亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:179】舞姫

 

 

大魔獣『ジャイガ』。ゴドフリーとメィリィが遭遇した異形で異常な人工の魔獣。

 

それは邪精霊を核とした魔獣の混合体を生み出す実験の成功例だった。

 

『暴食』の魔女を信奉する一部のカルト集団が研究し数百年前に構想を打ち立て、いつの日か実現された怪物だ。

 

 

いや確かに厄介なのだが、やりようはある。遭遇した当初と同じ個体ならいくらでも対処方法は思いつく。

 

しかし、もう一つ変化している点がある。あれは見逃せない。

 

その目の色が、水門都市で見た屍兵と同じ色なのだ。

 

傷つけても倒しても、再生する時の特徴的な目だった。エルザがその状態のクルガンを対処したらしいが、未完成だったからどうにかなったのだろうと振り返っていた。

 

この巨体の不死身の怪物が大暴れしたらどうなるか。

 

 

惨事以外の何ともいえない。怪獣映画を自分の大切な領地でやらせるつもりはない。

 

 

ジャイガはケイたちを一瞥し、そして無視するかのように領都の方へと顔を向けた。

のしのしと、その方角へと歩み出す。

 

やってほしくないことを、間髪入れずによくやるものだ。

 

「ロズワール様とクルシュで牽制を。ギャレクも作戦通りに!目を狙ってください!ローズに合図、魔砲兵隊で迎撃させろ」

 

即座に戦力へと指示を出す。

 

「白兵はみんな引け。邪魔するな!」

 

 

「ティア様、僕ら二人だけになりますが、あれを対処しましょう」

 

『色欲』が一瞬で消えて、呆然とした状態の黒いザーレスティア。レーゼがそこにいる。

 

「当たり前よ。言っておくけど、あの怪物が暴れたってこっち優先なんだからね」

 

「幸い、僕のことをそれなりに恨んでるっぽいのでこっちは見てますね」

 

用意していた瓶を投げつけると、それごと風を撃ち込まれた。

瓶は割れて、風に巻き込まれる。

 

「殺す。殺す。殺す。殺す。殺すのおおお!!」

 

 

久々の暴虐に晒されて、ケイがちぎれる。

つけておいたティアからの贈り物『白結』によって服がマナで再構成される。

 

ティアは自らを風で防いでいるが、出力差は否めない。後方へと吹き飛ばされ茂みへと消えた。

 

 

そこから数分の間は殺戮が繰り返されるだけだった。特筆すべきこともない。

 

 

復活し、ケイは最短で作戦を実行した。

 

「お前、結構話聞けてるだろ?判断能力もありそうだ。その自棄になった姿はわざとだな?」

 

それを言いつつ、止まらない涙を拭った。

ケイは涙を抑えられなかった。号泣である。

 

人は限界を超えると涙が出るのだ。

 

あまりにも臭い。臭すぎる。

 

『角臭獣』スカンプが出す刺激臭を伴う分泌液。それをあまり希釈しないでぶん投げたのがさっきの瓶である。

 

一帯はしばらく生物が近寄れないほどの激臭に見舞われている。

臭すぎて目が痛いくらいだった。

 

定期的にリセットしないと、おかしくなりそうだがそれは相手がやってくれる。

 

「ほら、脅威度の低い僕の方に攻撃が増えた。イラついたんだろう。お前の敵討ちに関係ないのに腹が立って八つ当たりか。もう少し真面目に復讐したらどうだ?」

 

 

レーゼはザーレスティアの顔で絶叫し、そしてゲホゲホと咳き込みつつケイへと全ての風を伸ばした。

 

その圧倒的な破壊の渦が、ケイのはるか横を通過して森を蹂躙していく。

 

 

???

 

 

黒い殺意の塊はその結果を理解できない。なぜ。そうなる?という表情だ。

 

 

「ほらな。お前は言葉を分かってる。だから油断したんだ」

 

特に仕掛けを説明するわけでもなく、後方を指さした。

即座に後ろを振り向いたが、そこに何もないことを見せつけられる。

 

 

「このっ!!」

 

また騙された。殺してやる。

悪態と殺意を叩きつけようと思ったら、熱線が撃ち込まれる。十分に余裕を持って防げるはずだったのに、それは体を掠った。

 

風が、操れなくなってる?

 

 

「このあたしの美しい顔をこんなもので覆うなんて、ばっかじゃないのって思ったけどこういうことね。まぁ?ちょっとは気が利くじゃない」

 

森の奥から現れるのは、顔を不思議な何かで覆った白い方の自分だった。

 

「今のうちに制圧する。全面攻撃に注意しろ」

 

「誰にものを言ってんの?面攻撃ならこれだけ差があっても抜けられるわ」

 

 

ようやく気づいた。この、匂い!あまりに臭い匂いが立ち込めていて気づけなかったが、間違いなく『酒』の匂いがする。

 

 

酒の匂いを飛ばそうとして風を思いっきり吹かせるが、どうにも消えない。いったいなぜ?どこから?

 

 

「無駄。そんなことしても、ちゃんと準備した方が勝つんだ。じゃあ、そろそろ酔い潰れてください」

 

ケイは走って接近する。それを止めようと風が放たれるが、途中で消えたり曲がったりしてしまう。

 

それでも無我夢中の風がケイを打った。

 

やった。とそう思った瞬間に何かに殴られて、空を飛んでいた。

 

脳が揺れる。意識がブレる。

 

その飛んだ先には、白い自分がいて…

 

「捕まえた」

 

 

抱きしめられた。

 

自分の中から、黒い自分が引き剥がされる。

殺意と恨みが、剥がされていく。

 

「あんたはあんたの気持ちでやりなさいよ。人を巻き込まないでっての」

 

どこか優しくそう言われ、レーゼは意識を手放した。

 

 

そこに立つのは、白い着物に黒い帯。最初に見た通りの大精霊の姿だった。

 

横に倒れているのは鬼族の少女だ。これは手隙のものに回収させておこう。流石に事情聴取が必要だ。

 

「よし。戻った。は、いいけど。やっぱだめ。殺したくてたまんないわ。あんたのこと殺していい?」

 

そう言ってすでにケイは一度殺された。

 

「周囲一帯にギャレクが酒を上空から撒きました。まだしばらくはマスクを外さないでください。風魔法での空気の確保をしないとあなたも倒れますよ」

 

 

「最初のやつ。なーにが二人だけよ。嘘じゃない。でもちょっとは気が利くわね。悪くないわ。死になさいよ」

 

「僕ら二人と、ギャレクは一頭です。嘘じゃない。作戦通りにしろとしか言ってませんし。というか基本的に大精霊には嘘は通じないんでしょう?やりませんよそんなこと」

 

嘘なしで騙された記憶が戻り、そして殺したくなったようでケイはまたしても刻まれた。

 

「ああ、もう!!とっとと戻って、あの魔獣を好きなだけ殺してこいよ。あなたの力を見せてください。ほら、この世界で最強の風なんでしょう?」

 

いい加減にしてくれとケイも乱暴に協力を要請する。殺されるのは耐えられるが、痛いのは普通に嫌なのだ。

 

「やっぱあんたおかしいわよ。殺されてんのにその反応。まぁその方がやりやすいか」

 

風で持ち上げられる。一緒に空へと浮かび、いや浮かんでないなこれ。ぶん投げられてるだけだ。

 

風で加速しつつ。殺される。加速して加速して加速して。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

大魔獣と呼ばれるだけはある。

 

ロズワールは戦慄していた。やはり魔女が関わるとこの世の理を無視するかのような現象と出会うことになるのだと改めて実感させられる。

 

ロズワール・L・メイザースは世界最強の魔法使いである。

 

その魔法の威力は同じアル・ゴーアであっても初心者が無理に発動したものとロズワールのものでは全く異なる結果になる。

 

力の収束。貫通力。そして爆発力と単純な熱量。どれをとっても彼を超える魔法はそうそうない。

当然、その属性を司る大精霊を相手にするのなら敗北するだろうが、一方的に負ける気は一切ない。

 

それほどの力を有する魔法使いが、空中から一方的に爆撃を行う。

 

それだけで本来の大魔獣であれば沈んだだろう。

 

しかし、不死身となったこの巨体は止まるということを知らなかった。

 

 

体内で大爆発が起きても。踏み締める地面が沈んでも。風で刻まれても、遅れて合流した黒竜から黒炎で焼かれ、竜の一撃を喰らっても。

 

大魔獣はただひたすらに前進していた。

途中、針を撃ってはくるが、本格的には相手にされていない。

 

「ここまで無視されるなんて〜ぇね。流石に初めての体験だとも」

 

『憂鬱の魔人』であってももう少しは足を止めたし、注意を向けた。かつての屈辱を思い出し、さらに魔法を編んで叩き込む。

 

無駄ではない、速度は落ちるし、再生に少しだけ時間を使うのだから。

 

何より、本命から注意を逸らすことができている。

 

 

それでも、それでもだ。

 

「全く止まりません!何か策は!?」

 

「目を狙った方が良い。潰し続ければ、最も効果的だろう。そちらこそ、何かないのか〜ぁな?」

 

クルシュはロズワールとはよく戦っていた。だからある意味では師弟関係と言えなくもない。

魔法の弟子は取らないが、空中戦闘の教示は全て行った。

 

 

「あれが来るまで、少しでも遅れさせることができればと言われてます。きっとどちらかがやってくれます」

 

遠くから、何か煙が上がっている。あれが、こちらに向かっているというのは不可解だが、何かしらの援軍なのだろう。

 

 

「じゃあ、こんなのはどうかな?アル・ドーナ!!!」

 

 

地面の凹凸が凄まじい速度で作られていく。その後の修復を考えれば途方もないほどの変形が、大地に加えられていく。

 

本体ではなく、地面への小細工。それをジャイガは嫌がっているようだった。

 

悪路を放棄し、最短経路を変えた。

 

向かうのは、真横。その先には川があるためそこでも時間稼ぎが…

 

 

「川を凍らせてください!!水を吸ったらあれは飛びます!!」

 

好転したと思ったら、そうではなかったとロズワールに伝えると、即座に川へと飛んだようだった。

 

 

クルシュはただひたすら、愚直に目潰しをし続けている。

 

あと少しでも発想が遅れていれば水を飲んでしまっていただろう。凍らされた川が行手を遮り、ジャイガは怒りの咆哮をあげて再び真っ直ぐ向かい始める。

 

だが、これでどうにか。少しだけ時間は稼げた。

 

そのまま戦い続けて、ようやく煙が追いついた。

 

「ちょおっとお!!なんでこの子がまたいるのお?どうなってるわけえ?」

 

 

それは、燃える巨大な四足獣に人の上半身を足したような怪物だった。

3mはあるその巨体は炎をあげながら、走ってきた。

 

そのうちの一つにメィリィが乗っている。

 

 

彼女は、ありえないほどの速度でケイローンの騎兵隊を率いてアウグリア砂丘から帰還した。

 

おかしな話である。空を飛んだわけでもなくここまでの速さを実現するのはどれだけ優秀な地竜であっても不可能。

 

クルシュは今ここにいるという事実から逆算した。

 

ほとんど休まず、ずっと全力で走り続ければできるのでしょうか。できるのでしょうね。

 

 

20体近い異形の群れが、二回り以上大きな怪物へととりついた。

 

並走し、その足を削っていく。

 

反撃されるが、不死性もあるようで次々に傷は治っていく。

 

ついに、ジャイガの足が止まった。領都はすでに見えるところまで来ていた。ギリギリである。

 

 

「生き返っててしかも死なないなんて、意味わかんないわよお!ああもう!やっぱりあの子も連れ帰ってくるべきだった?そんなの無理ぃ!」

 

 

メィリィは理不尽を叫んでいるが、彼女の騎兵たちも理不尽ではある。

 

あまりに体重差があるため拮抗しているが、不死身の化け物に群がって完全に止めている。

武具を炎から生成して、柔軟に戦う魔獣。それもかなり歪な魔獣であるとクルシュにはわかった。

 

 

それにしても、倒せない。

 

「ケイ、もう限界です、どうか早く…」

 

 

その願いが通じたのか。つぶやきと同時にジャイガに撃ち込まれた何かがあった。

 

領都の寸前まで迫ったジャイガにケイと『最も美しき死神』が着弾した。

 

 

「たっぷり、死ねぇ!!」

 

横っ腹から叩きつけられた豪風は、ジャイガの巨体を浮かばせた。30t近いはずの巨体をだ。

ケイローンたちも吹き飛ばされ、一切の配慮もなくただ荒れ狂う暴力が怪物をうちのめす。

 

ケイごとでもある。ミンチにされて蘇る。

 

 

「ティア様。全部刻むのは無理です。身動きを取れないようにしてください。時間さえ稼げば」

 

「わかったわよ。うるっさいわね!邪魔ぁ!」

 

ケイはよそへと飛ばされた。着地で死んだ。

 

大魔獣へ風が伸びてその手足を拘束する。

 

風が上から押さえつけて、立ち上がれないようにしている。

そのどれもが、見てわかるほどの超級の魔法。

 

天変地異と呼ばれる天災の領域の魔法だった。

 

空気という軽いものに、圧し潰される巨体。ありえぬ光景が広がっていた。

 

その光景に、ケイは流石に絶句した。

ここまでの雑な力技をケイは初めて見たのだった。

 

「やっぱ。こうじゃなきゃね。口開けて馬鹿みたいに見るのも仕方ないわね。見惚れないで欲しいんですけど?」

 

決してそんな意味で見ていたわけではないが、まぁ否定はしないでおく。

 

これなら、十分だろう。

 

 

「クルシュ。『ラウド』でフェリスへ呼びかけを。とっとと済ませろと伝えてください」

 

 

クルシュは頷き、そして息を吸った。

 

 

「フェリス!!信じていますよ!押さえているうちにお願いします!!」

 

腹が揺れるほどの大音量。これなら、『大魔獣の腹の中』にいるフェリスにも聞こえただろう。

 

 

 

それから10分が経っただろうか。

ザーレスティアが様々な方法で破壊衝動をぶつけつつも、それでも拘束を維持していたところそれは起きた。

 

大魔獣の体が崩壊していく。灰のような何かに変わっていく。

 

ボロボロと、崩れて風に消えていく。

 

最後には灰の丘に埋もれる猫耳の『青』だけを残して、今度こそ大魔獣は消え去った。

 

 

この魔獣への一番最初の攻撃は、口内へのフェリスの投下だった。彼の筋力では継続的に取り付くこともできないため仕方ない。

 

本人も承知の上だが、投下されるときには流石に濁った叫び声を「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と上げていた。

 

フェリスは致命傷を負いながら回復し続け、接触を継続することによって無力化を成した。

この魔獣にかけられた『不死王の秘蹟』を解除することに成功したのである。

 

「水門都市の時と変わってたか?」

 

「ベースはおんなじ。でも全然違うものになってる。おかげですんごい手間取っちゃった。でももう大丈夫。こんだけ時間があれば流石にネ」

 

「何よ。あたしが殺し続けてたらそのうち消えたでしょうに」

 

「勘弁してください。それもできたでしょうが、一帯が更地になりますよ」

 

 

 

「『色欲』の行方はわかりませんが、ひとまずは危機は去ったと見て良いでしょうか?」

 

一帯にはすでに、何かが起きる気配はない。

クルシュはあたりの風を眺めるが、ひとまずは平穏という感じだった。

 

「そうですね。まだやるつもりなら、あそこで大魔獣と一緒に攻めていたでしょう。向こうも撤退したかったのだと思います」

 

 

「では、つまり。ようやく、ということですね」

 

 

クルシュは領都へと声が届く範囲まで飛んでいき、そして魔法で声を大にして叫んだ。

 

「我々の勝利だ!!不死身の大魔獣は滅ぼし、大罪司教も逃げ去った!!」

 

「我々は、勝った!カルステン領は全ての戦いに勝利した!自らを讃えよ!」

 

遠く遠くから、答える叫びがおおおー!!と上がる。

 

 

長きに渡った内戦。あらゆる混乱を起こしながらも、ここに内乱は終結したのであった。

 

 

 

 




ジャイガ君…最後まで可哀想だ…

ジャイガーも愚かな人間によって理不尽にやられてたので原作通りではある。

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