝を示しているのだろう。
食事が終わり、静かな時間が流れる中、俺は彼女の目的について考えていた。彼女がこの世界に来た理由は一体何なのか。それが分かれば、少しは彼女との距離が縮まる気がした。
「ところでさ、君には何か目的があるんだろ? ここに来た理由って、何かあるんじゃないか?」
俺は思い切って質問してみた。彼女はしばらく無言で俺を見つめ、やがて静かに答えた。
「目的は一つしかない」
その言葉に、俺はさらに興味を引かれた。
「一つ? 何が目的なんだ?」
しかし、彼女はそれ以上何も言わず、また沈黙に戻ってしまった。その無言の態度に、俺は少し苛立ちを覚えた。だが、無理に聞き出すのは彼女にとっても負担かもしれない。俺は軽くため息をつき、話題を変えようとしたが、彼女が再び口を開いた。
「この世界が俺のいた世界と同じではないという証明が欲しい」
彼女は淡々とした口調でそう言ったが、その言葉には何か深い思いが込められているように感じた。俺は彼女の言葉の意味を理解しようと試みたが、すぐにはわからなかった。彼女の「世界」とは何なのか? その「世界」と、この現実がどのように違うのか?
「もっとも、ここに来るときに垣間見た白昼夢の存在は、この世界が俺のいた世界ではないと告げていたがな」
オーナーは虚ろな表情でそう言いながら、遠い目をしていた。その瞳には、何か深い哀しみや絶望が宿っているように見えた。
「白昼夢……?」
俺はその言葉の意味を考えたが、彼女の言う「白昼夢」が何を指しているのかは全く分からなかった。しかし、それが彼女にとって重要なものであることは感じ取れた。
俺は彼女の言葉に答えられず、ただその虚ろな表情を見つめることしかできなかった。彼女がどんな世界から来て、どんな経験をしてきたのか、俺にはまだ理解することができない。それでも、彼女と共に過ごすことで、少しずつ彼女の抱える謎が解き明かされていくことを期待していた。
その日、俺は深い考えにふけりながら、オーナーとの奇妙な共同生活が続いていくことを実感した。彼女が何を求め、何を感じているのか。それを知るには、まだまだ時間が必要だろう。