亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:180】贖罪の邪道

 

 

戦後処理には錚々たる顔ぶれが並んだ。

 

「凄まじい速度で問題を解決するものだ〜ぁね。やはり君は仕事ができる。彼らと戦争をするなんて、とんだ貧乏くじを引かされたね〜ぇえ」

 

西方貴族の盟主であり、王選候補者エミリアの推薦人。筆頭宮廷魔法使いにして三色の称号をほしいままにする男。ロズワール・L・メイザース。

 

「いえ。引かされたものではありません。私が愚かなばかりに自ら進んで愚かな戦いを挑みました。彼らはそれを受けただけです」

 

南方貴族の盟主であり、討伐軍の司令官。アレクシス・カスター公爵。

この場のものたちに比べれば肩書は少ないが、この国でも有数の大貴族である。

 

「こちらの人的な被害は多くありません。即座に全てを許すことはできませんが、恨んでいても仕方がない。あなたの真摯な贖罪を、こちらも誠意を持って受けましょう」

 

王選候補者にしてルグニカ有数の大貴族であり、現在では資産家でもあり、さらには戦力も随一。という盛り過ぎ公爵。カルステン家当主。クルシュ・カルステンが主催した集まりだった。

 

 

ここに、ロズワールが連れてきたゲストが加わる。

 

「なんだ。すでに話は済んでいるではないか。仲裁のために老体が空を飛ばされたというのに、一体どんな状況なのだこれは?本当に『色欲』がいたのか?そしてこの中の誰かでないという保証は?」

 

元王国騎士団長にして、現在は賢人会に所属する国の首脳。亜人戦争の英雄であるボルドー・ツェルゲフ。

 

 

「それはあり得ません。空を飛ぶ魔法はメイザース伯にしか不可能。彼は本物だ。その彼がクルシュの魔法を見て本人と判断している。そしてカスター公爵が敵であっても問題はない。彼は処断される側です。というか大前提として『色欲』は今精神を病んでいるので、まともに人に化けることができません。ご安心を」

 

経歴不詳にして、平民を自称する書記官。永井圭がこの面子を相手に何一つ気にしない態度でスラスラと答える。

エリノアを書記として横に置いており、もはや書記官としての仕事は放棄しているようにも見えるが、彼は一言一句記憶している。あとで書き起こしすら可能なのだった。

 

「それで、私にどんな判断を下せと言うのだ。賢人会は提示された議題を審議し、結論を出す。無理を言って『全権代理』まで発行させたのだ。よほどの内容であろうな?」

 

 

クルシュはごくりと唾を飲む。これは、不味いのではないだろうか。

 

本来であれば、この内戦の沙汰を決定してもらうための一手であったが今はすでに必要ない。

当事者間ですでに話し合えており、そこに第三者は不要だった。

 

けれど、それでお帰りくださいと言うわけにはいかない。

前例などなかっただろうに、ロズワールに相当の無茶をさせてまで呼び出したのだ。相応の内容を提示しなくてはいけない。

 

ここで賢人会をこの内戦の仲裁に入れるとなれば、カルステン家は損をすることになる。

王国の預かりとして処分をされるからだ。それは、良くない。

 

 

「安心してください。内戦どころではない議題がありますので」

 

ああ、なんだ。よかった。こんな内戦どころではない重要な何かがあるらしい。さすがケイだ。

 

「今なんと言いました?」

 

「では本題ですが、ヴォラキア皇帝から直々に救援の要請を受けました。我々としては即座にその要請に応じ『災害支援』を行いたいと考えます」

 

 

沈黙が、流れた。

 

しかし、ようやくボルドーの逆鱗は反応してくれたらしく、声を出すことができたのだった。

 

「一体こいつは何を言っとるのだ?というかまたお前か!なぜいつもそうなのだ?よりにもよってお前から、ヴォラキアから救援だと?意味がわからん!!」

 

 

「事実です。まぁ好きに解釈していただいていいですが、それでみなさんはどうします?一緒に来ますか?」

 

「信じがたいという平凡な批判はこの際置いておくとしよう。君ならやりかねない。けれど、け〜ぇれどね。こちらにはそれに関わるメリットも意味もない。むしろここまでの動きをさせたことに対しての請求を…」

 

「ナツキ・スバルが今、ヴォラキアにいます。バドハイム密林に置いてきました。もうすぐヴォラキア帝国全土を巻き込む内乱に参加するはずですよ。これはすでにエミリア様たちにも伝えてます。急いで国境まで向かっているところでしょうね。オットーは水門都市にいますから、きっと真っ直ぐに入国をしようとするんじゃないかな」

 

 

……

 

……………

 

数拍の沈黙。

 

「当家としては協力を惜しまないと〜ぉも。なんでも言ってくれたまえよ。私と君の仲だろう?」

 

ピエロの手のひらの回転速度はなかなかのものだった。

 

「そもそも、僕がヴォラキアに飛ばされたのはスバルのとばっちりですので、これは本当に心からの善意ですよ。おそらく状況把握まで数ヶ月単位で短縮できたはずです。僕と貴方の仲ですから、謝礼は軽くで大丈夫ですからね」

 

「我々の仲だ〜ぁものね。お互いに全力を尽くそうじゃないの」

 

請求の話をロズワールは完全になかったことにしたようだった。

ケイとしてはそれでいい。いつでも交渉ばかりしているようでは貴族の無駄な習慣まで背負うことになる。

 

目的達成さえすればあとはどうでもいいのだ。

変なところで対抗意識を出せば、途端に互いの足を引っ張り合うことになる。『ゲーム理論』とはよく言ったものだ。

 

「カスター公爵、貴方はどうしますか?」

 

「クルシュ様の指示があれば従おう。貴方の直接の指示は受けることはできない」

 

 

まさかここまで完璧に従えているとは。へえ。と感心した表情でクルシュを見た。

えっへんと。胸を張るクルシュは満足気でもある。

 

「いえ、思わず喜んでしまいましたが、それどころじゃありませんね。ケイ。貴方はいきなり何を言い出すんですか?みなさん驚いていますよ。私もです」

 

「はい。では三人が賛成ということですね。ボルドー様はいかがしますか?」

 

自身の主の質問を後回しにする不敬を、この場の誰も指摘しない。

 

「待て待て!意味がわからんと言っているだろうが!内乱?飛んだ?何一つ筋が通らぬ!貴様やナツキ・スバルは監視塔へと向かったのではなかったのか?貴様は先日までここにいたし、ミルーラからはナツキ・スバルの報告が上がっている。南方境界線からは何一つ異変はない。貴様らが帝国に向かうのも、戻ることすら不可能だ。ましてや往復しているだと?狂っているのか貴様は!!」

 

 

「では王国軍は不参加ということでいいですかね?」

 

「話を聞けこの狂人が!不参加も何もあるか!そんな行動を認めることはできん。貴様ら全員ヴォラキアへと向かうなど不可侵条約を知らんとは言わせぬぞ!?王国側からこれを破れば即座に戦争となるっ!」

 

「ちょっと失礼します。何か認識に齟齬がありそうですね。あくまで、僕が聞いたのはこの救援要請に応じるかどうかということであって。許可を得たいとかそういうものじゃありません」

 

 

「一体、何を言っているのだ貴様は…」

 

「いや、実際これは気遣いなんですよ。我々はやりすぎている。そして白鯨からずっと貴方たちは求心力を失っている。水門都市の事件は致命的でしたね。あれはまさに国軍も近衛も全く関われていなかった。王国内であれだけの大罪司教が自由にやっているというのは国の怠慢に他ならない」

 

「そんな状況で、我々の求心力が上がりすぎてもいらない反感を買うと思って、手柄のお裾分けをしようと思ったんですよ。そっちにも噛ませてあげようという配慮なんですけどね。これは…」

 

血管が切れそうになっているボルドーは戦場かと思うような大声を張り上げた。かつての『猛犬』の面影がある。

 

「そもそも!!その話が事実無根であると言っておるのだ!その言葉一つで誰もが従うなどと思っているようだがな!そんなものはあり得ん。少しでもまともな思考力があればわかることだっ!」

 

「ええ、おっしゃる通りですね。なんの確証もないまま、災害救助の名目で軍を動かせば即座に戦争になる。国境を守るヴォラキア側も含めて有無を言わさぬ証が必要です」

 

その冷静な肯定は、一つの事実を示唆していた。

まるで、そんな証拠があるのだと。

 

「なんだ。なんなのだ貴様は。まさか本当に…?」

 

「ケイ?そんなこと、貴方であっても不可能なのでは?」

 

クルシュも流石に理解できなくなった。だって、ケイがあの転移を使ったのは明白だったから。

あれを使えば一瞬で移動できるが、それは体のみでの移動となる。つまり、証拠の類は何一つ持ち帰れないはずで。

 

第三者に見せられる物的な証拠は移動させられるはずがないのだから。

 

 

「いやいや、流石にこんな無茶を証言だけで押すわけないでしょう。見せますので一度出ましょうか」

 

 

建物を出て、裏の広場に出た。ケイが合図を出すと人払いが即座に行われていく。

 

そして用意させたのは、未使用の松明だった。

 

 

「ではメイザース伯。僕の頭を熱線で吹き飛ばしてもらえますか?」

 

眉間に皺を寄せたロズワールが、片目を細めてじっとケイを見つめる。いつもなら道化の仮面を貼り付けている顔から、わずかに困惑と警戒の色が滲んでいた。

 

「まぁ、全然やるけ〜ぇども。ここまで意図が見えないというのは、いささか慣れないね」

 

躊躇なくロズワールの指先から放たれた熱戦が一閃。ケイの額に命中した瞬間、乾いた破裂音とともに頭部が弾け飛んだ。

 

ボルドーにとってその惨劇は日常ではない。思わず目を疑ってしまう。

 

白煙と血飛沫が辺りに散り、髪と肉片が空中を舞う。身体はその場に立ち尽くしたが、すぐに崩れ落ちた。

 

破裂したはずの頭部が、ジワジワと再構成されていく。血まみれの首元から、整った顔立ちが徐々に露出する様子は、人間離れしている。

目を剥き、口を開きかけたボルドーは、何かを言おうとして言葉を詰まらせる。

 

 

そこから先は、誰であっても困惑していた。

 

なんだそれ。そういう視線が突き刺さる。

 

その視線の先、復活したケイの頭部に燃え残る前髪。その毛先が、()()()()宿して燃えていた。

ケイの頭髪の一部。その先端が焼け、白炎が登って行こうとしている。炎は風も吸わずに、静かに、しかし確実に燃えていた。

 

髪の焼け跡から這い出した炎が、松明の油に触れ、するりと延焼する。その様は無風の中で水が流れるかのように滑らかだった。松明全体が白い光に包まれ、陰影すら吸い込まれるように消えていく。

 

「ヴォラキアの至宝。陽剣ヴォラキアは、『使い手の好きなものだけを切り、好きなものだけを燃やす』その権能は、そこそこ複雑な条件付けも可能です。例えば、魂まで燃やす炎に焼かれれば、再生しても燃やし尽くすまで炎は消えない。僕のような体質でも灰になるか、永遠に燃え続ける廃人になるかですね」

 

一同の顔には理解の追いつかない混乱が広がっていた。誰もが黙し、息を呑み、視線だけが揺れ動く。

カルステン陣営ですらそうだった。ザーレスティアも「何それキモいんですけど」とギョッとしている。

 

「物理的な燃焼だけを指定することもできます。魂は燃やさずに肉体だけを燃やすことも当然できる。なので僕は皇帝陛下に『前髪の一本だけを魂まで燃やし尽くし、他に触れたものを延焼させる炎』を陽剣で出してもらいました」

 

やがて、知識のある者がようやくその意味に気づいた。小さく息を呑む音。それは確信に変わり、やがて畏怖をもって視線がケイに集中していく。

 

「僕の復活は、魂ごと復活する。カペラの変異もそうですが、彼女の左手薬指は無くなったまま。あれは多分再生はできるんです。ただそれをした瞬間に薬指は燃え上がり、そこから延焼して別の場所の魂まで燃やし尽くされるからしていないだけ。可能な限りゆっくりと燃える炎で、指定したもの以外の魂は焼かない炎という難題でしたが、さすが皇帝陛下ですね。少し煽るだけでできましたよ」

 

妹にできたのに兄にできないのかーと、ため息まじりに呟いただけでやってくれたのは秘密だ。

前髪を捧げることで状況を変えられるなら迷いは一切ない。

 

安いもんだ。髪の一本くらい。他の全てが無事でよかった。

 

 

亜人の復活と頭髪についてはかなり曖昧なところがあった。髪の毛を切った状態で心臓を抉られても髪は伸びないが髪色は戻る、頭部を失って戻ると髪の毛は切る前に戻っている。

しかし、長期間その髪型を維持していると今度は新たな髪型で復活する。

 

おそらく自己の認識を元に再構成されているのだろう。または魂とやらが自己認識や記憶を元に構成されているかだ。

 

詳しい理屈はわからない。しかし、断頭をすると髪の毛が戻る。これがケイの知った事実だった。

 

『ほら、やっぱりやってよかったよね』

 

この世界に来てからは、断頭を気にせずに行うことで得られるメリットが大きすぎた。まぁ仕方ない。記憶による死の再定義も大きかった。

 

 

「これが証明です。魂を焼き続ける。陽剣の白炎。これは他に説明ができない。この世でただ一人にしか生み出せないものです。この炎に比べればどんな公的な書類さえも偽造可能な怪しいものになる。これだけが皇帝と友誼を結んだ証ですよ」

 

ボルドーは過去に一度だけ見たことがある。ヴィンセント皇帝が決まる前。選帝の儀の前に出会ったヴォラキア皇族がこの炎を扱っていた。

悔しげに歯を食いしばりながらも、ボルドーは目を逸らさなかった。両肩をわずかに震わせながらも、認めざるを得ない事実として目の前の光景を受け止める。それがかつて見た『陽剣』の炎であると。

 

「見たことがあるのですね。それは良かった。手間が省けましたよ。貴方かマイクロトフ様くらいしか見たことないのではと心配していたのでね。貴方が全権を持っているのだからこれで足りるでしょう。そして帝国の貴族であれば当然これで説得できる。これは絶対の炎です。あとあの噂も活用して良いことになってますので、うまく行くと思いますよ」

 

ケイの燃え盛る論理を誰一人として覆せない。ヴォラキア皇帝の救援要請が本当ならば不可侵条約を結んでいる隣国としては無視するわけにはいかないのだ。

 

皇弟と噂される人物が、陽剣の炎を手に王国から軍を引き連れての凱旋。そんな物語を帝国民に夢想させる。

それは決して非現実的な話ではなかった。

 

数日後に合流する西方領軍。 いつでも動ける南方領軍。 ボルドーが指揮をすれば動かせる王国軍。

合計して1000人に近い王国の戦力が帝国領へと向かうことになった。

 

「先行して国境の帝国貴族を説得するのが先だ。それが通るなら、認めてやろう」

 

最後に行われるのはボルドーからせめてもの安全策。ケイとしても全く問題ない。

その混乱した視線を受け止めた。互いに言葉を明確に交わし合意が生まれる。

 

ようやく空気がわずかに緩み、交渉の第一段階が終わったことを全員が理解した。

 

 

 

カルステン領軍が動員されないことについては一応言及されたが、当然の言い訳がある。

南方領軍と交戦して、今動かせる状態と位置にいない。領地の復興が優先であると突っぱねる。

 

王国軍は助けなかったのだ。ここで矢面に立てというのは通らない。

 

 

これが、ケイが用意したカスター公爵への贖罪の道だった。

 

ヴォラキアの内乱など、心の底からどうでもいい。

領民たちが他国での戦争に駆り出されるなどあってはならない。

 

西方領軍。南方領軍。王国軍。そのどれもがどうでもいい。

ケイの大切な仲間ではない。南方軍に至っては明確に敵であったし、従属したとしても重用したいとは思えない。

 

 

永井圭は、クルシュ・カルステンのことが好きだ。

仲間たちもカルステン領地も好きだし、あの村の住人も好きになった。

 

好きなものを自覚した時、優先順位がこれまでよりも強烈に意識づけられた。

 

大切なものを守り、目的のために行動する。それが今の永井圭だ。

 

 

ナツキ・スバルは、好きな人を自覚した時、全部を救いたいと思った。

 

永井圭は好きな人を自覚した時、一部だけは救いたいと思った。

 

 

その違いは、ヴォラキア帝国という戦場で鮮明に浮かび上がるのだ、

人の命に余裕がなくなる戦場でこそ、『優先順位』は浮き彫りになる。

 

 

永井圭にとって大切なものは、王国ではない。他領の誰かでもない。当然、帝国ではない。

 

 

大切なのは家族と好きな人。仲間たち。カルステン領民だけなのだ。

 

 

 

 

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