ある日銀髪の美少女が部屋にいてゲームの世界から来たと言うが何のゲームかわからない話   作:キサラギ職員

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ウォルターという男は、服に興味がなかった。


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 ある日のことだった。俺たちは、ウォルターのために新しい服を買いに行くことになった。最近、彼女――いや、彼と呼ぶべきなのか、いまだに迷ってしまうが、ウォルターが俺の部屋着を着続けていることに気がついた。サイズが大きすぎるし、見た目にかなり無理がある。それでも、彼女はまったく気にしない様子だったが、さすがに外に出る機会が増えてきた今、きちんとした服を揃えておくべきだと思い、提案してみたところ、あっさりと同意したのだ。

 

「スーツの方が好ましいが、今はないのだろう?」

「あるけど、男ものしかね」

 

 ウォルターが低くつぶやく。俺は頷きながらも、彼女に似合う服を選んでやろうと意気込んでいた。

 

 俺たちが向かったのは近所のショッピングモールにある服屋。特別な高級ブランドというわけではないが、ウォルターに似合いそうなカジュアルな服が揃っている。店に入ると、明るい笑顔の女性店員がすぐに声をかけてきた。

 

「いらっしゃいませ! 今日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 俺が何か言う前に、店員はウォルターを見て一瞬言葉を飲み込んだ。まあ、無理もない。ウォルターの銀髪と鋭い赤い瞳、そして美しい顔立ち。彼女は、どうしても目を引いてしまう。店員の視線は、まるでどこか別の世界からやってきた存在を目にしているかのようだった。

 

「彼女さんに合いそうなものお手伝いしますね~ご希望なんですか?」

 

 その無邪気な質問に、俺は一瞬固まってしまった。彼女、と言われると正直なところ違和感がある。しかし、目の前にいるウォルターの姿はどう見ても女性であり、その問いかけに対して「いや、彼女じゃない」と答えるのも妙な気がした。

 

「いや、ルームシェアしているだけです」

 

俺は少し笑ってそう答えた。ウォルターも微かに頷いて同意を示す。しかし、店員の生ぬるい視線は消えない。「そうは言ってもね」とでも言いたげな表情で俺たちを見つめている。

 それからしばらくして、ウォルターは試着を始めた。店員は次々と洋服を彼女に勧めてきた。ワンピース、カーディガン、ブラウス、フレアスカート――明らかに女性的なアイテムばかりだ。ウォルターは無言でそれらを受け取って試着をするが、明らかに彼女の心中は複雑そうだった。

 

「……これが俺に合っているとは思えんが」

 

 彼女はピンク色のワンピースを身にまとい、試着室から出てきた。見た目にはとても似合っていた。銀髪とピンクのコントラストが絶妙で、どこか妖艶な雰囲気さえ漂っている。しかし、ウォルターの表情はまったく楽しんでいる様子がない。

 

「いや、すごく似合ってるけど……君がどう思うかが大事だろう?」

 

 俺がそう言うと、ウォルターは少し困惑したように俺を見つめた。その視線は、明らかに「助けてくれ」というものだった。

 

「そろそろ、試着も疲れただろ? ユニセックスの服でも良いんじゃないか?」

 

 俺は助け舟を出すことにした。彼女の忍耐も限界に近いようだった。ウォルターは小さく頷き、試着を終わらせた。

 

 結局、可愛らしい服もいくつかは購入したが、メインはユニセックスの服――パーカーやシンプルなシャツ、ジーンズといったカジュアルなアイテムが中心になった。彼女にとって、これが最も快適なのだろう。店員は最後まで「お似合いですよ」と言い続けていたが、その言葉がどこかしら疑わしいものに聞こえてならなかった。

 

 家に帰ると、ウォルターは疲れ切った様子でソファに沈み込んだ。彼女が人混みや試着に慣れていないのは見て取れた。今までの彼女の生活スタイルを考えれば無理もない。

 

「スーツの方が楽でいい……」

 

 彼女がため息混じりに呟く。俺は苦笑いしながら隣に腰を下ろした。

 

「普段はどんな服を着てたんだ? スーツが好きってことは……?」

 

 俺が問いかけると、ウォルターは少しの間を置いてから答えた。

 

「スーツだ。手袋に革靴を合わせていた。常に、だ」

 

 その言葉に、俺はすぐに頭の中でハンドラー・ウォルターの姿を思い浮かべた。完璧に仕立てられたスーツに、黒い手袋と磨き上げられた革靴――彼の冷徹さと威厳が、そのスタイルに凝縮されているようだった。

 

「やっぱり、君にはスーツが似合うよな。でも、スーツを仕立てるにはお金が必要だ。今はちょっと予算が足りないけど……」

 

 俺がそう言うと、ウォルターは一瞬黙り込み、冷静な声で言った。

 

「ならば、働くしかあるまい」

 

 その言葉に、俺は一瞬戸惑った。彼女がこの世界でどうやって働くつもりなのか、まったく想像もつかない。だが、彼女の表情はいつものように硬く、揺るぎない決意を感じさせた。

 

「でも……君、身分証とかないだろ? どうやって仕事を見つけるんだ?」

 

 俺が尋ねると、ウォルターは淡々と答えた。

 

「身分証は必要だ。だが、それなら偽装すれば良い」

 

「偽装?」

 

 俺は驚いて聞き返す。ウォルターは冷静なまま続けた。

 

「日本国政府のシステムを改竄する。それで身分証を作成する。問題はない」

 

 その瞬間、俺は完全に凍りついた。日本政府のシステムを改竄? それは完全に犯罪だ。しかも国家の重要なシステムに手を加えるなんて、一歩間違えれば国際的な大問題になる。俺は焦りを抑えきれず、彼女に必死に訴えた。

 

「ちょ、ちょっと待て! そんなことしたら、本当に捕まるぞ! 普通に働けなくても、そんな危険なことは……」

 

 だが、ウォルターは一切表情を変えず、静かに俺を見つめ返した。

 

「捕まることはない。この時代のセキュリティは、俺が突破できないほど強固ではない。心配する必要はない」

 

 彼女の言葉には確固たる自信があった。確かにウォルターの技術力は並外れているし、俺が理解しているレベルをはるかに超えたハッキング能力を持っているのかもしれない。だが、それでも……日本政府のシステムを改竄するというのは、一線を超えすぎている。

 

「でも……そんなことしても、何かの拍子にバレたらどうするんだよ? それに、いくら技術があっても、追跡されたら……」

 

 俺は必死で彼女を止めようとしたが、ウォルターは動じることなく、冷静な口調を保っていた。

 

「バレることはない。仮に何かのミスが発生したとしても、俺がそれを修正する。それ以上の問題が起こることは考えにくい」

 

 彼女のその冷静さが、かえって俺の不安を掻き立てた。

 

「わかった、そこまでいうなら俺は何も言わない」

 

 俺は深く息を吐きながら、彼女にそう言った。ウォルターは少しだけ目を細めたが、何も言わずに頷いた。

 その理論は一見、冷静で合理的だが、どこか危険な香りがした。ウォルターにとっては、それが最も効率の良い選択肢なのだろう。

 この辺、カタギじゃないなというのがわかる。ハンドラー・ウォルターは悪い人なのだ、俺のような一般人からすれば。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てよ? システム弄れるなら銀行の……」

「断る。そこは譲れない一線だ」

「ですよねー」

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