亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:219】最善手の怪物

 

魔女教大罪司教『強欲』担当。レグルス・コルニアス。

 

ナツキ・スバルにとって最悪のトラウマと言うには流石に色々と及ばないが、しかし敵の能力としてなら最強であったと断言できる。

 

最強が横にいてくれたとはいえ、結果的にはこれとの戦いは一度も死なずに切り抜けている。

それでも確信できるほどには反則だった。

 

本人のスペックが足りないおかげでどうにかなった『無敵』の権能は、ラインハルトが単独で攻めきれない唯一の敵だったと言ってもいい。

 

レグルス・コルニアスはゾンビ化した目の色だけが変化した箇所でありそれ以外は全く変わっていなかった。

 

殺されたというのに、それについての恨みよりも何気ない文句を延々と垂れているあたりも変わらない。

 

「最悪!最っ悪だ!!『強欲』が出やがった!ベア子撤退!即撤収!」

 

その叫びで、ヴォラキア皇帝もその異常性に全てを察する。

 

 

「はあ?何慌ててんのよ。どっからどう見ても雑魚じゃない。ものを知らない奴らね。バカなの?死ぬわよ?」

 

何も知らないザーレスティアはそう言うが、相手や歴史を知るものならその脅威は無視できない。

 

なぜなら『城塞都市』ガークラは、ヴォラキア帝国でも五指に入る大都市として知られるその場所は、『強欲』たった一人に壊滅させられたからだ。

 

防壁の内側に堅固な要塞をいくつも擁する強大な防衛の要所となっている。

ただし、その堅固さで謳われた都市の伝説は、十数年前に単独でガークラを襲った魔女教の『強欲』の大罪司教の手によって崩壊した。

 

被害は城塞都市の数千名の常備兵と、ヴォラキア帝国最強の武人と呼ばれた『八つ腕』のクルガンの死、そして複数の要塞が壊滅した帝国史に残る最悪のものだ。

 

水門都市でその脅威に触れつつも、最後には撃破したスバルたちよりもヴォラキア皇帝がこの大罪司教に抱く警戒は高いかもしれない。

 

「いいから!みんな!一旦逃げろ!まずは周囲を探してあいつの嫁にさせられてる人たちを探すんだ!あと、あとはそう!エミリアたんがいないと!」

 

あれ、嫁さんたちもゾンビ化してたらどうなるんだ?などと考えたくない想像が膨らみ始める。

 

「そういえばさぁ。ここって帝国なんだよね?なんであいつらがここにいるわけ?もしかして僕のこと追いかけて来てるのかな。困るんだよね。そういうの。穏やかな生活をしたいだけの僕のことを追いかけ回して、これ以上何をするつもりなのか知らないけど、人に執着して人の自由を奪うなんて蛮行が許されるとでも思ってるわけ?あの淫売もいるんだろう。悪いけど今更よりを戻そうって言ってもこっちから願い下げなんだよね」

 

「勘違い極まってんじゃねぇクソ野郎!お前のこと追っかけるやつなんかいるわけねぇだろうが。終わってる人間性のまま変わってないなほんと!ぜってぇシルフィには会わせられねぇ…」

 

今はエミリア陣営に身を寄せているこいつの元妻のシルフィはいまだに悪夢を見ているようだった。あの関係を家庭と言っていいかは全くわからないが家庭内暴力の極地がこいつだ。

 

本人が蘇ったと聞けばトラウマを持った人々は卒倒してもおかしくない。

 

「多分だけど、陽剣も効かない!一旦下がって立て直しだ!」

 

アベルもそれに続き、ケイも異論はないようで即座に撤退の構えだ。

 

しかし、ケイは違和感に思い当たりそれをきっかけに他にも疑問が生まれてきた。

その間も無駄口を叩いているが、無為な鳴き声に割く思考のリソースは存在しない。

 

それを検証するために、ケイは即座にできる方法を迷わず取った。

 

「わかった。でも一応、撃つだけ撃っとくぞ」

 

ティアにジェスチャーで指示を出し、ついでとばかりにその指の先から光を迸らせる。

走りながら撃つくらいは当然練習してある。

 

 

まず一つ目の疑問、魔女因子はどうなった?

二つ目、いや権能なしなら一体何の意味がある?

 

次にあるのは確信だ。スピンクスは無駄なことを決してしない。

だからこいつが何なのか。その先はまだわからない。

 

だから確かめるのだ。ただの確認としての一発が、強欲に着弾する。

 

 

 

すると、当たった。その()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ の さ? 人に向かっていきなりこれってどういう了見なわ…」

 

遅れて殺到した全殺しの風が相手を刻む。

誰よりも不変であった『強欲』はバラバラになって、舞い散った。

 

「え?」

 

そのあり得ない光景に、逃げようとしたスバルの足が止まる。

 

「ほら!やっぱりね。今まで見た中で最っ弱!ダントツでカスよ!いった通りでしょーが!世間知らずって感じの目で見たことを謝りなさいよ!」

 

そういえば、スバルの内側にあるコル・レオニスは健在だ。

これは『強欲』の因子のおかげのはずで、こいつを倒した時に移ったのだろう。

 

まさかまさかまさか?

 

「じゃあ、なんだ?あいつはただムカつくだけの、ガチの雑魚なんじゃ」

 

権能のないレグルスなど最初のこけおどし以外に用途がなさすぎて、意味不明がすぎる。よほどそこらの帝国兵を復活させたほうがいい。いや、そこらの小型の野犬のほうが強いレベルだ。

 

「あり得ないでしょ。人が話している時に二人がかりとかさぁ!!」

 

嫌がらせ以外に性能のないこいつは、脅威じゃない。早く核を壊すかしてもらってこの不快な声を黙らせてほしい。

 

動揺させられた鬱憤の分も含めて怒りを感じ、一転して強気を取り戻したスバルは叫ぶ。

 

「ビビらせやがって!権能なしのお前に何ができるんだよ!」

 

『それ、自分にも刺さってへん?大丈夫そ?』

 

ぐあぁ!!!味方のはずのアナスタシアが背後から致命(バックスタブ)を入れてきた。

 

過去も現在もおそらく未来も、権能に頼りまくっているスバルに特効の一撃が、きゅうしょに あたった!

 

そんな脳内コントを繰り広げていると、唐突に何かに気づいた様子のケイが真剣にスバルへと語りかけてくる。何か切迫した表情をしていて、このノミ以下にそこまでビビる必要はないと伝えなくてはと思った矢先の言葉だった。

 

ケイは気づいた。思考を止められない癖が、その結論に導いた。

違和感を辿ると、自分にとって都合の悪い発想も当然出てくる。

 

「おい、スバル。こいつの前で死ぬのだけはやめてくれるか?」

 

汗がたらりと流れ落ちるような悪寒にケイは支配されている。

 

「んん?どういうことだ?なに言って…」

 

「意味がないことを『魔女』はしない。これは嫌がらせ以上の何かがある。お前が死ねば、『強欲の因子』はあいつに戻るんじゃないのか?」

 

ゾッとする。血の気が引く。

 

「もしも死ぬとしたら、場所と状況は気にしてくれ頼むぞ。本当に…」

 

「無茶苦茶の暴言なのよ!戦場で死に方を選んで死ねるような人はいないかしら!」

 

憤慨するベアトリスは愛おしいが、懸念としてはケイが正しい。

 

弱ェ奴は死に方も選べねェとは至言であるが、スバルだけは例外だった。

しかし、今死に方を制限されてしまった。

 

これは奇しくも魔女による『死に戻り』への嫌がらせになっている。きっと偶然だろうがその結果としてあまりにも劇的にスバルの精神を削ってくる。

 

それは聖域で吹っ切れたはずの可能性。スバルが死んだ後の世界がどうなっているのかという心配だった。それを気にしてはいられないと『死に戻り』を特に幼児化してからは積極的に使ってきたが、ケイ本人に言われてしまってはもう無視はできない。

 

こいつの近くで、死んではいけない。

ということはこいつに近づいた状態で()行錯誤はできないということになる。

 

「人を無視して、軽々しく死ぬとか言っちゃってさぁ。本当に浅はかで愚かだよね」

 

先ほどまでのレグルスがまた長々しい講釈を垂れ始めるが、次の瞬間には後ろから同じ声がした。

 

「おかしいんじゃないの?なんでそう軽々しく死を口にできるのかがわからない。どういう神経してるのか、教えてもらいたいだけど。だいたい誰に向けてそれを言ったつもりなんだ。よりによってこの僕にそれをいうってどういう了見なわけ?一度死んでそれの体験にトラウマを抱えているとか想像できないのかな」

 

振り返ると、同じ男が同じように語っている。右からも、左からも声がした。

 

「本気で死にたい人間がそんなふうに喋る? そんなに器用に他人に届く言葉を選ぶ余裕があるか? ないだろ。あるってことは、つまりそういうことなんだよ。死にたいんじゃなくて、聞いてほしいんだ。気づいてほしいんだ。自分が傷ついてるって、大変なんだって、誰かにわかってほしいんだろ。甘えたいだけだろ。もちろん寛容な僕はそれが悪いとは言わないよ。弱い人間はそうなるのも仕方ない。だけどさ。だったら素直にそう言えばいい。死なんて取り返しのつかない言葉で誤魔化すなよ」

 

「なにが嫌いって、そういうのが一番嫌いなんだよね」

 

増える。

 

「死を免罪符みたいに使って、自分の存在価値を吊り上げようとする」

 

増える増える。

 

「そのくせ、助けられれば当たり前みたいな顔をして、救われなければ世の中が悪いとでも言いたげな顔をする」

 

増える増える増える。

 

「どっちに転んでも自分に非はないと思ってる。そういう奴が一番厄介で、そういう考え方が一番くだらないと思わない?」

 

増え続ける最悪の『強欲』が四方八方から語り続ける。

次々と現れるレグルスは、複製されていた。

 

全く同じ服装、同じ顔立ち、同じ髪型の男が、道の端から、建物の影から、塀の上から、石畳の隙間すら裂け目のようにして、這い出してくる。まるで、決められた規則に従って駒を配置するように。

 

同じような表情で、似たような意味のない言葉を吐き続ける軽薄な男が増えていく。

 

五人、十人、十五、二十。

 

振り返れば背後にも同じ顔。目を向ける先すべてに、それがいた。

 

「こいつ…実はミドルネームがスミスだったりしない?」

 

どうにか絞り出した軽口も、このダメージはカバーしきれていない。スバルは救世主ではないのだ。この邪魔者が増えるのは本当に困る。

 

ナツキ・スバルの心を抉る一手が見事に刺さり、その精神を大きく削る。

冷や汗が滴り、動悸が早くなる。

 

スバルがこれまで体験したことのない負荷がかけられていく。

 

これが偶然だとスバルは思っている。

幾度もやり直すうちその考えは改められることになるとも知らず、今はただの偶然であると前向きに思えていた。

 

 

 

 

どこかでその戦いを観測していた『魔女』が呟く。

 

「やはり長く『強欲』の保持者だっただけはありますね。大罪司教は興味深い。どれほど分けても少しも自我が薄れないというのはまさに異常と言える魂の在り様です。通常の人間とは魂の様相が全く異なる、驚異的な特異性。要・観察です」

 

決め手にはならないだろうが、もしかしたら足枷にはなるかもしれない。注意を奪うくらいはできそうだと置いておいた甲斐がある。

 

 

しかしながら、なぜこんな権能が許されているのかわからない。

それにはどれほどの代償が必要になるのだろう。世界は一体何を背負わされているのだろう。

 

当然、強欲の権能の話ではない。ナツキ・スバルの話だ。

 

これが魔女教にも近年確認されていなかった『傲慢』の権能だとでもいうのだろうか。

 

恐らく違うだろうが、時間操作という仮説もある。自身の死を起点に時を戻すなどの力かと思ったが、それほどの力は流石にありえないだろう。

未来の操作と過去の改変では、世界を変える規模が違いすぎる。

 

起こしている現象が想像の通りならば『権能』程度じゃ全く足りないと冷静に考え至る。

だとすれば、先代『傲慢』ストライド・ヴォラキアの権能があまりにささやか過ぎるのも疑問だ。

いや、ナツキ・スバルが特別なのかもしれないが。

 

 

スピンクスは彼の能力を最初、『未来予知』だと思っていた。『星詠み』よりも精度の高い預言者。それが彼の特異性を説明できると思っていた。

 

しかしそれは撤退戦の追撃で大きな疑問が残り、それを元に構築した帝都の対空防御を突破された時に別の核心へと変わる。

 

仮説を試し尽くした結論は、これは()()()()()()()()ということだ。

 

空中にある不可視の魔法陣を破壊するだけならば、まだ未来予知で片付けられたかもしれない。

 

しかし、50を超える種類の魔法を落下状態で全て捌き切るというのはいくら未来を見たところで不可能だ。

 

彼の情報処理能力は並であり、それは間違いない。

仮に全ての攻撃を事前に見えていたとしても、それを仲間たちに正確に伝えられるはずがない。

 

砲撃はどのように避けられたかによって微妙にタイミングをずらし、種類や順番も切り替えている。だから事前に見た予測によって声をかけてもそれによって未来が変わるはずなのだ。

 

見た未来と完全に同じ行動をするというのは不可能だろう。

だからきっと『星詠み』たちのような未来視や託宣などの類だけではない。

 

物語や空想のような能力になってしまうが、彼は未来の改変ができるのではないだろうか。

運命の操作と言ってもいい。

 

ほんの少しでも可能性のある未来であれば、それを実現してしまう『傲慢』極まりない権能。

 

恐らくは捻じ曲げたい対象との接触が必要だと睨んでいる。

 

それくらいの反則がなければ、あの『怠惰』を犠牲者なしで倒すことなど不可能であると確信できる。

 

 

 

ここまで推測を行なってなお、スピンクスは彼が迫る帝都から逃げていない。

目的の一部は達成できたのだからすでに大災を起こした甲斐はあった。まだ達成すべき目的があるが、それを踏まえてもこの異常者が迫る帝都から逃げないのには理由があった。

 

彼も万能ではなさそうだという観察結果を知っているから。

やけに手厚く介護しているところから大事な存在であると見えるレムという少女。

彼女を『暴食』の影響からどうにか救おうと彼は動いている。全てを操作できるのであれば、それは起きないはずだ。

 

水門都市では多くの人間が死に、カルステン公爵も重傷を負った。

そして直近では同胞であるはずのプリシラ・バーリエルの身柄をこちらが確保してしまえたことが何よりの証拠だ。

 

当時のレムという少女については把握できていないが、他の事例については共通点がある。

それはナツキ・スバルが認識できていない場所で起きた出来事であるということ。

 

彼は目の前の現実を自分の好きなように誘導できるが、それ以外には無力なのではないだろうか。

 

彼に知られれば、彼にとっての最善に干渉されてしまう。

だからナツキ・スバルには絶対に会ってはいけない。あれと会うくらいなら、文字通り死んで逃げた方がマシなのだ。

 

 

スピンクスは最善手を打つために、()()()()()()()()()()を避けることを選択した。

 

『相手の隠し事を暴き、相手の意図を看破し、最善を引き寄せる怪物。それの倒し方は?』

 

それが、スピンクスに与えられた()()()である。

 

その答えは明確だ。しかし成し遂げるのはあまりに困難である。

 

「要・最善です」

 

まずは最善を尽くさねば。

 

 

 

 

スバルはようやく、本当に途方もない労力と試行回数と時間をかけてようやく。

帝都の概ねの状況を把握することに成功した。

 

ゾンビたちは死ぬと帝都のどこかで復活する個体がいる。核を壊さずそうなるものもいれば、壊していても複製をとっておいたものもいるらしい。

 

レグルスは異常に複製が多く、そこら中にいて語りかけてくる最悪すぎる置物と化している。

ただひたすらに邪魔だし、すぐに『死に戻り』できないおまけ付きだ。

 

一掃するか、離脱してから死ななくてはいけない。

幾度も意図せず死んでしまったことがあるが、その先は想像したくない。

 

帝都にいるゾンビたちの配置とリポップ場所。偽物の魔法陣のたぶん6割以上の場所。

スピンクスの手札はまだあるのだろうが、戦うものたちの相性も含めてようやく方針が決められそうなときそれは起こった。

 

 

おかしい。

このまま進めば、魔法陣の一つに到達しロズワールはバルロイを捕捉できるはずなのに。

 

目の前の道がなくなっている。

そして見たこともない帝国の将軍がもうぜんと大斧でスバルを殺しにかかってくる。

 

初めて見る光景。何が原因で変わったんだ?

全くわからない。そして遠くからの矢で射抜かれてスバルは死んだ。

 

「君さあ。年功序列とか知らないわけ?大人の言うことをここまで無視しておいて、死んではいさようならってのは虫が良すぎるんじゃないの?子供なら子供らしく…」

 

スバルが抵抗できなくなると、レグルスが死体蹴りにやってくる。

ベアトリスがいれば蹴散らしてくれるが、一緒に負けた時には…

 

 

スバルは帝都への突入から再びやり直した。

 

しかし、ある程度時間が過ぎると途端に全てが違う動きをし始める。

わかったと思った次の周回でなぜか手詰まりになっていく。

 

なぜなら相手がすぐに変わるし、()()()()()()のだ。

 

これは今まで一回も経験したことのない異常だった。

ある時刻から、敵の発生や配置が毎回変わってしまう。

 

帝都自体が蠢き、大地が凹んで隆起する。

ムスペルの力で地形ごと変化させ、全く違う光景になっていく。

 

毎回変わってしまう環境と敵。最適を最後まで維持することができないのだ。どうしても、ずらしてくるのを防げない。

 

ナツキ・スバルは『死に戻り』の初めての弱点を突きつけられる。

 

 

佐藤がいたならばこう言ったかもしれない『()()()()()()だね。こういうのは大好きだ』と。

 

 

本来の戦場には必要ないはずの大掛かりで壮大な無駄な仕掛け。

非効率の極みとも言える無駄な魔法が、この場で最も合理的な一撃となって襲いくる。

 

 

()()()()()()という混沌が、ナツキ・スバルを初めて捕捉した。

 

 

それはナツキ・スバルの試行回数が、()()()に膨れ上がった瞬間だった。

だがそれでも、いずれスバルの試行は必ずそれが盤上にあるのなら全てを明らかにしていく。

 

ダミーの魔法陣を明らかにしていけばそれが進んでいる証拠になるが、スバルはまたしても愕然とさせられた。

 

位置が変わらないはずの魔法陣。それを全部一度は潰しても帝都を覆う術式が終わらない。

その事実に行き当たった時にスバルは今の試行が全て無駄だったことを思い知らされた。

 

 

やり直しによる情報の蓄積と、それで可能になる総当たり。

凡人にできる最高の反則を全て潰され、スバルはこれまでとは全く違う衝撃を味わった。

 

流石にスバルもここまでやられれば気づいている。毎回横にはケイもいた。相談だって幾度もしている。

 

だから結論として、敵はスバルの能力をかなりの精度で予測ができているのだと認めることになる。

 

かつて理解者であるケイと出会った時には、どうしようもない孤独を打ち消してくれたようで泣きそうになった。というか泣いたが。

 

しかし今、またこの世界に一人参加したという孤独を減らすサプライズに対してスバルは全くポジティブな感想を抱けない。

 

ケイとだけは敵対したらダメだというのはかなり初期からわかっていた。そんなつもりもないし、あり得ないとも思っていたが。だが、そんな最悪の状況になったかのような悪寒がずっとスバルの背中を撫でているのだ。

 

寒気の元凶は淡々と冷徹に物事を進めていく。彼女の視点ではそれが機能しているのか、はたまた攻略されているのか。全くの無駄だったのかもわからない。

 

それでも最善を尽くしていくのだ。

 

条件が揃うまで、繰り返し続ける。諦めなければ、いつかはまた同じ挑戦ができると信じて繰り返す。

 

合間にレグルスがずっと語りかけてくるのも辛い。さらに心労が重なっていく。

 

何より辛いのが、『魔女』がスバルの嫌がることを把握していたということだ。

親子同士で殺し合いをし続けているゾンビを見せつけられる。

『腑分け』のヴィヴァと呼ばれる異常者の実験棟を見てしまう。

生きている人間たちが…

 

嫌がらせのようにスバルが嫌がる残酷な光景が戦術上意味のないほどに、重要そうな場所にこそ無駄に残酷なショーが各所に用意されていた。

 

それらを見るたびに、子供の泣き叫ぶ声を、女性の狂った声を、男の死を願う懇願を聞くたびに心が折れそうになる。

 

 

 

魔女の『役に立つかもしれない』程度で用意した仕掛けは、ナツキ・スバルをかつてないほどに明確に削っていた。

幼児化していなければ確実に心が折れていたというほどに。幼児化していても、心が磨耗してくるほどに。

 

帝都に降り立つまで、自分を『無敵』と信じていた。

しかし今は違う。無限の挑戦はできない。それをスバルは痛感している。

 

 

「続・対応です」

 

 

『強欲』のエキドナを目指し、永井圭を参考にした魔女はこの世界で初めてと言ってもいいほどに、スバルに対応することに成功していた。悲しいかな本人に自覚は当然ないが。

しかし破綻していない戦場を確認することはできている。ということは上手くいっていると見ていいだろう。

 

運命操作。時間操作。記憶の継承。

 

どんな反則かはまだ定かではないが、その全てに対策しておけば戦える。

彼の反則を封じた後、そこから先は自力の戦いになるはずで、そうなった時の障害は決まっている。

 

魔女が最も警戒するのは参考元のあの男なのだ。

 

「あなたはどんな一手を打つのでしょう。要・注目です」

 

それでも魔女は動かない。だって、このままならばこちらの勝ちだから。

 

誰が彼らの前になど行くものか。

陽剣の届く範囲に入るなど馬鹿げている。ナツキ・スバルの視界に入るなど降参をするようなもので、ケイに情報を与えるなど逆転をしてくれと自ら弱点を披露するに等しい。

 

魔法陣は最初に想定していた場所をやめて、もっと最適な場所に隠してある。

だから彼らがいくら誰を打倒しようとも関係ない。いずれ時間切れがくる。

 

この『魔女』は愚かな行動を極力排してここにいる。

 

その結果が、これだ。

 

事前に準備していたものだけで、大災を完遂する。帝国を滅ぼす。相手は隠れ潜む『魔女』を特定できない。

 

人の視覚や五感に同調して場所を把握する能力がある。

マナを辿って居場所を特定する方法がある。

現存するあらゆるミーティアを調べその使用法で居場所を特定される可能性がある。

 

その全てに対策をして、魔女はただひたすら隠れていた。

決して特定されず、見つからず、行けもしない場所に隠れるだけでいい。

 

なんの面白味もない、物語性もない、戦いの熱もないこの状況こそが合理というものである。

 

「要・観察です」

 

最善を詰める『魔女』スピンクスは、暗闇の中からじっと動かない。

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