亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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風の中のすばる
砂の中の銀河
みんなどこへ行った?


【FILE:212】地上の星

合理を学んだ魔女は、その牙を最適に叩きつける。

決して対応できぬように。決して学ばせぬように。一方的に目的を達成する。

 

 

けれど魔女はまだ知らない。

 

合理の真逆に位置する異物がその狙いの先にいることに。

どれだけ合理的であっても、材料がなければ思考はできず、判断は変わる。結果を間違ってしまう。

 

ナツキ・スバルという決定的な怪物がここにいることを、()()()()()()()()()ことを。

まだ魔女は知らなかった。

 

 

 

 

 

「起きたか。ナツキ・スバル。すべきことを早く済ませろ。話がある」

 

敵意を滲ませていったヴィンセントは、相手がその瞬間に変貌したようなそんな錯覚を覚えた。

 

目線がブレて何かを見つめる。そして周囲を見渡し、今気づいたかのようにヴィンセントを新鮮味と既視感を合わせてなぜか見る。

 

矛盾する視線。異様なその態度にヴィンセントは確信を強め、その分敵意を鋭利にさせる。

 

「イドラ!ヒアイン!タンザ!今すぐグスタフさんと撤退支援に走れ!合になれたら俺たちは無敵だ!」

 

唐突なその豹変に、彼らはなぜか意見しない。

それが当たり前かのように。まるで一つの生き物のように澱みなく動く。

 

「心配して損したぜ!調子戻ったならそう言え!」

 

「シュバルツ様。ご無理なさらぬように。また尻拭いをするのは私なのですから」

 

「んなっ!スバルはそこまで小さくなってたのかしら!?鹿娘におしめまで替えさせたのなら大事件なのよ!」

 

ロリ二人の間でまた事件が起ころうとしているが、それをスバルは必死に制する。本当に必死だ。

 

「どうどう。今はそれどころじゃない。みんな、わかるな?」

 

そう言ってヴィンセントを除く全員が意識を入れ替える。

その異様な光景に皇帝はまた一層、敵意を募らせる。

 

「いいかアベル。話は後だ。敵が来る。今はとにかく協力してっ…」

 

スバルは胸ぐらを掴まれて、少し足が浮いた。

衝撃に言葉が中断される。なんていうかこれは、アベルらしくない。

 

「これまでならそれもできようがな。余が貴様の言葉をただ信じるなどと傲るか?笑わせる。親竜王国の『星詠み』よ。貴様の意図はどこにある?」

 

だからそれは何だ?こいつは何を勘違いしている?

 

いやでもそれでも時間がない。エミリアとガーフィールに声をかけてこの後の終わりを防がないと。せめて何が起こるか把握するのだけは最低限だ。

 

アベルに向き合う時間はない。今は対処をしなくては。

 

「エミリアたん!ガーフィール!竜車全部を守れるくらい、すんごい防壁を出してくれ!攻撃がくる!!」

 

 

「わかったわ!」「合ッ点だァ大将!!」

 

窓を突き破って外へと躍り出る陣営の脳筋たち。本当に頼もしい。

 

「貴様!まだ状況を勝手に動かすか!問いは終わっておらぬ!貴様は何を…」

 

アベルに耳を貸す余裕がない。スバルは破られた窓枠から限界まで身を乗り出して、どこから破壊が訪れるのか。対応の結果何が変わるのか。二人にそれを防げるのかを見極める必要がある。

 

 

「なんだこの竜車!?電車みたいに連なってる?いや、それよりどこだ。どこから来る?」

 

初めて見た連環竜車。まるで列車のようなそれは複数の竜車を繋げたものだった。

膨大な熱量を伴う光が、進行方向の左から襲いかかりそれが広く展開された氷の防壁へと殺到する。

 

一瞬耐えたかに見えたその攻撃は、しかし壁を破綻させ光が意図通りに進んでいく。

スバルごと竜車が吹き飛ばされるが、スバルは最後まで周囲の観察をやめなかった。

 

 

 

 

 

「起きたか。ナツキ・スバル。すべきことを早く済ませろ。話がある」

 

防壁が広すぎて、相手の攻撃を受け止められなかった。事前に方角が分からなかったから仕方がないが、広く薄く守ろうとしても意味がない。

 

次はきっと変えてみせる。

 

「ああ、やってやる…」

 

そこから試行すること3回目。

ある時は伝え方が甘く、そして盾を小さくしすぎたせいで守れなかった。

ある時は盾を作るのが早すぎて、相手が射線をずらしてきた。

 

そして今、ようやく盾をベストな位置とタイミングに誘導できた。

目印の木を過ぎた時に指示を出し完璧な状態を再現する。

 

これまで作っていた簡易な盾ではない。エミリアが生み出したのはまるでダイヤモンドのような重厚で角度のついたものだった。

 

さらにそこへガーフィールが地面を動かし、まるで大地が盾を構えるかのようにそれを最適に構えて待ち受ける。

即席にしては異常な完成度の連携にスバルも驚いた。

 

「おいおい!すげぇ連携上手くなってない!?どうした二人とも!」

 

「スバルがいない時にも、うーんと頑張ってたんだから!!」

 

スバルはその光景に賞賛の叫びをただかけることができる。後でケイの仕込みだと言われて嫉妬で狂うというオチがつくのだが。

 

そして咆哮が盾に殺到し、拮抗する。

あることに気づき、竜車の屋根からエミリアが叫んだ。

 

 

「これ、きっと龍のわーってやつだわ!メゾレイアの時と似てるし、ボルカニカも思い出すの!」

 

どうやらドラゴンが敵らしい。

その絶光をどうにか耐え忍ぶ光景は、誰もがそこから目を離せない。

 

 

誰もが祈っていた。どうにか耐えてくれと。この先の未来を信じていた。きっと切り抜けられると。

 

「そうやって、綺麗な先ばっかり見ていると。血塗れの過去に足元掬われるわよぉ?」

 

毒を含む美麗な声が響いたと同時。竜車の全てが同時に炎上する。

 

それは見間違いのない白い炎であって。それは陽剣の炎そのものだった。

白い炎に包まれたエミリアとガーフィールは、魔法の維持などできるわけがない。

 

「っっ!スバル!!」

 

最後に何を思ったのか。スバルに手を伸ばしかけて、そして引っ込め竜車の外へと身を投じる。

 

スバルは引火するのも、そのまま落下することすらも考えないままエミリアを抱きしめる。

 

そしてスバルはそのまま死んだ。

 

 

『愛してる』

 

誰が誰に言った言葉なのかは、わからない。

 

 

 

 

 

「起きたか。ナツキ・スバル。すべきことを早く済ませろ。話がある」

 

 

また、死んだ。

試行錯誤の末に突破したと思った瞬間。そこで再び失敗をエミリアとの焼死という形で叩きつけられて、スバルですら衝撃に面食らってしまった。

 

今、何が。何が起きたんだ?

あれは、誰だ?知らない誰かが、唐突に陽剣で燃やしたというのがスバルの意見だ。

 

でも、これだけ長い竜車を一斉に燃やすなんてできるのか?

 

いや、これは聞けばいい。

 

プレアデス戦団とエミリア、ガーフィールへと指示を出し。そしてアベルに向き合った。

 

「その前に聞かせろ。この長い竜車を全部いっぺんに燃やすって陽剣で、できるもんなのか?」

 

「貴様、何を言っている?」

 

「いいから、答えろよ!できるのか、できないのか」

 

アベルはそこで、もう耐えられぬと激情を露わにした。

 

「ルグニカの星詠みがついに隠すことをやめたか?語る未来を小出しにするな。全てを語れ。ことは一刻を争うぞ、情報とはより上手く扱えるものへと渡すべきだ。よもや否定はするまいな」

 

「だから!時間がないって言ってんだ!どうして今なんだよ!この後すぐに攻撃が…」

 

いや、おかしい。アベルは今まで、なんだかんだとスバルの献策を受け入れてきた。

なんで、ここにきてこんなに強硬に…

 

アベルは譲らず、そしてスバルはその打開ができず。喧嘩のような無様を晒して時間を浪費する。

 

この命は久々に無駄に散らすことになってしまった。

 

 

 

そこから始まったのは、大嫌いなアベルとごく短い間で対話するという地味な作業だった。

敵の陽剣についても、こいつが持つ陽剣も。竜車や帝国兵を動かすにしてもアベルの一声が必要だからだ。

 

アベルもといヴィンセント・ヴォラキアという人間について知り、理解しようとすること。それをこれまで放棄してきたツケがこれだとでも言うのだろうか。

 

プレアデス戦団を動かして、エミリアとガーフィールに指示を出すのは必須だ。

そうなるとアベルと話せるのは2分もない。

 

きっと長く時間をとっても難しいのに、短い間で分かり合えるはずもない。最初に対話を無視して彼らを動かす時点で、ブチギレているらしいアベルは本当に話にならなかった。

 

これまでで一番前に進んでいるか怪しい、短時間のループにスバルは囚われる。

いや、()()()()()は流石にループにカウントしていない。あれは何かの間違いだった。

 

 

とにかく少しずつ、こいつと話さなくてはいけない。

スバルはアベルとの対話を積み重ねていく。

 

「アベルではない。余は、ヴィンセント・ヴォラキアだ」

 

「それも、貴様の思惑通りか」

 

「貴様らはなぜそうなのだ?」

 

「何を考えているかと、そう問われるべきは貴様であろう。いったい、貴様にはこの成り行きのどこまでが見えていた。ここまで全てが、貴様の描いた絵の通りか」

 

「玉座にて、ヴィンセント・ヴォラキアは斃れる。そこから始まる、帝国を亡ぼさんとする『大災』と抗うための手立てを残す。それが、余の責務だ」

 

「貴様の思い通りというわけか?何が目的なのだ」

 

「わからぬ輩が世迷言を囀るな。余が生きている間は『大災』は訪れ得ぬ。その前提故の方策だ。それが覆ることはない。黙れ。覆らぬと教えたのは、貴様ら『星詠み』であろうが!」

 

「必要だった。万一にも、貴様に俺を生かしたいなどと思われぬようにな」

 

「それも、全ては貴様が『星詠み』であるという推測に基づくものだ。王国で前例のない成果を挙げ続ける貴様が、只人ではなし得ぬことを為し得ていると」

 

 

いくつもの対話をもとにしても、アベルの真意が見えてこない。

 

「クソっっ!なんでだよ!無駄なことはしないんじゃねぇのか!なんだって急に、そんなに頑なに!」

 

スバルから見てもおかしいほどに、一目でわかるほどにアベルは冷静でも合理的でもなかった。

そんな様子に苛立ち、理解できずに死に続ける。

 

対話を断片的につなぎ合わせて形作る。()()()()作業に心が苛まれる。トラウマが脳裏を過ぎる。

 

『継ぎ接ぎしても最終的には好転したやろ。半分くらいは信じていこうな?』

 

どうにか支えられて、折れずに進む。

幾度も幾度も仲間たちの死を見届けて、死の苦しみを我が身で受けて。

 

そして()()()()()()だからと理解を拒んだ代償を支払続けたその先に、ついにその言葉を聞き出した。

 

スバルの言動は無礼などというレベルではなかった。アベルが無視できない言葉を浴びせられ、激情に駆られてスバルを壁に押し付ける。

 

 

「何故、俺を残した、ナツキ・スバル!」

 

 

アベルはスバルのことを未来がわかる『星詠み』だと考えていた。

ケイの説明もその仮説を支持するものであったし、何よりスバルの行動と実績はアベルの仮説を強固にしていった。

 

しかも、他の星詠みよりもスバルは上位の何かであると。そう確信しているらしい。まるでスバルが意図通りに未来を選び取っていると、そんな風にアベルは考えていたのだった。

 

「いいや、そうではない、ナツキ・スバル。貴様のそれは他者への好悪ですらない。貴様が主観的な人間性の好悪で、救うものと救わぬものを決めるならまだ理解できた。だが、貴様は忌み嫌う人間さえ救う。俺がそうであるように」

 

さらにその取捨選択もメチャクチャであると指摘する。

好き嫌いですらなく、ただその場の直感で決めているとそう言うのだった。

 

スバルはそれを否定できない。

それでも言い返してやりたい。感情のままに自分のことを蔑ろにし続ける馬鹿をぶん殴ってやりたい。思いを叩きつけて、そのまま叩き返されて、本音で語り合いたい。

 

けれど、スバルとアベルには時間がない。

この対話はスバルの中に蓄積している一方的な積み重ねであって、回を重ねるごとに相手は情報の不均衡に違和感が大きくなっている。

 

そして、それ以上に知らなくてはいけないことがあった。

 

「お前の方こそ、何がしたい。何が目的だ。望みはなんなんだよ!」

 

掴まれた胸倉、その皇帝の両手に爪を立てて、スバルも唾を飛ばして怒鳴り返す。

そのまま首をひねり、皇帝の手に噛みついてやろうと口を開けるが、どんなに頑張っても届かない。

 

皇帝は頬を硬くし、呟く。

 

「余の、望み……?」

 

また、死んだ。

 

 

最後の方は、やりたくなかった『捨て回』すら使わされてしまった。

指示出しなども全部後回しにして、アベルとひたすらに対話する。周りに人がいると全く感情を出さないから無意味になった回もあった。

 

全部を投げ打って、幾度も質問を変えて、前提の情報を変えてそしてたどり着いたのはこの言葉。

 

「何故、忌み嫌った俺を生かし、チシャを死なせた、ナツキ・スバル」

 

血を吐くような表情で、呟かれたその言葉は今まで一番切実で。そして魂からの叫びだった。

 

ここで、ようやく。スバルはアベルと会えた気がした。

 

 

ああ、そうなんだ。

 

 

ようやくスバルは間違いに気づく。

目の前のこいつは合理的な冷血の皇帝、その仮の姿『アベル』なんかじゃなかった。

 

こいつは今、昔からの友達を亡くして傷ついている。ただの一人の人間だった。

 

今まで話していた『アベル』というのはこいつの作ったスバルに向けた人間で、そいつは頭も回ればいつだって冷静で、総合的に考えられるのだろう。

 

でもここにいるのは、ヴィンセントというただの男らしい。

そしてそいつは。友人を目の前で死なせてしまったと、自責のあまりに冷静さを欠いている。

 

 

 

そんなこいつの心からの疑問。心を頑なにしている葛藤。

それに向き合う準備ができて、ようやく終わりが見えた気がした。

 

 

 

「起きたか。ナツキ・スバル。すべきことを早く済ませろ。話がある」

 

即座に指示を飛ばし、そしてアベルへと向き合った。時間はあと少しだけ。

 

「ああ、そうだな。この竜車を全部一気に陽剣で燃やせるかってことを聞きたいんだけど、まずはもっと大事な話だ。俺は『星詠み』じゃない。だから、これをするのは俺がしたいからだ。いいか、心して聞けよ。チシャの話をするぞ」

 

アベルの顔が、いやヴィンセントの顔が本気で歪む。言葉を間違えれば陽剣が即座に抜かれることは知っている。それが脅しじゃないことも。身をもって、知っている。

 

 

「……俺は、チシャって人のことを知らない。お前を玉座から追い出して、お前に化けて皇帝のふりをしてた。カオスフレームで、皇帝として出くわしただけだ」

 

「――――」

 

「その人が何を考えてて、何を企んでお前を城から追い出したのかわからない。けど、お前がその人が死んだのをそんな風に悔しがって、怒ってて、その人がお前の代わりに死んだって、それはわかる。だから……」

 

たどたどしく、思ったことを思ったままに口にするスバル。

 

あのアベルがここまで現実を見失うほどに悔やむ相手だ。

その人のことを何も知らないスバルが語るには、あまりにも心に踏み込みすぎた発言でありこれには命がかかっている。

 

でも、関係ない。スバルの思ったこととは関係がない。間違ったなら別の気持ちを探すだけだ。

嘘はつかない。殺されても諦めない。

 

諦めるのは意味がないと知っているから。

 

「そのチシャって人、すげぇな」

 

目が見開かれ、そして口が開閉する。

ヴィンセントが言葉を失い、そしてスバルが言葉を続ける。

 

「それに比べて、俺もお前も馬鹿すぎた。ここまで人の気持ちがわからないんだからさ。ノンデリは新しい大罪って言われても否定できねぇよ」

 

「何を、貴様は何を言っている?」

 

だから、言ってやる。チシャって人の考えを、この自分を大切にする人の気持ちがわからない。スバルよりも馬鹿野郎に言ってやるのだ。

 

「チシャはさ。お前を殺そうとする運命と、運命相手に諦めてるお前がムカついたんだよ」

 

「――は」

 

「自分が死んでも、お前に生きててほしかったってパターンもある。けど、俺はそうじゃないと思った。だってお前、そこまで人に想われる生き方してねぇもん」

 

「チシャは、お前にムカついたんだよ。だから、証明したんだ」

 

両手を広げて、全身全霊で宣戦布告する。

 

「運命とは戦える。予言なんか無視してもどうにかなる。――諦める理由なんか、一個もねぇ。俺は、星の運命なんてものに従うつもりなんてない。道理がなくても、合理的じゃなくても自分の気持ちでやってきてる!お前もそうだろ!?」

 

ヴィンセントはそれに応えられない。慮外の一撃に、脳が機能を停止している。

 

「俺と一緒に戦えよ。ヴィンセント・ヴォラキア!俺たちの分までバカみたいに合理的なやつもきっと手助けしてくれる。みんなで一緒にどっかで笑ってるバカを黙らせよう。ぶん殴らないと気がすまねぇ!!」

 

 

お前はどうなんだと、相手の胸ぐらを思わず掴んで問いただす。

その目はスバルと真っ直ぐにぶつかり、そして言葉が返ってきた。

 

「………どれほどの熱量を秘めたものであっても、一振りの陽光では照らす範囲に限りがあろう」

 

はい?なんて?何の話をしてるんだこいつは?

 

「貴様の最初の疑問への答えだろうがうつけが。できぬと言っている。全てを切り燃やす陽剣であっても、切れる範囲しか炎上はさせられぬと、そう言った」

 

迸る龍の咆哮が、大地と氷の双璧によって防がれる。拮抗する。

 

もう時間だ。ギリギリ、間に合った。

 

スバルは目を合わせたまま指し示す。敵のいる場所を無意識のうちにこれで十分だと確信できた。

きっとヴィンセントなら。これだけで答えに辿り着く。

 

「ヴォラキアの歴史上でも最大の不敬の極みではあるが、……大義である」

 

ヴィンセントが抜き放った陽剣は、竜車の壁を貫通し切りたいものだけを切り捨てる。

 

 

抜き放った陽剣は、車内にあった果物籠。それを貫通して外で潜んでいた敵だけを切る。

 

「ヴィンセント…兄様…?」

 

その声はきっとアベルの知り合い、いや家族のものだったのだろう。言葉から察するに妹か。

煌々と燃える女が、竜車の外へと流れていく。

 

それを見届けるアベルの姿には、隠しきれない激情が見えていた。

そうだ。こいつは実はプリシラと兄妹だったと別行動をする前にケイが言っていた。皇帝になるための家族同士の殺し合い。その儀式の抜け穴をついていると言われてちょっと好感度が上がったりもしたのだ。

 

こいつには共感できない。最終的にはプリシラ以外を殺しているわけだし理解も無理。

でもこいつなりに家族のことを想っている。それだけは認めないといけない。

 

こいつは理解できない帝国の嫌なやつなんかじゃなかった。

家族や妹を大切に思いながらも苦難に立ち向かい、最善を尽くそうとしている同じ人間だ。

 

 

前方からも同じ格好の女が同じように燃えながら、10、20と燃えて落ちていく。

竜車の脇を照らして消えた。

 

何もさせずにただそこにある切りたいと望んだものだけをただ一つ切り捨て、燃やし尽くした。

 

 

いや、陽剣はもう一つそこにあるものを切っていた。

果物籠の中にあったリンガの実。それがパックリと二つに分たれている。

 

「ナツキ・スバル」

 

「なんだよ」

 

「俺は、貴様を好かぬ」

 

「ぬが?」

 

「――だが、貴様の力が必要だ」

 

そう告げて、ゆっくりとその場に再びアベルが立ち上がる。

 

片割れのリンガを手にして齧り、スバルをその黒瞳で見据えた。

 

この一瞬の中で見せた、らしくない感情的な色の全部を再び皇帝としての自意識の裏側に隠して、しかし、ほんのりと瞳と声音にそれを滲ませながら、

 

「数々の非礼を詫びる。王国の騎士よ」

 

そう、神聖ヴォラキア帝国の皇帝が頭を下げるのを目にして、スバルは笑った。

笑って、リンガのもう一欠片を齧りながら、

 

「数々の不敬は謝らないぜ、帝国の皇帝」

 

そうして、最初から間違い続けた関係性の、掛け違いを正す一歩を踏んだのだった。

 

「冷徹合理イケメン枠は埋まってたからな。キャラ被りを避けてくれるなら少しは仲良くできるってもんだ」

 

「貴様の不敬は止まるところを知らぬらしいが、貴様協力する気があるのか?」

 

「ツンデレむっつり熱血シスコン皇帝となら喜んでタッグ組んでやるって言ってんだろ!分かれよ!」

 

はぁ。と深い息を吐き、その目に理性を宿して皇帝は必死に既視感と戦う。

訳のわからない言葉を連ね、理解できない理屈で動くこの目の前の少年からはあれと似た気配がある。

 

アベルは帝国の最強と話しているような疲労感と最後の戦いを繰り広げていた。




地上にある星を誰も覚えていない
人は空ばかり見てる
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