亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:140】敵味方のタネ

 

 

決意とは裏腹に、状況は良くない。

ナツキ・スバルの殺人計画は一時中断となった。そうするのが殺すために最善だからだ。

 

ここ最近の死に戻りは朝食の直後に終始していたため、その先についての情報がないと気づいたのだ。

 

ゆっくりと殺す相手を見極めつつ、一度落ち着くべきだろう。

 

『それ、落ち着いてるなんて言えるん?あんましギラついとると、勘付かれるんとちがう?』

 

アナスタシアはそう言うが、そんなことはできるものだろうか?

刑事の勘などと言うものはないというデータをテレビで見た。人は人の気持ちなどわからない。嘘はわからないものなのだ。

そうでないなら、自分が幾度も殺意を受けてここまでわからないなどあるものか。

 

ましてやただ黙っているだけであれば、何の問題も。

 

 

そう思っていたのが、甘かったようだった。

 

 

 

それは、朝食が終わった後お昼を前にした時のことだった。

 

 

呼び出しを受けてそこに大人たちが集まっていく。ベアトリスもおらず、メィリィも当然いない。

 

なんでも、レイドの攻略法を思いついたのだとか。

 

あんな化け物。倒せないに決まっているのに、どんな荒唐無稽な案が出るかと期待していたがきっと油断をしていたのだろう。

 

 

これまでで一番静かな惨劇が、そこで起きた。

 

 

ぐしゃり。キン。と音が、した。

 

瞬間、広がるのは赤色。

 

理解できずに絶句するが、目の前でそれは為された。その光景から逃げることはできない。

 

シャウラの首と胴が、前触れもなく寸断されたのだ。

 

 

その目は驚愕に開かれて、そして落下するまでにスバルを見て。何かを言おうとしているようだった。

 

落ちた首が床にぶつかる、ゴンという音で我に返る。

 

「な、なん!?なんだよっ!おい!!」

 

 

そこには、血で濡れた剣を抜刀したエルザと、斬ったはずなのに血で濡れてすらいない剣を構えるヴィルヘルムの二人がいる。

 

こいつら、こいつらなんだ。

 

やはり、カルステン陣営。ケイという男の手先たち。

 

こいつらがこの塔の中を蹂躙しているものなのだ!

 

 

「エミリ…」

 

そうなれば消去法で仲間たちが確定していく。

そうして、自分の味方に声をかけようとするが、その様子はおかしい。

 

「なんて、こと!やめてって!そう言ったでしょう?どうして?まだ、彼女とはお話しできたのに!」

 

「いったい何を!?」

 

エミリアとユリウスが、驚愕に染まりスバルと同じくその惨劇に心から驚いているようだった。

 

そんなユリウスを、エキドナが手を引いて止める。

 

「これが最善だよ。アナのために、障害は排除して敵を確定させなければいけない」

 

なぜ、エミリアは言語道断の殺人鬼たちと話そうとしているのか?

なぜ、シャウラを障害などというのだろうか。

 

「申し訳ありません。エミリア様。事前に申し上げた通り、としかお伝えできません。これ以上は話すべきではない」

 

そう言って、その剣をスバルに向ける。

 

ヒッ。っと声にならない空気が漏れて、後ろに倒れ込みそうになる。

そこにエミリアが立ち塞がり、はっきりと宣言する。

 

 

「そんな乱暴な結論。やっぱりダメよ。ラムと、ガーフィールまで…」

 

その言葉が指す光景に目を映せば、そこには腕を組んで佇むラムと、気まずそうに申し訳なさそうに横に立つガーフィールがいた。

ガーフィールの方はまだ迷っているようで、スバルの方をしきりに見ている。

 

「エミリア様。あなたは嘘がつけないから、ギリギリまで伏せていました。申し訳ありません。ただ、私とガーフ、カルステン家方々、そしてエキドナの意見は一致しています」

 

その指は真っ直ぐに、スバルを指していた。

 

 

 

「そこにいる『それ』は、バルスではない。明らかに、偽物です」

 

 

「――――」

 

 

ガーフィールが苦悶の表情で、何かを言おうとするがラムに止められる。

なんだ、根回しは万全ってか。それとも、お前も敵なのか?

 

沈黙するスバルに、ラムの瞳が細められる。ただでさえ絶対零度と思われた視線の冷たさがさらに低下し、切れ味の鋭い吹雪に晒される錯覚がスバルを襲った。

震える膝、それを必死に抑え込みながら、スバルは静かに、遅すぎる理解を得る。

 

 

ラムは確信を持ってる。自分は一体何をしくじった?

 

朝食の後、すぐに行動しなかったのは殺意に目覚めてから初めてだった。

その後に話し合い、これが決まったのだろう。

 

どおりで、エルザを殺すときにシャウラと二人で自由に動けたわけだ。

 

 

「――偽物」

 

沈黙の中、静かなラムの呟きが空間を打つ。

 

「そう言われて反論がないところ、心当たりがありそうね。ええそうでしょう。成りすますならもっと調べなさい。不勉強にも程があるわ。不出来な偽物の出番はもう終わりよ」

 

軽蔑の調子を隠さぬままに、ラムがスバルを訝しんだ根拠を口にする。

 

『ナツキ・スバル』の、出来の悪い、偽物――。

 

その言葉が、スバルの底に粘度の高い、どす黒い汚泥を積もらせていく。

それを人は敵意、害意、悪意――あるいは、殺意と呼ぶかもしれない。

 

泥炭のようなそれが、燻っていた殺意に被さり。火がついた。

 

「バルスを知らない人間以外、その不自然さに目をつむることなんてありえないわ。『出来損ない』エミリア様も気づいている。その上での態度だけれど」

 

『このままやと言い負かされるよ?言い返さな』

 

こういう時に一人でないというのはありがたい。

ラムの衰えぬ舌鋒に、スバルは痛みを覚えながらも、アナスタシアに頼って反論を試みる。

 

「……お前ら、何言ってんだ?人を殺したんだぞ。しかもなんで俺が偽物なら、シャウラを殺すなんてことになるんだよ!お前らおかしいぞ!何を言ってんだよ!」

 

必死で生きる道を模索する中、相手を攻撃することにした。

 

「――――」

 

「偽物だのなんだの、言い掛かりにこじつけて、今のがなかったことになるとでも言うのかよ!」

 

 

「言い掛かり、ね」

 

ラムの言うことは事実だ。それだけにスバルは足掻くしかできない。

ここで諦めてしまったら。無駄になる。それは、ダメだ。

 

「言い掛かりも言い掛かりだ。耳が痒くて聞いちゃいられねぇよ。鼻は血の臭いで曲がりそうだ。お前ら、最低だぞ!」

 

肩をすくめ、頬を歪め、ラムを睨みつけ、スバルは言い放った。

相手を非難した。一瞬で死んだ今回と、じわじわと非力なスバルに喉を絞められた以前のことを比べればどちらが邪悪かなんて、自分でわかっているのに。

 

そして、そんな反撃を丸ごと無視される。

 

 

 

「バルスが、最初の頃レムとラムに語った物語。それはどんな話?」

 

「スバル殿が、あの旅館の月夜に語っていただいた言葉を覚えておいでですか?」

 

 

 

その問いは、スバルに深く刺さる。簡単に刺さりもするだろう。だってハリボテの中身がないのだから。

 

スカスカの外見は貫通され、いとも容易く剥がされる。

 

スバルは質問に答えない。答えられない。

だって知らないんだから。

 

 

「っ嘘…」

 

エミリアが息を呑む。

 

「ええ、そこにいるのは偽物です。エミリア様。いくつか質問をすればこれだけでボロが出る。お粗末ね、本当に」

 

 

だめだ。言い逃れが、できない。

 

剥がされたメッキがなくなれば、醜悪な中身がまろび出る。いや、そこには殺意が木霊する空洞しかない。

何もないのだ。

 

このままでは、まずい。

殺される。また殺されてしまう。

 

 

そう思った時には、体はそこから逃げ出そうと駆け出していた。意図したわけではない。

ただ、ここにいるのが耐えられなかった。

 

今まさに、開けようとした扉が凍りつく。

 

「――全部、勘違いだったらって。そう思ってたのに…」

 

エミリアが、悲しげな紫紺の瞳で見つめていた。

 

 

「どうして?あなたは何で…いったい誰で…」

 

エミリアは傷ついた表情で曖昧な問いを放つ。

 

ここに至って、あらゆる言い訳は意味を持たない。

だって、今スバルは逃げた。逃げ出したのだ。

 

「エミリア様、聞いたところで無駄ですよ。これをバルスであると扱うことは、あのバルスにすら過分な罰でしょう」

 

「でも、スバルはスバルだわ。ラムにも、わかるでしょう?」

 

ユリウスを説き伏せていたエキドナが対話に加わる。

 

「僕は人の体を借りている身の上だ。あまり強くは言えないが、今の逃走はいただけないね。自白と同義だろう」

 

エキドナは淡々と語る。アナスタシアでもあるスバルにはわかる。エキドナはきっと殺しはしていない。彼女は生きていて、そして敵の可能性は低いのに。味方じゃ無いのだ。

 

「我々は、事前の取り決め通りにことを運びます。以降我々についてのあらゆる情報をその人物に与えることをお控えください」

 

ヴィルヘルムは淡々と、自らの職務をこなすかのように不動である。

 

 

「本物、偽物って、そんな決めつけちゃダメよ!だって、ここにいるスバルは……」

 

「――俺は、記憶喪失だ!!」

 

「は……?」

 

スバルは必死に叫んだ。ここで言わねば死ぬのだ。それこそ、必死で叫ぶ。

 

その訴えに口を思わず開けたまま呆気に取られたのはラムだ。

 

「何をふざけたことを……!」

 

ラムの思考は怒りに染まる。今更なんだ?記憶喪失?それならなぜそんな目をしているのか。

一切の説明にならない。記憶喪失で、出てくるのがこんなものであるはずがない。

 

ないのに、エミリアはそこに希望を見出したようで

 

「ラム!聞いた?何か、きっと、理由があるのよ!」

 

「本気なの、エミリア様!?聞く価値もない戯言でしょう!彼方まで譲って本当だとして、今まで黙っていたのは明確な敵対です!」

 

そうだ。スバルは黙っていた。嘘をついていた。そして逃げた。

その事実は揺るがない。

 

エミリアがスバルとラムの間に立ち、論理を説かれる。エミリアもそれはわかっている。

それでも叫ぶ。視界の端には、シャウラの亡骸あり、それを捉えた目からは涙がとめどなく溢れている。

 

「信じる価値はある!それが、これまでの私たちの時間でしょう!?」

 

それでも絶対の自信と確信を持って、決して揺らがずその在り方を宣言した。

 

「スバルは、まだ、生きてる!なら、話すことからよ」

 

エミリアは、シャウラの死を悲しみ。そしてスバルを案じている。普段であれば尊敬すらするその気高い姿が、ラムには邪魔で仕方がなかった。

 

それでもラムにも理解できたし共感できた。自身のうちに生じる葛藤にまるで刻まれるような苦痛を感じる。

 

考え、考えて。そして、論理を整理し、横に置けばラムの怒りはシンプルだった。

 

「――レムは、どうなるの?」

 

流れるような動きを、スバルはほとんど追えなかった。

ラムが何かすばやく動き、エミリアの体勢を崩したのだ。

 

接近戦でエミリアを、その技術とセンスだけで打倒し、間隙にラムが滑り込む。

彼女は驚愕するスバルの鼻先へ、細く小さな杖を突き付けた。

 

「その声で、顔で、忘れたと、よくも、そんなことっ!」

 

奥歯を強く噛みしめて、震える杖の先端にラムが何かを集めていくのがわかる。

目には見えない、だが魔法の力が溜まっていくのがわかる。

 

ラムを、目の前の泣きそうな少女を、止めるための言葉が浮かばなかった。

『ナツキ・スバル』になら、それができたのだろうか。

 

「ラム!止まって!それはだめ!」

 

体勢を立て直したエミリアが叫び、ラムを止めにかかる。

だが、間に合わない。

 

 

キン。という音と共に。その力が霧散する。

 

 

場の流れを、唐突に斬られるのは二度目だ。

 

 

それは剣が納刀された音だった。

ヴィルヘルムが抜いていなかった、もう一本の剣。いや、あれは刀だろう。

 

それが、全てを断ち切った。

いや、誰も傷ひとつ負っていないし、杖だって切れていない。

 

そこに渦巻くエネルギー。きっとマナというやつが、切り捨てられていた。

同時に、戦意というか。なんというか、そういう雰囲気みたいなものが切断された。

 

「この人物を軽々に殺害することもまた、禁じられております。どうか、感情に流されずにご対応を」

 

その言葉は、絶対のルールのように響き渡る。事実、彼がこの場で一番強いのだろう。

 

ラムが力をふっと抜いて、杖を取り落とした。ガーフィールに肩を掴まれ後ろに下がる。

 

「大将は取り戻す。そりゃァ決まりだ。ラム、お前もわかんだろ…」

 

その間も、ラムはスバルを、ずっと睨みつけていた。

 

 

 

 

 

そこからスバルは、別の部屋へと移され氷の鉄格子のようなものに幽閉される。

いくつかの問答を行い身の潔白を証明しようと声を張るが、それは虚しく聞き流される。

 

アナスタシアの入れ知恵ではない。アナスタシアの知識と経験をスバルが活用しなくてはいけないのだ。

うまくいくはずも無い。

 

『ほんま、このままやとまずいなぁ。なんかとっておきとか…ないんやね』

 

スバルは打開策まで思考が至っていない。過去の失敗に囚われ続けている。

なんだ?どこなんだ?自分のミスがわからない。

 

ヴィルヘルムの動きはいつだって唐突に見える。

 

「どうやら、時間もなくなったようですな。我々は撤収いたします」

 

ヴィルヘルムが、エミリアやエキドナに耳打ちすると、驚愕が広がっていく。

 

皆がその部屋を慌ただしく出ていく中で、エミリアだけは最後まで、スバルのことを心配していた。

 

「ごめんね。伝えられないけど、すぐに戻ってくるから。きっと、ここの方が安全だから。心細いと思うけど、私はスバルのことを信じてるから」

 

 

この期に及んで、まだそんなことを言ってくる。

それでもスバルを置いていくのだ。

 

 

何か、振動がする気がする。でも、よくわからない。

呆然と、ただそこで体育座りのように、自分を抱えて座っている。貧乏ゆすりが止まらない。

 

ゆらゆらと、体が動いて落ち着かない。

 

どれくらい時間が経っただろうか。あまり頭が働かない。そんなことを思っていると、部屋に誰かが戻ってきた。

 

 

ガチャリとその扉を開けて入ってきたものを見て、スバルは息を呑む。

まるで自分の部屋に入るかのような無造作な動き。

 

 

自然な動きに反して、それは異形だった。

 

最初に見た印象は、頭に馬鹿でかいデカい青い宝石を載せた汚い老人。

 

 

そしてよくよく見れば、それはあまりに的外れな感想であるとわかる。

その宝石はまるで頭そのもののようだった。

 

通常の頭部よりもはるかに肥大化した、まるで生まれたての赤子のような頭身の比率。

その頭がそのまま宝石になっている。

 

その宝石はまるで目そのもののようで、スバルを見ているように感じる。あまりに深い視線にスバルの心が逃げたがる。

 

瞳孔があり、虹彩があり、そしてまぶたやまつ毛がない。剥き出しの目玉が、宝石となって頭部に居座っている。

縦に長い瞳孔はまるで獣のような印象も与えるが、一貫して知性を感じさせる眼差しでもある。

 

目であり、頭である宝石。それを頭部とした老人が、いつか聞いたようなしわがれ声で言葉を発する。

 

 

「いくつか種に丸めておいた。見せてみよ、英雄」

 

 

両手が向けられ、その五指が開くと指先に光が灯る。

10の光が踊りだし、何かしらの魔法がその場に生まれた。

 

光は炸裂し、スバルを意識ごと吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

微かな、弱々しい呻き声を漏らして、意識が覚醒へと導かれる。

 

「――づ、ぁ!?痛ッ!?」

 

倒れた際に、ぶつけたのだろう。側頭部に鈍い痛みがある。

そして気づいた。スバルを囲んでいた檻が、跡形もなく消えている。

 

状況の混乱は続く。

 

なぜ、いつもスバルは気を失うのだ。目覚めるたびに状況が唐突に変わっていく。恐ろしくて仕方ない。

 

先ほどまでの記憶はしっかりしている。ここはさっきと同じところ。

 

あの謎の魔法使い?の爺さんにどうやら解放されたらしい。

あれは、敵じゃないのか?どういうことだ?なぜスバルを英雄などと呼ぶのだ。

 

殺せるはずなのに殺さない。以前と違うことに混乱する。

 

 

一体誰が敵なのだ?誰が味方なんだ?

 

味方なんて、そんなのいるのか?

 

 

混乱しつつもスバルは部屋の中を見回し――気付く。

 

『ナツキ・スバル参上』

 

「――――」

 

壁に、いつか見た、その文言が刻まれている。

石の壁を削り、荒々しく、無地のキャンパスに書き殴るように、刻まれた文言。

 

それをやったのは、壁の傍に落ちている石の欠片か。

――それだけであれば、腕に刻まれた同じ文言ほどのインパクトはない。

 

二番煎じがもたらす驚きなど、大したことはないと笑い飛ばせたはずだ。

だが、しかし――、

 

 

『ナツキ・スバル参上』

 

『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』

 

『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』

 

『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』『ナツキ・スバル参上』――。

 

「――ぅ、あ」

 

部屋中の壁を埋め尽くすように、びっしりと、病的に、刻み込まれた文言。

スバルが最初に違和感に気付けなかったのも当然だ。それはもはや、壁にそうした模様があるのだと半ば錯覚させるほどに、病的に執拗に刻まれたものだった。

 

部屋中に、何のために、こんな文字を、刻んで――。

 

 

「――あぁン?なンだこりゃ、外の肉も気持ち悪ぃが、中も大概気持ち悪ぃな、オイ。なンだってこンな気持ち悪ぃ飾り付けしまくってンだ、オメエ」

 

「――――」

 

ゾッと、立ち尽くすスバルは背後からの声に怖気を覚える。

その恐怖は、肉体が感じる本能的恐怖と。記憶から生じるトラウマからの二種の恐れだ。

 

「オメエ、こンなとこでボケっと何してやがンだよ、稚魚。群れからはぐれた稚魚なンざ、でけえ魚の餌食になンのがお約束だろうが、オメエ」

 

その声がしたのは、体が硬直して咄嗟に顔を向けることができないスバルの背後。

 

ゆっくりと、そちらを向いた。

 

この存在感を間違えるはずもない。頂点捕食者たる赤毛の男が、鮫のように笑う。

 

ここにいられないはずの男が目の前で嗤っていた。

 




魔術師を集めて星の種となす
源流では、これは探究の一手段なのだ
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