亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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本日連続投稿なり。
これは一話目です。


【FILE:111】盗み火を剣に

 

水門都市を離れる直前。

ケイは、慣れない依頼を果たすためにとある場所へと向かっている。

 

 

そもそも依頼主の時点で珍しいのだが、ヴィルヘルムだ。

 

彼が深刻な表情で相談を始め、結局はケイがそれを引き受けた。

ケイが得意なことでは全くないのだが。まぁ仕方ない。やるしかないだろう。

 

 

ケイですら意を決して開くその扉は、ギイと音を立てて開く。

 

 

そして騒がしい店内を見渡せば、奥の個室に目当ての人物がいるのを見つけた。

 

認識阻害のローブを羽織るものを見つけるのはケイは得意だ。なぜならその場にいる全員の特徴を覚えようとしてできないものを見つけるだけだから。

 

剣聖の仮面を作る際に幾度もその魔法を見て慣れたのもあるだろう。

 

その姿を見て、ケイですら分かった。

 

「本当に…落ち込んでるんだな」

 

「そう、見えるかい?」

 

応答するのは、燃えるような赤い髪を持つ男。

 

 

世界最強生物が、酒場の隅っこで落ち込んでいた。

 

 

 

剣鬼が完全におじいちゃんの顔と声でケイに懇願する。

 

「ラインハルトが、この度の失敗を強く悔いているようです。この私に気づかれるほど動揺している。ケイ殿はその戦場をいくつも共にしているでしょう。どうか言葉をかけてやっていただけないでしょうか?」

 

ピシッと深々とした礼のままにケイへ懇願するヴィルヘルム。

孫を思いやるほどに心に余裕ができているのは良いことだ。奥さんに関する確執はかなり解消したらしい。

 

今回の戦いにおけるラインハルトの失態とは一体どれを指すのだろうか。

 

父たるハインケルに主を人質に取られていたことか。

地下で色欲を取り逃したことか。

それとも再襲撃に来た色欲をまた取り逃したことか。

 

まぁ、多分全部だろうが最も影響が大きいのは最後の戦いだろう。

あれはケイから見ても不気味な光景だった。

 

まるで意思を無視するかのように体が最適をなぞっていく。

心を置き去りに人を救うチグハグな様は、もし自分の身に起きたらと思うとゾッとする。

 

 

「ケイ。すまない。何度も失望させてしまったと思う。自身の無力と学ばない心根に嫌気がさしてしまっていた。お祖父様にも心配をかけたようだね」

 

「まぁ、あまり僕は人に期待というものをしないんですが。正直言うとそうですね。あなたは期待に応えてはくれませんでした」

 

あっけらかんとした実直な物言いに。ラインハルトは目を見張る。

だが、少し微笑むと。飲み物に手を伸ばすのだった。

 

ケイも酒を頼む。シラフでこんなことやってられるか。

 

「今のは、僕でもわかるよ。冗談と受け取っても?」

 

「結構本音ですけど、まぁ今回の目的はラインハルトを元気付けるというものなので、付け加えるとするならそうですね」

 

「剣聖としてはしっかりしてほしいですけど、まぁ友人としてはそこまで求めませんよ。全力ではあったんでしょう?」

 

「ああ、手は抜いていない。あれが僕の全力さ。きっと僕は、幼い頃から何も変わっていない。恥じ入るばかりだよ」

 

届いた酒を流し込みつつ、少し話の流れを変える。

 

「では一点。こちらから感謝を。よくヴィルヘルムさんの言葉を聞いて屍兵の剣士を消さないでくれましたね。あれは本当に助かった。その点は変化していると僕は思いますよ」

 

「あれは、あれはお祖父様の言葉が的確だった。僕の力じゃないよ」

 

「ヴィルヘルムさんも同じこと言ってましたよ。本当に似てますね二人は」

 

「それは…そんなことを言われたのは、初めてだな…」

 

 

そこからは色々な話をした。

ケイの頬も紅潮しアルコールが程よく回っている。

 

そしてなんと、ラインハルトも少し酔っているようだった。

 

「じゃあ、恒例の反省会でもしておきましょうか」

 

「ちょっと、待ってほしい。何か、おかしい…」

 

「何がですか?酔っているのが不思議ですか?不思議でしょうね」

 

ラインハルトは、動揺している。

彼は酒で酔わないのだ。それがなぜ?人生で記憶にない体調の変化に心の底から驚愕している。

 

「これも反省会の一つ。僕が開発中の毒耐性のあるものにでも影響がある薬品を飲んでもらいました。その効果は、気分の高揚。集中力の増加。感覚の鋭敏化。感情の増幅、つまりは、人体にとってプラスの効果」

 

「『解毒の加護』が反応しないわけだ。これは陽魔法の効果に近いのか…」

 

そう言って驚く声はいつもよりも大きい。普通の酔っ払い程度ではあるが。

ケイも自然に敬語をやめていた。今更もういいやと少し乱暴な口調で話す。

 

「ラインハルト、お前は無敵でも完璧でもない。穴だらけで弱点だらけだ。それでも強いけどやりようはある」

 

ごくりと喉がなる。たった今この調子を元に戻す加護を授かることも可能だが、それはやめておこうと思う。

 

「こんな風に体調を変えることだってできる。それによって判断能力が変わったり、無茶をするようになるかもしれない。微精霊に傷を治してもらえるらしいが、微精霊を一帯から消すかそもそもいない場所なら治療もできない」

 

「いいか。ラインハルト。お前が強いのは何にでも対応できる能力なんかじゃない。それは後出しになる。強いのはいつだって先手だよ。取れるなら絶対に先手は取るべきなんだ」

 

そう語るケイは、剣聖を相手に薬を盛ったとは思えないほどの平常だ。

つまりはこの店もグルということである。彼が仕込んだ様子はない。

 

しかし、この店は僕が選んだはず。一体どうやって?

 

「そしてこんな相手の奇策であっても事前に検討したり、体験しておけば防げる。とにかくお前は経験不足だ。あらゆる手法で自身の攻略法を探してそれを先回りして潰しておくべきだろう」

 

「例えば、僕を殺すならどうする?」

 

ケイは問う。自身を殺す想定を。自身には害しかなく、得がない質問。

 

「それは、そうだな。攻撃をし続けるというのがまず思いついたけれど…」

 

「限界がない可能性だってある。けどラインハルト。これがこの反省会の一番大事なポイントだぞ」

 

そう言われて素直に頭をひねる剣聖。違う。そうじゃない。

 

 

「問題なのは、一度やられた相手の戦法に対策を立てないサボり癖だよ。怠けるなよラインハルト」

 

サボるな。そう言われたのは人生で初めてだった。

あまりに予想外な一言に思考が止まる。

 

「色欲のあの再生能力を見ただろう。あれになんで対策を立てない?不死の敵と戦うことが今後もあるかもしれない。その時にまた場当たりで戦って逃げられるのか?」

 

 

ケイは少し悩んだが、ラインハルトはきっと良くも悪くも安定している。それは確信できる。

 

というか次こそはカペラを廃人にしてほしい。頼むから。

 

スバルならコロっと魔法でやられることもありうる。権能に操られたりするかもしれない。勝ち抜く世界のスバルでないならどんなことでもありうるだろう。

 

アルは…まだわからない。その能力には当たりがついているが、だからこそ不安だ。

 

 

だからケイは、この反則の世界最強生物を今後に備えて強化することにした。

 

プロメテウスはゼウスの恐れと忠告を無視して人類に火を与えたという。

結果、磔にされて内臓を啄まれる罰を受け続けた。

 

不死であるためずっと続くというその罰のことは、どうにも他人とは思えない。

 

だがしかし、この原始的な戦い方の剣聖に『火』を与えてみても良いだろう。

 

「死なない奴らの弱点は心だよ。精神に影響を与える加護はあるだろ。それを使えばだいぶ結果は変わるはずだ」

 

剣聖は何度目かの絶句をする。ケイと話しているとたまにこうなる。

こちらの想定にない言葉で、これまでのやり方が一新されていく。

 

「僕が調べただけでも、いくつか有効そうなものはあった。『疲労の加護』『消沈の加護』『混乱の加護』『鎮静の加護』人を発狂させるなんてものもあるんじゃないのか?」

 

ある。それは王国の禁忌とされる加護の一つだ。

かつてたった一人が国を荒らし、神龍に滅ぼされるまで暴れ続けたという危険すぎるその加護。

 

「ああ、『狂い火の加護』あれはきっと君にも有効だと思う。君に使うつもりはないけれど。でも次があれば色欲には使おう。『心労の加護』は普段から使ってもいいかもしれない。他にもそんな加護はあと4つはすぐに挙げられるよ。不思議だ。今までは知らなかったとさえ感じるほどに、意識の外にあった加護たちに気づく…」

 

きっと、ラインハルトは自身で能動的に加護を取れないのではないだろうか。あくまで受動的なもの。敵に対応したり誰かに要請されたりと。状況に応じてしか加護を得られない。

 

そうでなくては、彼の思考能力と現状の加護の状況が合わなすぎる。

そして恐らくだが、この世界の人間はあまりラインハルトに干渉していない気がする。彼の在り方を当然だとどこかで受け入れている。

 

ラインハルトの異常さに反応するのはスバルとケイだけ。きっとアルも気づいてはいるだろう。

 

それならばこうやって異世界人が自身の危険も顧みずにアドバイスをしてやればいい。

 

 

 

たった今、このラインハルトにケイは勝てなくなった。

元から勝てるなどとは思わないが、それでも可能性がゼロになったと確信する。

 

そしてそれは、スバルやアル。恐らくどうにかして世代を超えているであろうロズワールや。権能によって擬似的な不死となっているカペラ。ペテルギウスのような体を持たぬ者に対しても有効だ。

 

彼らに対する明確な抑止力が、今ここに生まれた。

 

「もう一つ、相手を殺すと決めたなら絶対に『死神の加護』は使ったほうがいい。それで周囲の石礫を思いっきり投げつければ終わり。ほら、これやるよ」

 

そう言って渡すのは小袋に入った無数の対魔石。これで魔法防御も貫通できる。

 

広範囲にばら撒かれる致死の雨は、決して相手を逃さないだろう。

 

それはラインハルトにとって祖母の加護である。『死神の加護』が複数同時に存在できるかは知らないが、彼女から加護を奪うというのはトラウマなのだろう。

正直、できるなら水門都市の戦い前か最中に奪い取ってくれとも思ったが、これは結果論だ。

 

 

「じゃあ、聞くぞ。色欲と次にあったらどうする?」

 

「精神に攻撃可能な加護を全てのせて、『死神の加護』を宿して広範囲に攻撃をするよ。『看破の加護』もあらかじめ使っておく。見間違いは避けたいからね」

 

 

「落ち込んでいるだけなんて状態が、いかに怠惰だったか。わかったか?」

 

「ああ、ありがとう。ケイ。こうやって話すだけで強くなれるなんて、変われるなんて思わなかった」

 

店を出ようという直前。ケイは重要な質問を、投げかける。

 

「ちなみに、最後のアレ。あれはなんだかわかってるのか?」

 

それだけでもあの意思を無視するかのような動きについてだとわかる。

 

「いや、わからない。たまにあるんだよ。正しいと思う確信に体が勝手に動くことは。これまではあまり気にしなかったけれど、あの時は頭で思う最善と、心で感じる正しさがどうにも食い違ったような気がしているんだ。あんなことは初めてだった」

 

「今度人質を取られたらどうするか。決めておけよ。約束しろ」

 

「ああ、答えに詰まったら、また聞くかもしれない。いや、その前に近くにいるみんなを頼るとするよ」

 

「じゃあ次のパターンは…」

 

酒場の屋根の上、静かに満ちる月が冷たい光を落としていた。

 

夜風に乗って、歌声や笑い声がかすかに流れる。

月の光が、それを遠くから見守るように降り注いでいた。

 

まるで何かの誕生を祝うかのように。

 

 

 

最強は、さらなる最強として生まれ直して、変哲もない酒場を後にする。

 

 

ケイは一つ。絶対のルールをこの世界に刻み込んだ。

 

 

ラインハルト・ヴァン・アストレアと敵対し戦うものは、誰も勝てない。

 

 

 




エンチャント・マッドネスファイア!(重複可)

お次は20時に
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