Swap Verse Archive 作:桃を食べる人
沈んだ街
「──裏返った?」
その日、世界に杭が打ち込まれた。
「ありえん。それは世界の根底のひっくり返すような……いや、箱庭に参画するが如き蛮行」
打ち込まれた世界は百八十度、真逆へと
「到底許してはおけぬ。それに放っておけばいずれ他の世界へと侵攻を始める。そうなれば……」
「そうなれば、その時こそ、かの者の奇跡も覆るだろう」
「故に我ら、かの者に選択を与える」
「故に我ら、かの者に反転を与える」
「故に我ら、かの者に栄光を与える」
だが、
──誰かが願った。
あの人の代わりに、自分の命をと。
──誰かが願った。
あの人のようになりたい、あの人と並んでいたい。
──誰かが願った。
あの人の過ちを正したい、一度の選択の後悔を。
──誰かが願った。
あの人のために、この命を捧げられるのならば。
──誰かが願った。
あの人のそばで、戦うことができたのならば。
願いは集積される。
蓄積する。
惨めにも、選択することなく。
照らしつける大地は海底の中に。
規律の元に成り立つ白は、混沌のような黒へと生まれ変わる。
だが逆もまた然り。
数字の中で言葉を選び、全ての足は一つの元に。
桜は散り、崩壊は取り消され、雁字搦めの立場は消滅する。
「目覚めよ、かの者よ」
そんな世界で、一人、武器を手に目覚める。
「……ぅ、ぐっ……こ、ここは……」
昨日の記憶が曖昧な中、俺は目を覚ます。
ぐらりと揺れている視界と、肌寒い空気の中で俺は昨日のことを思い出そうとする。
確か昨日はアビドスとかゲヘナ……あとトリニティにミレニアムにも行ったな。
生徒から呼ばれて、問題の解決の手伝いをしていたはずだ。
「いや、それよりも──」
俺はシッテムの箱を片手に当たりをぐるりと見渡す。
両目が捉えた周囲の景色は……完全なる海だった。
照りつける太陽、ボロボロになった小舟。
「なんだこれ……」
昨日の記憶と乖離した景色に困惑する。
何がどうなってこうなったのか……と数分考えた後、そうだ、と思いついて、手元のタブレット端末『シッテムの箱』を見た。
俺には非常に便利な相棒……相棒? がいる。
『アロナ』、ちょいちょい俺の財布から金を徴収する、実に役立ちシッテムの箱のメインOSだ。
結構前に同居者としてプラナが来たりしたが、まぁ変わらず活躍してくれている。
だから今回も大活躍してくれる……はず、だったのだが。
「アロナ! ……アロナ?」
そこにいるはずの少女に向けて声を投げかけるが、妙なことに反応が帰ってこない。
いつも聞こえてくるはずの軽快な声が全く聞こえない。
「……え、う、嘘だろ? お、おーい!? アロナ!? アロナァ!?」
何度か呼びかけてみるも、シッテムの箱
電源がつかないのだ。
軽く叩いたりしてみるも、やはり反応はない。
もしかしてこの海に浸かってしまったのだろうか。
だがこのシッテムの箱がそんなことで壊れるとは思えない。
「マジかよ……こんなこと一度もなかったろ。大丈夫なのか……? ……ん?」
と、そこであることに気づいた。
「……なんか、黒くね?」
よくよく見たら、めちゃくちゃ黒い。
俺の知ってるシッテムの箱は真っ白なタブレット端末だ。
しかしこのタブレットは真っ黒。
「……よし。もう見なかったことにしよう」
わけのわからなくなった俺は、シッテムの箱(仮)を置いていて、改めて周囲の景色を見ることに。
地平線の彼方まで間違いなく海で、そしてそんな海を照らすは燦々たる太陽。
色んな生徒と海に行ったことはあるが、そのどの景色とも当てはまることのない。
荒波一つない綺麗な海が、ただ続いているだけ。
「……てか、これ遭難なんだよなぁ」
少し冷静になって考えてみれば、俺は今遭難しているということに気づいてしまった。
「んー……今日の当番、誰だったかな……」
シロコだったような気がする。
……いや、誰であっても今の俺の状態に気づく者はいないだろう、多分。
「はぁ……どうすんだよ、これ。今日もやることいっぱいあったんだけどなぁ。そもそもなんで海なんだよ」
と、ボロボロの小船から身を乗り出し、海面を見る。
少し触れたことで波紋が広がっていたが、それも次第に落ち着き始め……そして俺は、その
「……なんだ、これ」
そこにあったのは。
海に沈み、幾つもの線路が引かれ、荒廃した街の姿であった。
その景色には見覚えがあった。
ただし。
俺が見たのは砂に沈んだ大きな街の姿。
「……ま、さか。ここは……アビドス、なのか……?」
砂ではなく海に沈んだ街。
ここは俺の全く知らないアビドスであった。