亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:218】マッチアップ

空からの奇跡的な降下作戦大成功より少し前。

 

「帝都の戦力を整理しよう」

 

作戦会議はそう言って始まった。

 

『魔女』スピンクスは『強欲の魔女』の知識を持ち、現在はムスペルを活用しその術の多くを使用可能になっているだろうと、ロズワールが予想している。

 

無数の手札を持って準備万端な『魔女』が元凶である。いや、やっぱり大元の災厄は『強欲の魔女』エキドナだろう。どうせあれが悪いとスバルとケイは確信している。

 

その負の信頼に対して、擁護派であるベアトリスとロズワールすら反論できないあたり、彼女の対外的な評価は終わっていた。

 

ケイは最悪の場合ここで本人が介入してきても驚かないとすら思っている。『強欲の魔女』と名乗るならあの聖域に縛られることを良しとするはずがないのだ。

 

ともかくこの『魔女』を打倒することが明確な目的だ。

 

それを阻むのは彼女が蘇らせた屍兵、ゾンビたち。そして死者への未練から向こう側についたものもいくつかいるだろうとアベルは予想した。

 

厄介な順に挙げるなら。まずは『荊棘帝』ユーガルド・ヴォラキアだ。単純な戦闘力であればそこまででもない。『九神将』ならばしっかりと打倒できるだろう。皇帝は戦うことだけに生涯を捧げることなどできない。戦闘を専門にしているならしっかり勝ち切れる相手だが、陽剣を扱っている以上誰でも即死があり得る危険な相手である。

 

それよりも特筆すべきは呪いについて。第61代皇帝のユーガルドは広範囲に作用する『茨の呪い』を撒き散らす。

 

それは痛覚を忘れた死者たちには最高の祝福であり、生者にとっては最悪の呪いにもなる。

あれの呪いのせいで、生者同士の帝都の決戦は最悪の形で中断された。

 

中断された戦いから撤退をできなかったものがいる。

 

ヨルナ・ミシグレとプリシラ、アラキア。

 

三人は同じ戦場で戦っていたが、三人とも戻らなかった。

茨の呪いの被害状況を整理すれば、『荊棘帝』がここの戦場に介入したのだろうということが推測できた。

 

これで話の筋は通る。

 

離反した『九神将』ヨルナ・ミシグレは戻れなかったのではなく、戻らなかったのだろう。

 

さほど興味もなかったが、そこまで変わらない年齢のヨルナを「母上」などと呼ぶプリシラをケイが見過ごすはずもない。ヨルナが長命種である可能性もあるがプリシラが彼女と血が繋がっているようには見えずそのまま疑問をぶつければしっかりと答えてくれたのだった。

 

プリシラの実母はサンドラ・ベンネィクトであり、彼女はすでに死んでいる。

そしてヨルナの前世がサンドラ・ベネディクトなのであり、魂を見抜いて「母上」と呼んだそうだ。

 

魂の転生などと言うものが実現されているならこれは大事件である。

転生先の元の魂はどうなっているのか?という疑問は大きく残るがそれにしてもこれができるなら凄まじい。

 

ケイにしては珍しいほどにプリシラにもアベルにも、ヨルナとアイリスの話を聞込んだのだった。

その情報から察するにおそらくはプリシラを人質に取られたか、それとも()()()()()()ユーガルドと共にあることを選んだか。

 

『アイリスと茨の王』については説明が長くなると判断しプリシラ人質説でアベルは全体への説明は済ませたが、実際のところはその両方であると睨んでいる。果たして積極的に敵対してくるかどうかはわからないが、こちらの戦力として数えるには心許ない。

 

そして竜人のマデリン・エッシャルトもまた撤退はしていないが、これはわかりやすい。

執着していた元『九神将』のバルロイが復活しているのだ。彼と会いたいがために皇弟へと裏切った彼女は、本人を前にしてそのまま戦う意味はなかったのだろう。

 

バルロイのために彼女はこちらに積極的に攻撃を加えてくるはずだ。

 

続いての脅威は、かつて選定の儀で殺したはずの兄弟姉妹たち。彼らの存在は確認されている。

ラミアは燃やしたが、他にもきっと出てくるだろう。

 

アベルは予想する。『荊棘帝』がいる以上、歴代の皇帝やそれに敗れたヴォラキア皇族が出てきてもおかしくないと。

 

「ああ、いましたよ。50人くらいはいたと思います。危うく燃やされかけましたね。相当減らしたと思いますが、まだ残ってるでしょう」

 

悪夢のような情報共有に皇帝の眉間に皺が寄る。

 

四大精霊のマナを活用し準備万端の『魔女』。

不死の『荊棘帝』と『魔弾の射手』。

全力で敵対している竜人と『雲龍』。

その他陽剣を扱えるヴォラキア皇族たちに加えて、帝国兵たちもいるだろう。

 

 

対してこちらの戦力はどうか。

 

ヴィンセント・ヴォラキアが率いる剣狼たち。

『九神将』からはオルバルト・ダンクルケン。グルービー・ガムレット。ゴズ・ラルフォンは突入部隊以外が身を寄せるガークラ防衛の要である。彼は置いていくことに決まった。

 

「九人もいて、動かせるのは三人かよ…しかも二人はケイが連れてきたんだろ?やだ、アベルの人徳低すぎ…?」

 

いまだにスバルとヴィンセントは噛みつき合っているが、流石にこの状況はスバルの言うことにも一理ある。

 

「大きな戦いとなればセシルスはそこに必ずきて勝手に戦うことはもはや決まっている。杞憂は必要ない」

 

「空くらい落としてきそうなセッシーだから心配してんだろ!ていうかセッシー頼みってお前。それ戦略家としては最悪の敗北宣言じゃねーのかおい…」

 

「そこらへんの故事成語のニュアンスは伝わらないぞ。無駄だからやめておけ」

 

二人の小競り合いを止めて、この戦いに使える帝国以外の戦力をケイが整理する。

 

エミリア。ナツキ・スバル。ベアトリス。ロズワール。レム、ラム。オットー。

 

ユリウス。ハリベル。

 

クルシュ。ケイ。フェリス。ティア。ギャレク。

 

 

難しいのはユリウスの配置だ。

「いやなんで僕が入ってるんですかねぇ!?僕は商人で、内政官と呼ばれることにもまだ抵抗すらある一般人なんですが!」

 

「お前、まだそんなこと言ってんのかよ。往生際悪すぎるぞオットー。聖域で漢見せた時からもう商人だったお前は死んだんだって認めろよ」

 

ため息をつきながら、分からず屋に声をかけるがそれどころじゃないのだ。オットーは今更の抵抗をやめて直ちに投降すべきだろう。

 

こちらはユリウスの配置に悩んでいるというのに。

見かねたのか、スバルが悩んでいると優美な声がかかった。

 

「私は、アナスタシア様のお傍に残る。敵の目を城塞都市へ引き付けるのが、君たちの突入を手助けすることにもなるだろう」

 

「――――」

 

「無論、皇帝閣下が信を置くものが都市の防衛を担うことになるだろうが、私も助力するつもりだ。何より……」

 

そこで一度言葉を区切り、彼――ユリウスは傍らのアナスタシアを見やる。

消えたスバルたちを探すため、無理をしてヴォラキアへ駆け付けてくれたアナスタシア。彼女には感謝の気持ちと共に、絶対に無事に帰ってもらう必要がある。

それ故に、ユリウスははっきり告げる。

 

「私は、アナスタシア様の一の騎士なのだから」

 

その晴れ晴れしいまでの自任の言葉に、スバルは静かに息を呑んだ。

それがユリウスが自分の立ち位置を表明した発言であるのと同時に、同じ立場であるスバルへの発破でもあると理解したからだ。

 

しかし、これでは終わらない。一の騎士同士の理解と共感へと無粋な声が遠慮なしに入ってくる。

 

「いや、それはあり得ない。ユリウスは帝都に行ってもらいますよ」

 

騎士など御免だと宣言して憚らない書記官のケイが、そう断定した。

 

え、なんで?今の流れでお前まじ?という視線を彼は気にしない。それを全員が知っている。

 

「アナスタシア様は思考も早く視野も広いですが、戦闘指揮は専門外ですね。物資や人の動きを任せた方がいい。戦場にいてもユリウスの弱点であるだけで役には立ちません。なので飛竜で後方に送って、この災害が収まった後の各地方からの支援や各国からの調整を始めていてください。災害救助は初動が重要なんですよ」

 

周囲からは反論が出ない。完璧なロジカルハラスメントのコンボはまだ終わっていないからだ。

相手が倒れるまでのリーサル(勝ち筋)が見えている。

 

「なのでユリウスは帝都へ来てもらいますよ。魔法的なアプローチに乏しい帝国において、魔法を武器にした『魔女』と戦うんですから。全属性を扱える精霊騎士が後方に下がれると思わないでください。まさか横で見てもらっていないと力が出ないなんて言いませんよね?」

 

スバルは現実のアナスタシアを見る。塔でセクハラ認定されて以来じゃなかろうか。だから脳内と現実の彼女を比べることもこれが初めてで…

 

『ほんまに?塔の時には一緒にいてユリウスが発奮したんやし、騎士と一緒なら力も出るってもんやない?』

 

「せやね。書記くん。あ、今は皇弟なんやっけ?じゃあ格上げして総書記様の言うとおりや。ここから離れるって選択肢はとりたなかったけど、そうまで言われちゃお手上げやね」

 

脳内アナスタシアと現実のアナスタシアの反応が違う。

やっぱり彼女もまたスバルの一部であり、アナスタシア本人でないのだと初めて切実に体感する。

 

プレアデス戦団の者たちはガークラへと置いていく。ケイがそう決めたが、スバルはその意図をすぐには理解できなかった。

 

なぜかと問えば、明確な答えが返ってくる。

 

「守るものを増やし過ぎれば、お前が削れてなくなるぞ。幼児化すると記憶が少し薄れるんだったか。本当に気をつけろよ?」

 

帝都決戦においては、確かに何度やり直したかわからない程には死にまくった。

それを気にしないメンタルを幼児化によって手に入れているから問題はなかったが、確かにこれは良くないかもしれない。

 

大人だった頃の感覚や記憶がいつの間にかなくなっていくのが代償かもしれないのだ。

 

「帝国兵に任せて非戦闘民は後方の仕事をするべきだ。戦うのが仕事の奴らを今戦わせないでどうするんだよ」

 

プレアデス戦団もやれるだけ働かせるべきだろうが、彼らは軍人ではない。軍人こそが戦い、身を危険に晒すべきだとケイは冷たく言い放つ。

 

そもそもガークラの方の話は、ケイにとって重要度が高くないのか態度が露骨だった。

 

 

そうこうしてようやく突入部隊が決定した。ギャレクに問題なく乗れる人数に絞られて、最終決定されていく。

 

 

 

その結果が降下作戦であり、奇跡の無傷突破である。

 

スピンクスにとって悪夢のような結果がナツキ・スバルというたった一つの異分子によって引き起こされる。無傷での到達はスバルにとっても悪夢のような試行錯誤の結果であるのだが、それを知るものは一人しかいない。

 

互いに悪夢の如き苦難を押し付け合い、最後にそれを受け止めさせられるのは誰なのか。

 

帝都の決戦が再び始まる。

 

 

 

 

 

だけれどここからはスバルにとっても未知の戦いだ。

この針の穴を通すような降下をあと何度再現しなくてはいけないのだろうか。すでに余裕で3桁を越えたであろう試行の末、コツは掴んだが当然100%とは言い難い方法だった。

 

とはいえ、他の方法よりもこれが圧倒的にマシな接近方法であるのだけは断言できる。地上も地下もこれ以上の地獄だったから。

 

時間をかけるだけ不利になる。相手に遊びは一切ないとすでにスバルだけは身に染みている。

 

「こっからは、何が起こるかわからねぇ!まずはケイとアベルの考えに合わせて動いてくれ!」

 

作戦の概要はこうだ。

『魔女』を捜索しつつ、魔法陣を破壊する。サブの目標として相手の主戦力の撃破があるがそれは一部を除いて最優先じゃない。

 

破壊工作と足止めに分かれて仕事を果たすべく、彼らは帝都に乗り込んだ。

 

魔法陣は隠蔽されてダミーが数限りなく散りばめられているが、それらを手当たり次第に破壊するというのが主な作戦である。

 

途中『魔女』がいるならばアベルの陽剣か、ベアトリスの陰魔法で復活を許さずに撃破する。

 

エミリアはすでに見えている雲龍の元へと向かうことに決まっている。それも打倒が目的じゃない。龍を牽制しつつ、魔法陣を乱すことがエミリアの仕事だ。

 

龍と戦ったことのある経験ならば、現在存命中の誰よりも多いかもしれないのがエミリアだ。

プレアデス監視塔からずっと。エミリアは龍と連戦を重ねている。三種もの異なる龍にこれほどの短期間で会うというのも本当にあり得ないことである。ドラゴンの専門家を名乗っても良い経験値になっている。

 

そして空を自由に飛び続けて遠距離から奇襲を仕掛けるバルロイには積極的にロズワールが仕掛けることになっている。

グルービーとハリベルが『荊棘帝』を捜索しているが、まだ呪いは発生しておらず、鋭い嗅覚にも引っ掛からないため敵の場所がわからない。

 

 

アベルはスバルとベアトリス。ケイとザーレスティアの精霊コンビ二組と共に行動していた。

水晶宮目前の広場にはゾンビが群れをなしていると思ったが、その予想は大きく外れる。

 

そこにいたのは一人だけだ。たった一人で、男はそこにいた。

 

まるで戦えるようには見えない。アベルから見ても武人ではないと一目でわかる。

しかし重要な場所にただ一人で立つ男からは、尋常ではない何かを感じ取ってしまう。

 

「嘘、なのよ…」

 

大精霊がそう呟き、相手がやはり尋常でないと確信する。だってあり得ないからだ。何もない男をそこにただ置いておくというのは道理に合わない。だから、当たり前に何かある。

 

「最悪だな」

 

ケイすらも悪態をついている。

 

「なんで?すんごい雑魚っぽいんですけど…」

 

こちらの大精霊の言うことは当てにならない。

そしてその容姿について、ヴォラキア皇帝であるヴィンセントには当然心当たりがあるのだが伝聞での知識しかなく確信はない。

 

「ナツキ・スバル。貴様はあれを…」

 

警戒心から事実を知っていそうなスバルへと問うが、それ以上の濁流のような言葉がその男から溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして君たちはいつもそうなんだろうね?いや、ほんとに、どうしてか疑問なんだよね。僕がわざわざここにいるっていうのが見えないの?見えてて無視してるのかな?それとも、そもそも見る気がないってわけ?いきなり来てさ、人がいるっていうこの、動かせない現実を、なんで無視できるの?人の家にいきなり来るなだなんて、言わなくてもわかるでしょ?もし来たのなら話しかけるのが最低限のマナーってものだよね。常識でしょ?常識って言葉、知ってる?ああ、君たちにとっては知らない言葉か、もしくは、理解するつもりもない都合の悪い言葉なんだろうね。何をしていたのかとか、どんな時間を過ごしていたのかとか、そういうことは一切考えないわけだ。冗談じゃない、冗談にならない、笑えない、笑えって言われても無理だよこれは。

 

いい機会だし考えるといいよ。僕がここにいるっていうこの状況が、どうしてそんなに軽く見られるのか本当にわからないんだけどさ。まさかとは思うけど、君たち、僕がここにいるのを見てなかったとか言わないよね?まさかね?そんなことがあったら、それこそ僕の尊厳を、僕の存在を、僕のすべてを無視してるってことになる。それを無視して踏み潰して、それでいて「自分はそんなつもりじゃなかった」なんて言うんだとしたら、その瞬間に君たちは加害者だよ。ほんとは確信犯なんだろう。正体見たり!って感じだな。

 

自覚できてるかな?僕がそう感じたら君たちは加害者になるんだよ。知ってた?よくそんな態度でいれるものだよね。だってそうだろう。僕は傷ついてるんだよ。勝手に来られて、僕の空間を、僕の時間を、僕の在り方を壊されて、どうして黙ってられるっていうんだよ。温厚な僕の良心につけ込んでよくもまぁ好き勝手できるよね。心の底から信じられない。とんでもないモラルハザードだよ。君たちにとっては、他人なんて、いてもいなくてもいいんだろうね?でも違うんだよ。僕は違う。僕は筋を通している。ここにいるのが当たり前だし、いて当然の理由も、ぜんぶある。

 

だいたいそんな貧相な格好で英雄を気取るなんて各方面に失礼だよね。礼儀を無視して、踏み込んできて、よく平気でいられるよ。自分が悪くないと思うならそれなりの格好しろ。罪悪感って知らない?傲慢の化身がよ。ああ、そうか、知らないんだろうね。そういうのを感じる心すらないんだろうね。自分さえよければってやつ?ほんと、いやだね。君たちみたいな人間、いや、人間?もしかしてそれ以下?こんな弱点だらけで今までよく生きてこられたな、草食動物恥知らず。そういうのがのうのうと歩いてるこの世界が、間違ってるよ。僕が間違ってるんじゃない。世界が間違ってる。世界が狂ってる。ああもう、何回言わせれば満足なのかな。とうとう堪忍袋の緒が切れ果てたぞ。君たちのせいで僕は今、こんなに苦しいんだよ?どうして話し合いができないの?僕は話す気があるのに。あるんだよ?あるのに!どうして君たちは暴力に逃げる?僕を否定する?僕の言葉を遮る?僕の存在を軽く扱う?そんな戯言が世間でまかり通ると思ってるの?僕がどんな風に世界と向き合ってきたかなんて、考えたことあるの?ないよね?知ろうとすらしてないよね?それでよく、何かを手に入れようとできるね。恥を知れ。そんなんじゃ世の中やってけないよ?」

 

 

ナツキ・スバルが世界で一番会いたくない男が、そこにいた。

 




気持ちの悪い長文には誤字やおかしな言葉、存在しないカタカナがあっても気にしないで大丈夫です。こういう模様だと思ってください。
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