亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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これが百話目だと思って予約をしていたら〜
FILE数が一個ずれてることを忘れてました〜

チクショー!!


【FILE:100】百年目物語

 

青蓮獅子団は精強である。

 

平和なルグニカ王国において白鯨討伐の偉業を成したものたちを中心に組まれたこの戦闘集団は近衛騎士団に匹敵するほどの戦力をすでに備えている。

 

純粋な武力では近衛騎士団に劣るだろうが、彼らの多くが血生臭い実戦を経験していない。さらに負け戦に近い絶望的な戦況に抗う経験をしたものはそれこそ白鯨討伐に志願したごく一部の近衛騎士に限られる。

 

個人を抜いた集団。実戦経験という意味では青蓮獅子団は王国最強と言って良い。

 

そんな王国最精鋭と言える青蓮獅子団においてすら、失敗は起こる。

この世界においては度々イレギュラーな『個』による蹂躙が起こるのだ。

 

集団としての練度をどれだけ上げたとしてもだ。未知の加護に。謎の呪いに。まだ見ぬ権能によって赤子のように捻り潰される。歴史を見ればそんな事件だらけなのだ。

 

だから、この世界で最上位の強さを持っていても油断はしてはいけない。

 

凡人たちは慢心をしてはいけないのだ。最悪を想定しいつでも逃げ出す用意をしておかなければいけなかった。

 

 

彼らはその絶対の掟を怠ってしまった。いや、怠けたわけではない。思考をどこかで止めてしまっただけだ。

 

その代償は重い。

 

 

「10名のうち2名が死亡。4名が重傷でおそらく殺されたものと。残る4名は負傷しつつも撤退できましたが竜車を一台放棄しました」

 

そう言って頭を下げるのは副長の老兵だった。

 

悔恨が震える全身から伝わってくるようだがその言葉には無駄はない。時間をとる謝罪すら彼らには許されていない。

いち早く情報を共有し、味方を救い敵を打ち倒さなければいけないのだ。

 

「敵の能力の観察結果と推測を話してください」

 

「敵は、敵は一人の旅人です。この辺りはこのところ妙な野盗や謎の魔獣による被害が出ておりその時点でおかしいと警戒はしましたが、外套を取った時にその頭部を見てしまい部隊の多くが動きと警戒を止めてそちらに注視してしまいました。銀髪に長い耳。それは『嫉妬の魔女』と同じもの…」

 

はっと皆が息を呑む。それほどの災厄だ。ケイはいまいちその脅威に共感はできない。

その光景を思い出しているのだろう。後悔に苛まれながらも報告を進める。

 

しかし耳を傾ける一同の想像した特徴。紫紺の瞳という最後の要素は語られなかった。

 

「しかしその旅人には、『目』がありませんでした。それに意識を奪われその隙に怪物の接近を許し、先頭の竜車にそれが降り立ちました。それは人間の体をバラバラにして繋ぎ止めたような、人体の部位で作った四足獣のような怪物です。そして何よりその体には…人の目が、目が無数に埋め込まれておりその目を見た隊員たちは皆が動けなくなったのです」

 

そこからはその怪物が暴れ、旅人のエルフが隊員を殺し始めたとのこと。

二人が殺された時に、ようやく魔法使いの一人がどうにか詠唱をすることに成功し、一帯を爆破。

 

その爆発に乗じて撤退を試みるも、何度も体の自由を奪われて一人、また一人と捉えられていく。

 

部隊長が死を覚悟して切り掛かり、怪物に一太刀を浴びせてようやく敵も一度退いたようだった。

 

 

そして撤退し、今に至るとのことだ。

 

「ただ、これは私の推測になりますが、あの髪はどうにも違和感がありました。何度か戦闘中に抑える素振りも見せていたためおそらく銀髪は偽装かと思われます。『嫉妬の魔女』を模すことで不意打ちに使ったのでしょう」

 

獅子団のものたちはある種の油断をしてしまっていた。

これまで魔女教を除いてどんな盗賊団もならず者たちも、彼らに挑んでくることはなかったのだ。相手は一人。そもそも戦いを想定していた部隊員の方が少なかった。

 

人は誰でも油断をする。賢者は歴史に学ぶというが実際に対策までできている人は少数だ。

 

痛みを自身で味わってからでなければ、真に気を配ることはできない。

 

 

「撤退は見事でした。情報共有助かります。相手の拘束方法は不明でも、実際の武器と凶器は旅人の剣と怪物の手足ということですね。であれば僕が出ます。5分後に出発です。増援が来るまでに相手の傷を癒す間を与えずに追撃。僕が負傷者の確認と敵の調査。できれば削っておきましょう」

 

適切に戦力を分配し、自身が最前線で文字どおり身を削る事も厭わない。この総指揮官が戦士たちから絶大な信頼を預けるのはこのような姿勢からだろう。

 

失敗した部隊員たちは歯噛みする。しかし誰一人として異を唱えることはしない。そんなことは恥の上塗りである。

 

「まだ動ける隊員は後方支援として随伴を。狙われない範囲で周囲を固めてもらいます。その指揮をお願いできますか?」

 

 

副長は自身の耳を疑った。あまりにも想定外の指示に聞き返してしまうほどだ。

 

「我々が、まだ…戦っても良いのですか?」

 

ここで初めて指揮官が責めるような目つきに変わる。

 

「指示は聞こえていますね。僕はあなたに任せると言いましたよ。いつも通りに仕事をしてくれるなら信頼できます。さぁ、早く返事をしてください」

 

 

「…っ!承知いたしました!」

 

部隊員たちも即座に礼を行いそれに続く。あれだけの失態を重ねたのだ。除隊すら当然ありうると思っていた。

それに、あの鉄よりも冷たい鋭利な思考の指揮官は、失敗すれば切り捨てるのだとどこかで想像していたのかもしれない。

 

副長は溢れる感情を抑えきれず、手と足を動かしながら涙を流して準備を進めた。

 

 

これだけの無様を晒して、おめおめと生き残ってなおここまでの信任をいただけるとは。

 

彼らは感動に打ち震えて準備を整え、つい先ほど逃げ帰った戦場へと再び向かう。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

彼は幼いエルフだった。

 

まだたったの100年しか生きていない。

 

90年前、魔女教に隠れ住んでいた村を焼かれてからそれだけしか経っていない。ヴォラキアまで逃れ、未開の森を彷徨いどうにか生きていたがある時、自身の未熟な加護の扱い方を知ったことでようやく転機が訪れた。

 

『邪誘精の加護』それが自身に宿っていることは知っていたが、一度も上手く使えた試しがなかったのだ。

 

これのせいで精霊に嫌われ、精霊術も学ぶことができなかったおちこぼれ。何度恨んだことか。

 

しかしそれも、水の邪精霊に出会うまでのことだった。

 

瘴気の取り込みすぎやよくない思い込みが暴走することで生まれる邪精霊という存在は非常に珍しい。

 

そこからだ。彼の復讐が始まったのは。

 

魔眼族と呼ばれる少数民族。その戦士たちは密林に隠れた家族を次から次へと殺していった。

まずはあいつらを殺す。そう思ったときには実行していた。

 

水の邪精霊は、一人の戦士に取り憑くとその自由を奪い、魔眼を使って相手を殺し始めた。

 

そして二人目を瀕死にして、今度は食った。

 

敵といえどもあまりに凄惨な光景で、彼は吐いた。

 

そうしてどんどん肥大化し、大きくなり過ぎたところでいらない部分を捨てるように指示すると歪な獣のような姿に落ち着いた。

 

その全身に魔眼族の目を生やした状態で。

 

 

しかしどうにも、魔眼の調子が悪いようだった。

解決策はどうやら別の目を植えること。あまりに血が濃くなりすぎると弊害が生まれるらしい。

 

だから関係のないものたちの目を盗み殺した。魔女教を殺して打ち捨てた。

 

いつの間にか、僕の目も彼に渡していた。

 

一体僕はなんのためにこんなことをしていたのだっけ?

 

もう、どうでもいい。もっと目が欲しい。瞳をおくれよ。瞳があればみえるんだ。

 

全部、ぜんぶを、みたいんだ

 

 

朦朧とした意識の中でも、頭の一部はどこか非常に冷静で人を騙すことすらできた。

剣も扱える。周囲のマナを感じ取って、景色を見なくても自由に動けた。

 

森を出てから色んなところを殺して回った。瘴気を漂わせている邪精霊以外の存在がいれば全部殺した。

 

 

今日はやけに手強い奴らがいた。彼が珍しく傷ついてしまったから、手当をしないと。

彼は水の精霊なのに、自分を癒せない。別の体を取り込んで傷を薄めるしかない。

 

一度は逃げたが、先ほど戦ったところに戻る。

 

そこには先ほど逃げたやつの仲間であろう奴らが来ていた。

 

 

ああ、ダメだ。持っていくな。それは彼の体だぞ。僕の目玉だぞ。おいていけ!!

 

 

次の瞬間、感覚を焼き尽くす熱線が僕を襲った。

 

土の邪精霊が地面を隆起させていなければ、きっと頭が消えていた。

 

奴らが離れてく。でも、目の前のこいつは逃げないらしい。よかった。僕にくれるんだね。

 

 

こいつは、変だった。

 

さっきの熱線も、指が焦げている臭いがする。

 

馬鹿げた威力の風魔法は血が混ざった血風の刃として襲ってくる。

 

自分を削りながら魔法を使うのは、僕から見てもおかしかった。

 

きみは何?どうして彼を傷つけるの?

 

 

それでも冷静な頭は相手をつぶさに観察していた。

何度か殺したと思っても、蘇る。彼が取り憑こうとしても自殺して中断される。

 

けれどよくよく見れば、胸にはやけにマナを放つ魔石がある。

そして、それを庇うように戦う姿にようやく気づいた。あれを壊せば僕に両目をくれるだろう。

 

 

幾度かの攻防。ああ、可哀想に。土の邪精霊血風に刻まれて。それだけやってようやくその魔石を壊せた。

 

ありがとう。決して君は忘れないよ。

 

飛びかかる彼と僕。さぁ一緒になろう。

 

『戦慄の魔眼』『恐怖の魔眼』『金縛りの魔眼』『予兆の魔眼』が敵を捉えて襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

「これって、『魔眼族』の眼球ですか?」

 

 

幾度も死んだはずの男が、なんともない風に問いかける。

 

彼が死んだ。いや、水の邪精霊が死んだ。何年振りかわからない透明な思考が戻ってきた。

 

それと同時に、家族のような存在がすでに刻まれていることを自覚した。

ああ、彼はもう帰ってこない。彼女は土に戻ってしまった。

 

僕も刻まれ、すでに満身創痍だと言うのに、相手はなんともない。一切消耗をしていないように見える。

 

「さっきのは精霊っぽい混ざり方。最近そんな研究資料を見てましてね。共通点もある。邪精霊ってそんなにいるものなんですか?」

 

 

「お、おま…お前、お前なんで。なんで、死なない!?」

 

 

「喋れるんですね。いや、邪精霊に操られていた?一応聞きますが、あなたは降伏する気はありますか?」

 

 

剣を構えて、返答する。

 

 

「そうですか。じゃあ、すみません」

 

若きエルフは、背後から何かに貫かれて死んだ。

 

 

 

 

 

 

一連の事後処理を行うケイを見て、エリノアは言葉を放つ。

 

「意外ですね。彼らを再度使うなんて。てっきり役立たずは帰れとでも言うのかと思っていましたが…」

 

ケイは冷たい目線で相手を軽んじるように一睨みして作業に戻る。

 

「そちらこそ意外ですね。あなたは人の観察が得意かと思っていましたよ。使い捨てなんてするわけないでしょう。どれだけの手間をかけて育てていると思ってるんです?」

 

エリノアはケイにだけ見せる不機嫌顔でその反論を思いっきり喰らう。ダメージを自覚しつつ反論は怠らない。

 

「それなら一喝でもすべきでは?責任を果たすなら集団の長には罰が与えられるべきでしょう」

 

「そういえば、目立った失敗に触れる機会もなかったのか。青蓮獅子団は上手くいきすぎてましたからね。失敗を叱るというのは無駄です。やる意味がないというよりやるとマイナスしかない。つまり損しかしないってことですよ」

 

理解ができていない様子のエリノアにケイは手を止めずに語っていく。

 

「人は何かを学ぶときに叱られると学習効率が落ちる。人は叱責によって上達しないんです。何かを学んで嫌なことが起きると脳はやる気を失っていく。『学習性無気力』なんて言葉もあるんですが、まぁそれは落ち着いたら話します。あなたも仕事をするときに覚えの悪い新人を叱っていませんか?それはやめてくださいね。無駄なんで」

 

図星を突かれて顔が赤くなるエリノア。反射的に思ってもいない反論が口をつく。

 

「そ、それならこうやって指摘するのも効率が悪いのではないですか?自分だって…!」

 

「へえ。僕から学びたいんですか。なら今度からは優しくしますよ。教わる側の態度をしっかり示してくれればですが」

 

そう言い捨てて、ケイは騎竜に跨って戦場へと戻っていった。

 

エリノアはどうしてもケイを前にすると冷静さを失うことが多い。自身の暗い思考の理解者であり、そしてその分野における練達者。師にあたると心外ながら認識しているのが裏目に出てしまう。

 

きっとあの男なら容易く解決して戻ってくるのだろうと思っていた。その通りであった現実に腹がたつ。

エリノアからケイへ向けられるそれは油断でも慢心でもなく、憎たらしいほどの信頼。

 

 

ケイから他の団員へ向けられるそれは、親愛でも信頼でもなく、どこまでも真っ直ぐな論理だった。

有用に使うために丁寧に向き合うだけ。

 

しかしそれでも、彼らの無事を祈る気持ちに嘘はない。

 

 

死ほど恐ろしい損失はないのだから。

 

カルステン家における参謀の部屋。作戦会議が行われることの多い円卓の部屋には大きな窓が一つある。

ケイの部屋の窓から見えるのは、裏庭に無理を言って建てさせた墓群である。

 

 

『損失』を決して忘れぬよう掲げる、標語のようなものだ。

 

 

死を忘れるな。

 

 

自らへのリマインドとして並べられる墓石は普通の人間にとっては強すぎる圧となっている。

 

 

魔獣と騎竜の墓には墓石だけ。ケイの視界の隅にはいつも彼らが入るのだった。

 

 




次回は月曜!
第四の権力編ラストです。

皆さん100話までお付き合いいただきありがとうございます。
めっちゃ楽しいです。緩和が終われば怒涛の更新と展開が待っておりますので、今のうちに平穏要素を摂取しておいてください。

いや、日常編なのに流血と人死にが多すぎるか…
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