亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:141】終わりなき絶望

自分から問いかけたにも関わらず、レイドはどこまでも自由だった。

 

スバルが一人でいることを確認し、その一瞥だけで用はないと判断したらしい。ゆっくりとその部屋から外に出た。

 

いや、おかしい。

 

そもそも、だ。

 

 

「待てよ!あんたは……あんたは、上の階から降りてこられないって話じゃなかったのか?それがどうして当たり前みたいにこの階をうろついてる!?」

 

我が物顔で塔を練り歩くレイドを追って、スバルは部屋を飛び出した。

 

「オレがいつ、二層から出歩けねえなンて言ったよ?……なンて、それ言い出したらちっとばかし卑怯だわな。安心しろや。オレが出歩けねえって前提は間違っちゃいねえ。ただ単に、今は出歩けるようになっただけだ」

 

初めて交わした、会話らしい会話。

しかし、そのレイドの回答にスバルは応答できない。

 

だって、それがあったから。通路のすぐ先にあるそれが、全ての疑問を消しとばす。

 

人が寄せ集まって作られた。肉団子。

蠢く冒涜的な肉塊が、そこにあった。

 

『いくつか種に丸めておいた。見せてみよ、英雄』

 

その言葉を思い出す。きっと、これのことだ。

このグロテスクな塊を作ったのはあの宝石の老人だった。でも、これは一体…

 

そのうちの一つ、桃色の眉毛とその下にある桃色の目と、視線が合った気がした。

 

あった。という表現がどこまでも正しい。気がした。というのが正解だ。

 

 

だって、それを認めた次の瞬間にはレイドが腕を振って、白光がその肉塊を消し飛ばしたのだから。

 

もはや音もなく、

 

「な…お、お前…何を…」

 

言葉がつっかえて出てこない。あまりのことに脳が追いつかない。

スバルはそこに尻餅をつくようにへたり込み。腰を抜かす。

 

「何しやがる!!何を、してんだよ!!」

 

その蛮行にも態度にも胸中に言いたことが溢れ出す。それをまるで見透かすように、レイドが刺す。否、言葉で切り捨てる。

 

「いい女が殺してくれって言ってやがっただろ何見てたんだオメエ。このオレが請われて斬るなんざ、超がつくほどの幸運だぜオメエ。なんか文句あンのかオイ。嫌ならオメエが助けりゃいいだろうが。オメエのことはオメエで片付けろや。オレに擦り付けて慰めてンじゃねえ気色わりィ」

 

「――――」

 

「見たとこ魔法もからっきしだろオメエ。稚魚だもんなオメエ。なら無理だろが。雑魚で稚魚のくせして、無理なことで騒いでんじゃねえぞオメエ」

 

苛立たしげですらない。感情は動かず、スバルなど気にかけていない。独り言の延長のようなものなのだろう。

しかし、その言葉は聞きようによっては魔法さえ使えればさっきの塊をどうにかできたような響きでもあった、

 

「あの、魔法使いの宝石の爺さんが、やったのか?どんな、魔法だよ…」

 

こんな、冒涜的な魔法があってたまるか。こんなの、魔法じゃない。

スバルの慄きに、当然レイドは興味を示さない。

 

「――ああ、きやがったな」

 

首を通路の先へ向けて、レイドが何事か納得するようにそう呟いた。

 

地べたに尻をついていたから気付いた。

微かな震動だ。塔が、揺れている。

 

「かっ」

 

歯を鳴らして笑い、目を輝かせたレイドが草履で床を踏みしめ、歩き出した。その迷いのない素振りを目の端に捉え、スバルは慌ててその背を追う。

 

「――――」

 

レイドが足を止めたのは、通路を抜けた先にあった吹き抜けの螺旋階段――記憶をなくしたナツキ・スバルが何度も突き落とされて死んだ場所だった。

 

「――――」

 

レイドはその下の光景を見下ろす。どこまでも、見下す姿勢の似合う男だった。

 

その視線の先をスバルも見やると、やっと気付く。

 

「――――」

 

――眼下、大階段の終着点である五層が、どこからか湧き出したおぞましい炎の魔獣の群れに埋め尽くされ、地獄の様相を呈していた。

 

 

 

想定すらしていなかった眼下の光景に、スバルの意識が完全に白く染まった。

 

「――は?」

 

蠢く赤々とした炎と、塔内に響き渡る無数の赤ん坊が泣き喚くような絶叫。

 

先ほどまで、なぜここまでの騒音を聞き逃してたのか理解できない。

レイドという存在感に、他の全てが押し潰されていたのかもしれない。

 

馬のような四足と胴体、そこから生えた人間のような腕と上半身。人間の上半身には牙の生え揃った口腔があり、恐ろしい火力の炎が塔内の酸素を焼き尽くさんとしている。

 

その魔獣が、おおよそ二十体以上、階下の五層で飛び回っているのが見えた。

 

一体、なんなのだ。これは。

 

炎を纏い、塔内を飛び回っている魔獣――人馬一体の外観をしたそれを、便宜上はケンタウロスと呼ぶが、そのケンタウロスがけたたましい咆哮を上げた。

 

息を詰め、炎の剣を掲げる魔獣の群れの隙間を、優麗な剣撃が滑り抜ける。

 

血が散り、魔獣の腕や足が断たれ、一拍遅れて絶叫が周囲に轟いていく。それを背に聞きながら、圧倒的物量に押される騎士は身を捌き、次なる敵へと飛び掛かった。

それこそが――、

 

「――ユリウス!」

 

ユリウスは敵かもしれないのに。呼びかけてしまった。

だめだ。アナスタシアの意識に引っ張られているのかもしれない。

 

「――――」

 

ユリウスはスバルに気づかない。そして状況はあまりに不利だ。

魔獣と交差し、その技量で以て切り裂いているが、ケンタウロスは斬られたところからすぐに再生しているようだった。

 

数が減らない。決定打がない。

 

このままでは、ユリウスは死んでしまう。

 

いや、死んでくれる。スバルが手を汚すまでもなく、彼の『死者の書』が追加されるのならそれは願ってもないことだ。

スバルは今すぐに図書館へと向かうべきなのだ。

 

「他の連中はどこへやら、だ。――ま、都合がいいっちゃいいわな」

 

 

スバルを、ついには一度も見ないまま、レイドが身を前に傾けた。

 

まさか、飛べるのかと思うほどの自然体。

けれど当然、レイドであっても重力には逆らえないようで、落下を始める。

 

スバルが無様に何度も死んだその場所を、同じ速度で落ちていく。

 

加速した赤い砲弾のようなそれが、魔獣をひしゃぎ潰して、階段の底に着弾した。

 

「――――」

 

踏み潰された魔獣は、声も出せずに肉片となって散らばった。

単純な落下のエネルギーだけではこうはならないだろうという惨状。

 

唐突に乱入してきた赤毛の男の気配に赤子の鳴き声が一斉に消え失せる。

その場に、一瞬の停滞が訪れる。

 

レイドが、ユリウスに何かを語る。

 

そこまでを見て、スバルは立ち上がり、動き出した。

 

炎に囲まれた、燃えるような剣士たちの立ち会いからスバルは逃げ出した。

 

 

 

 

走って走って、息が切れて歩き出す。

へたり込んでしまいたかったが、でもそれ以上に逃げ出したい。

 

もう、あれだけ滾っていた殺意すらスバルを動かせなかった。

 

「――スバル!」

 

スバルの方へと人影が駆け寄ってくる。

それは――、

 

「捜したのよ!今、そっちにいくのはマズいかしら!」

 

「べ、ベアトリス……!?それに……」

 

ドレスの裾を持ち上げて、懸命な形相で駆け寄ってくるのはベアトリスだ。

だが、驚きはそれだけに留まらない。背後、彼女に同行していたのはエキドナとエルザだった、

 

「あら、元気そうね」

 

「……よりによって、ここで君と出くわすのか、ナツキくん」

 

エルザはいつも通りに笑う。その笑顔は正直見飽きている。

アナスタシアの顔で、疑うような目を向けられるのは本当に居心地が悪いどころではない。

自分に睨まれるような、そんな錯覚が巻き起こる。

 

「――っ!今はその話をしてる場合じゃないのよ!こっちにくるかしら!」

 

「ベアトリス、本気かい!?彼は檻の外に出ている!この状況でだ!」

 

だが、そうしてスバルの手を引こうとするベアトリスの行動に、顔色を変えて叫んだのはエキドナだ。彼女はベアトリスの行動の是非を問い、その上で自らの手を、スバルの方へと向ける。指を突き付ける。

 

エキドナは熱線を放つことができると知っている。これは銃口を向けられていることと変わらない。

 

『指銃』ってか。そんな現実逃避じみた考えがよぎって、自重気味に笑った。

 

「何をっ!何を笑ってる!そこをどくんだ、ベアトリス!彼はやはり、ナツキ・スバルではないんだよ!」

 

「そんなことないのよ!スバルと、ベティーとの契約は繋がったままなのよ。そのことは、ベティーと同じ立場のお前にならわかるはずかしら!」

 

その対話の意図をスバルも察することができる。精霊と人の契約。それは物理的なものではない。

スバルにとっては、何一つ感じない感覚なのだが。

 

「……だとしても、信用はできない!この状況下で檻の外に出ているんだ!いったいどうすれば彼を信じられる?納得のいく説明はできないだろう!エルザ。君は一体どうするんだ!?」

 

そう叫ぶエキドナの表情には、これまで見せたことがない強い感情が溢れていた。

ここまで彼女が感情的になることがあるのかと、そう思わされるほどに強い焦燥――追い詰められ、彼女は目の前の脅威を排除することに必死だ。必死に、なっている。

 

エルザへと加勢を求めるが、その女の返答など決まっている。

シャウラを対話も無しに真っ二つにした女だぞ。そんなこと…

 

「ひとまず、一度落ち着くべきね。彼をどうするかは重要だけれど、仲間同士で殺し合うことほど、無駄なことはないでしょう?」

 

はは。これだけ殺し合って、分かったつもりになっていたというのに。ここでも外れる。

スバルは一体何を見てきたのだろう。この目はちゃんと見えているのか?

 

それでも、エキドナは必死で説き伏せようとする。

ちょうどエルザが間に入ってそれぞれを抑える形になった。

 

みんな、みんな真剣なんだ。

 

なんだか、無性に恥ずかしくなった。それが、素直な気持ちで、

 

「もう、いい」

 

「スバル?」

 

手を握ってくれているベアトリス、彼女がスバルの囁くような呟きを聞いて目を見開いた。その、ベアトリスの小さく柔らかな手をほどく。

ふいに、音を立てて、それまで張り詰めていたものが切れた。切れてしまった。

 

「……どういうつもりだい?」

 

開き直ったような態度と言葉に、エキドナは頬を硬くして、指先を光らせる。

 

「見ての通り、降参だよ。……もう、お前らの好きにしてくれたらいい」

 

もはや、なるようにしかなれとしか感情が動けない気がした。

 

「殊勝な態度を見せれば、こちらの態度が軟化するとでも思っているのかな?だとしたら、それは大きな勘違いだ。ボクは君に、心を許さない」

 

「なんでもいい、もう。どうでもいいんだよ。また次があれば…いや、もういいか。次なんてないことを祈るだけだ」

 

キャパシティを越えて、どうにもならない事態が多発しすぎている。そんな、状況の閉塞への弱音のつもりだった。

しかし、それがどうやらエキドナとエルザには違った意味合いに聞こえたらしい。

 

「どうにも、心からの本心に見えるわ。つまりは…」

 

「ああ。次と言ったね。つまり君は、いや君たちはすでに目的を遂げたということかい?」

 

「……目的?」

 

「とぼけないでくれ!君たちの目的は、祠の『魔女』だろう!?それが叶ったから、こうして本性を現した。やはり、こんな場所へは、他の誰をも連れてくるべきじゃなかったんだっ」

 

スバルにはその推測がいまいち理解できなかった。ああ、そうか。

次という言葉を『死に戻り』を抜きに考えれば、他の誰かに使命を託したとか、そんな風に受け取られたのだろう。

 

その勘違いを、訂正する気もない。意味もない。

 

ただただ、体を動かす気もしない。あれだけよくも人を殺そうなんて必死になれていたと自分でも少し感心する。

何かに向かって進むというのは、すごいことなんだなぁなんて。この状況で客観的に自分を見ていた。

 

「スバル、スバル!どうしてしまったのよ!そんな言い方、スバルらしくないかしら!こんなところで立ち止まるはずがないのよ!」

 

「俺、らしい?」

 

表情の消えるスバル、それを横から見つめて、ベアトリスが袖を引いて訴える。

 

「俺らしいって、何なんだ。お前らが見てる、俺らしさって、どこに」

 

「……記憶をなくした。そんな、出来の悪い演技をまだ続けるつもりなのかい。論理が破綻してると言われたろう。君は記憶を失っているにしては奇妙すぎる。信じられる点は、ない」

 

「演技!?演技だと!?ふざけるな!演技なら、成り変わるんならなぁ!誰が好き好んで、『ナツキ・スバル』になろうとなんかするかよ!なれるもんかよ、こんな気持ち悪い奴…っ!?」

 

いよいよ。エキドナが覚悟の表情を決めると、ベアトリスも臨戦態勢へと切り替わり。互いの掌が光りを帯びた。

 

 

そしてその直後、スバルの主観ではゆっくりと時が流れ始めた。

そんな風に感じる。まるで、走馬灯のような。景色がゆったりと見えていく。

 

思わず、顔を下に向ける。

冷たい石造りの廊下には、さっきまでなかった。ピンク色のものが、赤いものと一緒にとめどなく溢れ出ていて。

 

通路の印象をまるっきり変えてしまっている。

 

同時に溢れかえるのは、幻想的な光の粒子。

 

青い透明感のある本流が、止めどなく空中へ霧散する。

 

 

赤いものとピンクのものは、エキドナの腹から(こぼ)れていた。

 

青い光の奔流は、ベアトリスの腹から(あふ)れていた。

 

 

エキドナは一切動けもせず、そして一言も発せずに。アナスタシアの臓物へと沈む。

 

ベアトリスは、その手をスバルに伸ばし。懇願するような目を向けていた。

向けられた手のひら。手を伸ばせば届くその小さな掌が、こちらに向かってきて…

 

スバルは避けるように、反射的にのけぞった。

 

 

「すば…」

 

驚愕に開かれる、ベアトリスの目。

 

スバルも自分で驚いた。

 

まさかこんな小さな女の子の、スバルを助けようと懸命に伸ばす手を、避けようとするなんて。

 

そして、ベアトリスは光となって消えた。

その表情は、死への恐怖とは全く別の絶望に染められていた。

 

「さぁ。あなたの中身も、見せてちょうだい?」

 

エルザが恍惚とした表情で、こちらへと歩む。

 

こいつの速度なら、一歩で詰められる距離のくせに。

投擲すればすでに殺せているくせに。

 

まるでこちらを嬲るように、楽しむように。ゆっくりとこちらに向かってくる。

 

これまで一切見せなかった嗜虐的な笑みを浮かべて、味わうように。レッドカーペットを踏み躙る。

 

ぐちゃ。ぐちゃ。と一歩一歩。恐怖を煽るように近づいてくる。

 

 

 

スバルの視界は、唐突に真っ白に染まった。

音が消える。全てが白に潰された。

 

 

噴煙が、立ち込めている。

ゲホゲホと咳き込みながらも目を開ければ、そこには塔が消えていた。

 

先ほどまであったアナスタシアの死体と笑顔のエルザ。

そのあたりがちょうど。下からの光に吹き飛ばされるような形でかき消えた。

 

誰かが、遥か下から。この塔を切ったのだと。意味不明なその理屈を確信できた。

レイドが、気まぐれに放った剣戟が、塔ごと殺人者を消し飛ばしたとでもいうのだろうか。意味がわからない。

 

 

その光が生み出した亀裂から、あの闇が溢れ出した。

 

スバルを執拗に追うあの暗闇の手。

粘着質な執着をその手で表現し、スバルへと殺到する。

 

スバルは後退り、そして走った。

 

思考ができない。スバルはもう何も受け入れられない。もう嫌だ。

 

スバルは再び走り出す。まぶたに焼きついたベアトリスの表情から逃げるために。

脳から酸素を奪いたかった。

 

スバルはひたすら走る。この手から逃れるために。

 

もうひと時も考えたくない。

 

全部から逃げたい。もう嫌だ。もう限界だ。痛いのは、嫌だ。

辛いのはもう嫌だ。

 

何より、あんな表情を見るのは、もう。

 

もう全部が、嫌なのだ。

 

 

でも一番嫌なのは、死ぬことだ。

 

死にたくなかった今、起きたこと全てから逃げたい。それでも死にたくない。

 

だって、今死ねば戻される。きっとあの緑で囲まれたスタート地点に戻されてしまう。

スバルは逃げたいのだ。

 

戻りたくなんか、ない。

進みたいわけも、ない。

 

 

ここが、どこなのかもわからない。

 

 

 

絶望が、ナツキ・スバルの心を侵食していた。

 

「――――」

 

ついに、足が止まった。

心臓が暴れ狂い、肺はなぜか必死に酸素を取り入れようとしている。

 

動けない。逃げようにもどこに逃げればいいかわからない。

 

徐々に、影の手が周囲を埋めていく。

なぜか、掴んではこない。ちょっとずつ周囲を覆って逃げ道を塞いでいるようだった。

 

「――――」

 

 

消えたい。消えてなくなってしまいたい。

 

でも死にたくない。

ナツキ・スバルは何故死ねない?

 

ここまでして、なぜ死ぬのが怖いのだ。

 

誰の記憶からも消えてなくなって、何にも影響を与えなくなるようになるまで、誰の心にもお前の名前が、お前の存在が、お前の痕跡が、残らなくなるまで消えたい。

 

でも死にたくない。

 

 

――愛してる。

 

頼む。消えろ。消してくれ。

 

――愛してる、愛してる、愛してる。

 

話しかけてくるな。ごめんなさい。消えたい、消してください。消えたいんだ。

 

――愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる。

 

消え去りたい。跡形もなく砕け散りたい。影すら残したくない。最初から存在しなかったことにしたい。自分という痕跡を消し去りたい。歴史の中から消滅したい。誰の記憶にも残りたくない。思い出の片隅にも存在したくない。価値など欠片もない。意味など最初からなかった。何ひとつ残せるものなどない。何ひとつ残すべきではない。何もかも、すべて、この世界ごと、消え失せてしまえ。

 

 

――愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。

 

 

周囲は完全に、暗黒に包まれた。奈落のようなこの場所がスバルにはお似合いだと。自分でもそう思う。

 

この闇の中に飛び込めば、消えてなくなれるだろうか。

死も生もない。苦しみもない場所に、連れて行ってくれないだろうか。

 

そこに逃げられるなら、俺は――。

 

俺は――、

ナツキ・スバルは、全てを吸い込むような、そんな甘ったるい絶望へと――、

 

 

 

「――そこまでよ」

 

 

――声が、した。

 

この世の終わりを否定する、銀鈴を思わせる、声が、した。

 

 

 

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