亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:210】星の微笑み

地下空間をできる限りの速度で進む。

『再誕の遺児』は先ほど乱入した時には上部の人型の部分だけを部屋へ侵入させていたが、その腰から下は別の生き物に繋がっているような構造になっている。

3m程度だったオオサンショウウオのような下部の身体は人を三人抱えるためにより大きくなり、それぞれを中心に守ってくれている。

人体の部分は周囲を睨み、時折熱線で掘削を補助している状態だ。

 

限界まで熱を遮断してくれてはいるが、普通に300度は超えているだろうと思う。フェリスはもう応答しない。

 

次々と空洞は土魔法で閉ざされていくため無理矢理に突破をしながらの逃走である。

 

そしてその途中で、広大な空間を埋め尽くす戦士たちの壮絶な戦争を目撃してしまった。

 

 

「何よあれ。あんな風に削るなんて、さいっあく… う、おえ…」

 

ザーレスティアが吐き気を催す光景だったらしい。そんな反応を見過ごそうとして、違和感に気づく。

 

そうだ。これはおかしい。彼女は人間や動物の生き死にで特に感情を揺らさない。

 

なのになぜここでそんなことを言うのだろう。

必死に指示をしつつも何か重要なものがある気がして問いかける。

 

「何が…最悪なんだ?っっあの光景を、どう思った?」

 

この問いを放つのも、実際のところかなり無理はしている。

 

荊の呪いはケイを蝕み続けているし、抑えてくれているとはいえ相当な高温に焼き焦がされ続けている。

ここまでの苦痛は結構珍しい。キツイからできるだけ早くやめたい。

 

「あんなグロいの見たことない。あんなにちぎって削るなんて悪趣味どころの騒ぎじゃないわよ。あの魔女。絶対殺してやる」

 

まだ、何を言っているのかわからない。

けれど苦手だなんて言ってられる状況じゃない。想像をして先回りし相手の意図をどうにか想像する。

 

「精霊が関わってる、のか?あれは精霊が死んでるような光景ってことか?」

 

「そうよ!!見りゃわかるでしょ!あいつとは話せないし全然これっぽっちも好きじゃなかったけど。でもこんなのは、あんまりよ!!バラバラにして、無駄に削って。ここまで苦しませるなんて意味わかんない!『精霊喰らい』なんてのよりよっぽど許せない。絶対にこれはダメなんだから!」

 

こいつは、帝国にいるという四大精霊『土塊』のムスペルを知っているのだろう。

それがそんな風に拷問されているように見えるというのだろうか。

 

その時にケイの中で先ほどの光景の辻褄が合った。

 

ムスペルの力を、同士討ちで使い切ろうとしているのか?

 

帝国の剣狼たちは、戦いを心から欲している。

それを利用しずっと力を消費し続ける装置として地下に彼らを置いている?なぜ?

 

「使い切ったら、どうなるんだ?」

 

「知らないわよそんなの!!この辺り全部あいつと一緒になってるし消えてなくなるんじゃない?ああ、だめ。ひどすぎる。あれ、止めて!止めてあげてよ!」

 

ここまで自分以外のことで感情的になるのは初めて見た。

そんなことを言われなくても、大地ごと消えるなら絶対に阻止するに決まっている。

 

帝国が滅べばいいとは思ったが、大地ごと崩落して奈落に消えろとは思ってない。

誰がそこまでやれと言った?そんなことをして何になる?

 

本当に嫌になる。あの『魔女』も破綻者だった。

あれの目的はきっとケイの理解できないほどくだらない何かだろう。

 

これは止めないといけない。この事実を知っているのはきっとケイたちだけだ。

 

崩壊してからではきっと、スバルですら間に合わない。

なぜならその時点ですでに力を使い果たしているわけで、それに取り返しがつくようにセーブをしてくれているなんてあり得るか?

 

ゾッとする想像に炎で焼かれながら背筋を凍らせる。

 

そして、思案の最中にも決して休まることはなかった。

 

壁から天井から。後ろから。とにかく全方位から陽剣が振るわれていく。

逃走は全く成功していなかった。

 

「貴公の怪物は凄まじいな!名は何という?」

 

体が勝手に襲撃しているのだろう。その言葉は理性的で友好的ですらあった。

 

「ありませんよ。そんなものっ!」

 

そう言って風の刃を叩きつける。それすら無視して斬りかかろうとする皇帝の動きは早い。ケイでは対応しきれない。

 

だから、こいつがやってくれる。

 

赤く燃えるランスが体から生えて、その皇帝を吹き飛ばす。

咄嗟にそのランスが斬られて炎上するが、即座に捨てて次の武器を生み出していく。

 

だがケイは知っている。あのケイローンがよく使っていたランスは2度と生み出せない。

作った側から燃え尽きるだろう。

 

相手は再び突っ込んでくる。

全身を消し飛ばすまでに2回は切りつけてくるのだ。

 

「ならばこの『紅詠帝』がつけてやろう!やはり名は重要だ!陽炎に焼かれてなおも、自分を生み出し生まれ続けて耐え忍ぶその姿。見事なり!そしてその鳴き声に様相は老いと誕生が混在している。『再誕の遺児』とそう呼ぶこととする!誰ぞ書記官はおらぬか?書き留めよ!」

 

芸術と合わせて武術に秀で、詩を後世に多く残した皇帝の一人がそう言った。

奇跡的に記憶力抜群の書記がその言葉を聞いていた。その奇妙な幸運を彼は知らない。

 

どうでもいいと思いながらもなぜか忘れることはできない。その名前を認識するとなぜか『遺児』の火力が上がった。『再誕の遺児』と口に出すと動きが速くなる。

 

こいつも、魔法みたいなものなのか。

 

 

そうして複数の皇帝たちを同時にその視線が焼き払う。

 

顔が増えていた。

 

視線が全体を見回してあらゆる攻撃を見つめて燃やす。

皇帝たちの襲撃を『再誕の遺児』は圧倒しつつあった。

 

 

けれど、きっと『魔女』が何かをしたのだろう。

そこから、皇帝たちの動きが変わり。攻撃手段に合理の冷たさが乗ってきた。

 

純粋な殺意とは、鋭い刃のようだ。

 

 

彼らは陽剣を、投擲した。

他の全てを無視して、切りたいものだけを切る反則が飛んでくる。

 

理に適った殺しの形。合理の刃が殺到する。

 

必死に躱すが、ケイたちを乗せての動きには限界もある。

中心には喰らわないようにしているが、徐々に削られていく。

 

さらには壁からいきなり陽剣だけが飛んできて、たまらず被弾していく。

『遺児』であっても見えなければ熱線も撃てない。

 

IBMを盾にして、どうにか被弾を減らしてやる。

 

地下の逃走はとことん予定通りに進まなかった。

 

なぜここまで先回りされるのか。地下に検知網はなかった。

一応確かめたし、あればこの奇襲は成功していない。

 

しかし、脱出経路にいずれもヴォラキア皇族が待ち構えている。

これはおかしい。咄嗟に変えて、新たに掘っても必ず立ち塞がれる。

 

IBMを盾にしても『遺児』は削られていく。燃やされていく。

必死に再誕し、体を増やして炎の延焼を遠ざけてくれているがこのままでは燃やし尽くされる。

 

その対応はまさに常識外ではある。ケイの前髪を燃やした赫炎に例えるなら、燃やされる前に伸ばし続けることで燃やし尽くされるのを防ぐようなパワープレイだ。

 

遺児に包まれ、燃やされながら指示を出す。

 

 

「まさに『再誕の遺児』。死と再生。熱を司る新たな生き物よ。赫炎に対して、自らを生み出し続けることで抗することができるとは!見事なり!」

 

空間ごと爆ぜるような猛烈な熱が生まれ、名付け親が蒸発する。

 

 

どれほど駒を失おうと、敵の王手は止まらない。

 

地下へと逃げてから、ずっと嫌な予感がする。

まるでこちらの手を読んでいるかのようなこの配置は不気味だ。

 

次の瞬間に、ケイはなぜか確信した。

驚異的なまでの読みは何かがこちらを完璧に捕捉していることを意味している。

 

何かがねばりついて絡め取ろうとしている感じがする。

世界がのしかかっているような。そんな悲鳴が聞こえる。

間違っていることをしている感覚に襲われて、後悔が脳裏によぎる。

 

…わけがない。そんなものは幻聴だ。そう意識を誘導し、こちらを諦めさせようとする何かしらの呪いでしかない。

 

だから現実的に考える。

帝国の『星詠み』彼らが一人もゾンビになっていない確率はいかほどか?

 

ゼロだろう。ゼロと言っていい。

 

星が何を言っているのかなんて知らないが、ケイのことが嫌いなのは間違いない。

それくらいは自覚している。デザイナーとは敵対することになってしまったのだろうか。

 

いや、きっとこの救出が良くないのだろう。

世界がプリシラを諦めろと言っているようで、ふざけるなと余計に反抗心が燃え上がる。

 

 

皇帝たちが、不気味に笑う。何もおかしなことはないだろうに、何かの意思を反映するように意図せず笑う。

 

歴代の『星詠み』であった皇帝たちが先回りして不気味に笑う。

違いは明白だった。笑っているのだ。目は自分が笑っている事に困惑しているのに、口角は上がりきっている。

 

つい先ほどまで『星詠み』でなかったものが『星詠み』となってその微笑みで逃走経路を塞いでくる。

 

笑う笑う。嘲笑うかのように致命的な場所とタイミングで敵が発生し続ける。

 

こんな悪夢は想像していたことがある。ナツキ・スバルと本格的に敵対することになったならこんな気分を味わうのだろうという最悪の光景が展開されている。

 

仕込んでおいた初見の爆破が通らない。徹甲弾のような攻撃も看破される。近接反応爆弾のようなものも対応され、遺児の体の一部を使った地雷も知っているかのように処理された。

 

フェリスは焼かれ続けて何かをできるほど器用ではない。

ティアは必死にプリシラを熱と攻撃から守りつつ、反撃してくれている。

 

何か自由に行動ができるのは自分だけ。

何かを変えられるのは自分だけだ。

 

そこで、不意に声がした。

 

「置いていけ。このままでは…あと三度も道を塞がれれば詰むぞ」

 

聞いたことがないほど、弱った声がする。

 

「貴様もすでに感じておろう。妾は何かに見られている。『魔女』は当然として、他の何かにもな。この獣とて陽炎には抗いきれまい。終幕は近い、その事実を認めよ」

 

その顔はこちらからは見えない。それでも、強い意志がこもった声が凛と響く。

 

「三度は言わぬぞ。置いていけ」

 

笑う彼女はどこか悟った様子である。その視点は正しく状況を完璧に把握しているのだろう。

そして自分が相手に執着されていることも。

 

優先順位を決めなければいけない。これまでに散々人に言った言葉が自分に突き刺さる。

 

プリシラを断崖へと突き落とすなら、彼らの追っ手はいくらかそちらへ助けにいくかもしれない。

見捨てるだけかもしれないが、今のまま終わるなら何かしたほうがいいのは道理である。

 

だが考えることをやめれば本当にそこで終わりだ。

 

諦めるな。諦めるな。思考を止めるな。

 

 

何かを起こせれば。ちょっとでも変えられれば。

 

しかし、思いついた側から、全てが対応されていく。

 

先を見据える何かが致命の陽剣を置いて待ち構え続ける。

赤子の鳴き声が止まり、苦悶のうめき声に変わった。

 

 

現実が、限界が炎となって迫ってくる。

 

時間切れだ。選択の余地はなかった。

 

ダメだ。無理だ。そもそもいつ再生を上回って焼かれるかわからない。すでに不確定な賭けをし続けている。

 

地下が崩落し、追手の一部が潰される。

 

千載一遇のチャンス。ここで地上へ出られれば、逃げ切れるかもしれない。

 

生身の人間への気遣いを捨てさせて加速し、熱そのものになって壁を溶かせば、きっと突破できるだろう。ケイとフェリスならついていける。しかしプリシラは…

 

 

それでもケイはその判断をしない。まだ諦めない。まだやれることがある。

その全てをやり切るまでケイは…

 

自らが足を引っ張る状況に業を煮やしたプリシラが噛み付く。

 

「永遠たる太陽には、妾であってもなれぬもの。妾の生き様を汚す権利は、誰にもない。いい加減に聞き分けよ」

 

 

それを聞いて、ケイは愕然とした。

そして気づく。ある疑問に気づいてしまった。

 

 

 

ああ、きっとこれはダメだ

 

大事な時に、僕は勝てない。これだけ時間を費やして色んな人を巻き込んで。

前提を崩すことを相手にされる事もあるという当たり前をいつになったら覚えられるのだろうか。

 

偉そうなことをたくさん言ってきたくせに、またしてもなんの結果も出せなかった。

 

 

僕が一番のバカだ。

 

 

時間がない。余裕もない。二者択一の選択は待ってくれない。

 

かつて記憶がなくなった時、自身の顎に銃を構えて撃ち抜いたことがある。

あれは恐ろしかったが、しかし確信があった。

 

それしかないという確信が。

 

けれど今この状況に確信はない。確かめている余裕もない。

だから、総合的な判断の結果。

 

自らの知見の集合知を、一瞬であてにした。

人が勘と呼ぶそれに身を預け、行動を始める。何かをしないと全部が終わってしまうから。

 

 

 

指銃を顎に当てて、撃ち抜く。

 

 

 

 

 

 

 

ケイはゼロ距離から、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

プリシラの目は驚愕に開かれ、そしてすぐに見えなくなる。

そのままにIBMへと指示。不要なものを即座に捨て、脱出経路へと最大速度で駆け出したからだ。

 

投げ出されるプリシラ・バーリエルの体。太陽の如き輝きは失われ、ただのものとなったそれは光を放たずに、暗い地下へと捨てられる。

 

追撃は驚くほど少なくなった。

 

即座に全速で地上へと逃れるが、そこに妨害はなかった。

飛竜に乗った魔法使いだけが追ってきたが、光速の着火には抗えず落ちる。

 

道中、グルービーを見つけて回収する。彼は複数の皇帝に追われつつもしっかりと燃やされずに残っていた。ティアに保護させて、どうにか確保する。

 

「ちょっとあんた!何考えてんのよ!!あそこまでして捨てるとか、最悪なんてもんじゃない!それは、そんなのは、裏切り!裏切るのは、嘘はダメって言ってんの!!」

 

ティアに説明をするのも億劫だったがなんとか言って聞かせ、道中ゴズを追い越して離陸し、帝都から離れる。

 

 

 

永井圭は()()()()()

 

そしてまた生き延びている。

何度目かわからないが、敗北に慣れることはない。

 

 

 

 

 

 

ケイの敗北そのものであるその死体。

 

帝都の地下に置き去りにされた、プリシラの体がむくりと起きる。

 

この帝都で死んだものは、誰であってもゾンビになって起き上がる。

そこに条件付けはあるだろうが、術式は当然これを無視しなかった。

 

 

汚された太陽が起き上がる。しかしそれは、

 

「いやはや、まさか見破られるとは思いませんでしたなぁ」

 

『太陽』の仮面を脱ぎ捨てた、金色の白蜘蛛がそう嘯く。黒い眼球に金の瞳孔を輝かせて賞賛した。ヴォラキアの兄と妹、両の仮面を被りそして殺された、チシャ・ゴールドが帝国の地下でつぶやいた。

 

邪魔者は撃退され、帝国の大災があるべき形で始まり、星の喝采が世界を揺らす。

 

どこかで魔女が語りかける。

 

「予想外ですが想定通り、彼はやはり逃げ切りましたか。しかし、大精霊に続いて『再誕の遺児』などという 異常 (イレギュラー)には驚かされましたが。手札は流石に打ち止めの様子でしたね。要・警戒ですが、あれを使わせる事ができたのは安心材料です。計画通りに進めましょう。きっと私はこれで『大災』に選ばれた」

 

「貴様、これを見せてなんのつもりじゃ?それなりには楽しめたが、妾の影武者は粗末な出来であったな」

 

「そうでしょうか?私でも見分けられないほどの完璧な擬態だったと評価していますが、魔法的にはあれはあなたそのものでした。要・解説です」

 

「プリスカ・ベネディクトの擬態であれば、まぁ及第点をやらんでもない。しかしその女はすでに死んだ。妾はプリシラ・バーリエルである。日進月歩の成長まではついぞ偽ることはできぬと言っておる」

 

「理解できませんが、あなたの言葉を全て理解しようとすることが無駄なのかもしれません。しかし、あなたはそう感じるのですね?あなたのことをもっと教えてください。それが今は、何より知りたい」

 

スピンクスは世界からの追い風を感じ、自分でも自覚しないほど小さく微笑んだ。

目的達成に真っ直ぐな魔女という災厄がこの世界に確かに生まれる。

 

 

その微笑みを見た時に、プリシラの表情が少し変わったことに魔女はまだ気づかない。

 

星々に愛されたものたち、語り掛けられているものたちに確信はない。

けれど、どこかで笑い声が聞こえた気がした。

 

 




28連投稿で一旦区切り!
次回は一週間後、6/4にお会いしましょう。恐らくですがヴォラキア編はクライマックスまでそのまま行けると思います。

誤字脱字協力に感謝を!ここすきも楽しみに見ております。
感想や評価などお待ちしておりますよ〜!
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