亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【stoneについて】
米俗語では「マリフアナでハイになった」「もうろうとした」という意味のスラングとして使われる。語源としては、「容赦なく石を投げ付けられて ⇒ フラフラになる・倒れる(ほど酔う)」と解する説や、stone-drunk「完全に酔って」の略とする説などがある。


【FILE:105】Mr.stone

カララギへ向かう少し前。これは永井圭が休暇を取ることを決めるだけの平和な物語。

 

 

かつて白鯨討伐の際に、カルステン家は王都中の毒物を買い占めた事がある。

 

あまりにも根こそぎ持っていかれたため、一時的に毒物の高騰すら起きたのは業界の者たちにとってもまだ新鮮味の残る思い出だ。

 

その時に張り切って増産し販路を広げ、調子に乗って捕まった者もいた。高い金額でふっかけすぎて殺されたものもいたようだった。

こういった闇の商売であればこそ、身の程を弁え横暴を働かないのが重要なのだ。

 

その応報は帳簿に赤字が載る程度では済まない。捕まるならまだいい。

帳簿がどれだけ黒字でも、自らの血で染めてしまうようなら全てがおしまいだ。

 

 

闇市場の住人から『ミスターストーン』と呼ばれる人物は、いつも一定の量を作って捌き、手堅く違法毒物や薬物を調合し売り捌き続けていた。

ラッセルと懇意であり、ロズワールとも親交あり。

 

それだけでロクでもない人物だとわかるというものだ。

 

手堅い犯罪者という矛盾を抱える彼には譲れぬ矜持というより、趣味があった。

 

それは未知の薬物を味わう事だ。

 

マナを含む多様な鉱石からの精製物は、調合によって様々な効能を発揮する毒薬にも薬にもなる。

彼はその未知を味わうのが好きだった。

 

彼が商売を止めるのは決まって体調不良である。悪いものに当たるとしばらく姿を現さないのだ。

 

フラッと現れて新たな毒と薬を齎す彼は、業界において決して害していけない存在になっている。彼のような発明家は貴重なのだ。

公には表明できないが、貴族たちもその薬に世話になった者が少なからずいる。その薬物に依存しているものもいる。

 

 

表と裏の有力者たちに守られながら、彼は今日も毒か薬かわからぬものを作り続けている。

儲けも気にしない。しがらみも人情もない。そこにあるのは探究心だけ。

 

人じゃないかのように話が通じないのだ。

 

まるで毒と薬を司る精霊じゃないかと誰かが言った。

 

『毒薬精霊』ミスターストーン。

 

人でありながら精霊と評されるそんな彼は現在、比較的綺麗な服を着させられている。

 

女房がうるさかったから着たが、いつものボロ切れの方が良い。とは本人の談だ。

 

まだ40歳にも届かない彼は、無精髭と伸び放題の髪を好きに放置していると浮浪者の老人と見紛うほどの風貌になる。

それを防いでいるのが妻である。

 

ちなみに女房は、薬物を扱う闇の組織から派遣された者だった。飯も食わずに毒を喰らう生活を見かねて、このままでは早死にすると付けられたのは世話係兼、護衛兼、見張りの女。

 

なし崩し的に生まれた関係だが、お互いに結構気に入ってもいる。

 

女房にこのところの上客様と会えるぞと言われても興味はなかったが、あの白鯨を毒殺した張本人ともあれば重い腰も飛び上がったものだ。

まだ覚えている。あいつの注文は面白かったなぁ。

 

自分であっても毒とは知らぬ物を毒の一覧に入れて要望し、自分でも知らぬ未知の物質を持っていないかと聞いてきた。

 

後で調べて毒性を発見したものは一つや二つだけではない。

 

俺にはわかる。あれはとびっきりの毒好きだ。

それも未知の知識をたっぷり持ってる。

 

国王だろうが公爵だろうが会う気はなかったが、あいつならば話は別だ。

 

 

「この度はわざわざ、このような場所までお越しいただきまして恐悦至極に存じます」

 

女房は大袈裟に畏まる。

 

「いえ、こちらの要望ですから。受けていただき感謝します。早速ですがお話をしても?」

 

ほう。やはりこいつはお貴族様じゃないな。せっかちな毒愛好家とは好感が持てる。

つらつらと説明をするがほとんど耳には入らない。女房の顔色が赤くなったり青くなったりしているのを見れば大事であることはわかるが、興味はない。

 

「つまり、端的に言えば毒物および薬物の研究施設と資金を提供するので我々の傘下に入ってくださいという提案です」

 

最初からそう言えばいいのに。ほとんど聞き逃した。

 

「興味ない。どこだろうと俺は新しいものを作って味わうだけだ…」

 

環境を変えるのは面倒だ。それをすげなく断ろうとすると、女房が急ぎ前に出て話を繋げる。

 

「重々ご承知だとは思うのですが、業界の関係性を崩すとなるといくつか問題が起こります。その辺りはどうお考えでしょうか?」

 

「ええ、その調整もこちらで請け負います。ラッセルさんが担当いただけるようです。ご安心ください。政治的、武力的にも今より安全性は増すと僕は思いますよ」

 

あのラッセル・フェローを調整役に?

 

ただの書記ではないと思っていたが、そこまで影響力を拡大しているのかと妻は驚愕する。

 

ミスターストーンは一つ良いことを思いついた。

 

「そこら辺はどうでもいい。ただ、一つ条件をつけさせてもらう。これができるなら、入ってやってもいい」

 

ニヤリと笑って思いつきを話す。女房は冷や汗をかいてるが知ったことじゃない。

 

「このところ、『赤蛇』の奴らが新しい麻薬を作ったらしい。作り方がバレないよう俺に一切触らせないんだ。その薬をくれ。そしたらそっちの傘下に入ろう」

 

「ええ、構いません。ではまたそれが用意できれば伺いますよ」

 

「あいつらはちょうど運び屋を新しく選ぶらしいぞ。それに手先を忍び込ませて盗めばいい。じゃあ、俺は調合に戻るが構わんな?」

 

そこまで言い切って、男は奥に入っていった。

必死な形相の妻がその後のフォローに入ったが、当人たちの間には一切の禍根もない。

 

ケイ的には時間の無駄がなくご機嫌であった。

 

 

 

 

 

ケイはカルステン家の王都別邸へと戻りフェリスを呼び出す。

 

「にゃあによ。珍しく呼んでくれちゃってサ。クルシュ様とこっそりお出かけなんてした後に良い度胸じゃにゃい?」

 

先日の加護持ち保護に二人で動いたことを突きつつもフェリスは口ほどに機嫌は悪くないようだった。もはや憎まれ口や文句が日常となっているだけだ。

 

「ケイきゅんとサシで話すのってあんまり良い印象ないんだよネ。警戒しちゃーう」

 

「薬物についての専門家を抱えることになった。毒物や薬物、麻薬の類も試すから協力しろ」

 

拒絶を含んだ重たい沈黙が降りるが、それを気にしないのも知っている。フェリスが諦めて口をひらく。

 

「それ、本気で言ってる?毒物はもちろん、認可のない薬は違法。当然、麻薬は一発で牢屋行き。法律暗記してるんだから当然知ってるよね」

 

「ああ、その上でそれを無視するくらい当たり前ってのもわかってるだろ。有効性は認めろよ」

 

「具体的に、何するの」

 

「人体実験。ついこの前、暗殺者が寝室まで入り込んできてそれを確保している。毒には耐性があるような様子だったから、主に試すのは麻薬になるかもしれない。毒耐性を持つものにも有効な毒の開発も必要だ」

 

息を呑む。そして言葉の意味を理解して。キッと目線を強めケイを睨みつける。

 

「王を目指してるんだ暗殺者くらい当たり前に来るだろう。幸い僕に向かってきた奴もクルシュさんに向かおうとした方もこちらが意図的に開けた警戒網の穴、罠にかけられたから捕縛は容易だった。わざわざこちらの警戒度を上げて相手に対策させる意味もない。余計なストレスにもなる。警護は僕とヴィルヘルムさんに任せるという話だっただろ」

 

暗殺者の処遇や報告についても文句はあるが、一番はそこじゃない。

 

「それは、もういい。でもそんな拷問じみたこと絶対に協力なんてしない。そこまで人の道を外れて無事で済むと思ってるわけ?人に苦しみだけ押し付けてるとその反動はどこに来るのか考えたことある?」

 

クルシュを巻き込めば容赦はしないと敵意すら滲ませて強く言い切った。

 

これは…無理そうだな。

説得に手を尽くすのも無駄だろう。無理強いはするものでもない。

 

「もちろん僕も実験には参加する。誰よりも試すが、一々元通りになるのでは継続した影響を測れない。お前が麻薬や毒物の治療方法を習得することがクルシュさんのためになると思ったが、まぁ無理は言わないし、しない。協力したくなったら教えてくれ」

 

フェリスは頑なだった。いくつかの提案は飲むこともするが、彼は変わろうとしない。

 

それまでは、自分の体だけで試すことになりそうだ。

捕虜とはいえ、治療の目処もなく使い潰すほど効率の悪いことはしたくない。

 

 

計画を少し変更して、いくつかのアイデアを保留にする。

 

目の前のタスクに集中しよう。

まずは、協力してもらえるように新作の麻薬を手に入れなければ。

 

ちょうど風魔は別件にかかりきりになっており、このような優先度の低い案件には回したくない。

青蓮獅子団も魔獣討伐行脚の訓練で遠出している。

 

となれば、そうだな。僕がやるか。

 

そういえばこの世界に来てからというもの、単独行動というのはとったことがなかった。

最初は未知が多すぎたし、後になれば味方を使わぬ理由がなかった。

 

 

あの令嬢事件が起きた後からずっと、クルシュが休暇を取れとうるさかったのでちょうどいい。

5日もあれば済むらしく、期間としても良いだろう。

 

 

そう考えてケイは初めての休暇を申請した。

 

 

クルシュは花の咲くような笑顔で喜んだが、休暇終わりの報告を聞いた時には顔が引き攣っていたのは言うまでも無い。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

そこからしばらく時が経ち、水門都市を終えたあと。

ケイとフェリスは再び向き合っていた。

 

「色欲には既存の毒は効かない。やはり新しいものが必要だった。それに麻薬は麻酔薬にもなる。その研究はすべきだった。何か反論はあるか?」

 

水門都市での出来事を振り返り、準備不足を整然と指摘する。

倫理によって守れるものなどたかがしれている。それを痛感したはずだ。

 

「別に…そんなのない。でも、これからは協力する。私も最善を尽くさなきゃいけない。そうじゃないと次はないかもしれない…私の体も、使っていい」

 

ようやく合意できたと喜んでもいいが、それよりも重要なことがある。

 

「『不死王の秘蹟』も当然試すぞ。こっちの方が人道に反するが、これもやらないなんて言わないな?」

 

深く息を吸って、吐く。

 

「うん。もう、迷わない。敵が使ってくるのが確実なら『青』として絶対に許せない」

 

フェリスはこれから、人道や道徳といったこれまである程頼ってきた価値観と決別をせねばならない。

これは本当に悔しいが、ケイが一緒にその道を歩いてくれると思えば少し気が楽になる。

 

 

光の中を歩くのはクルシュだけでいい。

 

支えるものたちが、闇を知り、悪を払えばそれでいい。

 

一体誰で、何を試すのか。

 

人を人とも思わぬ対話に怖気が走るが、それでも最善を求めて話し続ける。

 

 

かつてフェリスが憎んだ相手。

かつてケイを刻んだものたち。

 

彼らとの違いは一体何があるというのだろうか。本人たちは気づかない。似たものだと思いその上でやろうと決意している。

 

 

どこが差異なのか。

 

 

自ら血を流し痛みを受ける覚悟があるかどうか。

自らを正義と信じているか否か。

 

被害者にとってはあまりに些細で関係がない。当事者にとっては大きな違いがそこにある。

 




これは日常回です(断言)
次回は、ケイの休暇(休むとは言ってない)の中身をやります。

いつぞやのアンケートでほんの少しだけ票が入ったケイのソロ回ですね。

誤投稿、見ちゃった?

  • ガン見した。
  • ちょっと見たけど見るのやめた。。
  • 見てないよ
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