衝戟に備えろ
黒い津波の如き人の群れが龍を抑えている。
巨体の一挙手一投足で吹き飛ばされるも、即座に復帰するものが多く。何より数が多すぎる。
混沌とした戦場の中で、スバルのいる場所には奇妙な静寂があった。意図的に作られた空白の元にいるのはスバルと…黒い人影だ。
ケイは消えた。
龍のブレスに吹き飛ばされて、肉片の一つも血の一滴も残らなかった。
ついさっきまで一体どうすればケイは死ぬのか。どうやって殺そうかと考えていたのに。なんだ。この喪失感は。
あの目だ。まるでこちらを頼りきりにも親しくも。期待もしていないあの目。
ナツキ・スバルに向けられた目じゃなかった。ケイは今の自分を見てくれていた。
彼の言葉は今も脳内に響いている。
『全てを疑え』
そうだ。疑って確かめて。それで決めるんだ。
死者の書も疑え。確かなことはこの疑問だけだ。
そうだ。なんでこんなものが信じられる?改竄だってできるかもしれない。
初期化したPC、ウイルスソフトも入っていないそれに何かを感染させるなんて、容易だろう。
「おい。ケイは、消えたぞ。お前らは、どうなる?」
そう言われて、幽霊たちは周りを見渡し。ケイがおらず、復活しないことを認めると、その異形がぼそりと言った。
「
独り言のようにブツブツと続く。
その声はこれまでとは全く違った。
別人の声のように聞こえる。ノイズもない低い男性の声。
取り繕うのをやめたような、そんな開放感を滲ませた声色だった。
「記憶の取り出しということなら、暴食さんに食べてもらうのもいいかもしれない。私の死者の書を作れないかなぁ」
「え、無理?そんなこと、試してみないとわからないじゃないか」
「ああ、そうだね。だから、以前とやり方は変えようと思うんだ。無理して同じにする意味もない。永井くんも一緒だし。それならより合理的に、真剣に楽しめる。タブスのフリも、もう十分。初めての挑戦は、ワクワクするね」
「一体、何を?誰に言ってる?」
まるで、初めてスバルに気づいたような。そんな調子で挨拶をしてくる。
「ああ、スバル君。はじめまして。佐藤と呼んでくれて構わないよ。よろしくね」
スバルの思考が追いつかない。その豹変は一体なんだ?佐藤って、苗字の佐藤?
「私はね。ドミノが結構好きなんだよ」
「…は?」
いや、それよりこいつはなんでドミノを知ってる?こいつも異世界の?
こいつは、ケイが生み出した魔法みたいなものじゃないのか?
「並べるのじゃないよ。完成目前の、それも他人のを崩すのが一番楽しいんだ」
にっこりと異形が笑った。
「永井くんは死んでいないよ。元気さ。彼はきっと私という存在の認識をやり直している。あれだけ好意的に、親切に接したからね。あの程度の苦痛じゃ永井君は私を敵視しない。最後は警戒薄れていたし、むしろ多少の加害行為に安心したんじゃないかな?」
「それより私が協力的で、自立行動と思考をできるというのは大きすぎる利点さ。彼は決して今のままにしない。検証して私を使えないか試すんだ」
なんの話をしてる?だってこいつは、ケイを死者の書に100回以上ぶち込んだ張本人だ。
好意的で、親切?一体何の話をしているんだこれは。
「使われるたびに、信頼を積み重ねていくんだよ。社会人の常識さ。私はタブスと呼ばれてより自由に動けるようになっていく。そして一番大事なとき、永井君が私に何か、かけがえの無い何かを期待した時にこそ…」
異形の口がパックリと空いて、壮絶に笑った。
「崩し甲斐があるってもんじゃない?」
その迫力に、ドミノが倒れていく様子を幻視する。ジャラララと倒れる音が聞こえる気がした。
邪悪が無垢な笑みを浮かべる。そこに悪意を感じなくてスバルは余計に理解できない。
どうして人と遊ぶみたいな感覚で、人の大切なものを台無しにするんだと語れるのだろうか。
スバルが渾身の殺意と憎悪に支配されてようやくできるそれを、日常のように行う存在に理解が及ばなかった。
それに、そうだ。そもそも…
「それを、なんで俺に?秘密にしてなきゃ意味ないだろ…」
「言ったじゃないか。人の完成目前を崩したいって。だから良い子のフリをしてる別の世界の私のドミノを崩してやろうかなってね。どれだけ似てようと、私であろうと、
はっはっは!と笑う破綻者は、自らの罠を自らで壊すという。壊れきっていた。理解ができない。
別の世界のことなど知らないというなら放置すれば良いのに。嫌がらせに余念がないその姿を見ると、ケイの反応を理解できた。
これはダメだ。危険すぎる。
自我の成り立ちがスバルと違いすぎた。なぜ、大罪司教たちを見るときよりも鳥肌が立つのだろう。
自分であっても、今の自分と違うなら関係ない?そんな割り切り、頭がおかしくなる。
「君はどっちにしろ今回は死ぬでしょ?これから見ることはきっと永井君に伝えてね。すごく喜ぶんじゃないかなぁ」
スバルの絶句を相手にせず。佐藤は何かに集中し始めた。
そう言って指を鳴らす。
何も起きない。
もう一度鳴らす。すると、光が灯った。
『ライト』
「陽魔法の初歩の初歩だよ。人についてくる光球を作る。きっとペトラちゃんだってできるんじゃないかな?ああ、そうか。忘れてるんだっけ」
知らないと答えかけて、ガーフィールの記憶を参照して思い直す。だがそれはもういい。
光の球が浮遊して佐藤の近くを照らす。
ほんのりと暖かさを感じるような色のそれは、白熱電球を思い起こす。
「IBMで魔法が使えないなんて、少し試して無理だからって決めつけが早すぎるよ。永井君はセンスがないんだから、割引いて考えなきゃなのに。IBMが使えないんじゃない。自分が下手だって気づけたよきっと」
そう言って次に灯した光は先ほどよりも強かった。まるでカメラのフラッシュのようで、目が眩む。
「やっぱり永井君はこの手の事は苦手だよねぇ。ダメダメだよ。目の前にある材料の処理や調理は上手いけど、ゼロから創作料理とかできないタイプ」
「はは、そんなに拗ねないでよ。ごめんね。仲良くしよう?」
また誰かに向かって笑う。
まるでそこにケイがいるみたいな。まるで、自分がアナスタシアたちと話すみたいに。
そして、そんな強い光を見た他の異形がこぞって同じ光を灯した。
数千の光に空間が焼かれる。目を開けていられない。
「でもね。こんなに楽しいものを、あんなつまらない運用してるなんて、冒涜的さ。さすがに私でも許せないな」
その声に初めて、生の感情が乗った気がした。心底怒っているという様子が、ひどく不似合いで不釣り合いな、そんな印象。
佐藤は怒っていた。魔法という無限の可能性を生み出すおもちゃを、あんなに雑で残念な。型に押し込めた使い方をするなんて。
『ヘリオ』
佐藤が山吹色に光を帯びる。そうだ。ゲームのバフのような。そんなオーラが出ている。
視界の奥では、人型が波のように消えている。
誰もが光で何も見えない中、必死で生き残ろうとしているのに、こいつはなんだ?
「なんで、そんなに楽しそうなんだ?みんな死んでるんだぞ?仲間じゃないのかよ。ケイも消えたのに…」
なぜなぜなぜ?非難ではない。疑問が尽きない。
「ええー?そうだなぁ。でも楽しんだ方がお得だよ?人はみんなそのために生きてるんじゃないかな。ほら、怖い顔するより楽しみながらの方が魔法は上手く使えるみたいだ。実用性もある。永井君には笑顔が足りないんだよ、きっと」
コツも掴んだし、広げてみようか。そう言って呟くとライトの光の色が白からオレンジへと変わった。
「陽魔法は一人にしか効果がない。それが常識らしいけど、実は違ったとしたら?」
その言葉は、スバルに向けられていない。自分とこの世界に対しての疑問だった。
「正確には同じ対象だけにしか効果がないのだとしたら?重複は可能なのに、自分は一人しかいないからそう見えるだけで、完全に同一の人物が一万人以上いたとしたら?」
『ヘリオスフィア』
「ほら、できた」
そして、先ほどと同じように。異形たちもその太陽を頭上に生み出した。
「身体とマナの強化。微々たるものだけどそれを光に乗せてみたら…まるで太陽だね。あったかいなぁ…」
一定範囲の自分だけを対象に、範囲から出たら効果を失う。さらにマナを消費し続けるという制約を追加して、その分効果を高めておく。
その暖かな光に照らされて、照らされて、照らされて…
目の前の幽霊の存在感が、高まっていく。スバルですらわかる。生き物としての強度が、隔絶していく。
これは陽魔法の特性を悪用した裏技だった。
歴史上初かもしれない、陽魔法の重ねがけがここに生まれる。
それも、数十、数百ではない。およそ1万体以上が互いに強化し合う。
そして桁違いに強化された状態で、暖かな太陽が生み出され強化のループが始まった。
もしもMMOのようなゲームであるなら、画面を数字が覆い尽くしてただろう。
そしてこの現象は、完全に同一のものではないが実のところ佐藤の試みが初ではない。
非常に近い、それでも少し異なる『魔装励起』という現象がこの世界にはすでにあった。
数百年前から言葉としては存在しながらも、重要視もされなければ、実用化なんて程遠いとされた幻の技術。
あらゆる魔法を体系化した『魔女』エキドナですら、個人では再現しようのない技術であるとして、仮の名称を付けるだけで放置した古の『空想』だった。
『魔装励起』とはすなわち、体内を巡るマナを身体強化へ利用する『流法』を強引に実現する手法であり、それは陽魔法と似て非なるアプローチで同様の効果を誘発する。
火事場の馬鹿力という言葉があるが、あれは危機的状況において肉体の制限が外れ、普段とは比較にならない力が発揮されることの表現だ。
そしてそれはこの世界においては、実際にあることとして認識されている。
精神的にも肉体的にも切迫した状況で、体内の普段は使われないゲートが開いて、結果的に『流法』を扱えるものと同じ状態へ陥ることが。
能力的に優れるものは、そうした経験から『流法』の扱いを独学で身に着けることもあるようだが、現状、その説明は本筋と外れるため割愛する。
重要なのは『魔装励起』が、人間のリミッターを強引に解除する手法であり、それが一万人以上の佐藤。その全員に発動している事実だ。
そもそも、過去にエキドナが『魔装励起』と呼べる現象に立ち会ったのはやはり戦場でのことであり、それらしき効果を発動していたのは鬨の声を上げる少数の部族だった。
彼らは戦場での習わしとして、戦いの前も、最中も、決着後も声を上げ続けた。
その士気を鼓舞する雄叫びには、部族全体の力を底上げする陽魔法のような効果が付随しており、結果、少数ながらもその部族は他から飛び抜けた戦果を挙げていた。
互いが互いを強化し合う正のループは非常に強力なものだった。
もっとも、そんな彼らも数の不利には抗い切れず、戦乱の中で消えることになり、その後も似たような集団が生まれてはすり潰され、まともに残りはしなかった。
適当に集めた集団では効果は生まれず、数が増えすぎれば効果は定着せず、実力者一人では再現性もない。故に、『魔装励起』は日の目を見ずに廃れた。
現代では類稀なる実力を有する個人が『流法』を使いこなすだけに留まっており、戦場で雄叫びを上げるとちょっと勇気が出るくらいの話になっていた。
しかし、
太陽のような光に照らされる佐藤たちに宿るのは、失われたはずの『魔装励起』の輝きだ。
発動する陽魔法の効果は『魔装励起』で言えば、その五感を研ぎ澄まさせ、身体能力を著しく向上し、肉体の頑健さを跳ね上げ、マナを増やして活性化させ、思考力や反応速度まで目まぐるしく高めるという複数の強化がかかった反則状態だ。
まるでそこに、レイドがいるかのような存在感。
いや、比較対象が大きすぎてわからない。人が、地平にいるときに惑星の大きさを感じ取れないのと同じだ。
それくらいの巨大な力が宿っている。
「でも、ここからが、お楽しみだよ」
強化された状態で熱を最大まで強化したライトを生み出す。
「全部を突っ込もう。オールインでね」
全部とは、何を指すのか。
それは、文字通り全てだ。
ごく自然に行われた『献魂一滴』によって全てをその魔法に注ぎ、魔法は変質して強化される。
『魔装励起』で高められた上で、その全てを注ぐ。あまりの熱量に、光球が歪む。安定を失いかける。
それでも、限界まで強化された感覚と、天性の才能でそれを制御する。
なぜこんなことができるのか。理由は至ってシンプル。
この人物は、魔法の天才だった。
ただそれだけ。それだけで周囲には致命的なまでの影響が及ぶ。これは運が悪かったという他ない。
天才は即興で新たな魔法を作り出す。それがどれだけ異常なことか、一切理解しないままに。
どれだけ制御をしても、歪なライトは不安定だ。だから。そうだ。こうすればいい。
新たな名前をつけて存在を世界に固定する。
『
テンションは最高潮。馴染みの曲が脳内でかかり、精神的な無敵状態に突入する。
「ファイヤーボールにしては、大きすぎるね」
ライトはすでに原型はない。直径3mはあろうかという球体が輝き、そして敵へと飛んでいく。
『賢者』は言葉を失った。
今まさに魔法を編んで生み出しているのをみたから。あり得ない。どんな才能だというのだ。
そしてその天才が、ゴミのように命を捨てることも含めて理解が及ばない。
その星が燃料にするのは命だ。命なのだ。それをこんなに、あっさりと。
しかし、まだ避けるのは容易い。直線的に動かされるそれは確かに異常な威力だが、避けやすかった。
『予想屋』ジョナスの記憶で避ける。魔法で補助して熱を防ぐ。
その攻防をスバルは倒れながらただ見ている。
呆然と見ているしかできない。その熱に、肌が焼かれながら。
それでも、動けない。せめてパトラッシュの盾になろうと覆いながらそれを見届ける。
「良い動きだ。さすが『暴食』!さっすが『賢者』!まだまだ行くからねぇ!」
佐藤のテンションは最高潮を更新し続ける。
その死の間際に、魔法を高め続けるのだ。命を使い切る刹那。
走馬灯の思考の高速化まで全部使って、新たな魔法をこの世に生み出す。
『
二つに増えた光は、単純に二倍の手数となって、『暴食』を燃やそうと動かされる。
『暴食』は『賢者』の肉体を上書きしジョナスそのものになって避ける。予想をしきる。
全力で避けることに集中すれば、まだ余裕はあった。
「当たらないなら、動かそうか。自分で動かすのはしんどいし、せっかくだから永井君の知識もね」
マナで光る指先が空中に描くのは、数式だった。
文系でしかも学校に行かなくなったスバルにはその意味はわからない。
それは、魔法を理解している『賢者』にとっても、理解不能な魔法陣であった。
$$m_1 \frac{d^2 \vec{r}_1}{dt^2} = - G \frac{m_1 m_2}{|\vec{r}_1 - \vec{r}_2|^3} (\vec{r}_1 - \vec{r}_2)$$
$$m_2 \frac{d^2 \vec{r}_2}{dt^2} = - G \frac{m_1 m_2}{|\vec{r}_2 - \vec{r}_1|^3} (\vec{r}_2 - \vec{r}_1)$$
方程式に従って、ただ振り回されていただけの光の軌跡が変わる。
数式とはつまりプログラムだ。いったいどんな計算体がそれを計算しているのかなど、知らない。
だって魔法なんだから。できると思えばできるのだ。
永井君には夢中で信じる心というものが足りていない。
互いに引き合い、回転を生む。
近づけば加速し、そして離れれば互いに引き合う。連星と呼ばれる回転運動がそこにあった。
二つの星が互いの重力に引かれ合いながら、静かに、しかし確かに軌跡を描く。
片方が動けば、もう片方もそれに応じて揺れ動く。見えない糸で結ばれたように、絶え間なく引き寄せ合い、離れようとはしない。
時には接近し、光を交わし合いながら輝きを増す。時には距離をとり、互いの影に隠れるように闇に沈む。それでも、軌道を乱すことはない。
それはまるで終わることのない舞踏。
無限の空間の中で、二つの星はただひたすらに回り続ける。
衝突することも、決して完全に離れることもなく。
――引かれ、離れ、再び巡る。
そんな運命を背負いながら、二つの星は静かに時を刻んでいく。
追われる相手の空間を確実に削りながら、美しい星は回り続ける。
跳躍者の顔が輝石頭へと変わり叫ぶ。
「なんだ!なんなのだそれは!魔法陣?原理は?文字の意味は何だ?何一つ知らぬ!教えろ!よこせ!それを食わせろ!」
予想屋と跳躍者が混じり、賢者が顔を出しながらも、避け続ける。
空間跳躍と、超級の予想。その計算能力で避け続けた。
しかし、逃げるだけで精一杯。倍になった光球の隙間を抜け続ける。
「すごいな。未来でも見てるみたいな予測だ。あんまり当たる気がしないね」
「じゃあこれを予想できるかな?」
『
$$m_i \frac{d^2 \vec{r}_i}{dt^2} = \sum_{j \neq i} G \frac{m_i m_j}{|\vec{r}_i - \vec{r}_j|^3} (\vec{r}_j - \vec{r}_i)$$
三つに増えた星が動き出した。
互いに引き寄せられながらも秩序なく揺れ動く。
一つが僅かに進めば、もう二つがそれに引かれ、軌道を変える。まるで見えない糸で複雑に絡み合った操り人形のように、予測不能な軌跡を描き続ける。
二つの星が一瞬だけ寄り添えば、残る一つが引き離され、遠ざかる。だが、決してそのままでは終わらない。すぐに新たな重力の引き合いが生まれ、また三つの星は形を変えながら舞い始める。
交差し、ねじれ、絡み合い、そしてまた離れる。
静寂の宇宙にあって、彼らの運動はまるで混沌そのもの。
一瞬の均衡が訪れたかと思えば、次の瞬間には再び軌道が乱れ、もはや元の位置を知ることすら叶わない。衝突するのか、遠くへ弾かれるのか、それとも永遠に続く混沌の踊りを続けるのか――誰にもわからない。
これこそが、三体の星が刻む、予測不能の運命。
厳密に証明された混沌が、ここに現れた。
だんだんと誤差が出る。予測からズレる。
それが到達する前に、どうにか一撃をと遠距離から狙い撃つ。
「遥かな星空、一筋の奔流をみよ」
『彗星アズール』
極大の青緑の彗星が、凄まじい速度で放たれる。
それは一粒の流れ星ではない。力の限り続くマナの奔流であった。
いや、オドまで使う最後の力。『暴食』本来の手がそれを抑えようとするが、ルーサットの自我に潰されてライの面影は星屑のように消えていく。
その全てを消し去るはずの彗星は。
三体のうちの一つにぶつかり、かき消えた。
絶句し、見開かれる双眸。信じられないという表情に、一切の同情が宿らない声が届く。
「流れ星が恒星に勝てるわけないでしょ。ていうかそれ、1v1では強くないよ。スナイパーやめたら?」
星の動きは一切止まらず、そのまま迫る。
避けられない。自分の死が、そこに迫っていることに『賢者』と『予想屋』は最後まで予想できなかった。
「見事っ…」
自ら断末魔も上げられず、『暴食』の大罪司教があまりにあっさり焼き消える。
いや、その直前には消えていた。自ら喰らった記憶に喰われて、ライという存在は消えていた。
「さて、やっぱりドラゴンだよね。集中していこう!いやいや。逆にそれは非常識だよ。ドラゴンを前にして逃げるなんて意味不明さ」
無数の佐藤たちに群がられて、蟻に全身を這われるような状態だった『神龍』へと向き直る。
「ドラゴンスレイヤーのトロフィーは絶対欲しかったんだから」
その傍には。誰にも予測できない三つの輝きが回っていた。
その回転は、持ち主の気質を表すように、無軌道で、法則がありそうでない。捉えどころがない。
ぐるぐると、光り。動き続ける。そこには一切の感情がない。自然そのもの。
全ての始まりたる光を武器に、勇者と最も遠いものがドラゴンへと挑む。
その命の刻限が、すぐそこに迫っていても。いや、迫っているこそ。
心の底から、笑っていた。
次話のタイトルは「星を継ぐもの」ですが。
ここで問題です。
星を継ぐのは一体誰でしょう?