亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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任務は、最愛の人を殺すこと。


【FILE:205】屍都救出作戦①

帝都の目前に、竜巻が突然発生した。

 

グァラルで起きたそれよりも、小規模で持続性もないが、それでも竜巻である。

それによってあらゆるものが巻き上げられ、帝都の空の視界は失われる。

 

すでに生者は撤退しており、そこに巻き込まれるのは死者ばかり。

それでも致命傷には遠く、傷を負ってもゾンビたちは何事もなかったように回復する。

 

本命を投下する前に、竜巻に合わせてギャレクに搭載していたいくつもの物体を落下させた。

 

迎撃されないためのデコイである。物に混ぜて落とすのは人体だ。

いくつかの遺体には不出来な落下傘のようなものをつけて、速度を緩めてある。

 

普通の人間なら死ぬ速度で落ちているが、この世界の人間は頑強だ。これくらいなら生き残るものも多いだろう。

 

まるでここから潜入しようとしていますと控えめにヒントを落としておく。

頭のいい者なら初見でも落下傘部隊を初めてみてもそう結論を出すだろう。

 

それらを落とした10秒後にケイたちも空中へと躍り出る。

 

見た目だけは特殊部隊の永井圭がパラシュートも何もなしに空中へと躍り出る。

 

『MGS3って名作だよね。やりこんだなぁ』

 

お前はゲームじゃなく実戦でやっていただろうが。なぜそこで語るのがゲームの方なんだ?

 

加速できるように姿勢をまっすぐに固め、地上へと進む。

 

やはり、帝都上空へはいくつかの魔法による対空砲撃が行われた。

想像よりもずっと対応が早い。というか早すぎる。事前に警戒していたようだ。

 

帝国において熟達した魔法使いを揃えるのは困難である。きっと『魔女』の持ち込みだろう。

 

よくよく準備しているようだ。厄介だな。

石や木箱、遺体に対しては特に光が迎撃するが、その命中率は高くない。

 

竜巻に煽られる空中で猛然と落下する物体を捉えるのは至難である。

 

 

ケイたちもいよいよ降りる。

空中からの直接降下。パラシュートは当然ない。必要なものはそもそもいない。

 

物理法則に身を任せるだけで、自由落下が与えてくれる猛烈な速度で地面へと進むことができる。

 

重力加速度によって、たったの5秒で時速100kmをゆうに超える。

 

10秒も経てば、空気抵抗と加速度の拮抗する値である終端速度に到達した。

これですでに2000m近い地上への旅を4分の1ほど消化している。

 

約45秒ほどのあっという間の旅程である。それも、何もしなければの話だ。

 

実際は、魔法によって工夫をする。

 

「ぶつからないように、散れっての!!」

 

ザーレスティアの魔法によって。空気をバラバラにした。

どういうことか。それは、空気の密度を疎にする世界初の魔法である。

 

高高度の大気を経験させ、大気圧やその他の知識を入れ込んだ結果これはできるようになった。

 

ザーレスティアの手を向けた方向は、瞬間的にだが高度1万メートル程度の空気密度になっている。

 

そこに物体やマナを持つものが邪魔をすればそう簡単にはできないが、空気だけを相手にするなら割と自由が効く。

 

そこを切り裂くように落下すると、どうなるか。

 

単純に早くなるのだ。

 

他の物体が45秒で地面にぶつかるところを、ケイたちは30秒ほどで地面に届く。

最初の対空砲撃を避けつつ、同時に着弾できる工夫だった。

 

高高度の空を、一直線に落ちていく黒い影。

ケイはその身をまっすぐに伸ばし、腕を胴に添わせて空気を切り裂いていた。

風を正面から受けることを避け、己の輪郭を限界まで絞ったその姿勢は、人というより剣に近い。

 

「はやい!すごい!すごーい!」

 

はしゃぐティアはその後すぐに言われたことを思い出し、実体化を解いて緑色の光になった。

これもまた、ケイの入れ知恵だった。

 

かつてエミリアがお披露目した大精霊。パックは実体とマナ体を自在に使い分けていた。

マナの状態は魔法攻撃に脆弱らしいが、物理的な攻撃は効かないしあらゆる制約を無視できる。

 

精霊であるなら練習必須のこの技能を、悠久の時を生きるこの大精霊は忘れていた。

 

「あ〜そういや昔は流行ってたわね。うん。なんか、すごいやってた感じは覚えてなくもないわ!」

 

駄精霊に比べ割とまともなフェリスはケイの足を必死で掴むだけである。一言も発することができていない。

ケイはもう落下には慣れていた。今更動揺はない。

 

眼前には、先に投下された箱が落ちていた。初動の差こそあれ、空気の壁がそれを引き留める。

対して、ケイたちはその壁をすり抜ける。重力の引力と空気抵抗の間で均衡しようとする終端の速度を、彼らだけが意図して越えていく。

 

 

空は遠く、地はまだ霞んでいる。

それでも、焦りも恐怖もない。彼にあるのは計算された自重と意志だけだった。

 

グングンと地上が大きくなる。あっという間に地上の輪郭が迫る。

 

対空砲撃は、落下傘が受け持っている。

 

落下していた岩や石と同じようなタイミングで、ケイとフェリスが着弾し、パンという音と共に汚い花火を地上に残した。

 

 

『さぁ。ステルスミッションの開始だ!なんでも聞いてよ。こういうのは得意だからさ』

 

帝都ルプガナは沈黙していた。これほどまでに人の気配がないことが不自然に感じられるほど、かつての喧騒は微塵も残っていない。

 

瓦礫と死臭が漂う街並み。朽ちた家屋や倒壊した門、そして澱んだ水が通りに溢れ、冠水した区域では死者の香りと共に、まるで街そのものが腐っていくような気配を漂わせている。

 

その臭いを切り裂くように、ケイとフェリスがそっと足を踏み入れた。

 

水晶宮へと続く道は、まだ他と比べれば浸水が少ない。しかし、それは同時に――、

 

死者たちの巣窟でもあった。水晶に反射する薄闇のなかで、ゆらりと立ち上がる腐肉の影。かつて帝都を守っていた兵士たち、あるいは住民であった者たちが、今や屍と化して水晶宮の外周を彷徨っている。

 

その中心を目指しながら、ケイはアベルから聞き出した座標――宰相の屋敷を目指して進んでいく。

 

 

IBMを先行させ、視界と索敵を確保。目が捉えた不自然な動きには、即座にフェリスが対応する。

 

ひとつ、またひとつと、ゾンビが倒れる。何が起こったのかさえ気づかせず、背後から静かに接近する必要すらない。

 

ティアがフェリスの糸を運び、それを接触させるだけ。

術式干渉も必要なく、ただ糸が触れるだけで対象の信号が乱され、死者たちは糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。

 

フェリスはこの状況における鬼札と言って良かった。『不死王の秘蹟』その研究は決して無駄ではなかったのだ。

 

『チートだなぁ。やりがい無視は良くないよ。せっかくだし縛りで行こう』

 

知るか馬鹿。絶対に縛りなどしない。あり得ない。

 

『ダンボールと松明だけで行こうよ。きっと楽しいから』

 

ケイは音も立てず、妄言に耳も貸さず、最小限の動きで前進を続ける。敵を殺すためではなく、目的地へたどり着くために。

 

 

月の光すら届かぬ帝都の闇を抜け、沈黙の中に潜む罠を越えながら、彼らは確実に“最奥”へと近づいていた。死者の海を泳ぐように、深く、静かに。

 

ようやく辿り着いた場所には、一見してなにもなかった。

 

しかし、その辺りには特別強固な牢獄があったとアベルは図示してケイに教えている。

その差異を掴むことなどは造作もない。

 

「ティア。この辺りに妙な風の流れがあるか?隠し部屋があるはずだ」

 

「んー? あー。あるわね。こっちだわ。んん?でも二人くらいいそうだけど。いや、三人?」

 

予想外だ。増えたのか?

まぁいいと、ティアがその扉を内側から風で開ける。対魔法や対精霊の結界でもなければこの大精霊にセキュリティは無意味である。

 

 

IBMを先行させて、そして中に潜んで奇襲をかけようとしてた知り合いを制圧する。

 

「おいおい!ふざけるなよ!?またこれか!」

 

斧を振りかぶったトッドが、IBMと鍔迫り合いを演じている。

 

「どうも。お久しぶりです。一応助けに来たので、和解しませんか?」

 

 

婚約者と一緒にこの部屋で雲隠れしていたのは、かつてバドハイム密林でケイを尋問した帝国兵。

 

トッド・ファングが婚約者と一緒にそこにいた。

 

「やっぱりお前さんか。ていうかその格好は、なんだ?それ血だろ。あまりに血の匂いしかしないから新しい屍人だと思ったぞ。どういうことだよ」

 

流石にお手上げだとでもいうように降参のポーズをするトッド。その目は何一つ諦めても妥協してもいないことをケイは知っている。

 

「でも、こんな状況の帝都になんで来た?こういう場所からは離れそうな印象だったが」

 

何食わぬ顔で、話しかけるトッドの目的は概ね予想がついている。

 

ケイは時間の無駄だと核心へと踏み込んだ。まだそこにいる人物への説明も兼ねて、声を出す。

まるで、今本性を表したかのように少しの演技を織り交ぜて。偉そうに宣言した。

 

「僕はケイ・アベルクス。ヴィンセントの弟だ。今からプリスカ・ベネディクトを救助しに行くから協力しろ。ちなみに帝国ごと滅ぶ危機だぞ。条件に合意できるなら、こちらの手も貸そう」

 

ガシャン!とそう激しく反応を示すのは牢獄の奥にいた人物だ。

 

金色の鎧を纏ったままに、その手足を壁に埋められ口を金属で塞がれた大男がそこにいる。

 

「はっきり言って。こちらに選択肢はなさそうだ。婚約者がいてね。足が悪い。どうにか帝都から出したいが、機会が欲しい。そのためなら協力できる。あとそちらのお方は…」

 

「ゴズ・ラルフォン。『九神将』だろう。彼を目当てにここに来た。聞こえているか?今放してやる」

 

ティアへと偉そうに指示を出すと癪に障ったのか、フン!と正拳突きで頭を吹き飛ばされた。

 

再生すると、トッドが凄まじい顔でこちらをみている。

 

「やっぱりお前さんも、化け物だったな」

 

「化け物度合いの不足に悩まされ続けてるけどな。もっとすごい反則が多すぎる」

 

ティアはそれでも正拳突きの勢いでゴズの拘束を破壊してくれていた。

 

急いでフェリスが駆け寄り、その容体を確認する。

 

「ゴズ一将とはいえ、あれじゃあ戦えないぞ。むしろ死んでないのが意味不明だ。それでも救出するのか?」

 

「足手纏いを増やすつもりはない。まぁ、その婚約者は非戦闘民のようだからそれくらいだな」

 

「それは、どういうことだ。だからゴズ一将はもう戦える状態じゃ」

 

「まぁちょっと待ってろ。奥の独房に隠した婚約者をこっちに連れてくる頃には解決しておく」

 

 

トッドは全くこちらを信用していない。しかし実力差もケイの不死性もしっかりと把握してくれたらしく抵抗は無意味どころかマイナスであると判断できたようだった。

 

スムーズに従い、奥へと消えた。

 

 

その間に、ゴズ・ラルフォンと対話を済ませておく。施術の前に患者の合意をとるのは基本だ。

 

「皇弟、どのか!信じられんが、その立ち居振る舞い。閣下の面影が確かにある。その精霊も見たこともないほど強く美しい。しかし、私はすでに戦えん。死ねば敵の手に落ちるらしく、介錯を頼むこともできないが、何か協力できるとするなら…」

 

ゲホゲホと咳き込む彼は、喉を潰されているらしい。

フェリスはまずそこから直して、対話をできるように整えた。

 

早く動けるようになって欲しいし、向こうもそれを望んでいる。

二、三条件を交わし、『獅子騎士』は一切逡巡もせずにそれを快諾する。

 

「そのようなことであれば問題なし!!むしろ帝国のための最善であると確信するところだ!!些事は済ませて早く行動をすべきだろう!!」

 

早くしろとせがむ彼は、生粋の武人らしい。細かなことなどどうでもいいと。血気に逸っている。

 

「暖かい。これほどの水魔法は見たことがない」

 

フェリスの手が触れ、魔法の光がゴズの体を包んだその瞬間――それまでの憔悴した様子が嘘のように消え去った。

 

荒い息は整い、沈んでいた背筋がまっすぐに伸びる。瞳には炎が灯り、筋肉が隆起していく。

 

「もうこれ、オリジナルになってるからね。当たり前だけど他じゃ絶対体験できないよ。副作用についてはちゃんと聞いたんだよネ?」

 

まだ足を縛っていた拘束具に力を込めると、甲高い音を立てて鉄が砕け散る。まるで枷など最初から無意味だったと言わんばかりに、ゴズは自らを解放した。

 

その背には、もはや一切の迷いがない。『九神将』として、そして忠臣として。皇帝と帝国の未来のために、己の命の限りを注ぐ――それが、今このときの彼の覚悟だった。

 

 

「うむ。問題ない!!では、頼んだぞ。皇帝陛下のため全力を尽くす!それだけが私だ!して私は何をすれば?指示を願います!」

 

 

ケイからの指示は明確だった。彼にとって非常に得意なことだったから問題は一切ない。

 

ここから、全力ででかい音を出し、そして囮として突っ走れ。

 

ただそれだけが指示の全てであった。

そこにトッドも婚約者を背負って随伴する。細かな判断が大雑把な一将を冷静にサポートできるだろう。

 

「ではすぐにでもいくぞ!!閣下ぁ!!!今行きますぞ!!」

 

横にいたトッドたちの鼓膜が破れたんじゃないかと思うほどの轟音を喉から迸らせて、金鎧は走り出す。

 

流石にちょっと呆気に取られた。ゴドフリーが究極に強くなればあんな感じだろうか。

あまりに騒がしく、帝都中の注目がその男に集まっていくのを感じる。

 

 

「オイ…ちょっと待て、クソでかい声で目が覚めた。クソ音量に感謝する時が来るとはな。クソが、もうあんなとこまで行きやがった!!う、オエぇ…」

 

そこにいたのは、完全に消耗し切ったハイエナに近い特徴を持つ亜人の少年だった。

血反吐を吐きながら、やつれた表情でケイたちへと近づいてきた。

 

特徴的な見た目と口調。ケイは即座に相手を特定する。彼は『九神将』の一人だ。

 

『呪具師』グルービー・ガムレットが大音量に誘われてやってきた。

 

『武器の現地調達は基本だよね』

 

人は武器じゃないが、まぁその意見には合意できる。

思いがけない拾い物に、ケイはその笑みを深めるのだった。

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