全ては虚しい
「も~ミサキちゃん!また自分の腕を傷つけたの!?ほら、早く腕出してっ!」
目の前の彼女は頬を膨らませながら、私の腕を取り包帯を巻いていく
「ダメだよミサキちゃん!こんなに綺麗な体なのに!」
口では怒っているが、彼女の表情はどこか嬉しげだった
彼女の名前は『黒百合アセビ』
アリウススクワッド以外の唯一の友達だ
私が任務から帰ってきたとき、人生に絶望して自身を傷つけたとき、アセビはいつも私に包帯を巻いてくれる
留守番をしていた忠犬が主人の帰りを待つように、アセビはいつも私の元へ駆けつけてくる
その姿がとても愛おしくて仕方ない
「はいっ、終わり!じゃーん!どう?またミサキちゃんが自傷行為をしないように包帯にクマさんを描いたんだ!可愛いでしょ?」
アセビは満開の笑みでこちらを見つめながら、包帯に描かれたクマの絵を見せつけてくる
その姿はやはり犬だ
尻尾をブンブンと揺らし、キラキラした目で主人のを待っている忠犬
私は思わず笑みをこぼし、アセビの顔を撫でまわす
「わふっ!?くすぐったいよミサキちゃん~」
人生に絶望している私だが、アセビといるこの瞬間だけが生きがいだった
どんなにきつい任務でも
どんなに厳しい現実でも
私にはアセビがいる
だからこれまでも、これからも私は生きていける
Vanitas vanitatum et omnia vanitas
しかし、その虚しさの先には必ず救いがある
包帯に描かれたクマの絵を見ながら私はそう願うのだった
シャーレの先生やアズサたちの妨害により、私たちの作戦は失敗に終わった
アリウススクワッドはマダムから逃げる生活を余儀なくされた
しかし、私たちはマダムから逃れることはできず、姫は捕らえられてしまった
残された私たちもバラバラとなり、それぞれが逃亡生活を行っている
「アセビ……」
あの日アセビに巻いてもらった、クマの絵が描かれた包帯を見つめて私は独り暗い路地裏で呟いた
アセビに会いたい
また、私の腕に包帯を巻いてほしい
止めたはずのリストカットの傷が疼いた
今、腕を傷つければアセビが駆けつけてくれるかもしれない
また、私に包帯を巻いてくれるかもしれない
私は無意識にサバイバルナイフを取り出し、包帯を外した
痛々しいリストカットの跡が露出する
震える右手でナイフを持ち、腕へと近づけていく
「ミサキちゃん!!」
ナイフが腕に触れた瞬間、私の右腕が誰かに押さえられた
私はその声に聞き覚えがあった
長い間聞いていなかった声
ずっと待ち焦がれていた彼女の声
「アセ……ビ……ッ!!」
私は思わずアセビに抱き着いた
「(ああ、この感触、この匂い……間違いなくアセビだ……!!)」
アセビの胸の中で涙を流す私を、アセビは優しく抱きしめ返してくれた
何分、何十分、何時間
とても長い時間、私はアセビの胸の中で泣き続けた
私の情緒が安定した時、アセビは私に1枚の紙を渡した
その紙にはマダムの計画や敵兵の数、マダムへ繋がる道の地図が事細かく書かれていた
そして、アセビは私のスマホを取り出し、何かのデータをインストールする
渡されたスマホを確認すると、連絡を取れなかったリーダーやヒヨリの現在位置が表示されていた
「アツコちゃんを助けなきゃ、でしょ?」
アセビはいつものように私に笑いかけ、私を鼓舞する
私の目の奥が熱くなり、再び涙が溢れ出す
どうしていつも私を支えてくれるのだろうか
どうしてこんなに優しくしてくれるのだろうか
私はアセビに問いかけようとした
しかし、遮るように銃声が鳴り響く
「サオリちゃんやヒヨリちゃんの位置が分かるってことは、ミサキちゃんの位置もバレているということ……急いでミサキちゃん、時間が無い!!」
「っ……アセビは!?」
「私はここを食い止める。安心して、ミサキちゃん。私、こう見えても意外と強いんだからっ!!」
そう言い、アセビは銃を構えて駆け出していく
「アセビッ!!」
私はアセビに手を伸ばしたが、もうアセビは私の手の届かない場所にいた
伸ばした手の拳を強く握りしめ、私はアセビに背を向け走りだす
「(ありがとう、アセビ。そして待ってて。必ず迎えに行くから……!!)」
私はスマホの画面を見つめ、リーダーたちの元へと駆けていく
アリウス生との戦闘
美園ミカの襲撃
様々な困難を切り抜け、私たちはマダムのいる場所へと到達した
開けたバシリカ至聖所の奥には姫が生贄として拘束されていた
すかさず姫の元へ駆け出した私たちだが、薄ら笑いを浮かべたマダムが目の前に現れた
「お待ちしておりました。シャーレの先生。私の敵対者よ」
マダムの儀式は既に進行していた
姫に巻き付いている赤い枝が、姫の神秘を吸い上げていた
急いで姫を救出しなければならない
すると、先生と会話を行っていたマダムが私に視線を向けた
そして、不気味な笑みを浮かべながら、マダムは私の目の前に何かを投げつけた
その正体はアセビだった
体中に赤黒い痣が何個も出来ており、右腕はあらぬ方向へ曲がっていた
そして何より
アセビの左目がくり抜かれており、出血した血が彼女の顔を赤く染めていた
「アセビッ!!!!」
私はアセビを抱きかかえ、彼女に呼び掛ける
「ミ……ミサキちゃん……ごめん……ね……私、ドジっ……ちゃった……」
「アセビッ!!しっかりしてアセビッ!!」
「そんなに悲しい顔を……しないで……ミサキちゃん……ほら……いつもみたいに……笑っ……て……」
アセビは私の腕の中で意識を失った
アセビはギリギリ生きている
けれど、それも時間の問題だった
私は今すぐにでもアセビを病院へと連れていきたかった
けれど、マダムはそれを許してくれない
私は血が溢れるほど歯を強く噛みしめ、銃を手に取りマダムを睨みつけた
「許さない……私はお前を絶対に許さないッ!!」
治療を終えた私たちは、密かに病院を抜け出した
マダムを倒した後、私はアセビを急いで病院へと運んだ
左目は失明し、右腕は切断しなければならないほど重症だった
しかし、奇跡的にアセビは一命をとりとめた
そんなアセビを私は病院に置いていく
私と関わるとアセビは危険な目に合う
だから、私はもうアセビとは関わらないと決心した
病院のベッドで眠るアセビの横に1枚の置手紙を残し、私は病院を後にした
アセビと会えなくなるのは辛い
だけどそれ以上に、アセビが傷つくのを見たくない
だから、私はもう二度とアセビの前には現れない
そう決心したのに、アセビはいつものように私の前に現れた
「待ってよ……待ってよミサキちゃんっ!!」
背後から私を呼び止めるアセビの声が聞こえた
私は思わず足を止めてしまった
「ねぇ……どこに行くの……?お別れって何……?ねぇ!?」
松葉杖をつき、こちらに近付いてくる音が聞こえる
私は拳を強く握りしめた
「私がドジっちゃったから……?ミサキちゃんに迷惑をかけたから……!?」
そんなことない
私はいつもアセビに助けられてきた
「悪いところは直すから……もっと強くなるから……」
直すところなんてない
強くなんてならなくていい
アセビが傷つかなければ
それでいい
「だから私を置いてかないで!!」
ガシャンと松葉杖が倒れる音がした
アセビが姿勢を崩し、地面に倒れこんだのだろう
「私……ミサキちゃんのことが……好きだから……っ!!」
「ッ……!!!!」
私はアセビの方を振り返った
涙を流し、必死にこちらに訴え続けるアセビの近くに私はゆっくりと近寄る
「だからっ!!「うざいんだよ」…………え?」
胸が苦しい
「いつもいつも犬みたいに私の後を付け回して」
心が痛い
「うざいんだよ……お前……」
瞳から涙が溢れ出しそうになる
けれど、私は必死にそれを押さえる
「アンタの顔も見たくないんだ。もう二度と私の前に現れないで(ごめん……ごめんね、アセビ……っ!!)」
私はアセビから貰ったクマの絵が描かれた包帯に手をかけた
アセビとの関係を切り捨てるように
私自身に覚悟を示すように
しかし……
『はいっ、終わり!じゃーん!どう?またミサキちゃんが自傷行為をしないように包帯にクマさんを描いたんだ!可愛いでしょ?』
「っ……!!」
アセビとの思い出が頭によぎった
私にはできなかった
どんなに口で突き放そうと
どんなに距離を離そうと
私はアセビとの繋がりを捨てることが出来なかった
私は包帯を捨てることなく大切に握りしめ、アセビに背を向けて足早にアセビの元から去っていく
「……いいの?」
「もんだい……ない……っ!!」
姫の問いかけを受け流し、私は足を進める
「(これでいい……そう……これで……っ!!)」
この出来事がずっと私の心を締め付けている
ずっと後悔ばかりが溢れ出している
もしあの時、覚悟を決めていれば……
「こちらアセビ。カヤ様、聞こえますか?」
もしあの時、包帯を捨てることが出来れば……
「アリウススクワッドを全員捕らえました。任務完了です」
もしあの時、アセビを置いていかなければ……
『流石は私の右腕ですね。他の凡人とは違って、仕事が早くて助かります』
「ありがとうございます。このままアリウススクワッドを連行します。秤アツコは特別な血を持っています。良い実験材料になるかと」
『他のメンバーは?』
「何の価値もありません。ブラックマーケットに流すのが良いかと」
『確か戒野ミサキと貴女はお友達では?良いのですか?貴女のお願いならこの超人が叶えてあげますが?』
「それはもう過去の話です」
『あらあら、それは失礼しました』
もしあの時、自分の気持ちに素直になれていたら……
「アセビ様。戒野ミサキがこの包帯を大事に持っていましたがどうなさいますか?」
「そんなゴミは捨ててしまいなさい。汚らわしい」
「はっ!!承知いたしました!!」
何かが変わっていたのかもしれないと……
馬酔木の花の毒牙にかかったのはアセビちゃんか、それとも……
【アツコの場合】や【ヒナの場合】みたいにオリ主くんが他作品の世界観や能力を持っているのは?
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あり
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なし
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好きにしていいから黙って曇らせを書け
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好きにしていいから黙って救済しろ