【FILE:211】帝都撤退戦リザルト
反乱軍たちの帝都撤退戦はどうにか形になった。
いや、それどころか想定よりも多くの将兵と兵たちを逃すことができ衝撃的な第三勢力の介入があったにしては出来過ぎた結果ですらある。
これは決戦に際して帝都の一般市民はすでに避難を完了させていたのが功を奏したのだろう。
ヴィンセントでも同じくそうしただろうという理由から、チシャは完璧に皇帝を演じ切ったということだ。
それでもここまでの規模の敵が内側から湧いて出るあり得ない事態は皇帝たちの想定の外にあった。
撤退には多くの血が流れ、それがそのまま敵の軍勢になるという最悪の一手を打たれてから『大災』は始まったのだ。
しかし、二つの
一つは、スバルもといナツキ・シュバルツ率いるプレアデス戦団。彼らの出鱈目な力と団結力は救出と撤退の際にさらに高まり、退路を切り拓いていった。
一つは、ルグニカ王国の魔法隊。死者たちの群れに対して的確な試行錯誤をアレクシス・カスターが率先して行い即座に炎による攻撃が有効と判明。魔法による殲滅は単純な白兵戦とは比べものにならない効率を叩き出す。
そもそもこのルグニカ王国軍は帝国軍と異なり撤退の想定を念入りにしていたのだろう。帝都を奪い返さねば戻る場所のないヴィンセントと異なるスタンスが功を奏した。そう皇帝からは見えている。
しかし実態は違う。単純にあらゆる事態への想定を指示書で持たされていただけだ。
帝都の貯水池が溢れる洪水や、魔晶砲の連発など。起こってしまえばもう終わりという状況にすら可能な限り被害を抑えられるように避難経路まで念入りに検討されていたからに他ならない。
そんな見事な撤退戦を途中まで犠牲者なしでやり遂げていた英雄ナツキ・スバルは、その顛末を見れていなかった。
彼は気を失っていた。それは死ぬよりも致命的な状態であり、ケイがいたなら一応殺すかどうか悩んだだろう。スバルの大切な誰かが死んでいたのなら親切でスバルを殺してくれていたはずだ。IBMといくつかのトリックを用いて決して自分の仕業とは気づかせないように。
「――ぁ」
瞼が震えて、弱々しい吐息が喉から漏れる。
か細く頼りない、そんな仕草で現実に意識を引き寄せながら、ナツキ・スバルはゆっくりと暗闇からの覚醒を果たした。
最初に目に入ったのは何故かリンガだった。
ふと目をやった先、部屋の隅に置かれた果物籠の中で、ひときわ目を引く赤いそれがあった。
まるで光を宿しているかのように艶やかで、他の果物の色味を押しのけて主張するような存在感を放っていた。
「――――」
引き寄せた現実の一欠片から顔を上げ、スバルは一拍、息継ぎを忘れる。
視界に入り込んでくるのは見知らぬ天井と壁と内装と自分の手。
いまだに幼児化した自分の姿は慣れない。
「……やっとお目覚めかしら。スバルはお寝坊で困ったさんなのよ」
「ベアトリス……」
その、知らない天井を眺めるスバルの視界を、見知った愛らしい顔が塞いでくる。
下がり眉と淡い色合いの瞳でスバルを見つめているのは、スバルと目覚めを共にする機会が一番多いだろう少女、ベアトリスだった。
と、そのベアトリスの姿が視界に入ると、スバルはベッドに寝ているらしい自分の手が握られている感触に気付いて、唇を緩める。
「もしかして、ずっと手、握っててくれたのか?」
久方ぶりの合流に互いに心から安堵する。マナが流れ出し、ベアトリスへと渡る感覚がある。これで本当に戻ってきたのだと実感できる。
「当然かしら。ベティーはスバルのパートナーなのよ。第一、スバルは好き勝手にあちこちいきすぎかしら。鎖で繋がれるのが嫌なら、手を繋ぐのが一番効果的なのよ」
「さすが、俺のことがよくわかってる……」
むくれ顔でそんな風に言うベアトリスに、スバルは言い返せなくて苦笑する。
やらなければいけないことがあったら、たとえ鎖で繋がれていてもやり方を探してしまうのがスバルだが、繋いだ手をほどくのはいつだって心が痛む。
スバルは痛みに弱いので、それが一番効果的な引き止め方だ。
「ええと、それでここはどこだ?今、俺たちは何して……」
「落ち着くかしら、スバル。色々、気にしたくなる気持ちはわかるけど……それよりもまず最初に、周りを見るのよ」
「周り?」
事情を知りたがるスバルに、唇に指を当てたベアトリスがそうもったいぶる。
焦燥と逸る気持ちにストップをかけられ、目を瞬かせたスバルは彼女に言われた通り、天井とベアトリス以外のものに目を向けた。
そして、息を呑む。
――自分の寝ているベッドの周りで、寝息を立てる大勢の姿を目の当たりにして。
「――――」
決して広くない部屋だ。スバルが寝ている寝台一個で、部屋のスペースの半分は使ってしまっている。そんな部屋の中、十人以上の顔ぶれがすし詰めになっている。
それも、ありえない組み合わせだった。
「タンザと、ガーフィール?それに、ヒアインたちとルイと、ウタカタまで……」
ルグニカの仲間たちと、プレアデス戦団の者たち。さらにはシュドラクまでが混ぜこぜになっている状況に混乱する。
不意に、スバルはその胸に痛みを感じて押さえ込んだ。
「そういや、俺。どうしてここに?そうだ。黒髪の子どもたちを助けて、撤退のために戦ってて、それで…」
「もう大丈夫かしら。あの呪いは一定範囲にだけ効果を及ぼす方式なのよ。ここならもう大丈夫」
そう言ってベアトリスはスバルの背中をさすってくれる。
そう。そうだ。そうだった!
撤退の最中、スバルは耐え難い激痛に襲われて…そこまでしか思い出せないが、状況を見るに死に戻りをする暇もなく即座に気絶してしまったのだ。
「みんなは、無事か?」
「それが最初に心配することなんて、やっぱり小さくなってもスバルすぎるかしら」
その瞳は愛と慈しみに溢れるが、しかし同時に悲しみも宿っていた。
悲哀の色を見た瞬間にスバルの血の気は引いていく。まさかまさかまさか。
「早とちりはやめるのよ。ルグニカからの仲間はみんな生きているかしら。でも、プレアデス戦団とかいうあの集団は、突然に強化を失ってそして『茨の呪い』によって動けなくなったものも多かった。多くの数を減らしたかしら」
スバルは、そこで即座に毒薬を噛み切った。
最悪の阿鼻叫喚は当然に起こるが、それは割愛する。今のスバルにはそれができるほどの精神力があるから。
その少しの間も置かない、ケイすら賞賛するだろう果断の結果は、無駄だった。
そんな気はしていた。しかし、目覚めたのは先ほどの瞬間で帝都決戦の前というセーブポイントは後ろ倒しになっていた。
助け、られなかった。
ダメだった。死なせてしまった。
ダメだダメだ。ダメだダメだ。ダメだダメだ。ダメだダメだ。ダメだダメだ。
心が壊れそうになる。ひび割れる。
また同じような対話を繰り返し、そして新しいことが聞けるところまで追いついた。
みんなは無事か?と聞く必要はない。もっと具体的に聞かなきゃいけない。
「何人、死んだんだ?」
「っ!…ベティは、スバルが全力で、全部を頑張ったと知ってるかしら!」
その愛に溢れる回答に嬉しい気持ちと、早く答えてほしいという冷たい感情が湧いてくる。
一体スバルはどれほどのことをしでかしたのだと早く通告してほしい。
「ナツキさん。そこからは僕が引き継ぎます。プレアデス戦団からは300名以上。これが現在把握できている名簿です。まだ170名ほどしか名前は分かりませんが、グスタフ総督が目覚めればきっと把握できるでしょう」
オットーは静かにその惨状を語る。
まるで現実味のない数字を告げられて、スバルの脳は追いつかない。
死者300名以上。
誰一人死なせない。そう決めてずっと繰り返してやってきたのに。
たった一つのミスで。みんなが死んだ?それが、確定してしまった?
一体どうすればこれを償えるのかなんて、少しも想像できない。
『ナツキくんの良くない部分やない?そないに背負い込んで、結果論で自分を責める。それってあんまし意味ないんとちゃうん?』
「っ俺!俺がっ!!俺なら…。だってみんな、俺について来てくれたんだ…なのに!!」
感情が溢れて、止まらなくなる。手足が知らずに暴れ出す。
そこに寝ていた者たちも起きてスバルの無事を見て安心し、そして取り乱した様子を見て納得する。
みんな知っていた。スバルならこうなると知っていたからこうして囲んでいたのだから。
「エミリア様。そこまでよをお願いします」
「うん。そうね。スバル、起きてくれてよかった。すごーく会いたかったのよ」
ふわりと抱きしめられる。
小さくなったスバルの体はすっぽりとエミリアに包まれるようだった。
今だにエミリアの顔や唇が近づくと、恋心によるドキドキとトラウマによる動悸が出るがこの体勢なら心配はない。
「そこまでよ」
これまでで一番優しい声で、語りかける。
「スバルが考えていることはすごーくわかってる。みんなそう。でも、スバルのできることはやったじゃない。それが本当よ。だってあれは、誰も知らなかったの。あんなことができる人がいるなんて、アベルも知らなかったんだから」
そんな優しさと正論に打ちのめされて、スバルは感情を見失う。
「でも、俺が。俺がやらなきゃ…」
もう、スバルは泣いていた。
その小さな背中は震え、堰を切ったように涙が溢れ出す。
大人の姿では抱きしめられるたびに気恥ずかしさや意識が先立っていたのに、今のスバルは子供の体に引っ張られている。守られる側として、何もかもを手放してしまいたい。
エミリアの手が背中をゆっくりと撫でる。言葉より先に、その温もりがスバルの体に沁み込んでいく。
「大丈夫、大丈夫よ。スバルはよく頑張ったから。みんなもいるから大丈夫」
その言葉は、慰めではない。ただの事実だった。けれどその事実が、スバルにはあまりにも重かった。
何人死んでも、どれほど血が流れても、時は止まらない。
スバルがどれだけ泣こうと、戦争は止まってくれない。何もしなければまた誰かが死ぬ。今ここで潰れてしまえば、それは本当に自分を許せなくなってしまう。
エミリアの優しさに包まれたまま、スバルはふと顔を上げる。頬を伝う涙は止まらないけれど、その瞳に宿る光は、ほんの少しだけ戻っていた。
「悪い。落ち着いた。みんな、すまねぇ。でも会えてめっちゃ嬉しいよ」
「おい、シュバルツ。こんなこと言っても慰めにはなんねぇと思うけどよ。俺らはこんなこと、覚悟してんだからな。あんま勘違いしてじゃねーぞ。帝都の決戦に乗り込んでんだ。全員死んでもおかしくなかった。それくらいはみんなわかってる」
剣奴孤島からの仲間たちがそう声をかけてくれる。彼らはまっすぐにスバルの無事を喜び、そして仲間の死を誇っている。
スバルだけだ。ここまで気にしてしまうのは。だってそうだろうスバルには能力がある。
責任が、あるんだ。
そんな思い詰める思考すら仲間達にはお見通しらしい。
「ナツキさん。お目覚めの直後に悪いですが、まだまだ撤退には人手が必要です。プレアデス戦団の皆さんが動けるようになれば、千人単位で人が救える。それでもまだ、そうやって自分を責めるだけの時間を過ごしますか?」
ずるい。そんな言い方はずるい。
けれど、スバルはそれをどこかで待っていたのかもしれない。卑怯な自分が嫌になる。
でも、心に火は着いた。
脳内の仲間たちも、目の前の仲間たちもみんながスバルを見ていた。
「上等だ。やってやる!」
ゴシゴシと顔を腕で拭って、前を向く。
不細工かもしれないが、これがナツキ・スバルなのだ。自分が嫌いでもやるしかない。
竜車の扉が開かれ、ズカズカと近づく人物がいた。
その顔にはすでに鬼面はなく、あれだけ隠していたその顔を晒すことを一切厭わない。
「起きたか。ナツキ・スバル。すべきことを早く済ませろ。話がある」
「起き抜けにそのふてぶてしさを見て、多少は調子が戻ってくる感覚があって逆に嫌だなこれ…」
呟きつつも、その態度にどこか感謝する。少しずつ調子を戻さないといけない。
いや、すぐに戻さないといけない。
「ていうか、偉そうな態度に拍車かかってない?相手が子どもだと強気になるタイプか?」
「たわけが。余が自ら足を運ぶ意味を考えよ。時と場所が異なれば、これだけで首を刎ねることもできる狼藉であるぞ。火急の要件であるのは自明であろうが、そんなこともわからぬか?」
握り拳を必死に解いて、今すぐにコル・レオニスを発動する。そして再び誰か一人でも陽魔法を受ければあの無敵モードの再開だ。
みんなと繋がった感覚がある。よし。これでいい。
あ、タンザが気づいて魔法をかけてくれた。プレアデス戦団。再起動だ。
戦団のメンバーはすぐに動き出す。グスタフを司令塔に待ちに待った撤退の支援を再開しに駆け出した。
「貴様らは外へ出ろ。俺は此奴と余人を交えずに話すことがある」
「いーや。みんな俺とは一心同体だ。重要な話ならみんなで聞くぜ?仲間はずれなんて今更だぜ」
皇帝はその鋭い目をスバルに向ける。値踏みするようなその視線はあった時からずっとそうだ。
落ち着かないが、こいつはそういうものだといい加減慣れてきた。
その立ち振る舞いにも、鋭すぎる眼光にも一切の記憶との変わりはない。
いや、なんかいつもより、めっちゃ怒ってる?
そんな風にして緊張感が高まってきたところに邪魔が入った。
「ちょっとちょ〜っと失礼しますよ〜。ぼかぁ務めを果たさなきゃいけないのでね」
そうしていると、やけに軽薄な男が入ってくる。
アベルはスバルと同じように敵意を向けているが、知り合いらしい。
「これは『星詠み』だ。業腹だがこれの意見はそう無視はできぬ」
「この、『星詠み』の……ウビルクさんだっけ?この人が頼りになるって?」
「あーれれ、疑われるなんて心外な……って、よく見たら、あなたはカオスフレームですれ違った王国の『星詠み』さんじゃーないですか!」
「全然違う。あ!もしかして、あんたか、こいつに俺が『星詠み』だのなんだの吹き込んだのは!ちがうっつの!」
にっこりと笑みを浮かべたウビルクの不用意な一言に、スバルは即座に食ってかかる。
『星詠み』などという得体の知れない役割を押しつけられることに不満しかない。
その呼称が預言者的な意味合いを帯びていること、そして《死に戻り》する自分の特異性がそれに結びつけられる懸念は理解している。
それでもなお、迷惑なことに変わりはなかった。
だからこそ、
「俺とあんたは同類じゃない。そこのところよろしく」
「え~?おかしいですねえ。ぼかぁ、あなたが同類だって聞いてるんですが……」
「それは星から?だとしたら、アベル、あんまり当てにならねぇぞ、この人」
そう考え、彼は早々に背を向けようとする。だが――、
「待った待ったまーってください!わーかりました!あなたは『星詠み』じゃーないです!ぼかぁそれで構いません!」
「引っかかる言い方だけど、そこ訂正しても信頼度が回復するわけじゃ……」
「ぼかぁ、このまま閉じ込められたまーまで構いません。ただ、星の詠んだことだけでも聞いてください。それだけでいいです!」
彼にとって、『星詠み』としての使命は、すべてに優先されるべきものだった。
その強い執念は、命さえ惜しまない覚悟を思わせる。スバルはちょっと引いていた。
「アベル、『星詠み』の人たちってのは……」
「その感傷は捨て置け。考慮に値するかどうかは聞いてから判断せよ」
スバルの脳裏に嫌な既視感がよぎる。だが、アベルはそれを受け流し、鋭い視線でウビルクを見つめる。
「閣下、ご安心を。どれだけ『大災』が強大でも、閣下には星がついてまーすよ」
「いずれのヴィンセント・ヴォラキアが残ろうと、区別を付けぬような酷薄な星がか。笑わせるな。――言え。何を伝える」
「二つ、ございます」
腕を組むアベルの促しに、ウビルクは端的に応える。
その返答にスバルは内心で「二つ」と繰り返し、アベルは黙って続きを促した。
どれほど信じるべきかは疑問が残る。
だが、この『星詠み』が『大災』の出現を的中させたことを思えば、まったく無視するわけにもいかなかった。
その予言が、帝国の未来に何をもたらすのか。
「『大災』の猛威を覆すための、二つの光です。一つは、王国の『星詠み』……ではない少年が連れた、言葉の通じない少女」
「……なに?」
スバルは思わず目を見開く。
胡散臭いと思った直後にもかかわらず、その口から語られた条件が、思い当たる人物をただ一人に絞ってしまったからだ。
その驚きも冷めやらぬうちに、ウビルクはもう一つの光を口にする。
先ほどと同じ唇から、帝国に必要とされるもう一つの名が告げられた。
「――この帝国で最も呪いに通じた、九つの頂の一つたる獣人です」
『大災』の猛威を覆すための、二つの光。
一つは、王国の『星詠み』の少年が連れた、言葉の通じない少女。
これは恐らくルイの事だ。スバルは確信しアベルも同様だろう。
この帝国で最も呪いに通じた、九つの頂の一つたる獣人。
それはグルービー・ガムレットの事だろうと皇帝は確信する。
そして訪れるのは、沈黙だった。
両方を把握する皇帝が、その帰結を話し始める。
「その少女とやらの特異な力は封じられ、ただ言葉の通じない童子になっている。これで光の一つは潰えた。そして獣人の方だが奴は帝都から戻らなんだ。おそらく死んでいるであろうよ」
アベルはスバルへとグルービーの顛末を語り出す。
それに、ちょっとだけやらかしたかもと不安そうなガーフィールが捕捉した。
「あの痛みの呪いが来た時には、ちょうどやり合ってる時だったかんなァ。俺様ほど痛みに慣れてないみてェでかなり良い一撃をお見舞いできたんだがァ…」
俺様、また何かやっちゃいましたとでもいうように恐る恐ると報告をする。
九神将である彼は帝都から戻らなかった。たぶん死んでてもおかしくないくらい良い一撃が入った状態で吹き飛んだ。
つまりは…
「え、じゃあ。もう予言終わってない?」
「んん?えっと、すみません。というと?」
ウビルクは打開策を提示して盛り上がると思っていたらしく、いまいちついて来れていない。
「ルイの力は封印されてるって。だから力は使えない。グルービーって人は多分帝都で死んじゃってるかもって。そうなるともう。お星様的にはお先真っ暗なんじゃないのか?」
「え?ええええええ?!?!いや、そんなはずは!」
感情など一切感じさせなかったウビルクが途端に狂乱をきたす。
「いやいや、いやいやいや。星の導きは絶対です。ならグルービー一将はまだ生きているに決まってる。その封印とやらがなくなるのかも?いやもしかしたら一将は屍兵になって敵の手に落ちてても問題ないのかもしれない!!だって星の導きは絶対なんですから!!」
「ほんとにコイツ大丈夫なのか?」
全員の沈黙の代弁をスバルがしてあげた。
「これのおかしさについて論ずる意味はない。むしろ、貴様にこそ問うぞ。これで良いのか?」
なんだ、アベルは何を言っている?彼はずっと怒っているようだった。
そういえば、決定的にどこか違って見える相手。
黒髪の美丈夫を、スバルは見据える。
そして――、
「貴様はどこまで雄弁に語る、ナツキ・スバル? ――親竜王国の『星詠み』よ」
そう、強い敵意を宿した黒瞳で、ヴィンセント・ヴォラキアはナツキ・スバルに問い質した。
なんだ、それ。
疑問に思ったその瞬間。音と光が消える。
いや、塗りつぶされた。スバルの視界と聴覚。そして思考は真っ白に染まる。
あの感覚と声がして、そして再びスバルは目覚めた。
「起きたか。ナツキ・スバル。すべきことを早く済ませろ。話がある」
既視感のありすぎる光景が目の前でリプレイされスバルはその意味を悟る。
敵は一体誰なのか。何がスバルを殺したのかもわからない。
けれど一つだけわかるのは、相手はこちらを待ってくれないということ。
ごく当たり前で、どこまでも非情な現実だった。
合理主義者はせっかち