一話目はバーボンなオリ主と降谷さんで投稿した内容と一緒ですので、既読の方は二話目からご利用ください。
俺の目的はただひとつ。
この、ゲームじみた無限ループから脱出して平穏を取り戻すことである。
821回目の「製薬工場連続爆破事件」、6/11深夜。
俺──すなわち成り代わり系転生者、降谷零はN回目の死を目前にしていた。
なんのことはない、江戸川少年を凶弾からかばって派手に負傷したというだけの話だ。
ゴポリ、という濁った呼吸音が勝手に口から漏れる。
血液が顎を伝い、江戸川少年の膝を鮮やかに穢していく。
「ッ安室さん! しっかりしろ、あんたはまだこんな所で死んでいい人じゃねぇだろ!」
「ァ……が、ヒュ…………っ」
うーんこれは死んだわ。
内臓を貫通して大量出血。これはもう助からないな、と確信できる、誰が見てもわかる致命傷だ。
死亡経験では一家言ある俺の感覚からしても「次の降谷零はよくやってくれるでしょう」としか言いようがない。
YOU DIED……というやつだ。
何とか江戸川少年だけは銃弾の射線上から突き飛ばすことで助けられたが、それで俺自身が撃たれていては世話が無い。
あげく庇った当の江戸川少年の腕の中で息を引き取る五秒前とは、まさに「これでよく公安が務まるな」案件である。
「ダメだボウヤ、出血量が多すぎる。………これは、もう」
「っまだ何か、何か手が、クソ!安室さんっ!」
800回以上の試行を重ねてなおの体たらくに、俺は内心で深いふかーいため息をついた。
俺の不甲斐なさもあるが、それを差し引いても原作の降谷零はスペックがバグり過ぎだろ。
ここまでの俺の通算死亡回数は軽く万は超えている。
やり直し繰り返し、死にゲーのゾンビアタックでようやく中盤まで来れた、みたいなクソ難易度なのだ。
つまり実質フロムソフトウェア製。
不死人俺氏、人間性をすり減らしながら米花町で火を継ぐの巻。
改めて言葉にすると酷いなんてもんじゃないな。
人生一回目でこの糞ゲーをパーフェクトクリアする原作降谷零ってマジで何なんだよ。
ニュータイプかな?ニュータイプだったわ。
一般人にも再現性のある偉業を為してくれ頼むから。
江戸川少年は顔面蒼白のまま俺を覗きこみ、必死で呼びかけている。
「安室さん、安室さんッ!!」
「……、し…ぃ…」
霞む視界に彼の揺れる瞳を見て、俺はあーーと申し訳無さに呻いた。
コレ絶対心に癒えぬ傷を負ったやつだわ。自分のせいで仲間が死んだとか正義感の強い江戸川少年が気にしないわけねーよな!
絶望に凍りつく瞳を前に、俺は「違うすまん俺自身は実質ノーダメージだから気にすんなマジで」的なことを何とか伝えようとする。
今更2、3回死んだ程度かすり傷にも満たないからな!
本当に、いやスマンて一生トラウマになるみたいな顔せんでくれ。
次のループでも罪悪感引きずりそうになるやろがい。
あっ違うんです君を恨んでるとかじゃなくてな、主人公様に見捨てられると本気でデッドエンドだから許して…。
「ごめ、っ、……ね」
不甲斐ない降谷零ですまない…すまない…。
すまないさん化する脳内をアウトプットすらできず、視界がブラックアウトしていく。
死んじゃだめだ、と江戸川少年の絶望の叫びすらも遠くなり。
しがみつく手の温かさ、流さないはずの彼の涙の感触、最後の声が聞こえなくなり。
こうして、N回目のデッドエンドを迎えたのであった。
さて。
ここでひとつ、始まりの話をしよう。
ある日、気が付くと視界がアニメ調グラフイックになっていた。
俺が第二の生を自覚したのは「一回目の」3歳のとき。
前世を思い出すと同時にえらく混乱したものだ。
なにせ家具から窓の外を行き交う人並みまで、全てがセル画フィルターでもかかったように見えていたからだ。
つまり世界は24時間アニメ調。
作画崩壊皆無の線画はいつだって美しいし、着色は僅かにグラデーションがかかって大変リッチ。
これに驚かないほうが可笑しいってもんだ。
「ライ、待たせてしまいましたか」
「別に良い。そんなことより早いところ取り掛かるぞ」
俺が夜闇に紛れるビル街の影で合流したのは黒い長髪。
上から下までまっ黒くろすけの目つきの悪いスナイパー。
すなわちライ……赤井秀一である。
時系列は先ほどの周回より遡ること4年前。
現在集まっているのは他でもない組織の任務のため。
組織の裏金に手を出した下っ端を始末するだけの簡単なお仕事だ。
これが巡り巡って原作時間軸では連続爆破事件にまで発展するとは、俺も理解するまで30周ぐらいループを重ねなければならなかった。
前の凡ミス死から気を取り直してのn回目攻略戦。
時系列はずいぶん前だが、ここがクリアに必要なフラグの一箇所目だ。
ライが顎でしゃくるものだから、俺はいつも通りにするりと裏口の鍵を開けて慣れた侵入を果たした。
18周目でようやく見つけた侵入ルートだ。
134周目で確立した安全経路通りに進んでいけば、二つ目のドアの前に立つ見張りを視認できた。
見張りを素早く無力化し、武装を取り上げて縛り上げる。
このタイミングで必ず見張りの腰にある拳銃とキーケースを取り上げておきましょう。
特にキーケースを取り忘れると3ステージ目で通用口が開かずそのまま追手に蜂の巣にされます。
気をつけましょうね(83敗)。
などとRTA風に脳内を盛りたてて進んでいく。
流石に手動プレイでの繰り返しを重ねた事件だ。
プレイし慣れた格ゲーのコンボを決めるように、滑らかに密やかに進めていける。
ただ、俺TUEEEEE!なんて思って油断してると凡ミス死するので良い子のみんなは絶対に気は抜かないようにするんだゾ!(6敗)
「首尾は良さそうだな、バーボン。それで、今回の標的は向こうに見える男でよかったな。お前は俺がことを運んでいるうちにデータを奪取すると」
「ええ。先日下されたジンの命令によればそれで間違いありません」
「ジンの気まぐれも迷惑なことだ。なぁ、お前もそう思わないか、バーボン」
「僕は組織の命令を忠実に遂行するのみ。貴方も同様のことでしょう、ライ」
「つれない男だ」
視界に映るライの立ち絵は美麗で、ついタバコを取ろうとして舌打ちしてしまう姿もずいぶんと様になっている。
いつものことだが、ここまでヌルヌル動くと逆に違和感だな。
こう、タメツメの足りない欧米のカートゥーンみたいな感じだ。
俺のピクリとも動かない表情筋で若干内心ぷくぷくと笑いつつ、そこで別行動に移るとする。
仕事自体は全くの流れ作業だ。
一歩二歩と歩数すらも定まって、視線の向け方、手の運び方すらも最適化されている。
ただの凡人が繰り返しのみで見出した奇跡の御技を、惜しげもなくさらけ出していく。
そうして翌日。
ライと再会した時には、ライはいつも通りやつれた頬を死んだように晒したまま、「来たか」とだけ無愛想に口にした。
どうやら向こうも別れてから、無事あの場から脱出できたようだ。
「情報共有といこう。データは無事手に入ったんだろう?」
「もちろんです。どうぞ、お受取りください」
MISSION CLEAR!!
高速で脳裏を流れるクエストの結果画面をサラリと流し見る。
一昨日引き受けた任務の一つ、ライが発行した情報奪取クエストの達成条件が満たされた。
入手基礎EXP、スキル値ボーナス、解禁情報一覧が高速で移り変わる。
お、睨んだ通り、この任務は経験値入手量が結構良さげだ。
通常組織任務の中ではうま味なので次回からも優先的にやるとするか。
するっと「特定情報秘匿」スキルのLvを上げつつ、ライへ書類を渡す。
今回は珍しく手動で任務をこなしたのだ。
全自動スキップ(オートモード)を使った時と違い、素の俺の報告なので若干緊張する。
ズルをしない俺個人の力なんてたかが知れてるからな。
「流石だな、バーボン。ジンの機械人形」
マジモンの超人に褒められ鼻高々。
いやまて、ここで調子に乗って何度も死んだお馬鹿な一般人が俺なので冷静になれ。
「この程度誰でもできますよ。それで、この後の動きは?」
「予定通りだ。次の段階に移る」
凍りついた時の中、ケバケバしい「クエストを受領しますか」の文字。
「作戦決行は明日の午前4時半ですか。ならターゲットの死亡を確認したのち、例の埠頭で落ち合いましょう」
「分かった。万一の場合は?」
「狙撃は今回の位置取りでは悪手でしょう。その場合貴方は撤退してデータの削除をお願いいたします」
「悪手?………まあいい。しくじるなよ、バーボン」
「無論、委細承知いたしました」
優雅に笑んでみせる。
この大言壮語にも理由がある。
というか、ここまでにこなしたループの数からすれば当然こなせて然るべき内容だったからだ。
どんな凡骨でも千回も繰り返せば多少なりともまともになるというもの。
ではでは、次はシステムの方で自動行動といきましょうか。
……Mission start.(任務開始を確認)
Auto mode on.(統合思考補助システムと連結します)
Active skills:(取得済アドオン読み込み)
……Completed.(全行程完了)
すうっと暗転する視界に、俺はN回通りに身を任せた。
「それでは明朝、落ち合いましょう」
「……ああ」
機械じみた無機質な声に、赤井秀一はするりと目を細めた。
後ろ姿を目で追えば、その歩み、息遣い、指先の動きすらも機械めいている。
彼は組織を撃ち落とす上でジンとともに最も障害となりうる男。
オートマタ、意志なき人形と揶揄される人物。
ジンの愛銃、バーボンである。
今回で任務をともにするのは三回目だ。
ジンの当てつけもあるのだろうが、おそらく奴はライを探れと命じられているはずだ。
どんな任務も完璧にこなし、最高の結果を出しつつNOCを葬る機械人形。
そうやってバーボンに処分されたNOCがいったいどれほどの数になるか。
タバコを冬空の風に燻らせていれば、背後からの冷徹な声が耳に障る。
「よお、ライ。御機嫌ナナメと言ったところか?」
「ジンか」
嘲笑を織り交ぜながらライへの不信を隠そうともしないジンは、ニヤニヤとこちらを嘲笑っている。
赤井は混ぜっ返すように問いかけた。
「アレはお前の持ち物だろう。俺なんぞにくれても良かったのか?」
「ハッ、その余裕面がいつまで持つかも見ものだな」
「俺は疑われるような事はしていないつもりなんだが?」
「テメェの体に染みつくドブネズミの臭いは隠せねぇよ」
「なるほど。それよりも、自分の愛銃を見せびらかしたくて堪らないんだと俺は思っていたがな」
赤井はタバコを海に放って吐き捨てた。
メトロノームの足並み、出来の悪いループ映像のような瞬きと表情。
今をもって、赤井はアレが本当に生きた人間であるということが信じられない。
末端の組織員たちは彼のことを「組織が開発した殺人用ロボット」などとまことしやかに噂しているらしい。
それを幹部の誰も一笑に付さないともなれば、噂が真実味をおびるのも仕方がないというもの。
「は、羨ましいか?」
「そうだな……欲しい、と言ったら?」
「テメーなんぞにアレは使いこなせねぇよ。あの凍りついた殺戮人形が犬ころに扱い切れるわけもねぇ」
「……飽き飽きするほど疑り深いな。俺が警察の犬だと? そうやっていくつ石橋を叩き割ったか聞いてもいいか?」
「オンボロな石橋が叩き割られるなら、そりゃ仕方ないってもんだ。だろう?」
「これはこれはご高説どうも」
クツクツと嗤うジンはたいそう上機嫌だ。
こうやって戯れに他の幹部へとバーボンを付けては、難癖をつけて回るのが奴の最近のルーティンワークとなっているのだ。
それによってNOCが暴かれたのも一度や二度ではない。
まさにこの男にとって趣味と実益を兼ねる行いなのだろう。
ジンは赤井の顳顬に銃を突きつけ、凶悪に笑った。
「せいぜい疑われないよう注意して息をしておけ。テメーが一つでも疑わしいと思えばすぐにでもこめかみをぶち抜いてやるよ」
「ご忠告感謝する。暇を持て余しているお前と違い、これから俺は任務があるんだ。さっさと帰ってくれないか?」
「ハッ、口だけは達者な野郎だ」
先日のNOC騒ぎで、無感動にネズミを始末するバーボンの冷徹な青い瞳を思い返す。
冷徹だ。人非人だ。だというのに目が離せない。
信頼すべき点など何一つ無いというのに、気を許すに足る証拠など欠片もありはしないというのに。
………あのバーボンと言う男の憐れなまでの献身が、心の奥をざわめかせてならないのだ。
翌日。
任務はターゲットの死亡を以てつつがなく終了した。
返り血ひとつ浴びることなく難題を成し遂げた機械人形は、凍れる顔を赤井へと向けて機械的に瞬いた。
「それではライ、報告に戻りましょう。此度の任務もまた、取るに足らないものでしたと」
「……そうだな」
Mission clear!
……
……
……
Result: SS
よしっ、連続爆破事件の解決フラグ一個目は無事達成!
待ってろ原作!
俺は今度こそ原作をクリアしてみせる!