ある日銀髪の美少女が部屋にいてゲームの世界から来たと言うが何のゲームかわからない話 作:キサラギ職員
ある日、仕事から帰ってくると、ウォルターがリビングで真剣な表情を浮かべていた。何を考えているのかと気になりつつも、今日は何事もなく平和に過ごせると思っていた。
しかし、ウォルターが不意に口を開いた。
「ゲームを手伝ってほしい」
唐突な言葉に、俺は一瞬面食らった。俺はちょっとした期待と不安を抱きつつ、尋ねた。
「手伝うって、どんなゲーム?」
するとウォルターは、淡々と、だが真剣に言った。
「アーマード・コア6だ。俺が出ているゲームをクリアしたい」
俺は少し驚いた。彼女自身が登場するゲームをプレイするなんて、普通は気が引けるものだろうと思っていたが、彼女には何か特別な理由があるようだ。
「それで……クリアしたら何がわかるんだ?」
俺が聞くと、ウォルターは視線を落とし、少しの間沈黙した後、ゆっくりと答えた。
「正直、何がわかるかはわからない。だが、このゲームをクリアすれば、この世界での俺の役割や、ここに来た理由が少しでも見えてくるかもしれない」
その言葉には、彼女が何かを探し求めていることが伝わってきた。彼女はこの世界に不安や疑念を抱いていて、その答えを求めているのだろう。
「わかった。じゃあ、一緒にやろう」
俺はそう言って、ゲーム機を立ち上げる準備を始めた。
ウォルターは俺が準備を整えるのをじっと待っていた。そして、コントローラーを手に取り、真剣な顔で画面を見つめた。ゲームの世界に自分自身が登場していることに、彼女はどんな感情を抱いているのだろうか?
「その、自分の声を聞くってどんな気分なんだ……?」
「………端的に言うと羞恥心を覚える。自分の声の、他人を見るのは」
ゲームが始まると、彼女は序盤から再び苦戦し始めた。大型ヘリコプターのボス戦にまたしても苦戦する姿は、前回のプレイと変わらない。彼女は接近こそできるが、敵のミサイル攻撃を目の前にすると、どうしても回避行動を取ってしまうのだ。
「……あのミサイルを浴びたら現実なら死んでいるだろう」
ウォルターがぼそっとつぶやく。彼女の声には、どこか苛立ちと焦りが感じられた。彼女にとっては、ミサイル攻撃を回避することが当然の行動なのだろうが、これはゲームの中だ。現実とは違い、ゲームでは被弾しても死なないし、リトライもできる。
「ウォルター、これは現実じゃないんだ。遊びだよ。多少のダメージを受けても、やり直せばいい」
俺は彼女にそう言って、少し肩の力を抜くように促した。だが、ウォルターは真剣な顔のまま、ゲーム画面を見つめ続ける。
「俺には、どうしてもその感覚が理解しづらい。現実と違うと言われても、俺の体は本能的にそれを拒んでしまう。わかってはいるがな」
その言葉を聞いた瞬間、俺は彼女の苦悩を少し理解できた気がした。ウォルターは戦場で生き延びてきた。それも、命をかけた現実の戦場でだ。彼女にとっては、ゲームだろうと「ミサイルが飛んできたら避ける」という行動は、もはや本能に刻み込まれているものなのだろう。
「……でも、少しずつ慣れればいいさ。ゲームは戦場と違って、何度でも挑戦できる。失敗しても、またやり直せばいい」
俺はそう言って彼女を励ました。ウォルターは一瞬だけ俺を見て、小さく頷いた。
「……わかった。もう一度やってみる、やってはみるが」
何度もゲームオーバーになりながらも、ウォルターは粘り強くゲームに挑み続けた。俺も彼女をサポートしながら、攻略方法を一緒に考えていく。接近して負荷を蓄積させること、攻撃のタイミングを見計らうこと。少しずつ、彼女はゲームのルールを理解し始め、動きが洗練されていくのが見て取れた。
だが、やはり彼女には「遊び」という感覚がどうにも掴めないらしく、時折ミサイルを避けるタイミングを間違えたり、必要以上に回避行動を取ってしまったりする。それでも、少しずつ前進していく彼女の姿に、俺は感心していた。
「戦場とは違うんだから、ゲームの中ではもっと自由にやっていいんだよ。」
俺がそう言うと、ウォルターは微かに笑みを浮かべた。
「……自由か」
彼女が自由という概念に戸惑っているのは、その生き方ゆえだろう。戦場で、がんじがらめになった人の思惑の中で生きてきた彼女あるいは彼にとって、「自由」というのは恐らく、あまり馴染みのない感覚なのかもしれない。彼女が追い求めてきたものは、生死の境界線を超えた使命や責任であり、自由というよりもむしろ「束縛」に近いものだったのかもしれない。
何しろゲームするのに正座してるからな。姿勢が遊びのそれじゃない。
数時間が過ぎ、ついにウォルターは大型ヘリコプターのボスを倒すことができた。彼女はコントローラーを握りしめたまま、画面をじっと見つめていた。
「……やっと倒せたな。“仕事は終わりだ”とでも言うべきか」
その言葉には達成感が漂っていたが、同時にどこか虚無感も含まれているように感じた。ウォルターは、勝利の喜びを感じることよりも、何か深い思索に沈んでいるようだった。
「クリアしたけど、何か分かったか?」
俺が尋ねると、彼女はしばらく沈黙していた。やがて、深い溜息をつきながら答えた。
「……何もわからない」
その言葉には、どこか失望の色が滲んでいた。彼女は、このゲームをクリアすることで何か手がかりを得られるかもしれないと期待していたのかもしれない。しかし、現実はそう簡単なものではなかった。
「でも、これで終わりじゃないだろ? ラスボスの、その……」
「俺か」
「ま、まあそうだな、ウォルターを倒せば何かわかるかもしれない」
俺はそう励ますつもりで言った。ウォルターは無言のまま、じっと俺を見つめた。
「……そうかもしれないな。だが、今は少し疲れた。考えを整理する時間が必要だ」
ウォルターはそう言って、コントローラーをそっと置いた。その姿には、何かを見つめ直す覚悟が感じられた。
「俺は、この世界に来た理由がまだわからない。だが、少なくとも……お前がそばにいてくれることには感謝している。見ず知らずの他人を泊める決断ができるのは、称賛に値する」
その言葉には、不器用ながらも確かな感謝が込められていた。ウォルターにとって、俺の存在が少しでも彼女の苦悩を和らげているのだと知り、俺は微かな安堵を覚えた。
「そうだ、服を買いに行こう」
「いや……その必要性はない」
「いつまでも俺のおさがりじゃまずいでしょ。普通の服を買いに行こう」
「断る」
「女ものの服そんなに」
「嫌ではない。そんな理由ではない」
「じゃあ行こうか」
「お前………」