今日も今日とて組織の任務だ。
俺が死んだ連続爆破事件のクエストよりは随分難易度は低い。
が、それでも一般人なら十回はYOU DIED…となる程度には難しい任務だ。
それでも、俺に課せられる任務としては下の上程度の難易度だと思うと目眩がする。
俺がコナン世界を低予算のクソゲーと揶揄しているのはまさにこれが理由だ。
禿げ上がるほどの高難易度に、クソみたいにわかりづらい伏線の張り方。
死んでも死んでも新たな死が背後から奇襲してくるソウルライクゲームに、思わずお嬢様言葉で罵声を飛ばしてしまう。
あーもー、クソですわよ!せめてUI周りをもっとわかりやすくしろやボケカス!
やりなおし、リセット、よくある無限死に戻りループ。
万華鏡の如く巻き戻る世界のなんと美しいことか。
死に戻りの感覚ももはや慣れたもので、息をするように死ねるのが悲しいところ。
セーブとロードをどこにするかを決められるあたり、一応情けの部類に入るだろう。
痛覚未実装なのは不幸中の幸いだが、コレのせいで負傷部位がわからなくて無駄に死を重ねる原因にもなったからな。
少し評価に困るところだ。
別組織の鉄砲玉に強襲をかけられて死亡。
任務中にミスって事故死して死亡。
怪我の予後が悪くて死亡。
任務失敗で逃げ帰ったらジンに殺されて死亡。
これら幾多もの死亡の末、俺が獲得した唯一の救済は「スキルによる自動モード」であった。
ループに飽き飽きした俺へ神がもたらしたたった一つの救いと言って良い。
オートモードの俺は所持しているスキルを自動実行するだけだし、入手できるスキル経験値も手動でミッションクリアした方がたくさん手に入る。
でも筋トレとかの反復作業は凄い効率いいんだよな。
画面が暗転してる間に筋トレ済んでるとか、夢の機能に違いない。
邪道とか言うなよ!
くっそ、筋トレで心が折れたことの無い者だけが石を投げろ!いいな!
ゲーマー魂でうっかりやりこんでしまったので、現在の自動モード用のスキルはかなり充実している。
とはいえ任務成功に際して付与される経験値は基本的に雀の涙。
古のMMORPG並みのマゾ苦行なので、星の数ほどもあるスキルに対してさほども獲得できていないのだがな。
さて。
そんなわけで現在は組織のアジトの一角で次の任務にあたるための準備をしているところだ。
背後からやってくるのは我らがNOC殺戮機、ジンである。
気配察知Lv15に引っかかっていたので分かっていたが、この人はこの人で結構気配察知レベルを上げなければ見つからないステルス機なんだよなぁ。
内心何を言われるか警戒しつつ、体を操作して向き直る。
どうも挙動一つ一つがRPGのコマンド入力性みたいな方式なのが面倒だ。
直感的に体を動かせれば良いのだが、それができれば苦労はしないということか。
ジンの立ち絵は凶悪に双眸を見開き、こちらを睥睨している。
「よお、機械人形。明日の任務の準備とは精が出るじゃねぇか」
「組織からの任務なら万全十全の準備を怠らないようにしなければなりませんので」
「良い心がけだ。皆が皆テメェのように利口な武器であれば俺の手間も省けるんだがな」
ジンとの会話はほぼフィーリングだ。
何を言ったとしても、その時の好感度によっては突如銃で撃たれて昇天するのだから、真面目に付き合っていられない。
ロシアンルーレットみたいな超地雷だ。運任せの事柄に拘っていてもしかたないというやつだ。
とはいえ、時々彼がくれる任務は難しい代わりにかなりの経験値効率を誇る優良クエストだ。
積極的に受けることには変わりない。
と、そこで突如、顔から顎にかけてをジンに掴まれた。
ドスの利いた声で「なぁ」と話しかけられ、ニヤリと微笑まれる。
これはびっくりするものの時々あるランダムイベだ。
一定の好感度以上あれば完全な運で発生するので、特に驚く必要はない。
「テメェは俺の銃だ。物言わぬ、敵を貫くだけの殺人機構」
「はい。その通りです、ジン」
感情のこもらない声で適当に返事をする。
というか、自動読み上げみたいなもので俺の意思とは無関係に感情なんて一欠片も篭らないものになってしまうんだがな。
この辺は慣れたものだ。
適当に何言われてもはいはい言っておけばとりあえず安牌というね。死ぬ時は死ぬからもう何でも良いというやつだ。
ジンが満足げに嗤っている。
まぁ、それはともかく明日の任務。
下手を打てばそのまま死亡、またN万回目のループに突入だから、気合を入れねばなるまいよ。
ああ、疲れた疲れた。
早く原作をクリアしてゆっくり死にゲー漬け生活から逃れて羽を伸ばしたいものだ。
ソイツは、まるで機械仕掛けのような男だった。
抵抗もせずに顎を掴まれたまま、バーボンは何の景色も映さないガラス玉のような瞳でジンを見つめている。
凍りついたように抑揚のない声色で「貴方のご意志のままに」と返事する男のなんと無感動なことか。
ジンはそれに歪な愉悦と奇妙な満足感を覚え、凶悪に笑った。
ジンにとって、この男は人ではなく銃であった。
逆らわず躊躇わず、ジンが銃口を向けるように命令を下せば、男はその通りに忠実に行動した。
どんな死地にも目の色ひとつ変えず突貫し、命を投げ出すように任務を完了する。
まさに人の意思に忠実な銃であり、冷徹に任務をこなす温度のない鉄の銃弾であった。
「テメェはいつだって一人だ、バーボン。色の無い世界に機械仕掛けで動く殺戮人形」
「はい」
「だからこそ俺がテメェを一番上手く使ってやれる。わかったな」
「その通りです、ジン。どのような命令でも遂行しましょう」
台本でも読み上げるが如く、能面のような空っぽの表情でこちらを見上げる男には感情というものがない。
それでもよかった。それこそが良いのだと言っても良い。
ジンにとって、この男はただの銃器で、美しき殺戮人形であったのだから。
・気配察知
画面下にレーダーのように探索画面が表示される。
レベルが低いと表示されない人物も出てくる。