亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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なんと、告白回です。

誰が誰に?と思うでしょうが、君の目で確かめてくれ!


【FILE:152】かくれんぼ

 

意識が覚醒へ導かれた瞬間、スバルは自身が死んでいないと理解した。

この覚醒は、『死に戻り』とは違う。

 

スバルは直前の対話を一度意識から切り離し、現実の感覚に集中した。

 

 

現在スバルは、書庫にて目覚めた。

 

一時間は経っていないようだが、すでに魔獣は集まり戦いが始まっている。

 

ここで時間を過ごすと何が起きるのかは知っている。

しばらく戦った後、スバルを捜索するのに飽きた『暴食』と『色欲』はレイドから逃げるように、仲間たちを後ろから攻撃し始めるのだ。それを避けるために、ある程度戦ったら全員で撤退をしてもらう予定だった。

 

 

今回は大罪司教とレイドの攻略は最初から諦めていた。

これまで重ねてきた情報収集を、一度整理する必要がある。

 

説得に一番の苦労を要したが、最終的には彼らには自分を残してもらった。

最後の決め手は、もうすぐケイが来るから大丈夫。この魔法の言葉でようやく撤退してもらえたのだ。

 

「ベティは絶対の絶対!スバルから離れてやらんのよ!」

 

「落ち着けベアトリス。最初っからお前と離れる気はねえよ」

 

「す、スバルがやけに聞き分け良いかしら。やはり記憶が曖昧なのよ!」

 

頭をさすってくれるベアトリスに、心から申し訳なくなるがそれでもまずは彼女の力が必要だ。ベアトリスを逃す方策も用意してある。

 

かくしてベアトリスとユリウスだけが残り、シャウラに魔法をかけ続ける。

こうすることによって、塔の異常がシャウラに伝わることを防ぐことができるらしい。色々と難しいことをしているようだが、専門家に任せておいた。便利な魔法があるものだ。

 

そしてスバルは、先の不思議空間で自覚した自分の中の新たな感覚に集中する。

 

ここには暖かな光が二つある。これはベアトリスとシャウラだ。

不思議な感覚だった。それでも、これは幻覚ではない。そう確信できる。

 

きっとこれは役に立つ。場所がわかるだけでもすごいが、なんというか相手の状態がわかる感じがしているのだ。

 

 

新たな力を手に入れる。そんな覚醒イベントがこんなに辛いものなんて聞いていない。

 

本を読んで彼女に会うまでは、この周回は捨てだと割り切っていたが、今のスバルは諦めきれない。

スバルはここで、この30回以上ずっと温存しておいた方策に頼ることにした。

 

切り札は決まっている。ケイだ。

 

ケイにこれまで得た情報をぶつけて、一緒に打開策を考える。

そしてその力を使って一層へと向かう。

 

自分より頭が良くて、こちらの事情も把握している男がどうやってかここにくるのだ。これを使わない手はない。

 

 

なぜここまで鬼札を温存したのか。という疑問に自問自答する。

 

この方法はもともと、ある程度情報が集まるまではやるつもりはなかった。中途半端な入力をしたら意味がないと思って。

けれど途中で、セーブポイントの後ろ倒しが発覚し余計に取れない選択肢になったのだった。下手に場面を進めて戻れなくなったらどうする?そんな恐怖に縛られていた。

 

だがここで、賭けに出ることにした。

 

 

レムと出会い、崩れかけていた心はどうにか延命はした。しかし、限界が近いことは間違いない。

 

この視界の不良は、心因性のものらしい。『死に戻り』をするたびに消えていく視界に恐怖が募り、その速度が加速していく。

 

だから、そろそろリスクを取るときだ。

無事だった左目の視界も歪んできている。死の舞踏は、永遠には続けられない。

 

そろそろ動かさないと、本当に手遅れになる。

 

ケイが来るまでどうにか隠れ続けないといけない。もし死ぬとしてもケイとベアトリス、ユリウスを脱出させて、そしてスバルは死ぬのだ。

 

そうでなくてはいけない。

 

 

壮絶な覚悟を持ちつつ、それでも脱出について本気で語るスバルの姿にエミリアは意外にも抵抗せずに従ってくれた。

やはり、前向きな態度というのが人を動かすらしい。

 

根底に何があろうと、どれほどの疑念に動かされていようと、今のスバルは前向きだ。

 

ずっと守ってくれたパトラッシュ。

 

信じたいと思えるものを見せてくれたエミリア。

 

絶望の果てに疑念という燃料を与えてくれたケイ。

 

そして、慣れないことをやろうとして限界を迎えた時に助けてくれたレム。

 

 

まだ、正直混乱している。

上手くやれている気はしない。いつ限界が来るかと恐ろしい。

 

それでも、スバルは前向きにこの混沌とした状況に向き合っている。

 

スバルの立つ土台は五つだ。

 

パトラッシュを助けたい。

エミリアと彼女に抱く想いを信じられるようになりたい。

ケイのあの目を裏切りたくない。

レムにカッコ悪いところ見せたくない。

仲間たちを死なせたくない。

 

だからスバルは戦う。死を認めてそれでも進む。

 

殺すためではなく、疑うためでもなく。

 

信じるために疑う。そう決めたのだ。

 

 

 

 

 

「って壮大な決意をしたはいいものの、やってることは隠れんぼ。俺らしいっちゃ俺らしいか」

 

「ベティでもわかるかしら。こんなに心臓に悪い遊びは存在しないのよ」

 

ケイが来る時間までどうにか隠れて生き残り続ける。そんなダサい作戦が、今回の考えであった。

ケイへのメッセージはすでに竜車に仕込んである。

 

日本語で書いたメモとヴィルヘルムの追記も添えて。

しかし転移してくるとは、陣営の者たちからはカルステン家の秘技であると言われたがいまだに信じ難い。

 

しかしまぁ、魔法のある世界がワープがないと逆におかしいか。移動不便だもんな。

 

 

 

そう思いつつ、身を隠していると何かの気配がした。

 

 

何かの爪が石の床を蹴る音がする。

 

チャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッ

 

 

音が歩き回る。

 

 

しかし、どうやら鼻は利かないらしい。

それもそうだ。この激臭にはスバルもまだ慣れない。

 

エルザの持っていた撤退時の合図、そして嗅覚への妨害、チャフのようなアイテムを使ったのだった。

 

 

音からして四足獣。おそらく嗅覚を頼りにしているのだろう。魔獣だろうか。

足取りには迷いが聞き取れた。

 

 

息を潜めて、息を殺して、自分という存在を伏せ続ける。

 

一心に祈る。どうか気づかないでくれと。

 

 

チャッチャッチャッ

 

ベアトリスは文字通り手を離せない。だから、もし見つかったならスバルが対処するしかない。

スバルの手には、全く似合わない短剣が握られている。エルザの槍と同じものらしく『色欲』にも一定の効果があるのだとか。

 

 

チャッチャッチャッ……

 

音が止まった。

 

スバルの全身から冷たい汗が噴き出す。

静寂。耳鳴りすら消えたかのような圧倒的な沈黙。

 

そして——すぐ背後から、再び。

 

チャッ。

 

喉が、ひゅっと鳴りそうになるのを必死で堪える。

視界の端で、影が揺れた。それが大きく開いた爪のついた足であることがわかった。

爪先が石の床を掻く音が近い。いや、近すぎる。

 

チャッ……チャッ……

 

音がすぐそこにある。わずか数歩の距離。

視界を動かすのが怖い。首を傾けるのも危険すぎる。気配を殺して、息を浅く、短く、確実に……。

 

スバルの手の中で短剣の柄が湿った。

 

チャッ……

 

また一歩。

 

もし、次の一歩がスバルの頭上に影を落とそうものなら。

 

 

——今度こそ、終わる。

 

チャッ……

 

獣の吐息が聞こえた。獰猛な、湿った、唸るような低い呼吸。

 

逃げ場はない。

 

——次の瞬間。

 

 

目があった。

 

 

『色欲』の顔面が、スバルを見ていた。

 

四つ足の獣に、無理やり人間の頭部を接続したような冒涜の獣がスバルを見て、気色の悪い笑みを浮かべる。

 

それだけではない。その獣には全身に目玉が埋め込まれ、周囲の全てを見えるようになっている。

 

本能的な恐怖に支配され、体が硬直する。襲われる。そう思った次の瞬間。

 

その獣は、脱兎の如く逃げ出した。

 

 

「キャハハはははははははっははは!!」

 

 

歓喜の叫びを上げて逃げる獣。それしか機能がないかのように、迷いどころか意思すらない様子だった。

 

一瞬の放心ののちに追いかけるが、追いつけるはずもない。

鬼ごっこにすらならない。

 

まずった。あれは偵察。斥候だった。

 

存在は知っていた。『色欲』が各地に放った魔獣誘因のための獣。『フラッガー』とスバルは呼ぶそれを初めて間近に見て、硬直してしまった。

 

スバルの方から、攻撃しなくてはいけなかったのに。

 

取り逃した。

 

 

状況は図ったように同時に動く。

 

ケイが、きた!

 

胸中か脳内かはわからない。スバルの内面にもう一つの光が唐突に生まれ、そしてこちらに急ぎ向かっているのがわかる。

 

 

 

「やっぱりこれ、どこで何してるのかがわかる。見える?」

 

胸元を強く掴んだまま、スバルはその感覚――ぼんやりと、淡く輝く光のようなものを感じ取る、不可思議な感覚の存在を確信する。

それをはっきりと自覚した途端に、スバルは自分がいかに不自然な状態にあるのか今更理解し、一気におぞましさ、受け入れ難い嘔吐感のようなものが込み上げる。

 

「――ぐ」

 

だが、それを奥歯を噛んで堪えて、吐き出さないように呑み込んだ。

今、自分に三本目の腕が唐突に生えたとしても、それが役に立つと踏んだのであれば、それへの嫌悪感など振り払い、自らのものとして堂々と受け入れるべきだ。

 

自然と脳裏に浮かび上がったのは、ルイ・アルネブと相対した『記憶の回廊』、あそこから背中を押されて飛び出す寸前、我が身の中に開花した力の奔流。

あれに名前を付けた。そう、その名も――、

 

「――コル・レオニス」

 

自覚と掌握、それは名を呼んだ瞬間にナツキ・スバルの魂へ広がる。

世界に名が刻まれて、その力は安定し。存在を確立させる。

 

そして、『獅子の心臓』を冠した力が正しく、その効果を――否、権能をナツキ・スバルへと与え給うた。

 

 

ベアトリスとの繋がりが、さらに広がり深くなる感覚があった。

彼女の集中と負担、それを一緒に背負う。

 

それができている気がする。一体これはなんだ?

 

 

いや、それはいい。後回しだ。

 

シャウラを軽くして背負い、元から軽いベアトリスもさらに背負う。

どうにかあいつらに会う前に、ケイと合流する。してみせる。

 

 

全身の筋肉を叩き起こし、足を蹴り出す。振り返ることなく、奥へ向かって駆ける。

 

狭い通路を抜け、階段目掛けて、無駄な動きを省いて最短距離を突き進む。

 

焦るな、焦るな、焦るな。

 

しかし——

 

ケイが見えた。浮遊してこちらに向かっている。あれに乗っているのだろう。

 

 

安堵とともに駆け寄る。

 

だが——

 

それと同時に、空気が凍る。

 

 

「英雄様ぁ〜〜?どっこいくの〜?」

 

甲高い女の声。声自体は可愛らしいとすら言えるのに、どうしてもその歪みきった性格が影響するようだ。

いやらしさと耳を塞ぎたくなるような冒涜感。

 

『色欲』も同時にスバルを見つけた。

 

その視線に、思わず恐怖を感じてしまう。

 

けれど、スバルも同時に彼を見つけた。

 

「っあ…」上手く言葉が出ないスバル。

 

「あ?」 信じられないものを見つけたカペラ。

 

「ああ…」嫌な予想が当たったと、心底うんざりするケイ。

 

 

 

三者三様の呻き声が、響いた後には爆発的な絶叫が続く。

 

「てめえ!!!なんだってここにいてくれやがんですかぁ!?アタクシのことどれだけ執拗に追っかけてんだよ。匂い嗅ぎすぎだろ気もち悪い!お前だけは、その偏執な粘っこいのは愛じゃねぇ!返せ!返せ!「大好き!」「キメェんだよ!」「抱いて、抱きしめて」「こんなところにまで来やがって!」「中に入ってきて」「二度と近寄るな!」「愛してる!」」

 

「なんでこっち来てんだよ。僕がいそうな方に行けよ…」

 

 

因縁の二人が、応酬を始める。

 

スバルはその分、冷静になれた。この後のことは、ある程度考えてある。

 

「目指すは上だ。ケイ、いけるか?」

 

「話せるだけ話せ。僕も知りたいことを伝える」

 

基本的な情報はメモですでに書いてある。現状の打破までは書けてはいないが。

 

「とはいえ、向かうのはあっちなんだよな」

 

進行すべき方向には『色欲』が発狂した様子で暴れている。

 

体が目まぐるしく変化して、そして生えた顔たちが一斉に叫ぶ。

 

 

「「「「ここで殺す(愛す)!」」」」

 

 

「付き合う必要なんかない。どうせバカだ。こっちに来てみろ。罠だけどな」

 

ケイはそういうなり、左手の薬指をトントンと強調してから近くの部屋に入る。

手招きされて、スバルも続くが…そっちは行き止まりだ。

 

 

入った瞬間に、ケイはベアトリスに指示を出す。

 

「『扉渡り』だ。あいつが来たら後方へ繋げてくれ」

 

ベアトリスはハッとして。頷く。そして懸念に気付いた。

 

「でも、これを離せば、シャウラは魔獣になるのよ。スバルを襲うかしら」

 

「こいつは殺して良いのか?やめとくか?」

 

ケイは冷徹に問う。

 

「いや、殺さない。もう、十分だ。追われるならそれで良い」

 

「せめて手足くらいは…」

 

「ケイ!!」

 

「わかった。わかったよ。魔獣をカペラとぶつける方法を取る。これでいくぞ」

 

 

扉を開けると、そこは別の通路だった。

どこかで何かを壊す音が聞こえる。

 

 

「今あいつの相手をしてる。よし。サソリと鉢合わせた。今のうちに行くぞ」

 

 

やっぱりケイの安心感は段違いだ。ちょっと怖いけど。

 

疑うことを少し忘れた。とんでもない安心感。いや、これではいけない。少しは疑わないと。

 

しかしそれでも、事実を拾うことはする。ケイは、とても頭がいい。

これだけは間違いのない事実だった。今更、彼を疑うほうが難しくなっている。

 

 

二層へと到達し、扉を開けてもらう。

 

この扉は色々試したが、エミリアが開けるかケイが不思議な力で分解するかしか、今のところ突破はできない。

エミリアがこれより上に向かって無事に帰ってきたこともまたなかった。

スバルは同行しても、お荷物にしかならずその先はほとんど探索が進んでいない。

 

道中、可能な限りのことを伝えて、できる限りの助言をもらった。

 

「佐藤って奴がいるだろ。あれ、今までの態度は嘘だ。ケイを油断させるためにそうしてる。自由にやらせたら強力だけど、後悔することになると思う。本当の詰みでもできれば使うべきじゃない…と思う」

 

『あらら、スバル君は反則だなぁ。それでも、頼ってくれたら、いつでも手を貸すからね』

 

横を並走していたのだろう。異形がしゃべったようだった。

 

スバルは簡潔に、見たことを伝えて言った。

ケイはその二つの声にショックを受けたようで、どうにかして受け止めている。そして「ありがとう」と一言だけ言った。

 

そして最後に、これをスバルから伝えなくては。

 

「ケイ。伝言だ。お前からの、伝言なんだけど。今伝えておく」

 

「だから、そういうのは先に言えって…いや、なんでもない気にするな」

 

「いや、この順番で合ってる。時間が余ればって言ってたから。それでこれは前提なんだけど。ケイが自分の死者の書を、100回以上読んだ後に言った言葉だ。よく聞けよ」

 

「…は?」

 

「っくそ!こっちは限界近いってのに、なんでこんなセリフ代弁しなきゃならねぇんだ!」

 

「一回しか言わないからな!本当に、よく聞けよ!

 

 

………

 

……………

 

 

『人生で初めて深い内省を繰り返して気付いたが、僕はこの時点ですでにクルシュに好意がある。つまりは好きだ。これは自覚の問題であって揺るぎない事実として受け止めろ。すでに決めた問題解決が優先されるのは変わらないが、自分の気持ちから、人の気持ちから逃げるな。即座にわかったつもりになって理屈をつけて内省をしないのが、僕の弱点でもある』

 

って、何言わせてくれてんだチクショウ!」

 

 

は?

 

「はぁ!?それは…っ!」

 

「『混乱?聞き間違い?あり得ない。その子供じみた反論はみっともないからやめろ。お前も100年かけて内省すれば同じ結論に至る。これを記憶喪失のスバルがでっち上げられるわけないだろバカが』だそうだ」

 

これから自分が言うであろう反射的な反論を先に潰すためのセリフすら持たされているのだこっちは。

このケイの顔を報酬として見れないなら、こんな拷問みたいなこと誰がするか。

 

「だってよ。自分に置き論破された気分はどうだよ」

 

苦悶の表情のケイ。初めて見たぜ。こんな顔。

 

「……助かった。事実なら、それは…受け入れないとな」

 

「くそ。あと何回これ繰り返すことになるんだ?マジで勘弁してくれほんと」

 

スバルも当然ノーダメージではない。なぜ、男に告白するようなことをしなければならないのか。

 

一応、ベアトリスには遠くでこちらの対話を聞かないように言ってる。これを繰り返すのは本当にしんどいぞ。

爆発しろ。いや、本当にしそうだからそう言うのはやめておこう。

 

 

二層には、メィリィが待機させていた鳥の魔獣が待っていた。

 

「よし。一層にはいけそうだ。じゃあ、ここで頼む」

 

IBMがベアトリスを拘束した。白鯨の外套。それを使って包み込み無力化する。

 

「何かしらっ!スバル!?まさかここで、一人になんて、やめるのよ!ベティは…」

 

「ベアトリス。それは俺の生命線だ。消されたら、ここでどっちみち死ぬ。俺は一層に行ければ生き残れる可能性もあると思ってる。嘘じゃない。でも、これは俺一人で行かなきゃいけない。これは、絶対だ」

 

「待って!待つかしら!ベティを、ベティを一人に、しないでぇ…」

 

「ベアトリス!ユリウスを連れて帰ってくれよな。頼んだぜ、相棒!」

 

その言葉を聞き入れると、泣きながら大人しくなる少女。IBMがそのまま、鳥へと飛び乗って離脱した。

 

「ケイも、あれで逃げて良かったんだぞ。いいのか?」

 

「いや、足止めは必要だろう。カペラと魔獣、まぁあと『暴食』くらいならなんとかする」

 

「ここは俺に任せて先に行けって、言うチャンスだぜ?それでいいのかよ」

 

純粋な疑問の表情で返されて、スバルがダメージを負う。

 

「離脱の手段なら自分でも持ってる。この高さなら十分だ。ほら、早くいけ。無駄な時間だ」

 

言うなり、鳥の方からは撤収したのだろう幽霊がスバルを運んで走り出す。

 

「スバル。お前の『死者の書』を見つけろ。その仕様なら、きっと上書きじゃなく統合できる。怖がる必要はない。それと、お前はあのサソリまで救うつもりなんだな?」

 

問われて気付いた。シャウラについて。

彼女は、一貫して人間の時にはスバルに好意的で、それはどんな精神状態でも変わらなかった。

それをいいことに、都合の良いように使い続けてそして。殺し続けた。

 

間接的には数えることもできない。一度はこの手で彼女を殺したこともある。

 

彼女について、スバルは何も決めていなかった。彼女を救いたいのか?疑問と向き合っていなかった。

 

確かめよう。彼女と対話をしなくてはいけない。

 

でも今は、スバルは突き進む。あの時に見えた気がするあの場所を、別の何かを確かめるために。

 

「あとは、伝言。助かった。悪いが今後も頼む。佐藤とクルシュ。両方、必要な情報だった」

 

思わず笑いがはみ出てしまった。ケイも無敵じゃないらしい。

 

風のように幽霊は駆ける。ケイの背中に乗っているようで、負ける気がしなかった。パトラッシュには流石に乗り心地は勝てないが。

 

 

そして龍の肉薄を躱し、ケイの幽霊を身代わりに飛び込んで、それを見た。

 

一層の上にあれがある。

 

コンソールパネルとでも言いたげなオブジェクト。

明らかに操作可能な。ゲーム的に言えばインタラクト可能な端末をその目で見た。

 

そしてスバルは、龍の息吹に消された。

 

かつてのケイと同じように。その目も熱く燃えていた。

 

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