亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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悪魔と踊ろう


【FILE:222】JACK POT

この状況は無数の試行の中の一つであり、たまたま全てが噛み合ったものだった。

 

空では自由に羽ばたく『魔弾の射手』に世界最強の魔法使いが相対し。

地上では帝国の歴史にこびり付いた呪われし皇帝に、呪いの専門家たちが迫る。

 

ここまでの好条件は久々だった。大当たり(JACK POT)と言ってもいい。

 

最も簡単なマッチアップは、生者でありその巨体から隠蔽はできない『雲龍』メゾレイア。ここに最適な人材を向けることは難しくない。

 

至難の噛み合わせというのは先に挙げた二つだ。

呪いを周囲へと広げる『荊棘帝』と自由に空を飛ぶ『魔弾の射手』。

 

これらはどこに出現するか分からず、『荊棘帝』の対処が遅れれば全体が破綻するという最悪のおまけつきだ。

 

ちなみに組み合わせというかスバルの意図を必ず無視する存在として、帝国の壱と弍という最悪の二人がいるのだが、これはもう災害だと割り切っている。

それらが制御可能な場所にいるということも大当たりの一因だ。

 

 

彼の対処には呪いの専門家を向かわせたいのだがそれを実現するにはかなりの回数が必要で、これは積み重ねてもある一定以上は改善しなくなっていた。

ただひたすらに毎回全力を尽くして失敗し続ける。前進しないというのは本当に心が折れそうだった。ケイがいなければ確実に一度は膝をついていただろう。

 

弱るとレグルスが調子にのるのでそれもキツい。

 

しかし、そんな停滞を許さない男が横にいてくれた。ケイの前で俯いていればすごく正確に叱られる。ちょっと言葉のナイフが鋭すぎるくらいにはグサグサくるが、発奮としてはこの上なかった。

 

友達にそんなことを言わせたくない、ダサいと思われたくない。そんな些細な気持ちを使ってでもスバルはこの世界へと辿り着いた。

 

経験からわかったがこの作戦における肝は、最適場所と相手に最短で人材を配置すること。

 

『魔弾の射手』に張り付かれればハリベルであっても行動を制限される。彼相手に短時間で戦闘を終わらせることができるのはロズワールのみ。あとはケイも何度か成功させていたが、その内容をスバルは知らない。

 

『龍』の対処は母性全開のエミリアが最適。ブーストをかけて送り出したが、不安なのでアルについていってもらう。

 

 

それぞれに相性というものがある。

 

そして何より、配置は最短でというのが重要だ。後からゆっくりと交代しているようではいけないとケイから念押しされていた。スバルもそう思う。

スバルが妥協なく状況を選び続けた結果。ようやく今の戦場が生まれている。

 

 

 

次にまた条件を満たす組み合わせが実現するのがいつかは分からない。

ユーガルドへと呪具と呪いの専門家を最初から当てつつ、ロズワールたちがバルロイと戦闘を始められるのはこの上ない状況なのだ。

 

緊張で汗が吹き出ている。走っていたのも理由だろうが、どうにも精神的なものな気がする。

 

だって仕方ないじゃないか。もしかしたら、ここまでの好条件は初めてかもしれないのだ。

『荊棘帝』と『魔弾の射手』を抑えられたのは確か30回くらい前だったか、それもセシルスとアラキアの戦いがいきなり目の前で始まってどうなったのかわからない。

 

その前は、ちょっともう覚えていない。水門都市での膨大な死を経験して以降、やり直しの回数をカウントするのは辛さが可視化されるようで避けている。

 

スバルが嫌がらせ特化の『強欲』と出会った時に全ての戦場が同時に開始していた。

もうスバルにはそれぞれの戦場の無事を祈ることしかできない。

 

あと、やれることと言えば…

 

 

 

 

 

見つけた。

 

――カララギ都市国家の北西、大瀑布近くにあるギラル赤丘。

赤い砂漠地帯に見えるその場所は、砂粒のように細かな火の魔石の粒子でできた世界で最も危険な土地。風が吹くだけでも尋常でない連鎖爆発が起こるその土地は、四大に入り損ねた大精霊の血涙でできていると語られる大地だ。

 

グルービー・ガムレットの鎖鎌の分銅、その内側にはギラル赤丘で回収された火の魔晶石が内蔵されており、周囲のマナを吸収したそれはこうして凄まじい破壊力を発揮する。

 

 

「おおおおおお――ッ!!」

 

 

グルービーの咆哮が轟いた直後、それが向けられた先に落ちた分銅が地面に触れる。瞬間、分銅の内部が真っ赤に染まり、周囲の建物を巻き込んで大爆発が起こる。

 

圧倒的な衝撃波が数人で固まっていた屍人たちを吹き飛ばし、帝都の通りを丸ごと崩壊させた。

 

その破壊の奔流に呼応するように、グルービーは己の奥底から湧き上がる衝動のまま雄叫びを上げる。

 

この距離まで接近できたのは、本来ならありえないことだった。

普通であれば、とっくに茨の呪いに縛られ、身動きもできずにいたはずだ。

対策を怠っていたら、戦いになる前に血を吐いて倒れていたことは想像に難くない。

 

だが、どんな厄介な術にも抜け穴はある。代償と負担が並大抵でないとしても、完全な封殺は存在しない。それらを呑み込む覚悟があれば、いくつかの道は確かに残されているのだ。

 

 

すでにしっかりと対価を支払い、グルービーはまともに戦う権利を得た。

帝国を救うため、おそらくは自分がクソったれな『荊棘帝』を潰すために必要なのだろう。

何が『大災』を退けるための光だ。

 

「クソ『星詠み』が!ぶっ殺してやる!」

 

もうグルービーはヤケクソだ。絶対に選びたくなかった選択をすでに終えていた。

王国に無様に頼ってここまでやったのだ。もうこれより下はない。

 

そして、牙を強く噛み鳴らして鎖鎌を持ち直すと、

 

「本当に上から来やがった!クソ気持ちわりい!!」

 

グルービーの広範囲を吹き飛ばす一撃を避け、上空から赤い外套の裾をなびかせて落ちてくる人影へ、鎖分銅を打ち上げる。

 

それは半ば確信から放たれた先をとる一撃であり、帝国の頂点たるグルービーであっても初見ではできないほどの早い対応だった。

 

あの皇太子とかいう怪しい子供の言う事が現実になる。『星詠み』よりも胡散臭い、というか危険な臭いがするとグルービーの第六感は告げていたが皇帝陛下の命令に逆らうはずもない。

 

その結果がこれだ。こう攻撃すればこうなるという助言が的確に刺さりすぎている。

 

相手にしてみれば、カウンターで死角から急襲したのにそれにも完璧なカウンターを当てられた形だ。事前に投げていたブーメランが背後から当たり、皇帝は体勢を崩す。

分銅の攻撃は慌てて手にした剣で受け、直後、爆炎が相手を呑み込む。

 

普通ならこれで終わりだが――、

 

「ちぃッ!」

 

瞬間、空を押し包んだ炎が真っ二つに断たれるのを目にし、グルービーが後ろへ飛ぶ。

 

「異なことを。何故、完璧な迎撃をこなして口汚く罵るのだ。道理が通らぬ」

 

言いながら、焼け野原に着地した人影がゆっくりとこちらを見る。

ひび割れた青白い肌に、黒い眼に浮かべた金色の瞳。

 

わかっていることに対して悪態は吐かない。いや、叫びたい気持ちはあるが我慢できる範囲だ。聞いていた通りの最悪がそこに揃っていることに感情を揺らされるほど子供ではないというだけ。

 

 

敵は、右手に『陽剣』を下げた屍人の皇帝は、左手にも異なる武器を携えている。

そしてそれは、当初は屍人が持っていることを想定していなかった得物――。

説明で聞かされた後にも認めたくなかった最悪の組み合わせ。

 

それを実際に見ると文句のひとつも言いたくなる。

 

「――このクソ刀が、大人しくクソバカに振られてろ!」

 

怒りのままに吠えるグルービー、その視界で屍人の皇帝が手にしていたのは『邪剣』ムラサメ――『陽剣』と『邪剣』、ありえぬ魔剣の二振りが『呪具師』グルービー・ガムレットの敵として立ちはだかっていた。

 

 

グルービーは思い出す。

 

「クソッ!」

 

怪しい皇太子から説明を受けて、あとは一緒に実行するハリベルと詳細を詰めている時だ。

作戦会議の際に思わず漏れ出た悪態のことを思い出す。

 

「ええ?いきなりどしたん?なにをそんなに怒ってるん。怖いんやけど、いややわぁ。飴ちゃんやろか?」

 

全く恐怖など感じていない狼人が飄々と笑う。その態度と余裕、特に配慮を受けてさらに先ほどの怒りが燃え上がった。

 

「うるっせぇ!こっちの話だ気にすんな。むしろお前には感謝してる。でも、でもな。テメェみてぇな最強が、なんでこんなに話が通じやがる?」

 

そんな血を吐くような文句に、周囲は理解を示せない。帝国の者たちは訳知り顔ではあるが。

 

「俺たちが普段から、強えだけのクソバカにどんだけ振り回されてんだって話だ!お前がまともに話を聞いて、献策して協力するたびにバカみてぇなクソだって事を実感しただけだ…本当に気にしないでくれ。すまねえ…」

 

それもこれも、セシルスのせいだったらしい。本当に問題児のようだった。ここの最強は。

 

「セシルスの自由奔放さは才能やねえ。ええやん。それでも頑張ってるなんてすごいやん。飴ちゃんやろか?」

 

『礼賛者』ハリベルのお褒めの言葉は、普通のお世辞よりも意味がない。それは世界の常識だ。

 

「まぁいい。確認だ。『荊棘帝』には俺がまず全力で当たる。できるだけクソ派手に攻めるからその隙をついてやれるだけ喰らわせろ」

 

「それがええやろね。この相性ならすぐ終わるんとちゃう?ま、会えればの話やけど」

 

ナツキ・スバル。ナツキ・シュバルツと呼ばれたあの少年のことをグルービーは心の底から怪しいと睨んでいる。なぜか帝都の状況をクソほど把握しておりその指示と共有された知識は異常なほどだ。

 

まぁ。心の底から帝国を救うために必死ということだけはわかるし、悪意の一切を嗅ぎ取れないので言う事は聞いておいている。それ以上に臭いものを感じるが。

 

「いいか。クソほどの短期決戦だ。最初の一合で決めるぞ」

 

 

 

その宣言を現実にするために、グルービーは果敢に攻める。

一切合切を投げ捨てるように全部を注ぎ込む。

 

呪いのこもったクナイを投げつけ、事前に投げておいた別のブーメランの着弾に合わせる。

 

それだけではなく、鎖分銅を体の支点に巻き付けて、三つ四つ五つの攻撃が同時に敵へと殺到するように全てを合わせた。

 

緻密な計算と技巧による絶技。曲芸師のような芸当はしかし、実戦の中で的確に構築されていた。

 

 

ユーガルドは感嘆の声を漏らそうとするが。その瞬間に喉に何かが刺さっていることに気づく。

 

長い針がいつの間にか、喉に刺さっており目にも後から殺到する。

グルービーは口すらも砲口として使っていた。

 

 

陽剣は切りたいものを切り、燃やしたいものを燃やす。

しかし、それができるのは一振りに一回だ。だから手数で攻める。

 

陽剣と邪剣が同時に振るわれ、不死の体を活かしいくつかの攻撃は無視される。ユーガルドは自身の行動を阻害するものだけを的確に見抜き整然と対処を開始した。

 

一気に全てのリソースを注ぎ込み、短期決戦で終わらせようとしている。

確かにそこには勝機があるだろう。

 

ユーガルドが久々の、いや初めてかもしれない本物の闘争を前に笑おうとした時。視界がブレた。

 

そして、直後に()()()()()()()()()()()()()

 

「むっ!?」

 

ユーガルド・ヴォラキアにまともな戦闘経験は皆無と言ってよかった。

英雄に値する豪傑たちが死力を振り絞ってようやく戦いと呼べそうな何かが始まる。

 

目の前にして倒れないのがどれほどの困難さかというものである。

大体は目の前にして、一歩踏み込めば倒れるだけだった。

 

さらには暗殺、奇襲の類などというものの経験は皆無だ。

強者以外はそもそも近づくことすらできないのだ。そして強者は大概隠れたりする必要はない。

 

だからこそ、生涯を通して経験がなく相手が十全に力を発揮できる状況というのは全くの想定外である。

 

グルービーがここまで精緻な攻撃を仕掛けられたことすらも奇跡であると心から称賛したいと思っていた。まさかもう一人いたとは。

 

「「残念。一人やないねん堪忍な」」

 

下半身を地面に埋められ、その地面を切り裂こうとした時にその声が両耳を震わせた。

 

地上へ出ている左右の腕を固められ、そして剣を奪われる。

渾身の力で抗おうとするも、この襲撃者の方が単純に腕力が強かった。そしてさらに巧みでもある。技巧と腕力に上回られて、それに奇襲されればなすすべもない。

 

わけもわからぬうちに剣を奪われ、陽剣は虚空へと消えていく。

 

持たされていた自爆の魔石に火がついた。そしてそれをもう一人に盗まれ、空高く投げられる。

 

左右の腕を押さえ。邪剣を放り投げる先を見れば下手人の姿を見つけた。

黒い狼人が分身から邪剣を受け取り、そして構えてユーガルドを袈裟に切る。

 

陽剣を再びその手に戻し、その一撃へと限界を超えて合わせるが。

 

その手には糸のよう何かが絡んでいた。

 

「クソシノビ共の秘技だってよ。チシャから教えてもらったぜ。クソ鋼糸は硬すぎるから、特別製だ」

 

グルービーが見えない何かで皇帝を縛り上げていた。

 

「三人以上って分かっても。関係ないくらい詰めろって注文やねん。ほんま、堪忍な」

 

誰も勝てない皇帝が、たったの一合で敗北する。

現代の最強たちが、反則と手を組んだ結果がここにあった。

 

 

そして、次の瞬間。対話鏡が震える。

 

しかし、そこからは雑音しか聞こえない。空を見上げれば、細い熱線が打ち上がりいくつかのパターンで意図を伝える。

 

「根詰めるのは柄やないけど、アナ坊にも約束したしなあ。サボらんと、もういっちょ働くとしよか」

 

狼人はその場から消えるかのように移動した。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

帝都上空。

 

――ロズワール・L・メイザースは王国一の、世界一の魔法使いである。

 

この件について本人に問いただせば、彼は自信たっぷりに不敵な笑みを浮かべ、「現代においてはそうだろーぉね」と、一定の条件つきで認めるに違いない。

「現代においては」という注釈を添えるロズワールの顔に、悔しさの色は見当たらない。その異なる色を持つ双眸に浮かぶのは、切望に近い寂しさと、どこまでも深い愛情だ。

それは魔法について語る際に、彼の心の奥底から消えることのない、儚くも確かな思慕の現れであり――ラムとベアトリスを除けば誰も気づかず、ロズワール自身でさえ自覚のない感情だった。

 

そういった内面を抱えてなお、ロズワールが現代屈指の魔法使いであることに揺らぎはない。

決戦に臨むミディアム・オコーネルにもそのことを伝え、彼女を腕に抱いたまま宙を翔けながら、遥か空の高みで待ち受ける『魔弾の射手』と対峙する。

 

 

「――う、きゃん!」

 

可愛らしい声を上げて、空中に浮かぶミディアムが蛮刀を一閃させる。

完全に他者に身を預けた不安定な姿勢からの攻撃だったが、それでも振るわれた刃は迫り来る光の弾を正確に捉え、弾ける水滴のような残響と共に打ち落とした。

 

撃ち落とされた光弾は衝撃の余波を残しながら彼らの背後へ抜け、そのまま空気中に霧散し、マナへと還元される。

その瞬間、ロズワールの内にひやりとした驚愕が走る。放たれた光弾の速度と精度があまりにも洗練されていたからだ。

 

――それは、まさに極限まで研ぎ澄まされた殺人のための魔法だった。

 

射出されたそれは『陽魔法』の一種と考えられるが、一般的なジワルド系のような熱線を放つものではなく、光弾として実体化した斬新な系統。

 

その正確すぎる狙いから相手の思惑をしっかりと読み取り道化は笑った。

ナツキ・スバルにこの作戦の詳しい内容を精査してもらうことはできない。きっと成功しても私は内容を話さないから。

 

さて、彼の記録においても熱線と自身への風魔法以外を使用できるという例はなく、彼を育てたセリーナや、彼を重用したヴィンセント皇帝に聞いても他の魔法はほとんど使えないレベルだとも聞く。

 

「いい魔法だ」

 

心底から感嘆の念を込め、ロズワールはそう言った。

この術を独力で生み出したのならば、相手は確かに一流の魔法使いとしての資質を備えていたはずだ。一芸を極め、自身を一つの形に成形するような生き方を魔法一つから読み取り、共感を覚える。

 

自身にあった戦闘の形を完成させ、一方的に得意を押し付ける姿は機能美のようなものを感じる。

しかしその形を最後まで貫くことができるのか、それはまた別の困難なのだが。

 

ロズワールだけでは彼には勝てない。しかし問題はない。

普通に戦えばほぼ負ける相手であっても、それならば普通に戦わないのが当たり前だ。

 

もし、仮にだが真っ直ぐに回避行動を取らず。こちらにカウンターの攻撃もできないような状況に追い込んだのならどれだけ早く巧みな飛竜操りをしても関係がない。

 

机上の空論として、あり得ないと一蹴されるような状況を整えるだけの材料がここにはあった。

 

だから、最初からある程度の計算ができるように周囲で魔法を迎撃させたのだった。

音と光の時間差による距離の算出。

 

教えてもらえれば単純なそれを用いて、ロズワールは必勝の策を初手で切る。

 

ブラフでもなんでもない。本気の殺意を込めてミディアムを見る。

彼女は頷き、少し震えながらも勇気を奮い立たせて大きな声で覚悟を示した。

 

「やって!ロズちん!」

 

「素晴らしい覚悟だね。では、また会おう」

 

瞬間、ロズワールはミディアムを空へと打ち上げた。

ただ落とすだけでは到底間に合わない距離と判断して、親切にも落下の距離を稼いであげた。

 

それだけではない。ゆっくりとした弾速に調整した火魔法たちを解き放ち、これ見よがしにミディアムへと殺到させる。

 

全部殺すつもりでやっている。本気の殺意をしっかりと込めた。

 

どうやら上手くいったらしい。なぜならロズワールはまだ生きている。

『魔弾』の銃口が一瞬で変わったのだろう、即座に魔法が撃ち落とされる。

 

しかし、ロズワールも撃ち続ける。

 

ミディアムを殺したくないのはどちらか。それはあちらだ。彼女はバルロイが守るべきものであり、ロズワールにとっては究極的にはどうでも他者である。

 

確実に失敗する方策ならば、スバルから待ったがかかるだろう。つまりはこれは成功が約束されている。

 

ケイと自分ならあのバルロイを抑えられると聞いて、即座に思いついたのはこれだった。

どうやらヴォラキア皇帝も本気で彼女を殺すような作戦は立てられないらしい。意外と人情家なのだなと戦略的な情報として記憶する。

 

スバルからのお墨付き。それはかつて『叡智の書』に身を預けていた時と似た安心感を感じ、そして次の瞬間にはそれらを塗り替えうるほどのあのケイという人間の視線を思い出して身震いする。

 

『叡智の書』に依存したとき、スバルが現れそれを焼いた。

スバルを『叡智の書』とすれば、また打破するものが現れるのかもしれない。それが誰かはわからないが、きっと黒い髪をしているだろう。

 

「ほどほどにして、自分で考えて動けということか〜ぁね。全く、耳が痛い」

 

 

こんな思考をするほどには、余裕があった。

 

バルロイは自身の限界を超えた速度で、ミディアムへと向かっている。

安全のために取った距離が自身の首を、大切なものの首を絞めることになり忸怩たる思いだろう。

 

 

射撃は常に魔法を撃ち落とすことに使っており、残りの余力は加速のために使っている。

 

 

これで詰みだ。

 

 

まさしく数奇としか言いようのない偶然、ほとんど奇跡めいた巡り合わせだった。

もしユリウスがバルロイを討ち果たさず、なおかつそのユリウスが『名前』を奪われていなかったなら、この一縷の勝機は決して掴めなかっただろう。

 

当事者たるユリウスやバルロイの胸中の葛藤を思うことさえ、部外者には分不相応だ。

けれどもロズワールは、その巡り合わせに、せめて心の中でのみ静かに感謝を捧げる。

 

――空に展開された虹色の障壁が、上昇を試みるバルロイとその飛竜の進路を遮った。

 

この極光の壁こそ、かつてユリウスがバルロイを屠った際の決定打となった魔法だという。

精霊と共に編み出した、ユリウスの独自魔法。それを再現するには、ロズワールとて常軌を逸した魔力の消費を強いられる。

 

複数の魔法を同時に扱うこと自体、ロズワールにとっては日常的な技だ。

だが、六系統を一度に操るという暴挙は、まさに狂気の沙汰だった。

 

体内のゲートが軋み、悲鳴を上げるのをはっきりと感じながらも、ロズワールは迷いを見せない。

彼が今、再現しようとしているのは、かつてユリウスが手繰り寄せた、あの勝利の形なのだから。

 

 

進行方向に生み出した虹の壁。さらに追撃で使うのは、ケイを見て思いついた弾丸の魔法だった。

彼は陽属性のマナを弾丸のように固めて撃ち出している。

 

指の向き。つまり指向性を人差し指と中指に預けて他の全てを威力と速度に回す魔法はあまりに無骨で飾り気がない。ロズワールはその無味乾燥とした魔法も評価していた。

 

右手に陽属性の白い光を。左手には陰属性の黒い光を。

 

それらを交互に撃ち出して追撃をする。

 

最後には地面に向かって頭を向けて両手を突き出し、回転しながら予測不能な加速度を加えて銃弾の雨(レインストーム)ならぬ嵐を叩き込む。

 

無数の弾丸は一つの熱線では落としきれない。

一発でも当たれば、彼女は死ぬ。だから、身を挺して守るしかない。

 

そしてバルロイが飛べず空中で投げ出されるなら、その後どれだけ隙があってもロズワールを殺すことはできない。

 

ロズワールとバルロイが相打ちになって死ねば、誰がミディアムを地上へ下ろすのだ?

 

彼らと一緒に踊るように高度を下げつつ、ロズワールは深く笑った。

君が選ぶ番だよと、悪魔のような笑みを向ける。

 

その回答は背中が語る。

彼女を抱きながら、愛竜と自身の体を盾にして呆気なく全ての攻撃を受け入れる。

 

「――君の敗因は、一番大事なモノ以外にブレたことだ」

 

『魔弾の射手』は大切なものを守るために敗北した。

 

帝都の戦いは極短時間で終わっていく。強者同士の戦いとはそういうものだ。

 

しかし、肝心の魔女は見当たらない。

大災は終わらない。盤面が大きく変わらない。

 

力では変えられないその状況を変えるためには一体何が必要だろうか。

そう考えていたのは、その状況を見せつけられ続けているプリシラだった。

 

皮肉なことに、まるで観覧者のような場所に囚われそれを見せられている。

 

「貴様はこの状況をどう見ておる?」

 

「私はあなたを観察しています。状況については、そうですね。これくらいの理不尽は起こるかもしれないと思っていました。驚愕はしていますよ」

 

その様子は、本当に想定していたようでプリシラの求める反応とは異なる。

 

「やはり、あなたを観察していると私の中に何かを感じ取れる気がします。要・続行です」

 

魔女は未だ健在で、その隠れ場所すらわからない。

勝利とは全く関係なしに『大災』はまだ続く。続いていく。




I'm absolutely crazy about it!
楽しすぎて、狂っちまいそうだ!!
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