ある日銀髪の美少女が部屋にいてゲームの世界から来たと言うが何のゲームかわからない話 作:キサラギ職員
朝、俺がリビングに向かうと、オーナーは既にパソコンの前に座っていた。無表情のまま、キーボードを叩いている。何をしているんだろう、と俺は寝ぼけた頭でぼんやりとその姿を見つめていた。
「おはよう……また勝手にパソコン使ってるのか。何してるんだ?」
「目が覚めたか。調べものだ」
俺が声をかけると、彼女はふと手を止めて、冷静な瞳で俺を一瞥した。まるで、朝の挨拶をするのが当然だと思っているかのような、淡々とした表情だ。
「宇宙探査について調べていた。だが、技術レベルが低い。こんなものか、この時代は、あるいはこの世界は」
彼女のその言葉に、俺は少し戸惑った。技術レベルが低い? 宇宙探査がどうこうなんて、俺の日常とは全く縁のない話だ。彼女がどんなことを調べていたのか全く見当がつかないが、何か不満を抱えているのは伝わってきた。
「……宇宙探査って、急にまたすごいこと調べてるんだな。けど、技術レベルって、そんなに簡単に分かるものか?」
俺が尋ねると、彼女はふっと小さなため息をつき、自分で何かに納得したようにパソコンを閉じた。
「これでは、わからない。あるいは、この世界が全く違うものなら、考えなくてもいいのかもしれない」
そう独り言のように呟くと、彼女は立ち上がり、パソコンの電源を落とした。何を言っているのか、俺には理解できないが、彼女にとってこの世界はどうやら不十分らしい。
俺は気になってもう一つの疑問を口にした。
「ところでさ、俺が仕事に行ってる間、君は何をしてるんだ? 一日中ここにいるんだろ?」
彼女は少し考えてから、淡々と答えた。
「掃除は済ませた。だが、洗濯がまだだから、それをやっていた」
俺は思わず目を見開いた。彼女は俺が仕事に出かけている間、家のことを全部やってくれていたのか? 想像以上に家事ができる子であることに、俺は驚きを隠せなかった。掃除や洗濯まで彼女がこなしているなんて、なんだか申し訳ない気もしてきた。
「そっか、ありがとうな……。でも、無理しなくてもいいんだぜ? 俺の家だし、適当にくつろいでてくれても」
彼女は俺の言葉には反応せず、ただ頷くのみだった。
その日の夕方、仕事から帰宅すると、家の中から何やら香ばしい匂いが漂ってきた。キッチンを覗いてみると、見慣れない料理がテーブルに並んでいた。トマトソースのスパゲッティ、ミネストローネ、そしてパルミジャーナ――イタリアン風のメニューが揃っている。俺は目を丸くして、テーブルの上に並べられた料理を眺めた。
「おいおい……渡した金を好きに使っていいとは言ったけど、まさかこんな風にもてなしてくれるとは思わなかったよ」
冗談めかして言うと、彼女は少しだけこちらを見て、淡々と答えた。
「誰かをこうして世話することには慣れている」
その返答に、俺は一瞬戸惑ったが、すぐに納得した。確かに、彼女の手際の良さを見ると、昔からこういう生活をしていたのかもしれない。だけど「誰かを世話することに慣れている」という言葉には、どこか重い意味が込められているように感じた。
「そうか……まるでプロみたいだな」
俺は笑ってそう言ったが、彼女は何も言わず、ただ黙々と食事を始めた。彼女は言葉数が少ないが、その態度には何か深いものを感じさせる。
俺も一緒に席に着き、彼女が作ってくれた料理を一口食べてみると、その味にまた驚いた。トマトソースは酸味と甘みが絶妙で、ミネストローネも野菜の旨味がしっかりと出ている。料理の腕前は本当に一流だ。
「……うまいな、これ。ありがとう」
食事が終わり、後片付けをしている間、俺はふと彼女の行動が気になっていた。
俺が洗い物をしている間、オーナーは静かにリビングに戻り、何やらゲーム機に手を伸ばしていた。彼女がゲームをするところなんて初めて見る。俺は興味津々で様子を伺いながら、後片付けを済ませてリビングに戻った。
「……ゲーム、やるんだな」
オーナーは無言でコントローラーを握り、画面に集中している。どこか不自然なくらい真剣だ。その姿を見て、俺は何となく不思議な気持ちになった。彼女がゲームの世界から来たという話はまだ信じられないが、こうして普通にゲームをしている姿は、なんだか妙に現実味がある。
「ところでさ、自分がゲームの世界の存在だって、誰に言われたんだ?」
俺がその質問を投げかけると、彼女は一瞬だけコントローラーを握る手を止め、静かに答えた。
「……しいて言うならば、神様だ」
神様? まさかとは思ったが、彼女の真剣な表情を見て、冗談ではないことが伝わってきた。彼女にとって、それは絶対的な何かだったのだろう。それ以上は追及しないことにして、俺は別の話題を切り出した。
「飽きた……違うゲームがしたい」
突然、彼女がそう言い出した。コントローラーを無造作に放り出し、ゲームのタイトルを変えるように言ってきた。
「何がやりたいんだ?」
俺は画面を呼び出し、いくつかのゲームのタイトルを表示させた。そして、その中に「アーマード・コア6」を見つけて、ふと興味が湧いた。俺は彼女に見せるように画面を指しながら、冗談交じりに言った。
「これとかどう?『アーマード・コア6』、俺、このハンドラー・ウォルターってキャラ好きなんだよね」
その瞬間、オーナーの表情が変わった。彼女の体が硬直し、コントローラーを持った手が一瞬震えたように見えた。そして、彼女は気まずそうに俺を見つめながら、低い声で問いかけてきた。
「……これを本当にやるのか?」
その様子に、俺は一瞬戸惑ったが、彼女の反応があまりにも異常だったため、逆に興味が湧いてきた。
「え? もしかして嫌なのか?」
彼女は一瞬だけ視線を落とし、深く息を吐き出した。そして、ぶっきらぼうに言った。
「……ハンドラー・ウォルターは、そんなに好かれる男ではない」
その言葉に、俺は思わず笑ってしまった。彼女がそんなことを言うなんて予想外だった。
「そうか? 俺は好きだけどな。何かかっこいいし、冷静だし。声が渋いし」
俺がそう言うと、彼女は少しだけ目を細めて自嘲気味に呟いた。
「あれは、遺志に囚われた俗物だ。褒められる人間では決してない」
その言葉は、まるで自分自身を嘲笑するかのようだった。俺はその言葉の意味を深くは考えなかったが、彼女のその冷たい声には何か重いものを感じた。
俺は再び画面を見つめ、「アーマード・コア6」をプレイするかどうか迷ったが、結局、オーナーが望んでいないようだったので、別のゲームに切り替えることにした。
「まあ、今日は別のゲームにしようか」
そう言って、別のタイトルを選ぶと、オーナーは一言も言わずに頷き、再びゲームに集中し始めた。
その夜、俺は彼女の言葉の意味が頭に残り続けていた。彼女がハンドラー・ウォルターについて語ったあの冷たい口調には、彼女自身の過去や何かを抱えていることを示唆しているように思えた。そして、彼女が「遺志に囚われた俗物」と言った言葉が、彼女自身の心情とどこか重なっているように感じられた。
オーナーの謎はますます深まるばかりだが、少しずつ彼女の本当の姿が見えてきたような気がした。