亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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Long may the sun shine!
太陽万歳 Y


【FILE:15】必勝祈願

夜を徹して新たな戦力と情報を戦闘計画に織り込み、練り上げた。

多くのものは夜の戦いに向けて休息をとり、戦場に出ないものは限界まで働きつづける。

 

現時点で自分にやれることはすでに一つを残して片付けた。ここで離脱したとしても大勢に影響はないだろう。

 

最後に一つ、元の世界ではしたことがなかったが()()に行こうと思う。

 

 

 

 

この世界では日の出と共に早朝から活動するのが一般的だ。参拝先も例外ではなく、目当ての人物はすでに動いているらしい。

 

 

到着したのは王選候補者、プリシラ・バーリエルの王都別邸。

 

クルシュに確認したところ、プリシラの先の宣言に嘘はない。

 

『世界は妾にとって、都合の良いようにできておる』

 

彼女が本気で思い込んでいるだけの少女でなければ、そのような魔法や加護があるのだろう。

 

自分の都合の良いように物事が運ぶ。信じがたいこの言葉が真だと仮定して考えてみる。いまさら物理法則に固執する必要なんかない。なんでもありというのがルールだ。

 

クルシュはそれが真実だとすれば王選の意味がなくなる。だからそうは想定しないと言っていたがそれは違う。これが実在したとして、決して無敵の能力ではない。彼女の敵対者に対しては絶望的であるが彼女の都合の良いように自身の目的を達成する方法はありそうだ。

 

あの苛烈な態度と言動も理解できる。そこで大きな問題になったとしても結果的には自分の都合の良い方向に向くのだろう。ならば本気で人に切り掛かっても良い。生き残るならそれが自分のためなのだ。

 

つまりあの態度は、一種の試験であると見ることもできる。

 

こうして目の前にすればわかりやすく試されている。

 

「妾はこう見えて、本が好きでな」

 

通されたはいいものの、それだけ言い放って読書を続けている。相手は本に没頭しているようでまるでこちらを意識していないようだ。

 

なかなかの速読だが、読み終えるのには2時間くらいはかかりそうだ。まずは興味を持ってもらうことからか。

 

プリシラの発言を思い出す。彼女が何度も引き合いに出していたものがあった。あれにしよう。

 

「僕は太陽がどうやって生まれ、死ぬのか。知っています」

 

空気が変わる。猛獣が、いやもっと大きな何かがこちらを見た感覚がある。

 

「全てのものは原子でできている。原子とは小さな粒で、空間を飛び回っていて、互いに引き合ったり、反発したりしている」

 

「これは、ある問いに対してのとある世界最高の学者が答えた一文です」

 

「その問いとは『文明が崩壊した後の人類に何か一文だけ残すなら、何を残すか?』というものでした。最小の情報にどんな重要なものを選ぶかという質問ですね」

 

反応はない。しかし読み進める手は止まっている。

 

「この世の全てのものは、小さな粒からできている。空気も水も土も太陽も。

 

重さがある粒には周りを引き寄せる力。重力が発生する。星は細かい粒が寄り集まって生まれていく。

 

粒が集まり重力が強まる。するとさらに粒が多く集まっていく。圧が高まった中心は高温となり火山から溢れる溶岩のように熱せられる。

 

さらに圧が高まり、一定を超えると物質そのものから生まれる特別な火が起きる。この火は燃える炎や溶岩よりも遥かに熱く、遥か遠くまで届く。

この特別な火が発生する星を恒星といい、その周りを回る燃えない星を惑星と呼ぶ。この世界の中心に位置する恒星を、我々は太陽と呼ぶ」

 

一息に話して一度様子を伺えば、さすがに読書をやめていた。

 

「今の戯言はなんじゃ?妾の読書を止めてまで放った言葉。易々とは取り下げられんぞ」

 

「僕にあなたの読書を止めることなんてできません。あなたがやめたんでしょう」

 

ふん。小賢しい。と一蹴し疑義を投げる。

 

「太陽が中心であると言ったな。かの偉大な日輪はしかし、明らかに我らの周りを回っておる。これは観測された事実じゃ」

 

「ええ。この世界の天文学の本は読みました。見かけではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは事実でしょう。けれど、それだけでは説明できないものが多すぎる。大瀑布の水はどこからどこへ?なぜ月があるのでしょう。一体誰が、どんな魔法でこの世界をこのように見せているのか興味があります」

 

高慢な態度も性格ではあろうが、その奥にある思慮深い目がじっと掴んで離さない。明らかに核心に近づけている。

 

「興味を持っていただけたようで、お話をしても?」

 

「何一つ見る価値のない、覇気のかけらもない凡俗かと思いきや貴様。そのような知識をどこで得た?」

 

「アルさんと同じ世界の出身ですよ。そこそこ勉強はしてましたので彼とは違う知識も持っているかと思います」

 

「ふん。あれな道化は記憶をいくつも落としておる。それとは関係なしに知識や勉学とは無縁の生活を送っていたであろうがな。つまり貴様のような知識をあれは持っておらん」

 

それはそれは、正直助かる。

 

「記憶力には自信があります。異世界の価値観や別世界の未来の歴史。僕はそれらを語ることができる。知ることができる未知の知識が目の前にあるなら、確かめない理由はないのではないですか?」

 

「妾は本が好きではある。しかし、そのささやかな趣味のため凡俗におもねるなどあり得ると思うか?」

 

「それが結果的にあなたの都合の良いことであればどんなことでも起こり得るのでは?」

 

扇子を開き、眼光を強めて睨みつける。

 

「妾の覇道を疑う凡俗ではなく、我が陽光に群がる虫であったか貴様。日輪のごとき妾にそのような下心で手を伸ばすならば覚悟せよ。その時には伸ばした手から順に焼き切れることになろうよ」

 

「燃やされるくらいならかまいません。必要なら知り得る限りの知識を問答としてお伝えします。または先ほどのように興味のありそうなものを伝えることも。その中で本当に知りたいことがあれば対価をいただきます。自分が求めるのはそれだけです」

 

「ほう、身の程知らずにも妾に対価を求めるか。情欲に目をくらませての狼藉ならまだ理解もできるが、そうではないというのが貴様の虫たる所以よ」

 

この場にアルがいれば驚いているだろう。このプリシラという女は、脅しで嘘をつかない。本当にやるのだ。その彼女がここまでの口答えを許しているのは快挙と言えるだろう。

 

「だがよかろう語ってみせよ。この世界で最も寛大な妾じゃ。内容によっては聞く耳を持つかもしれん」

 

髪の毛を無造作に一本引き抜き、目の前に掲げる。睨まれるが気にせず話し続ける。

 

「例えばですが、もし狙った毒が手に入るなら、これと同じくらいの重さの毒があれば白鯨を殺せるかもしれません」

 

「その毒についての知識や、毒が作用する仕組みについての知ってることをお話ししましょう。聞きたくないですか?」

 

王を目指す者にとって最大の関心は毒であろう。それはプリシラでも例外ではないはずだ。

 

「ふん。続きがまだあるのだろう。その場合の対価はなんじゃ?」

 

「そうですね。とある催しへの招待を受け取っていただく、こちらでいかがでしょうか」

 

目を開き驚いたような表情を作る。そして睨むように笑い扇子を広げ口元を隠した。

対価を求めるというのに逆に差し出してくるその姿勢は嫌いではない。

 

「毒に加えて、先ほどの太陽についても語って聞かせよ。内容によっては本にしてやらんでもない。とある催しとやらがごーじゃすな妾の目に適えばこの先も謁見を許す」

 

「先に対価を渡しますね。本日の深夜、リーファウス平原フリューゲルの大樹。そこで我々は白鯨を落とします。よければご覧ください」

 

どうやら良好な関係が築けそうだ。

満面の笑みでご機嫌なプリシラが扇子で手のひらをパシリと打った。

 

「待て、貴様先ほど確かに言いおったな。燃やしても良いと」

 

「ええ、まぁ、言いましたけど」

 

「貴様が嘘つきの愚図かどうか、今知れるのじゃ。確かめぬ理由はあるまい?」

 

おっしゃる通りだ。クルシュ様は見逃したが、あれは手ぬるい。

『信頼せよ。されど検証せよ』

 

「前言撤回するようで恐縮なんですが、あれは比喩でして…」

 

プリシラの目が冷徹に光る。きっと殺意というものなのだろうプレッシャーを少し感じる。前言を翻せば確実に敵対するだろう。

 

「死ぬのはいいんですが、服が燃えたら面倒なので心臓を刺してもらうとかそこだけ配慮してもらって良いですか?」

 

圧力は消え、疑惑の目だけがこちらを見ている。できるだけ興味関心を買っておく。これがこの祈祷の目的だ。

 

「ふん。よかろう。道化にやらせるとする。燃やさず、切り捨ててやろう」

 

呼びつけられて言い渡されたのは、客人の処刑。

ものすごく嫌そうなアルに命令し、処刑のスタイルが決まる。

 

上裸になってうつ伏せに伏せて、アルの刀を受け入れる形となった。

 

「なぁ姫さん。これ本当にやる必要あんのか?せっかく見つけた同郷人と三人で飯を食って思い出話をするってのが次の休日やりたいことだってのに。自分の手でパーにすんの最悪ってレベルじゃねーぜ」

 

「たわけ。道化ごときが妾に意見するでない。貴様が止めるならば、そう思いとどまることを期待しての戯言なのだろうよ。それでは確認にならぬゆえ、妾が手ずから首を二つ刎ねることになる。そうなれば一体誰が片付けると?」

 

まさかこのふぁびゅらすな妾などと戯言を言うまいな。とアルにも脅しがかかる。

 

「おいおい。マジなの?まぁでも刎ねられたくもないし、兄弟もいいってんなら我が首可愛さにやるけどさ、けどマジな話まずくねーか?こいつはカルステン公爵の…」

 

「すみません。早くしてもらえます?次の予定も詰まってまして」

 

「人が命懸けで助命嘆願してやってんのに何その態度!?意味わかんねぇし怖えよ!本当に日本出身か?だとしても戦国時代出身とかじゃね!?」

 

「平成日本ですよ。ちなみに亜人って知ってます?」

 

「いいや、知らねぇ、よっ」

 

雑談をしながら、青龍刀が突き刺さり抜かれる。異常な光景が中庭にあったが、あまりにもあっさりと終わったため使用人たちすら気づかない。

 

もし彼女の力が事実であっても王選で勝つことは可能だ。自身が王になるよりも別の人物が王になった方が彼女にとって都合が良いならそれは確実に起こるのだから。

 

王になることで生じるデメリット。王にならないことで得られるメリットを整える。彼女はおそらくだが何にも執着しない。結果を受け入れるようにできている。

その有り様は果たして傲慢と言えるだろうか。むしろこれまで出会った人の中で最も謙虚なのではなかろうか。

 

気になるのはその意思だ。何を望むのだろうか。所信表明の場においても望みは話していなかったように思える。

 

面白いか面白くないか。本当にそれだけか。まぁそれもどうでも良い。自分が元の世界に帰ることが彼女にとって都合が良いとされれば、それは達成されるらしい。帰り方を見つけてしまったようだ。心からその加護があることを祈る。

 

毒に興味が湧いたことで、すでに集めている毒の中に本当にあの毒が入っていれば面白い。なくても問題はない。

 

本当にこれは祈祷であり、願掛けなのだ。元の世界で祈る意味は見出せなかったが、こちらの世界で意味がないかはまだわからない。

 

既知の物理法則を信じることを科学と言うのではない。未知を検証する姿勢を科学と呼ぶのだ。

 

 

人事は尽くした。天命を待とう。

 




【格言について】
信頼せよ。されど検証せよ。
Trust, but verify(「トラスト、バット・ヴェリファイ」)は、ロシアのことわざを英語に翻訳した言葉で、「信頼せよ、されど確認せよ」 を意味する。ロシア史の研究者がロナルド・レーガンにこの言葉を教え、レーガンがミハイル・ゴルバチョフと核軍備の縮小について交渉した際にこの言葉を何度か引用し、それ以降、国際的に知られるようになった。

※アンケート結果を活動報告に共有しました。みなさまご協力ありがとうございました!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=318595&uid=367651
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