今回も規定通りに発生したウェディングイブ殺人事件。
いや、コレに関しては殺人では無く自殺なのだが。
俺は今回探偵としてここに参加していた。
探偵業は探り屋というか、オールラウンダーを目指す俺がスキルアップのためにずっと続けている仕事だ。
諜報、各種コミュニケーション系スキル、低位変装に追跡と一通りのスキルが鍛えられるからな。
とは言っても、探偵と言っても、私立探偵なんて地道な営業がものをいう商売。
俺の音声読み上げソフトみたいな声に能面みたいな表情では客が取れるはずもなく。
客足は閑古鳥が鳴くほどではあったが。
一応ウォッカなどを通して時々紹介された客が来たので、そこは感謝している。
さて。
原作では安室はわざとドジっ子ウェイターを演じていたけど、俺にそんな器用な真似はできるはずもなく。
ただ完璧に機械的に皿を運ぶ給仕系ロボットと化すのみ。
今回の依頼人である加門初音さんからの依頼は、夫になる予定の伴場さんが他の女を作らないか見張ることだ。
俺が実に事務的な顔で仕事を引き受けたのも気に入った要因らしい。
仕事にかこつけてコナをかけてくるような男は嫌だと。
まったく、一途な人である。
しかしだからこそ哀れだ。
彼女はこの後、彼氏である伴場さんと一卵性双生児……双子であることを知ってしまう。
そしてその絶望のままに焼身自殺を図るのだ。
「ご注文になった品は以上でよろしいでしょうか」
「あ、はい。ありがとうございます」
ケーキの皿を運んでいけば、一緒の机にいた蘭ちゃんが丁寧にぺこりと頭を下げた。
良い子だ。名もなきウェイターにもお礼を言えるなんて。
一礼して去れば、後ろからなにやらコソコソと声がする。
依頼人とその夫の声だ。
「あのウェイターがイケメンだからってちょっかいかけようなんて気はないよな?」
「それは私のセリフ。気の多さではとても私じゃ敵わないわよ」
「うっ」
などと会話しているようだ。幸せカップルで何よりである。
と、そこでトイレにたった客が1人いたので、慌ててその後を追う。
客は依頼人の夫が雇った探偵で、俺と依頼人があっていることを浮気だと勘違いしているからだ。
トイレに入るなり電話をしようとスマホを出したので、後ろから声をかける。
「伴場さんに雇われた探偵の方ですよね」
「!?!?………なんのことだよ、ウェイターのニイチャン」
「都内のxx区で私立探偵を営む春岡参治さんですよね。僕もプライベートアイ、私立探偵をしている安室透といいます」
「………、おいおい、そこまで調べてたのかよ」
私立探偵の春岡さんは冷や汗を流して視線をずらした。
俺が探偵であるということは納得してもらえたらしい。
「何やら誤解があるようですので、話しかけさせていただきました。妻の加門さんとはクライアントとしての関係しかありません」
「依頼内容は?」
「守秘義務があるのでなんとも。それは夫の伴場さんから直接聞いていただいた方が早いでしょう」
「ま、だろうな」
相手も同じ探偵だ。話はするりと通り、ことはそれで終了となった。
「ちょっと待ってくれ、依頼人に連絡する」と言って携帯を取り出すのを見ながら、俺は今後について思いを馳せた。
前に百回ほど繰り返してわかっているのだが、このウェディングイブ殺人事件は防ぐことが可能だ。
防げば探偵としての実績が積み上がるが、代わりにコナン君との接点が弱まる。
このコナン君との接点が弱まることが難点で、非常に難しい舵取りを迫られるルートになるのが困りものの選択なのだ。
例えば無理やりに弟子入りをすることで挽回できなくもないが、妙な疑心をコナン君から買って動きづらくなるし。
デメリットがデカすぎると言って良いだろう。
俺は無感動な表情の裏側でひとつ、冷徹な決断を下した。
どうせ何回もやり直すんだから、今回のルートの繰り返しに飽きたら救助ルートを開拓しよう。
死も生も繰り返すものなのだから、多少後回しでも構うまい。
俺はネイルサロンに行くと言って席を立つ加門さんをただ無言で見送った。
なんとなく気まずい顔でこちらを見る夫の伴場さんの視線を無視しながら、ただただ給仕としての仕事に徹する。
あとは貝のように口を閉じ、事件が終わるのを待つのみだ。
どうにも時折向けられるコナン君の怜悧な表情が胸にざわついて、俺は視線を迷わせざるを得なかった。
江戸川コナンはなんだか腑に落ちない、胸に蟠るような思いに悩まされていた。
目の前の男は私立探偵で、名前を安室透というらしい。
伴場さんの婚約者である加門さんが自殺して、警察が到着してから彼はそう名乗った。
どうやら伴場さんの浮気調査をしていたらしい。
のっぺりと貼り付けたような無表情に、生気の感じられない瞳。
顔立ちこそ整っているが、だからこそマネキンのような機械じみた男であった。
足取りは等速、等間隔。録画したように同じ動作を繰り返し、ピクリとも動かない視線。
コナンは最初、それが良くできた最新鋭のオートマトンかと疑ったくらいであった。
無論、そんな特徴的な男と知り合いならコナンの頭脳で忘れていることなどあり得ない。
「ねぇ、お兄さん。僕とどこかで会ったことある?」
「……うぅん、心当たりは無いかな。どこかですれ違ったりしたのかな?」
彼はあらかじめ用意していたかのように心のこもらない声で言った。
未だ焦燥感は胸を焦がし、叫び出したくなるような心地が全身を苛む。
探偵としては疑うべきだ。この理由のわからない違和感を見逃す手は無いはずだ。
でも。
彼が、本当はいい人なのだということを江戸川コナンは身をもって知っていた。
「………?」
「どうかしたのかい、コナン君。体調が悪いようならスタッフルームに横になれるところがあるよ」
「あ、いや、大丈夫」
胸に去来する泣きたくなるような後悔に、どうにも疑問が先行する。
この男について、自分は何か忘れていることがあるのだろうか。
結局、加門さんの死亡はコナンの推理により自殺と断定され、事件は幕を閉じた。
また、この不審な男は「同じプライベートアイとして参考にさせてください」とかなんとか白々しいことを言って、毛利のおっちゃんの弟子になることが決まった。
気持ちのこもらない機械じみた様子は胡散臭いし、どう見ても毛利探偵などよりこの男の方が頭脳面では優秀そうだ。
弟子の件については、なんとなく気圧されながらも「授業料は事件一つにつきxxxほどのお支払いを約束します」と囁かれた毛利のおっちゃんが快諾している。
今後彼と接触する機会は多いはずだ。
相変わらずの等速の歩みに機械じみた所作を、コナンは自然と目で追っていた。
果たして、この男は何者なのだろうか。
ただその疑問だけが、コナンにとって言葉にし難い焦燥となって焼き付いていた。