亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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「成功とは、最後までやり抜くことだ。」
トーマス・エジソン


記憶の回廊 半信半疑編
【FILE:150】実証的懐疑主義


 

 

 

この感覚にはすでに慣れ始めている。

 

 

 

――黒い、暗い、遠い、深い、長い、重い、苦い、闇がある。

 

曖昧な意識。

 

黒い黒いそこからスバルの意識は浮かび上がる。

 

何かを、考えていた気がした。いや考えていたことは間違いないが、どうにも記憶が曖昧だ。

 

今わかるのは、強い不安があるということ。

本当にこの先でいいのか。受け止め、受け入れ、求めた場所がそこにあるのか。

 

託し、信じ、赦し、願い、疑い、疑い、疑い、疑い、疑う『自分』が、そこに。

 

 

『――愛してる』

 

 

なんだか道を外れているような、そんな不安が、導くような声に溶かされ、薄れる。

 

「――――」

 

――白い、明るい、高い、尊い、美しい、甘い、光に向かって。

 

その魂は、惑いつつも進んでいく。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

瞬間、緩く深い眠りの淵から意識を引き上げ、ナツキ・スバルは覚醒した。

 

「――ぁ」

 

弱々しく、最初の一息が唇から漏れる。

ひどく掠れて、生気に乏しいものであったが、紛れもなく自分の声音だ。

 

 

それで、息が吸えている事実に気づいた。

あの灼熱の余波が心を焦がしている。人外の価値観を持った化け物が生み出した光によって、スバルは余波で焼け死んだ。

いいや、爆発もしていない。まさに余熱だけで死んだのだ。

 

あれは、ダメだ。起こしちゃいけない。

そんな状況に、ケイを追い込んではいけない。

あれは打開策なんかじゃない。もう一つの形が変わっただけの終焉だった。

 

台無しが人の形をして笑っていたことを思い出し身震いするが、

 

 

「――スバル、目が覚めた?」

 

「――――」

 

その、スバルの鼓膜を、すぐ近くで揺さぶったのは銀鈴の声音だった。

涼やかで優しく、穏やかで芯が強く、華やいで、そして愛おしい、声音だった。

 

それが聞こえて心臓が軋む。胸が痛くなり、スバルは拍動に耐えながらゆっくりと視線を横へと向けた。

期待と、恐怖と、喜びと、嘔吐感、そして何より疑問が湧き起こる。

 

「――――」

 

――そこには、優しげな憂慮で瞳を満たした、紫紺の輝きが待っていて。

 

「……えみ、りあ?」

 

「ええ、そうよ。スバル、大丈夫?起きれる?ちゃんと話せる?」

 

「ええと……」

 

たどたどしく名前を呼ばれ、紫紺の瞳の持ち主――エミリアが唇を緩め、首を傾げる。長く美しい銀髪が、白くなだらかな肩の上を流れ落ちる。それはまるで、月の煌めきが光の中を優雅に泳ぐようにも見えて、壮烈な美しさがスバルの心を焼き…

 

 

そしてスバルはその情動を疑った。

 

この気持ちは本当に自分の本心か?魔法があるなら、魅了なんてものもあるんじゃないか?

 

いや、これは以前の終わりかけの塔で交わしたエミリアとの対話が真実である可能性を考えた時の動揺だろう。

 

『エミリアさんがこの時点で色欲になっとる可能性は、ほとんどないんとちゃう?だってほら、薬指』

 

細く白い指は左右ともに5本揃っており、美しい爪は切り揃えられている。

 

だが、この指は本物か?

スバルは自分の眼を疑う。

 

 

エミリアの左手を掴み、その薬指だけでなく全ての指を握って確かめた。

 

そもそも、ケイのあの発言は本当か?

 

確かに色欲を名乗るあの怪物の左手薬指は欠損していたが、それに合わせて嘘をつくことも。

 

『それもないわ。他の記憶にも知識はある。それに、あの色欲の顔見たやろ?煽られて、あないに顔増やしてまで動揺するやなんて、普通あり得へん』

 

一理ある。

 

ではこの薬指については一旦前提としておこう。

もちろん、例外が出るまではという前提がつくが。

 

 

「やだ。スバル。どうしたの?そんなに夢中で指を触って、まっさーじ?」

 

 

「いや、ごめん。気になっちゃって、ところでさ、目が片方霞むんだけど魔法で治したりできない?」

 

「……え?」

 

 

スバルの右目は、視界不良のままだった。きっと精神的なものなのだろう。

そりゃそうだ。今は以前と違って確かめてやろうという気概に溢れているが、依然変わらずに完全に信じられるのはパトラッシュだけ。

 

それと、自分の疑心だけだ。

 

でも、スバルは行動をする。疑いを信頼に変えるために。

 

 

そこからは、久々に体験する大騒ぎだった。

 

皆が集まりスバルを心配し、気に掛ける。

それが真実かどうかなんて気に病まなくていい。

 

全部嘘と思えばいいんだ。この全てを疑うと決めたなら、心も決まった。

 

死者の書を読んだ者たちすら、疑心の対象からは外さない。

もちろん、読んでいないものよりは情報は多いが。

 

 

「てなわけで、すまん。どうにも、全部じゃないが、記憶と片目の焦点を落としちまったらしい」

 

肉体的には問題なく、おそらく精神的なショックによるものと判断される。

その診断にスバルは納得した。あの光景を見続けた右目は、物事を正しく見るということをやめたらしい。

ピントの合わない右目。しかし瞼はピクピクと動き続ける。

 

見えないのにみんなの視線が痛いな。眼帯でも作ってもらおうか。

 

 

ここからはすでに知っている流れに身を任せる。

 

スバルの告白から始まった混乱は。動揺と受容へと展開し続くのはラムからの叱責。

 

その後の図書館探索では、スバルは自身の死者の書を探すが徒労に終わった。

 

そして半日が過ぎた頃。

 

そうだ。それを超えて、無防備にあの螺旋階段まで行けば、きっとあれが来るはずだった。

 

 

最悪、落とされてもいい。死も受け入れよう。

だが、確かめさせてもらおうじゃないか。

 

無防備にいることも条件かもしれない。だから、そうしておく。誰にも、知らせない。

誰かが殺意を持っているということが、あまり怖くなくなっていた。

 

あのケイの苦労を見たからだろうか。あの佐藤を見たからだろうか。

無垢で無邪気なあれに比べれば、殺意や悪意の方が理解できる。100年ループしろとは言われていないのだ。数時間をやり直すことなんて、軽い。

 

そう考えている。それが正しいと思えているが、体の震えは止まらない。

 

スバルの体は、その心とは裏腹に死を腹の底から避けたがっていた。

 

そして、階段を登っていくと衝撃を感じ、落ちながら咄嗟に振り返ると、そこには。

 

 

メィリィが、その手でスバルを落としていた。

 

 

その目は喜悦に歪み、バイバイとこちらに手を振っている。

 

スバルはその表情を後回しに、その左手の薬指を見る。

その余裕が、今のスバルにはあった。

 

そして、そこには…

 

 

 

 

指が、なかった。

 

 

 

 

そしてスバルはやり直す。

 

その死を対価に新たな前提を持ち帰り…

 

 

 

 

 

そのはずだったのに。

 

螺旋階段の下から飛んできた巨大な鳥、その背に乗る大男に捕まった。

 

「おじさん!空から男の子よお!」

 

耳元で叫ぶのは、今しがたスバルを落とした姿と同じ少女。

 

「ほいきた!よしっ。そして、ヴィルヘルム殿ぉ!」

 

ゴドフリーが空中でスバルをさらに投げると、階下にいたヴィルヘルムに投げ渡された。

 

 

流石にこれには動転する。咄嗟の疑問しか出てこない。

 

「な、なんで…?」

 

なぜ彼らがスバルを救うのだ?

 

いつも一番にスバルを見限って、シャウラを殺して一目散に逃げていくというのに。

スバルは、何一つ変えてなんていないのに!

 

なんでなんだ?そんな疑問が溢れて止まらない。

 

「スバル殿が、戦う者の顔つきになっておりました故」

 

なんだって?

 

『嘘やん。そないな微妙なとこ、ナツキ君の心持ちなんかで行動変えてたん?』

 

そうだ。そうなのだ。

 

この剣鬼と呼ばれる人物は、本当に謎だった。

 

どれだけ意識して前回と行動を同じにしていても、やけに彼だけは行動を変えるのだ。

一体なぜと思ったが、顔つき?

 

雰囲気で、なんとなくとでも言うのだろうか?

 

 

「離れて尾行しておりましたが、これでよろしかったですかな?どうやら下手人は、逃げたようですな」

 

狙いはなんだ?

 

でも一つの真実として、彼らカルステン陣営がスバルを助けたのは事実だ。

 

これは初めてのことだった。

 

 

「お母様あ!?また逃げるんですかあ?あれだけ偉そうにしてたのにい?」

 

メィリィは震える声が裏返っている。けれど、大きな声でかつての恐怖そのものに立ち向かっていた。

 

彼女にとっての恐怖そのものであるのだろう。必死に声を張り上げて、涙が流れても、心が負けないように折れないようにと声を出していた。

それを隣でゴドフリーが支えている。支えてるっていうか。感涙に咽び泣きながら、メィリィの髪をぐしゃぐしゃにしていた。

 

 

そうだ。そうなのだ。人は何かに立ち向かうには、支えがいる。普通は、そうなんだ。

 

スバルはその支えを探しに、戻ってきたのだと確認できた。

 

「ああ、ありがとう、ございます。そしたら、解散したてなんですけど、また集まってもらえますかね」

 

 

動きは早かった。即座に全員が集められる。

一つの部屋に集合する。そこはかつて、エキドナとアナスタシアを殺し、シャウラを絞め殺したあの部屋だったが、それも気にしていられない。

 

「『暴食』と『色欲』がきてる。ちなみにもうすぐ、レイドも降りてきて暴れ始める。あと、魔獣だ。魔獣も来る」

 

 

端的に伝えられた内容に、一同は絶句する。

 

いや、彼らは止まらなかった。

 

「動かぬように、お願いいたします」

 

ヴィルヘルムはすでに抜刀し、その剣をシャウラの首に当てていた。

 

 

「バルス。一体これはなんのつもり?今の聞き捨てならない戯言は一体、どこの誰が記憶をなくしておいてそんなことを知っているというの?」

 

 

「ラム殿。我らの指揮系統は最初に合意したはず、スバル殿の指揮能力を私が認める限りにおいて、彼の言葉は絶対です」

 

「そんな思考停止で、大切なものを投げ出すような真似はしないわ。そもそも…」

 

「ラム!約束したのよ?それは、だめ。きっとヴィルヘルムさんは迷わないわ。それに、私もスバルを信じたい」

 

「エミリア様!これは本当にバルスですか?不躾な目線に疑念を隠しもしない態度。それにこんなに単刀直入な物言いなんて、バルスの真似をする気もない本物より有能な偽物としか!」

 

偽物だと。そう糾弾されるのは何度目だったろう。前と同じようになるのだろうか…

 

「かつて、ナツキ・スバルという人物を評したことがありました。初めてお会いした時、その直後王城での決闘騒ぎのあと、我らの陣営におけるスバル殿の評価は…正直言って、それは低いものでした」

 

その声色には懐かしさが少し滲む。侮るような色はない。むしろ、自身を恥じるようなそんな様子。

 

「魔獣に対して特殊なところがあれど他に見るところはない。腐心し不貞腐れ、逃げるように八つ当たりをする子供。それだけの評価です」

 

あまりにもな評価に、スバルを慕うものたちが眉を顰める。

 

「実際に彼はそう在りました。これは事実です。ただし、その夕方には彼は別人のようになって話し始めたのです。白鯨を落とそうと」

 

「ナツキ・スバル殿には、我らに計れぬものがある。そしてそれを知るのは本人と、おそらくケイ殿だけ。我が陣営の頭脳が言うのです。ならば我らは剣を預けましょう。その目にどんな炎を宿していようとも、その心が前を向いている限りは」

 

剣鬼はそれだけ言い放つと決まりきったことを宣言する。

 

「ラム殿がこちらの約束を反故にすると言うのなら、我らは即座に撤退しましょう。いかがいたしますかな?」

 

「…っ!」

 

ラムからは反論がない。

 

 

「ではスバル殿、ご指示を」

 

 

ナツキ・スバルの検証が始まった。ここからは、目覚めるたびに数字を刻む。

それが、スバルの前進の証だ。

 

 

 

カウント1。

 

スバルは最初から、これを探そうと思っていた。

 

ケイが100回以上も読まされた姿を見ていれば、当然思いつく疑問だ。

 

それはナツキ・スバルの『死者の書』はあるか?というもの。

 

結論から言えば、見つからなかった。

けれど別の事実を知った。

 

シャウラが、サソリの魔獣に変化する。蠍座の女ってか。笑えねえ。

そしてシャウラは変化しそうになると即座に殺害せねばならない。

 

今後も隙をみては探すように心がけることにはする。捜索部分が重ならないようにするべきだ。

これが、明確に進んでいく進捗である。

 

これを進めながら、他の検証を進めていく。

その決意を新たに、スバルは死んだ。

 

 

カウント2

 

 

検証が始まってから最大の事件が起きた。

 

目覚めると、当たり前となった緑色が視界からない違和感に困惑する。

 

ここは、朝食後?いや、スバルが落とされ助けられ、一悶着を越えた後のあのタイミングだ。

 

「ではスバル殿、ご指示を」

 

 

動転し一度尻餅をつくが、それでも立ち直る。

まぁ当たり前だ。なんのリスクもないなんて信じられない。

 

だんだんと迫るセーブポイントの繰り上げ。これくらいあって然るべきだろう。

無限なんて、ありえない。都合の良いことなんか起きやしない。

 

 

 

カウント9

 

全力でレイド・アストレアは殺せるか?

正攻法では無理だと知っている。

 

エルザの策を聞いて実行する。

 

それは非常に単純で、あまりにも心無い手段だった。

階下で焚き火を盛大に行い、煙で燻して殺すというもの。

 

そんなに大量の薪などないと反論するが、エルザはあっけらかんと言い放つ。

 

「ここは図書館でしょう。本なら人の数ほどあるのではなくて?」

 

この方法においては、書庫への不敬が避けられないということでシャウラを殺すことになる。

これもまぁ。仕方ないだろう。仕方ない。仕方ないんだ。

 

頭はクリアで、それが最善で間違いないと言っている。けれど、胸には吐きそうな程の何かが込み上げる。

 

『スバル。疑うというのなら彼女の処遇についても考えるべきだろう。君の心が保たないぞ』

 

『せやねえ。シャウラさんの変身。あれを止める方法があるならそれがベストなんやろけど』

 

そんなことを考えているのがよくなかったのだろう。スバルはシャウラに殺された。

 

 

カウント13

 

エルザの焚書作戦は上手くいったように思えたが、前提が崩れれば機能しない。

つまりは、レイドがあそこに居続けるという前提だ。

 

ある時間からなぜかレイドが降りてきて殺される。

 

本気になったレイドは、女子供にも容赦せず、というか一切の区別をせずに塔ごとスバルたちを消し飛ばした。

 

 

カウント14

 

レイド・アストレアはなぜ出歩けるようになるのか?

 

会議も最速で畳み、一番の速さで移動できるメンバーが駆ける。向かえるガーフにおぶってもらい、エルザ、ユリウス、とともに向かう。

 

「――スバル、つくぞ!」

 

ユリウスの凛とした声が響いて、スバルは息を切らしながら顔を上げた。すると、最上段に到達したユリウスが半身で振り返り、スバルを手招いている。

それに従い、階段を駆け上がった瞬間、開けた空間に出迎えられた。

 

おかしな光景だった。血だらけで傷だらけの少年が、大男に足を掴まれ恫喝を受けているような。そんな光景。

 

「そら、試してみろ。オレを食い荒らせるか、このままオレに遊ばれて死ぬか、どっちにしろ、欲しけりゃ動くしかねえ。それが人生ってもンだろ、オメエよ」

 

その光景を見て、一同は絶句する。特にユリウスの驚愕は他とは隔絶しており、あのエルザも自らの目を疑っている。

 

「あなた、なぜ?」

 

なぜ生きているのかと。全員がそれを少年に問いたかった。エルザはこれまでで一番の動揺を示している。

だって彼は死んだはずだ。『暴食』の大罪司教。ロイ・アルファルドが、そこにいた。

 

そして、スバルたちが何をするまでもなく、状況は動いていく。

 

「――あァ、ああ、ああッ!わかった、わかったよ、わかったさ、わかったとも、わかったから、わかってるから、わかりたいから、わかっているからこそ!暴飲ッ!暴食ッ!アンタの、お望み通りにしてやるさッ!喰らわずには、いられないッ」

 

逆さのまま、顔のすぐ前に引き上げられた『暴食』がレイドに吠える。そして、『暴食』は手を伸ばすと、眼帯に覆われたレイドの左目のあたりを掴んだ。

それから大口を開け――、

 

「――レイド・アストレア」

 

ぺろりと、何かをめくるように『暴食』がレイドから手を離した。そして、その何もないはずの掌を愛おしげに見やり、舌を当てる。

そのまま、見えない何かを咀嚼し、貪るように啜る音が鳴り響いた。

そうして――、

 

「――ぁ」

 

ふっと、変化は一瞬で到来した。

それはまるで幻か何かだったかのように、レイドの姿が瞬く間に消失する。確かにいたはずの空間に長身が消えて、足を掴まれていた『暴食』が床に落ちた。そのまま、器用に手をついて反転、『暴食』は身軽に着地し、自分の掌を見る。

その瞳に去来するのは、贅を尽くした美食が皿の上から消えてしまったような虚無感、寂寥感、失望感に近いもので――、

 

「あァ、すっごいなァ。あんな味が、こんな味が、どんな味がするのか、たくさんたくさんたっくさん想像してたけど……予想以上だったッ!」

 

「レイドを、喰った……?」

 

「あァ、見てたろッ!?僕たちの仇までいるじゃないか!!喰ったとも!喰ってやったとも!いいなァ、最高だなァ、これが想像だにしない味わいッ!『悪食』なんて言われてる僕たちでも、こいつの豊潤な味わいにはなるほどッ!ライの言い分がわからなくも――」

 

「――んあ?あ、あ、あー、あー、ああああー?」

 

自分の喉や腹に手を当てて、発声練習にも似た動きを始めた『暴食』。その様子をベアトリスが不気味がるが、スバルには異変の心当たりがあった。

『死者の書』を読むことは相手の記憶を自分の中に取り込むことだ。『暴食』の食事も同じ原理だとしたら…

そうだ。あの『賢者』も最後には『暴食』を超えて動いていたように見えた。

 

「ま、ま、まー、待って、ひへ、ぎひ、ぎひひッ。おかし、おかしいって、おかしいじゃないかッ!だって、こんなの……オメエ、変だろ?」

 

規格外の怪物は、食えない。逆に食われてしまうから。

 

「変なこたねえよ、オメエ。喰うか喰われるか、それが生きるっつーことだろうが」

 

レイド・アストレアが、『暴食』の大罪司教の肉体を奪い、現世への復活を遂げた。

 

それから、いくらか検証してもレイドは早い段階でそうすると決めていたらしく、妨害は無意味だった。

最短で駆けつけても、間に合わない。それがわかった。

 

善戦するもレイドには勝てない。やがて魔獣に、黒い魔の手に飲み込まれる。

 

なぜか()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それが、新たにわかった謎だった。

 

 

カウント24。

 

レイドと大罪司教を放置するとどうなるのか?互いに殺し合わないか?

 

魔獣の群れの対処を検証する。

 

魔獣の群れは異常な量だ。そもそも何でここまでの数がいきなり押し寄せる?

大罪司教もレイドも放置して、全員で押さえてようやく拮抗し塔への侵入を阻める。

 

そのうちシャウラがサソリ化して破綻する。だからシャウラを殺して挑戦するが、しかしそうなると火力が足りない。

 

シャウラはルール違反によってサソリになる。彼女の意思とは関係ない。

『暴食』と『色欲』はいずれ隠れてルールを破る。

 

 

カウント30

 

魔獣はどうやら、『色欲』の仕込みのせいで殺到しているらしいと判明した。

複数の獣が放たれており、それが砂丘中の魔獣を刺激しては塔へと誘引しているのだ。

 

ライが扮する『賢者』は固まっていれば襲ってこない。

ばらけると、スバルを探してやってくる。それまでに誰かが見つかると殺されかけてあの肉の塊にされてしまう。

 

あれができると、あいつの魔法は強くなる。

 

幾度もの試行回数を重ねてここまでは辿り着いた。

多くを知り、そして前提を組み上げた。

 

その全てで彼らがスバルを裏切ることはなかった。一度としてスバルを害することはなかった。

大罪司教を捕捉している限り、スバルが疑っていても前に進んでいる限り。

 

30回も死んでようやくだ。仲間たちへの信頼は、前提にしても良いと思えてきた。

 

 

カウント32

 

一度、初心に戻ることにした。

スバルの『死者の書』を探そう。

 

シャウラに魔法をかけてサソリへの変化を止めるという策を思いついたのは最近だった。

ベアトリス以外の全員で魔獣を止めてもらい、彼女はシャウラにつきっきりで魔法を行使している。

 

ああ、それとユリウスだ。彼がいないとレイドがこっちに来るからユリウスにも戦ってもらっている。

 

シャウラは何度も、何度も。何度も殺すことになってしまった。

あいつはサソリになるまでは決してスバルに害など与えたりしないのに。

 

今更殺さぬようにとする偽善に吐き気を覚えるかと思ったが、もはや何も感じない、

すでに感じなくなっていた痛みを、それでも心が感じようとするような。そんな緩慢な刺激を感じ取る。

 

それらの犠牲が作った時間で、スバルは探し物をする。

 

 

そして見つけた。試行錯誤のいつからか()()()()()()()()()ではなく、左目で見つけた。

 

探していなかった、意外な拾い物を。

 

 

レイド・アストレアの『死者の書』を手にしていた。

 

 

 




みなさん評価と感想の嵐をありがとうございます!

こんなに忙しい世界の中で、ストレスの多い遅い展開に耐え、ついてきてくれて感無量です。
これからも楽しませたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします!

前章ほどの破滅的な派手さはありませんが、今章もやっていきますよ!
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