亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:129】正面突破

気だるさと灼熱の苦しみが同時に取り払われ、ナツキ・スバルは回帰する。

 

「――――」

 

眼前の光景に、とっさに悲鳴を上げなかったことを称賛してもらいたい。

二度目の『死に戻り』を経て、再び魔獣に取り囲まれる花畑へと舞い戻ったスバルは、慌てて自分の口を手で塞いで本気でそう思う。

 

「ちっちっちっち」

 

――嘘、だろ?

 

自分の身に起きた出来事を描きながら、スバルの脳は高速で回転を始める。

早急に、意識の切り替えが求められる。つい先ほどまでは多数の魔獣に追いかけ回される修羅場であったことを忘れ、今は目の前の問題に対処しなければ。

 

目の前、目の前の問題。何が起きるのであったか。

ちっちっちっち、と子猫をあやすような、そんなどこか牧歌的な音が聞こえる。実際の状況はそんな可愛げとは無縁だが、花の香りも相まって思考が阻害される。

 

臭い、甘い、うるさい、煩わしい、痒い、痛い、熱い、どれが正解だったか。

 

「――?」

 

脳が沸騰するほどに巡るが、具体的な方策が何も浮かばない。

つい今しがたまで置かれていた状況と、現在の状況の齟齬に脳が追いつかない。必死に『今』に適応しようとするスバル。その胸に、微かな衝撃。

 

「――――」

 

見れば、体重を預けてきていたのは懐に抱いたベアトリスだ。

彼女はスバルの胸の中にすっぽりと収まると、こちらの代わりに握った手綱を見せるように軽く持ち上げる。おそらく、『死に戻り』直後の衝撃で取り落としたものを彼女がキャッチしてくれたのだ。

 

――直前の『死』が思い出され、ベアトリスの泣き顔と涙声が聞こえた。

 

「――っ」

 

そう、そうだ。そうだった。

スバルはすでに、この状況を迎えるのがこれで三度目だ。

自分は二度、ここで死んでいる。一度目は理解できない死を、しかし二度目はある程度…

 

――否、優先すべきはそこではない。今、優先すべきは、

 

「ちっちっち……ちぃー」

 

二度目の『死』にスバルの思考が追いついた直後、メィリィの花魁熊への挑発が終わりを迎える。舌の弾かれる音と指先の動きにつられ、魔獣の視線はゆっくりと竜車を外れて、一行の右側へと誘導される。

そのままのしのしと、花魁熊が離れてくれれば問題はない。しかし、そうならないことをスバルは知っている。

 

「――――」

 

遠ざかりかける花魁熊、その鼻先に立たされていた地竜――ヨーゼフの息が荒い。

魔獣と直近で向き合わされた圧力と、暴力的に漂い続ける蜜の香り、二種類のプレッシャーが地竜の平常心を苛み、張り詰めた糸が唐突に切れてしまうのだ。

 

「――――」

 

だが、そのヨーゼフの興奮状態に、スバルを除く一行は誰も気付けない。

直前の魔獣の脅威に集中するあまり、手綱を握るユリウスすらも意識を地竜から外している。故に、対処できるのはスバルだけだ。

しかし、どうやって対処すればいい。

 

声を出すわけにはいかない。首すじを撫でれば落ち着くらしいが、とっさに近付き触れることも無理だ。

ユリウスへ呼びかけ、地竜を宥めさせるのもリスクが大きい。それ以前に、今すぐに決断できなければ間に合わない。どうすれば――、

 

「――――」

 

ギュッと、スバルは最後の思考時間を利用して目をつぶる。

この一瞬で何かが閃かなければ、イチかバチか、ユリウスに声をかける。直前の二度の『死』が思い出され、魔獣の猛攻と監視塔の光が脳裏に蘇る。

二度目の『死』の瞬間、泣きじゃくるベアトリスに「一人にしないで」と取り縋られたことも、スバルの胸を深々と刺し貫き――気付いた。

 

「ベア子、愛してる」

 

「――っ!?」

 

後ろから小さな体を抱きすくめ、耳元に小さく声をかける。突然の愛情表現にベアトリスが驚愕するが、その口は手で塞いで叫ばせない。

代わりにスバルは斜め前方のヨーゼフに向かって、『手』を伸ばした。

 

『死』の直前にベアトリスの涙を拭ったように、優しく宥めるための『手』を。

 

――インビジブル・プロヴィデンス。

 

口は愛情を囁いていたから、技名は残念ながら心の中だけで唱えた。

途端、スバルの体の中心――ベアトリスとの連携でマナが引きずり出されるのとは別の感覚が蠢き出し、黒い何かが呼び起こされることへ喝采を叫ぶ。

よくぞ呼び出したと、声高に主張するそれは、『怠惰』なナツキ・スバルに代わって目的を成し遂げる、この世に存在しない『見えざる手』だ。

 

「――――」

 

するりと伸びる黒い魔手は、今にも叫び出しそうなヨーゼフの首へと向かった。そして掌はゆっくりと、その分厚い鱗に守られる太い首を撫でる。

びく、と何者かの接触に地竜の巨躯が震えるが、その掌に敵意がないことを本能が察したのだろう。地竜は荒い息を落ち着かせ、緊張を四肢から抜いていく。

 

「――うん?」

 

すると、わずかに身じろぎする気配が伝わったのか、ヨーゼフの素振りに気付いたユリウスが手綱を引き、本格的に地竜を宥めにかかる。さすがにユリウスは手慣れたもので、発作的に暴れ出しかねなかった地竜を見る間に落ち着かせた。

 

「は、ふぅ……」

 

直近の問題を回避し、スバルは安堵から長い息を吐いた。

同時に胸の中に立ち込めていた、黒い暗雲のようなものも吐き出したい。無論、物事はそう簡単にはゆかず、インビジブル・プロヴィデンスを行使した代償である喪失感のようなものは魂を掻き毟ったままだ。

 

ただ、その喪失感に胸を抉られながら、スバルは思う。

インビジブル・プロヴィデンス――『見えざる手』を行使した際の代償、その影響による息苦しさや喪失感が、以前に比べて明らかに『楽』になっている。

 

「馴染んできた、ってことじゃねぇだろうな」

 

喪失感と嫌悪感の減少に、スバルは安堵よりも不安を感じるがスバルの人知れぬ努力の結果、ヨーゼフは騒ぎ出さず、メィリィの能力頼みの竜車の行進が再開しようとする。

 

しかし、スバルは花魁熊の隙間を抜け、パトラッシュを御者台へ寄せると、

 

「みんな。一時撤退だ。ちょっと状況が悪すぎる」

 

と、二度の『死』を理由に、作戦の練り直しを提案したのだった。

 

 

 

 

花畑から離れ、魔獣たちを刺激しない程度の距離を取ってから話し合いが始まった。

 

『死に戻り』の禁忌に触れないよう、突撃作戦を却下するのには骨が折れる。

 

作戦会議というにはいささか進展に欠ける言い合いの途中で、スバルは気付いたことがあって手を打った。

 

最初のヨーゼフショックと、その後の花畑の逆走を優先したために整理することを忘れていたが、そもそも戻る切っ掛けになった二度の『死』の死因だ。

一度目は突然すぎて、二度目は混乱の中で、あまりはっきりとしたことは言えないが――スバルの死因はどちらも、正面にある塔が光ったことと関係している。

 

「あの塔が光るの、見た奴は誰かいるか?」

 

「監視塔が光る……?」

 

スバルの質問に、全員が不思議そうな顔で首を傾げた。

その反応の芳しくなさに、スバルはやはり誰も見ていないのだと唸る。ある種、当然だろう。スバルがあの光を見たのは、正直、『死』の前後だ。あの光に攻撃的な意思があるのであれば、見た者は生きて帰れない。

見敵必殺を実現した攻撃、そう考えるべきだ。

 

「ナツキくんは、その塔が光るところを見たということかな?」

 

「あ?あー、見間違えではないと思うんだが、光ったかもしれないなと」

 

「それは、いつのことだい?」

 

「……花畑の中にいたとき、かな?」

 

答えがいちいち疑問形になってしまった。

ただ、花畑の中では声を上げられなかった事情があるため、塔の光のことを黙っていたことは不審には思われなかったようだ。スバルが塔の光を見たのはいずれも『死に戻り』と関連した時間帯のため、これも場合によっては禁忌に触れかねない。

少々、変則的にしか事実が伝えられないのは申し訳ないところだがどうにか伝えるしかない。

 

スバルが苦心し、一同が現状の正論を並べる。

 

「少し宜しいですかな?」

 

会議が踊り始めようとした時にヴィルヘルムが、それを制した。

 

「我々はケイ殿の指示に従います。そのケイ殿がスバル殿を信じて指揮を預けておられる。あなたに付いていくのが最善であると私個人としても信じております」

 

故に、とそう続ける老剣士の目つきは鋭い。

 

「我々が有無を言わずに従うならば、スバル殿はどんな指示をするのか。それが非常に気になるところですな」

 

その発言にカルステン陣営を除く一同は驚く。

 

どうして他陣営のスバルという人間にここまでの信頼を示すことができるのか。

自陣営のものたちだって、スバルの指示の意図くらいは聞く。緊急事態を除けばだが。

 

「スバル殿の気迫は敵を前にした時のもの。その光に敵意のようなものを感じられたのでは?であれば、今ここは敵意が届く場所ということになる。一刻の猶予もありません。進退について、ご決断いただきたい。今すぐに」

 

撤退を成功させたと思ったが、誰よりも戦いの経験がある達人はここがまだ安全地帯などではなく、戦場であると断言した。

 

そしてその気迫に誰も異論を挟めない。

スバルは一瞬迷う。このままみんなの理解を置いてきぼりに、それで前に進めていいのかと。

これは全くスバルのやり方ではない。それこそケイの…

 

「迷えば、敗れる。これはとある『剣聖』の至言です。スバル殿、ご決断を。」

 

その迷いを、剣鬼は許さない。

 

進むも戻るも彼は絶対に何の文句も言わずに従うのだろう。だけれど、このままここで時間を過ごすことだけは許さない。ヴィルヘルムの鋼鉄のような意志を感じ、スバルも正面からそれに向き合った。

 

「はい。ありがとう、ございます。だからみんな。一つ提案を聞いてくれ。説明は難しいんだけど。試してみたいことがある」

 

過去最速の合意形成、というより全員が従う形で行動が決定した。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

スバルの提案とは、事前にケイが考案してくたアイデアを応用したものだ。

 

その作戦はケイから受けた指針に沿って立てた。

 

シンプルであること。力を分散しないこと。非戦闘員の安全を優先すること。

 

力を結集し、最大の困難に集中させて立ち向かうというのが概要だ。

 

 

 

 

そして準備が完了し、出発のための魔法が発動した時。監視塔が光った。

ここまで目立っているのだ、そうなるだろう。

 

「ヴィルヘルムさん!」

 

その声が剣鬼に届く前、すでに攻撃は届いていた。

 

――光は瞬きすら許さぬ速度でこちらへ迫り、一撃を以て急所を抉る。

 

しかし、破壊は訪れない。この剣はそう簡単に抜けはしない。

 

不意打ちならばこの場の誰であっても、ヴィルヘルムでさえも一撃で殺すほどの速度であるが。わかっているなら対処できる。

 

スバルの不確かな予想では、この光線を継続して処理できるのはヴィルヘルムとガーフィールの二人だけ。

 

というより、ヴィルヘルム以外だと絶対に怪我をする。ガーフィールは自身を治癒しつつ戦えるため問題ない。

そういう意味ではエルザも一時的には対処可能だが、彼女の方が限界は早いだろう。

 

そこまで理屈を並べなくとも、一番強い攻撃に、一番強い人をぶつけるだけのシンプルな考えでもある。

これで無理なら土台無理だ。

 

目にも止まらぬ速度で迫る攻撃を、剣鬼は剣で斬り落とす。斬り逸らす。斬り防ぐ。

 

それを為すのは竜車の屋根上である。

 

 

「今だ!魔獣が集まる前に出るぞ!」

 

竜車をエミリアが押して、そして進む。

 

エミリアが怪力なのではない。そもそも竜車が10m以上の氷の高台にのっていたのだ。

竜車のソリの部分もスケートの靴のように特に硬い氷でブレードを履かせておく。これですごい速度が出る。

 

それを押して、前に作った氷の坂を滑り始める。

 

パトラッシュがその加速に負けじと氷を踏み締めてさらに加速させていく。

 

氷の道が、砂漠に作り出され。その上を滑るように進む。進む。進む。

 

竜車を守る剣を躱わすことはできないと判断したのだろう。

 

狙いが変わる。

 

その狙いはエミリアが作った氷のハイウェイ。いくつもカーブを作りながら魔獣たちを寄せ付けぬそれを穿った。

いくつも穴が空いて、ひび割れる。

 

「当然。読んでるぜ」

 

パトラッシュが、スイっと跳躍すると竜車もふわっと浮いたのだった。

 

『ムラク』人や物の重量を軽減する陰魔法だ。

 

現在竜車の重さはゼロ。上に乗るヴィルヘルムの分の重さだけである。

つまりパトラッシュが飛び越えられる地形は一緒に飛び越えられるのだ。

 

そして次に狙うのは…

 

「ビンゴだ!オラァ!」

 

パトラッシュとそこに乗ったスバルが当然狙われる。

 

その絶望的な威力の程は、すでにそれによって死を迎えたスバルが知っている。

故にその光に標的にされたと脳が判断した瞬間、『死』は決定付けられていた。

 

「――――」

 

光が真っ直ぐ、スバルの額へと突き込まれる。

風すら置き去りにし、音もなく獲物を串刺しにするそれはまさしく『死』そのもの。ナツキ・スバルはまたしても、為す術もなく無残にそれに殺される。

 

「――E・M・М」

 

「かしら!」

 

――狙われた瞬間、ナツキ・スバルがたった一人であったなら。

 

快音が響き、スバルに直撃したはずの攻撃が弾かれる。

原因は至極単純に、スバルの強度がその攻撃の威力を上回ったためだ。

 

『E・M・M』は、スバルがベアトリスと開発した三つのオリジナル・スペル。

その内の一つである、『絶対防御魔法』だ。

 

E・M・Mの発動中、スバルは身動きができなくなる代わりに、外部からの一切の干渉を受け付けなくなる。ベアトリスの陰魔法の技術と知識を総動員し、限定的にスバルの周囲の時間と空間を弄った結果である。

 

これを聞いた時のケイの顔は傑作だった。

 

「時間と空間から切り離されるなら、なんで慣性は無視しない?空気は?どうやって周囲を認識する?自転の影響を無視してそんなことがなんで出来るんだ?太陽系の公転速度で大気圏外に置いてきぼりにされる可能性は考えなかったのか?どうやってこんな危険なものを試そうなんて思えるんだよ…」

 

あのケイがドン引きである。

スバルは歯をキラリと光らせてサムズアップし、一言で返した。

 

「だって、魔法だぜ?」

 

ケイは肩を落としてぶつくさ言っていた。これは歴史的快挙と言える論破だろう。

 

 

「回想終わり!あの『強欲』のゲス野郎と効果が似てるってわかって、ちょっと気が引けるけど――ぶあ!?」

 

もっとも、この状況では盾である以外の役には立たない。

必死でパトラッシュを包み込むようにポージング。上面を全てスバルで覆う。

 

「ただ、ごえ!? 時間稼ぎぐるぉ!? 大事なことぶえる!?」

 

「ちょ! スバル、悲鳴ばっかなのよ!? 大丈夫かしら!?」

 

スバルの後ろに回り込み、その体を盾にするベアトリスの心配する声が上がる。それもそうだろう。なにせ、防御されていても音と衝撃は伝わる。

 

この衝撃が伝わる仕組みもケイは意味不明だとブツブツ言っていたが、そういうものなのだから仕方ない。

 

E・M・Mを発動後、監視塔の光はスバルが死なないのが不思議なのか、まるで確かめるように何発も何発も、連続して攻撃を撃ち込んでくるのだ。

 

「ご!? ば!? ろど!?」

 

その連射の速度と、狙いの正確性が尋常ではない。

当たったことの痛みや打撃力はスバルの体に残らないが、悲しいかな、何かが当たれば条件反射で苦鳴を上げてしまうのが人間の性だ。

 

 

「このまばっ!いくぞっぶ!ここまでぇ!?近づけば、ギリ発動時間も間に合うはずブハァ!」

 

連打を受けながらも前に進み続ける。このままならいけると思ったが。

 

 

「スバル殿!何かきます!」

 

 

光が連続で瞬いた。それも同時に。

 

 

雨のようなそれが、スバルと竜車とさらに後ろの連結した竜車に同時に降り注ぐ。

 

ヴィルヘルムが守れるのは、前の竜車のみ。

 

破壊された後ろの竜車が木っ端微塵になって吹き飛んだ。

 

同時に連結部分をエルザが切り離す。

 

「そっちは『スカ』だバーカ!このままタッチダウン行くぞ!」

 

スバルたちはようやく塔まで辿りついた。

 

そこに続くように、砂煙が迫ってくる。一帯の魔獣たち全てとは言わないが、花魁熊以外にも大群を引き連れてきている。

 

 

「エミリアたん!よろしくね!レリゴー!!」

 

 

「えい!!ありのままの姿を見せて!えいえいえ〜い!」

 

1発アウトなリズムに乗せてスバルが仕込んだ詠唱を紡ぎ、エミリアが氷を生み出す。

そう言って作り上げられるのは、氷の城。ではなく、氷の城壁だった。

 

まさに砂上の楼閣ではあるが、魔獣たちの物理的な攻撃ではびくともしない。

 

ようやく一息ついて眺めるも突破はできそうにないようだった。

 

「ぬ、抜けたか…」

 

ようやく一息ついて気が抜けそうになる。しかし、どうにか奮い立たせた。

 

「みんな、無事だろうな」

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「――――」

 

花畑と砂海の境から、塔へ向かって駆ける小さな集団の詳細がようやく見えた。

どれだけ撃ち込んでも止まらないから、まさかと思ったが。そのまさかだ。

 

「――――」

 

遠目に、遠目に、それを見つめ、影は塔の中で蠢いた。

身を寄せていた窓から遠ざかり、石畳を踏みしめて、螺旋状の階段を下る。

その足取りはゆっくりと、しかし徐々に早くなり、逸る。

 

「――見つけた」

 

と、それは何年も言葉を口にしていなかったような、掠れた呟きを漏らした。

ただ、その響きが歓喜であろうことだけは、誰も聞き間違えはしないだろう。

 

「見つけた」

 

それだけは、確かだった。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

今ここにいる者たちの無事を確かめ、パトラッシュを労う。

しばらく時間が経ったが、まだだろうか?

 

「待つ時間ってやつは何でこんな長いんだ?くっそ!みんなは、まだかよ?もうマナ切れでやばいってのに」

 

「おそらく、まだかかるでしょうな。いや、意外に早い。さすがガーフィール殿でしょうか」

 

城壁の内側、その砂が盛り上がって中から土があふれてきた。まるで火山の噴火や隆起のようだ。

 

「作戦名『穴をほる』無事開通ってか!ナイスだガーフィール!!」

 

ムラクで軽く出来るのは、竜車二台で限界だった。

そもそもこの調査隊の竜車は4台だ。残りはといえば、地下からの通路を作っていた。

 

巨大な砂蚯蚓が掘り進め、ガーフィールが土魔法でそれを固める。

驚くほどの速度で進められたそれは、地上に遅れるほど30分ほどで追いついた。

 

捕らえた小型の魔獣を竜車には詰めており、それの反応を辿ってくるようにメィリィには伝えていた。

そしてそれが死んだ時には、その逆に進めとも。非戦闘員たちは全員こちらに詰めておいたのだ。

 

 

「なァんか地下にはすでにいくつも通路がありやがッたからよォ。相当に早く進めたぜ。待たせッたな大将!」

 

まさか試行一回目で突破できるとは思っていなかったのだろう。体から力が抜けてしまう。今更腰が抜けた。

というか普通に限界だった。心労と主には使いすぎのマナが。

 

いや、ダメだ。まだ油断するな。

まだ塔の狙撃手か防衛機構かはわからないが、先ほどまで殺されかけた相手がいるのかもしれないのに腰砕けでいていいはずがない。

 

それでも、目的地への到着を一緒に祝うことくらいはいいだろう。

 

 

無事を喜んだ時、後ろから音がした。

何か重いものが開く音。監視塔から音がする。

 

出てきた人物と目があって、その敵意の欠片もない目を見た時。

なぜか安心して気が抜けた。

 

 

まずい。まだ俺が…

 

 

そう思った時には、スバルはマナ切れで意識を飛ばしていた。

 

 




下からくるぞ!気をつけろ!
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