ある日銀髪の美少女が部屋にいてゲームの世界から来たと言うが何のゲームかわからない話 作:キサラギ職員
帰宅した俺がリビングに足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、信じがたい光景だった。
そこにいたのは、銀髪を肩まで垂らし、腰にタオルを巻いただけのほぼ半裸のオーナー。彼女は冷蔵庫の前に立ち、水を飲んでいる。夕方の柔らかな光がリビングに差し込み、彼女の白い肌が一層際立って見えた。思わず足が止まる。
「おい、何やってんだよ!」
俺は驚きの声を上げた。タオル一枚で隠しているだけという彼女の姿に、言葉を失ったのだ。オーナーは水を飲み干し、無言で俺を見返す。その赤い瞳が冷たく、まるで俺を測っているかのようだ。
「女性なんだから、胸くらい隠せよ!」
俺は慌てて、ソファにあったタオルを手に取り、彼女に向かって投げつけた。オーナーは受け止めたものの、冷静な表情を崩さない。
「慣れないものだな……。それとも、この体に欲情するほど理性が緩んでいるのか?」
その言葉に、俺は一瞬で顔が真っ赤になった。そんなつもりはなかった。むしろ彼女を守りたいという思いから投げたタオルだったのに、彼女の冷ややかな視線に直面して、まるで上司に叱られている気分になった。反論もできず、思わず謝ってしまう。
「す、すいません……」
すると、オーナーは一瞬だけ表情を緩め、思い直したようにタオルを胸元にかけて隠した。
「俺にも非があるな……悪かった」
オーナーのその言葉に、俺は少しだけ肩の力を抜くことができた。彼女が胸を隠す姿はどこかぎこちなく、不自然だ。彼女がこの体に慣れていないことは一目瞭然だった。まあ、それは彼女が元男性だったのではないかという俺の薄っすらとした曖昧な想像によるものだが。
「やっぱり、この体にはまだ慣れないのか? いや、変な事聞いてすまんけど」
俺が尋ねると、彼女は冷静に頷いた。
「そうだ。どうしてもこの体は不自然に感じる」
その言葉には、どこか深い思いが込められているようだった。俺は彼女の言葉の意味を深く考えずに流そうとしたが、どうしても気になってしまう。
「もしかして、買い物とか外に出るときも大変なのか?」
俺の問いに、オーナーは少し眉をひそめた。
「そうだ……特に銀髪は珍しいのだろう。外に出れば、ジロジロと見られることが多い」
彼女の言葉には不快感がにじみ出ていた。それは無理もないだろう。彼女の銀髪に赤い瞳という異様な容姿は、現代の日本では非常に目立つ。さらにその美貌が加われば、人々が見とれるのも当然だ。
「まあ、そりゃあそうだろうな。銀髪は珍しいし、それに……君、美人さんだからな」
俺が少し笑いながら言うと、オーナーは一瞬、神妙な顔をした。そして、まるで何か大きな疑問が頭に浮かんだかのように、低く呟いた。
「……この容姿、どうしてこうなったのか……」
その言葉に、俺は踏み込んでみることにした。
「以前は、違う見た目だったのか? その……えー……性別が違うとか?」
彼女はしばらく沈黙していた。視線を落とし、しばらく考え込んだようだった。そして、諦めたかのように静かに答えた。
「……そうだ。以前は、確かに違う容姿をしていた。だが、今はこの姿だ」
その告白に、俺はますます興味をそそられた。オーナーが今の姿とは全く異なる姿を持っていたというのは、何を意味しているのだろうか?
俺はふと、何か思い出した。頭の中で一つの考えが閃き、急いでパソコンを立ち上げた。
「ちょっと待ってろ」
パソコンが起動すると、俺はインターネットブラウザを開き、とあるサイトにアクセスした。『アーマード・コア6』の同人サイトだ。このゲームの世界に興味を持っていた俺は、よくこのサイトでファンアートや物語をチェックしていた。
そして、そこで目にしたのは――トップを飾る銀髪の美少女のイラストだった。
「これ、見てくれ」
俺はオーナーにそのイラストを見せた。驚くべきことに、その美少女の姿は、まるでオーナーそのものだった。銀髪、赤い瞳、冷徹な表情……全てがそっくりだった。まさか、と思いながらも、俺はその絵をオーナーと見比べた。
パジャマに着替えて来たオーナーはしばらくそのイラストを見つめ、やがて低い声で呟いた。
「……621か……」
その一言が発せられた瞬間、俺は確信に近い何かを感じた。オーナーは、このゲームのキャラクターなのか? いや、それとも違う? その答えを知りたくて、俺は思い切って彼女に尋ねた。
「君、もしかして……621だったりするのか?」
俺がそう聞くと、オーナーは小さく首を振った。
「違う……。俺は621ではない」
そして、彼女は深く息を吸い込んでから、静かに話し始めた。
「俺は……かつて、ハンドラー・ウォルターと呼ばれた男だ」
その言葉が耳に届いた瞬間、俺は信じられない気持ちに襲われた。
「……ウォルター? あの、ハンドラー・ウォルター?」
『アーマード・コア6』に登場する冷徹な指揮官、ハンドラー・ウォルター。まさか、この銀髪美少女が、そのウォルターだというのか? 理解が追いつかない。彼女は男だったということなのか?
何が何だかわからない。
「……だが、今の俺は、かつての姿ではない。この体は、俺の本来の姿とかけ離れている」
オーナーは静かにそう言った。自嘲するような口調で、彼女の声にはどこか哀しみが込められていた。
それはそうだろう。彼、あるいは彼女は男性、杖を付いた恐らくは老人だったのだから。
「そ、それは………女体化ってやつか」
「………」
「ごめん」
俺は困惑しながらも、笑いを浮かべようとした。彼女が冷静に過去を語るその様子が、ますます信じられなかったのだ。だが、彼女は微かに眉をひそめ、俺を見つめ返した。
こうして、俺とオーナーの奇妙な生活は、さらに深い謎を抱えながら続いていくのだった。彼女がこの世界にやって来た理由、そしてその本当の目的が何なのか――それを知る日はまだ遠いかもしれないが、俺は彼女の言葉と行動を、しっかりと見守り続けていくつもりだった。
プロットは塵と化した