ある日銀髪の美少女が部屋にいてゲームの世界から来たと言うが何のゲームかわからない話   作:キサラギ職員

7 / 7
ウォルターという男は、服に興味がなかった。


7

 ある日のことだった。俺たちは、ウォルターのために新しい服を買いに行くことになった。最近、彼女――いや、彼と呼ぶべきなのか、いまだに迷ってしまうが、ウォルターが俺の部屋着を着続けていることに気がついた。サイズが大きすぎるし、見た目にかなり無理がある。それでも、彼女はまったく気にしない様子だったが、さすがに外に出る機会が増えてきた今、きちんとした服を揃えておくべきだと思い、提案してみたところ、あっさりと同意したのだ。

 

「スーツの方が好ましいが、今はないのだろう?」

「あるけど、男ものしかね」

 

 ウォルターが低くつぶやく。俺は頷きながらも、彼女に似合う服を選んでやろうと意気込んでいた。

 

 俺たちが向かったのは近所のショッピングモールにある服屋。特別な高級ブランドというわけではないが、ウォルターに似合いそうなカジュアルな服が揃っている。店に入ると、明るい笑顔の女性店員がすぐに声をかけてきた。

 

「いらっしゃいませ! 今日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 俺が何か言う前に、店員はウォルターを見て一瞬言葉を飲み込んだ。まあ、無理もない。ウォルターの銀髪と鋭い赤い瞳、そして美しい顔立ち。彼女は、どうしても目を引いてしまう。店員の視線は、まるでどこか別の世界からやってきた存在を目にしているかのようだった。

 

「彼女さんに合いそうなものお手伝いしますね~ご希望なんですか?」

 

 その無邪気な質問に、俺は一瞬固まってしまった。彼女、と言われると正直なところ違和感がある。しかし、目の前にいるウォルターの姿はどう見ても女性であり、その問いかけに対して「いや、彼女じゃない」と答えるのも妙な気がした。

 

「いや、ルームシェアしているだけです」

 

俺は少し笑ってそう答えた。ウォルターも微かに頷いて同意を示す。しかし、店員の生ぬるい視線は消えない。「そうは言ってもね」とでも言いたげな表情で俺たちを見つめている。

 それからしばらくして、ウォルターは試着を始めた。店員は次々と洋服を彼女に勧めてきた。ワンピース、カーディガン、ブラウス、フレアスカート――明らかに女性的なアイテムばかりだ。ウォルターは無言でそれらを受け取って試着をするが、明らかに彼女の心中は複雑そうだった。

 

「……これが俺に合っているとは思えんが」

 

 彼女はピンク色のワンピースを身にまとい、試着室から出てきた。見た目にはとても似合っていた。銀髪とピンクのコントラストが絶妙で、どこか妖艶な雰囲気さえ漂っている。しかし、ウォルターの表情はまったく楽しんでいる様子がない。

 

「いや、すごく似合ってるけど……君がどう思うかが大事だろう?」

 

 俺がそう言うと、ウォルターは少し困惑したように俺を見つめた。その視線は、明らかに「助けてくれ」というものだった。

 

「そろそろ、試着も疲れただろ? ユニセックスの服でも良いんじゃないか?」

 

 俺は助け舟を出すことにした。彼女の忍耐も限界に近いようだった。ウォルターは小さく頷き、試着を終わらせた。

 

 結局、可愛らしい服もいくつかは購入したが、メインはユニセックスの服――パーカーやシンプルなシャツ、ジーンズといったカジュアルなアイテムが中心になった。彼女にとって、これが最も快適なのだろう。店員は最後まで「お似合いですよ」と言い続けていたが、その言葉がどこかしら疑わしいものに聞こえてならなかった。

 

 家に帰ると、ウォルターは疲れ切った様子でソファに沈み込んだ。彼女が人混みや試着に慣れていないのは見て取れた。今までの彼女の生活スタイルを考えれば無理もない。

 

「スーツの方が楽でいい……」

 

 彼女がため息混じりに呟く。俺は苦笑いしながら隣に腰を下ろした。

 

「普段はどんな服を着てたんだ? スーツが好きってことは……?」

 

 俺が問いかけると、ウォルターは少しの間を置いてから答えた。

 

「スーツだ。手袋に革靴を合わせていた。常に、だ」

 

 その言葉に、俺はすぐに頭の中でハンドラー・ウォルターの姿を思い浮かべた。完璧に仕立てられたスーツに、黒い手袋と磨き上げられた革靴――彼の冷徹さと威厳が、そのスタイルに凝縮されているようだった。

 

「やっぱり、君にはスーツが似合うよな。でも、スーツを仕立てるにはお金が必要だ。今はちょっと予算が足りないけど……」

 

 俺がそう言うと、ウォルターは一瞬黙り込み、冷静な声で言った。

 

「ならば、働くしかあるまい」

 

 その言葉に、俺は一瞬戸惑った。彼女がこの世界でどうやって働くつもりなのか、まったく想像もつかない。だが、彼女の表情はいつものように硬く、揺るぎない決意を感じさせた。

 

「でも……君、身分証とかないだろ? どうやって仕事を見つけるんだ?」

 

 俺が尋ねると、ウォルターは淡々と答えた。

 

「身分証は必要だ。だが、それなら偽装すれば良い」

 

「偽装?」

 

 俺は驚いて聞き返す。ウォルターは冷静なまま続けた。

 

「日本国政府のシステムを改竄する。それで身分証を作成する。問題はない」

 

 その瞬間、俺は完全に凍りついた。日本政府のシステムを改竄? それは完全に犯罪だ。しかも国家の重要なシステムに手を加えるなんて、一歩間違えれば国際的な大問題になる。俺は焦りを抑えきれず、彼女に必死に訴えた。

 

「ちょ、ちょっと待て! そんなことしたら、本当に捕まるぞ! 普通に働けなくても、そんな危険なことは……」

 

 だが、ウォルターは一切表情を変えず、静かに俺を見つめ返した。

 

「捕まることはない。この時代のセキュリティは、俺が突破できないほど強固ではない。心配する必要はない」

 

 彼女の言葉には確固たる自信があった。確かにウォルターの技術力は並外れているし、俺が理解しているレベルをはるかに超えたハッキング能力を持っているのかもしれない。だが、それでも……日本政府のシステムを改竄するというのは、一線を超えすぎている。

 

「でも……そんなことしても、何かの拍子にバレたらどうするんだよ? それに、いくら技術があっても、追跡されたら……」

 

 俺は必死で彼女を止めようとしたが、ウォルターは動じることなく、冷静な口調を保っていた。

 

「バレることはない。仮に何かのミスが発生したとしても、俺がそれを修正する。それ以上の問題が起こることは考えにくい」

 

 彼女のその冷静さが、かえって俺の不安を掻き立てた。

 

「わかった、そこまでいうなら俺は何も言わない」

 

 俺は深く息を吐きながら、彼女にそう言った。ウォルターは少しだけ目を細めたが、何も言わずに頷いた。

 その理論は一見、冷静で合理的だが、どこか危険な香りがした。ウォルターにとっては、それが最も効率の良い選択肢なのだろう。

 この辺、カタギじゃないなというのがわかる。ハンドラー・ウォルターは悪い人なのだ、俺のような一般人からすれば。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てよ? システム弄れるなら銀行の……」

「断る。そこは譲れない一線だ」

「ですよねー」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

天童ケイの現代転移(作者:Hayatbusa)(原作:ブルーアーカイブ)

”現代”――それはキヴォトスの外と似て非なる世界。▼天童ケイは単身”現代”へと転移する。▼銃もなく平和な現代日本、彼女にとってはあまりにも“異質”だった。▼そこで出会ったのは、先生には程遠い、口も悪く不器用な一人の少年。▼交わるはずのなかった二人は、日常の中で少しずつ互いを知っていく。▼――――――――――――――――――――――――――――――――――――…


総合評価:363/評価:7.71/連載:14話/更新日時:2026年05月24日(日) 16:07 小説情報

原罪:自称ニセモノ名探偵  (作者:三日月ノア)(原作:魔法少女ノ魔女裁判)

虐待施設での惨劇事件を起こした橘シェリー。▼職員は殺害したものの、頭部に衝撃を受け、感覚を遮断できないほどの痛みのあまり気絶してしまう。▼ しかし意識を失った彼女は目覚めることなく・・・・・・▼代わりに目覚めたのは橘シェリーの身体に成り代わった一般社畜男性だった。▼思い出す。▼明日リリースされるはずだったゲーム、▼この世界は『魔法少女ノ魔女裁判』 だと。▼「…


総合評価:1524/評価:8.94/連載:30話/更新日時:2026年05月27日(水) 20:00 小説情報

星殺しの英雄(作者:Castella)(原作:アサルトリリィ)

星の究極種を殺した型月転生者がアサリリ世界に転移する話。▼※掲示板形式ありです。


総合評価:2103/評価:8.29/連載:18話/更新日時:2026年05月11日(月) 21:37 小説情報

【急募】幼女アイズの幻覚見えてるんだけどどうしたらいい?【ロリコンではない】(作者:透明な器)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

掲示板形式ではありません。▼幼女アイズの幻覚(だと思ってる)が見えてる少年が主人公のお話。


総合評価:5817/評価:7.87/連載:4話/更新日時:2026年04月24日(金) 12:41 小説情報

【速報】俺氏モブつきんちゅになる(作者:月面の蟹)(原作:超かぐや姫!)

モブつきんちゅになった俺氏のお話。▼ただし役職はかぐやの付き人(記憶取り戻し後も含む)とする。


総合評価:8227/評価:8.94/短編:10話/更新日時:2026年04月09日(木) 08:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>