亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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だからいま 一秒ごとに 世界線を超えて
君のその笑顔 守りたいのさ


【FILE:223】Hacking to the ゲート

龍たちの戦いはまだ続き、上空の魔法戦と地上の呪い合いは即座にけりがついた。

 

 

いち早く戦場の情報が集まる仕組みは、二将のカフマ・イルルクスが操り、その話をオットーが聞いて人間言語に翻訳をするという離れ技の『魔蟲』情報網からの一報だった。

 

スバルやケイに対しても簡単な合図を設定しておき、そのように虫を動かす。一般的な動物は死ぬか逃げるかしているこの屍都において、オットーの加護を活用するにはこの方法が最適だった。

 

ケイの提案にカフマは戦わせろと抵抗をしたが、皇帝の一声で黙らされていた。

エミリアによって凍らされていて飼っていた虫の大部分を失い戦闘にはそれほど役には立たないと見込んでの役割だったが、戦いを帝国軍人が奪われることは財産を奪われるに等しいらしい。

 

ともあれは勝利の一報は良いことだ。早く勝つのは素晴らしい。

しかも両方とも無事であって、完勝のようだった。

 

 

それでも、大勢に影響が少ないのは悲しいところではあるが。

 

各地で勝ち星を上げていっても、結局のところ現状は生者側の手詰まりと言っていい。

自由に動ける戦力が増えると、やれることの幅は広がるため当然無意味ではないが、それで決定的な優勢を取れるような状況でもない。

 

スバルの権能を完全ではないにしても封じ込め、ただ逃げるだけで目的を達成することができる盤面を築き上げたその手腕は見事なもので、リスクを冒さない姿勢には共感が持てる。

 

永井圭は、スピンクスの策略に対して現状打つ手がない。これは事実である。

 

だがしかし、それでもだ。

綿密に緻密に組み上げられた作戦や、人が丹精込めて整えた何かを。

それらを台無しにする邪悪なアイデアを思いつくことにかけては、この世界でケイを超えるものはいないと自負している。ケイ自身に才能はなかったがダントツの一位と共生しているため、必然的に一番になる。

 

だから、崩す。相手の作戦ではない。相手の前提を崩すことでゼロから始めさせてやる。

 

相手はケイとスバル。そしてアルに警戒をしており、さらにプリシラに執着をして準備をしたのだとはっきりわかっている。

帝国の者たちや他の王国からの戦力への警戒はあれど、基本的には気にしていない。

 

彼女にとって本当に予想外だったのはハリベルの参戦くらいだろうか。

しかしそれでも逃げなかったのは、勝算があるからに違いない。

 

つまりはいくら強かろうと、戦力が多くても、負けない策を持っているのだと言える。

この点で言えば仮にラインハルトが来ていても、続行した可能性だってある。最近の入れ知恵で強化された彼ならば破綻させられるだろうが、それを知らなければあれはただ強いだけという認識だろう。そう思えば凄まじい布陣だ。

 

 

ケイに対しての備えは特に万全であって、直前で意味不明な戦力増強を二つもできていなければもっと早くに手詰まりになっていただろう。逃げられはする自信はあるが勝てなかったに違いない。

 

そうなれば世界の破滅を避けるために相手に協力することすらしなければいけなかったかもしれない。

 

スバルを封じた準備に、待つだけで勝てる状況の構築。

 

もう一度言うが、永井圭は、スピンクスの策略に対して現状打つ手がない。

これは魔女の狙い通りと言っていい。

 

クルシュは過剰な期待を寄せているような気がするが自分はこんなものだ。

自分はいつも後手に回される。わざとでも怠慢でもないとはわかっているが、いつもそうだった。どうにか誤魔化し打開することを繰り返してきたが、それは本来望んだ姿ではない。

 

準備をして罠を仕掛けて獲物を待つという戦法は、もはや戦いですらない。

そういう処理がケイの理想と言える。

 

罠猟をしている狩人が、草食動物に殺されるとは思わないものだろう。漁師が網にかかった魚を脅威に思わないのは当たり前だ。この帝都においても似たような形になっている。

 

魔女にとってこれは戦いではない。

魔女はこれまで敵対した誰よりも、まともな思考回路を持っている。

 

 

ケイを参考にしたというだけあって、やれることをやっているのだろう。近い考えを読み取ることもできる部分もある。

 

近い考えだと認めたからこそ、永井圭は心の底から理解できない。

魔女だけではない。まともな思考力を持つ者は他にもいるし、王国の上層部だってそうだ。

 

なぜ多くの者たちが、こんなにも()()()()()()()()()を。ずっと疑問であり、それらの態度はなんというか、愚かだとすら思う。

 

永井圭が、全てを上手くやれるとでも思っているのだろうか。

ナツキ・スバルが無敵だとでも思っているのだろうか。

ラインハルトが最強で万能だとでも思っているのだろうか。

 

この三人にはできないことが明確にある。

 

最強たちも及ばない。全く違う方向の反則がいることにここまで気づかないものなのか。

自分が敵なら、真っ先に潰し、入念に対策をするのはこいつに決まってる。

 

しかし、どうやら見落としたらしい。おかげで非常に助かった。

 

 

スピンクスとの対話を思い出す。魔女は言っていた。水門都市で自分を見てから学んだのだと言っていた。

 

勝因はそこだ。

 

なぜならそれでは手遅れだからだ。そこから合理を学び、気をつけるべきことを気にし始めていても遅かった。

 

唯一不運と言えてしまうとすれば、帝国へのスバルの転移にケイが巻き込まれたことだとケイは確信している。

このスピンクスという魔女の敗着手があるとすれば、あの瞬間だったとケイは知っている。

 

世界そのものが嘲笑うかのような、水門都市でのアストレア家の親子3代、残酷な一幕。

 

しかしそれも、()()()()()()()によってあって然るべき悲劇は防がれた。その結果が一体何につながったのか。

 

それは()()()()が、魔女の『不死王の秘蹟』に触れることができたという。あまりにも魔女にとって致命的な結果である。

 

魔女が数百年をかけて人命など無視して練り上げた別の進化を遂げた『秘蹟』に触れて彼は一気に理解する。

 

 

何度でも言うが、世界はフェリックス・アーガイルのことを過小評価しすぎである。

 

 

人を害する性能に乏しいためわかりにくいのかもしれないが、彼も一つの反則と言ってもいいのかもしれない。と言っても以前からマナの掌握や精神に入り込む拷問の手法など危険極まりないとケイはずっと思っていたが。

 

スピンクスは剣聖や青き雷光などよりも、よほど『青』を気にするべきだったのだ。

当代で唯一『不死王の秘蹟』を行使することのできる水魔法の天才にもっと注意を払うべきだった。

 

フェリスに『不死王の秘蹟』を見せてしまったのが最初の大きな失敗だ。テストはすべきだろうが、それを敵に見せてしまうならリスクを覚悟すべきである。

 

そしてケイはあの時。地下からのプリシラ救出に失敗して敗北を確信したその時。偽物を撃ち抜いたその時から、フェリスも地下へと一緒に捨てていた。どうせすぐ戻ってくるからとやる事に不要なものはその場に捨てていたのだ。

 

IBMとともに投げ出され、声も出せなかったようだがその後言葉は伝えられた。

 

『すぐに戻る。敵の駒を奪えるように準備をしておけ』

 

それだけで、フェリスには十分だ。

地下の広大な空間を埋め尽くすほどの被験体が蠢いており、秘蹟を使ったゾンビであるなら彼に接触されるだけで敵に気づかれもせず支配権を奪われる。

 

しかし、膨大な数のゾンビたちを触り続けるというのは途方もない行いである。

 

 

 

「勝手に言ってくれちゃってサ。どんだけ大変かも知らないくせに」

 

まぁできないことはないのだが。癪に障る信頼を感じ、妙なイラつきを覚えつつもフェリスは、工夫を凝らした。

 

「へぇ。一人じゃできないようになってる。しっかりしてるネ。無駄だけど」

 

多少苦労させられたが魔法陣を理解し、用意していた魔法を改変。防護を突破してその隙間に流し込む。

 

フェリスはケイがプリシラとクルシュに講義していた時のことを思い出す。

 

「ここからは専門的な内容なので、あまり語句の補足はしませんがご了承ください。わからなくて気になるなら質問は後でフェリスに。こいつ向けの講義ですから」

 

ケイの話はどんどんと高度化していった。

 

「――単一障害点。要するに一ヶ所がダメになるだけで、全体が機能停止するような構造のことです。例えばですね……一つの種族、一つの社会が、全員まったく同じ遺伝子構成をしていたとしましょう。そりゃ、管理する側としては楽かもしれません。反応も行動も予測可能で、効率的です。けど、その集団にたった一つのウイルス、病気が流行ったとき、どうなるか」

 

「ふむ。全滅、であるだろうな」

 

「ええ、そうですね。誰一人として、耐性を持たない。同じ弱点を共有してるせいで、感染したら最後、全員が等しく死ぬ可能性が高い。これが『単一障害点』を生物多様性の問題に置き換えた例ですね」

 

存在しない平等のための多様性などは好きにやっていても止めないが、本当にどうでも良い。その組織や文化、群れが生き残るためには多様性が必要なのだ。

 

「意見も、構造も、価値観も、役割も。ある程度バラけていたほうが、どこかが崩れても、他が補える可能性がある」

 

「それは群れとしては弱く見える。それこそ団結した外敵に滅ぼされるのではないか?」

 

プリシラの理解は早く、そして的確だった。

 

「ええ、それは正しい。これは完璧な方法なんかではなくどのリスクを取るかという話なんです。同一性は短期的な効率性に優れるが、それにもまたリスクはあるそういう話ですね」

 

 

「まぁ、この手の話は結局、何かを作るより一気に壊すほうがずっと簡単だってことを、つい忘れがちな人にこそ覚えておいてほしいですね」

 

道理であるなと頷くプリシラ。クルシュは辛うじて話に置いて行かれていた。

 

「む、難しい。理解できた気がしていますが、その先の想像はできません。お二人はすごいですね」

 

その後細菌とウイルスについての専門的なレクチャーがフェリスから行われ、幾度もそれらについての議論を交わした。

 

 

そして生まれたのは感染する魔法だ。発想の元はケイから聞いていたウイルスというものについての勉強がベースになっていた。

 

使うことはなかったが、以前の白鯨が使ったマナ汚染による恐慌を今後魔女教が使ってくるかもしれないと。フェリスの対抗魔法を受けたものが、他のものに伝播できるように仕上げていた。

 

その研究をベースにこれならできると思い、『青』はそれを生み出した。

 

これは魔法という体系の中で生み出したが、もう一つ参考にしているものがある。

それは呪いだ。呪いとは体系化できない。再現性のない魔法の総称である。呪いは魔法なのだ。

 

フェリスが生み出した魔法は全てを理論で説明できるような代物ではなくなっていた。

 

水門都市で魂を捏ねくり回した『色欲』の蛮行を診察し、『魔女』が行った魂の冒涜を観察し、そしてフェリスという天才が人一倍の労力をかけて()()は帝都の地下で完成した。

 

これはもう、『水魔法』とは言えない。フェリスはこれを治癒の魔法とは呼びたくない。

 

間違いなく新しい呪いだ。魂の一部を一時的にだが書き換える呪いである。

 

帝都全域をカバーする広範囲で対象を選ばない『不死王の秘蹟』。そんな規格外よりはよっぽどささやかな発明であると思うが、これも一つの革新だ。

 

フェリスがゲートに触れたゾンビは支配権を書き換えられ、自我を思いだし好きに動き出す。ここまでならスピンクスも理解できる範囲だろう。

 

そのゾンビが他に触れればそれは広がる。同じ術式に接続しているゾンビたちはある種の同一性がある。そして内側からの侵食には耐性がない。当然ながら、これにも制限はある。相手の自我があるのならそれに対抗することができる。

 

魂の抵抗には無力なのだ。受け入れる意思があるか、何も考えていないかの状態でしかこれは伝染しない。

 

だから危険性はないに等しかった。嫌なら拒否できるのだから。

 

しかし、ここにいるのは魔女によって自我を押さえつけられたゾンビたち。免疫に当たる意思による抵抗力は一切ない。抑圧はいずれ解放されるのだというように、自然な形にタガを外していくのだった。

 

まさにフィクションのゾンビウイルスのように、感染は広がっていく。ゲートに巣食う新たな術式に、誰も抵抗などできない。

 

なぜなら自覚できないからだ。

それらには潜伏期間を設定している。それこそが致命的なウイルスの要件だと聞いていたから。

 

突入部隊が派手に暴れるまで、ただ感染を広げるだけだったそれの症状が一気に顕在化する。

鮮やかに、一気に花開いていく。

 

 

王国の『青』。王に最も近い者の一の騎士を軽視した代償が咲いていくのだ。

 

操り人形となっていたゾンビたちの自我に青い火をつけて、それが広がっていく。白い赫炎が広がり燃え広がった帝国のように、それは急激に広がっていった。

 

 

 

「なんですか、これは…要・検証。いえ、即座に対処しなければ」

 

魔女にとって待つだけで勝てるはずだった盤面が覆る。まるでオセロのように、とっていた駒が裏返っていく。

 

相手が察知して、慌てているのが手に取るようにわかった。ざまあみろ。

ずっと息を殺すように仕事をし続けていた天才が、鮮烈な怒りを込めて答えるように呟いた。

 

「ふざけるのもいい加減にしろ。絶対に許さないって決めてたから」

 

『青』の静かな激怒はずっと続いていた。

 

この帝国ではやりたくないことをさせられすぎたのだ。

クルシュと離れている時間も長く、それも耐え難い苦痛であり何より、こんな危険な場所でクルシュ様とこれほど離れるなんてあり得ない。

 

だけれどそれ以上に、命をあまりに軽く扱った代償を魔女には払わせないといけない。

 

これは絶対、絶対にだ。

 

執念の炎が、幾重にも掛けられた魔法陣。それら蜘蛛の巣のように張り巡らせた入念な準備へと毒の如き油を染み込ませて火をつけた。

 

永井圭に打つ手はない。だからと言って負ける訳ではない。打つ手はすでに打ち終わったと言うだけだ。

対戦相手を見誤った魔女には対価を支払ってもらわねば。

 

そして、蒼炎がついに魔女を炙り出す。

 

かくれんぼ、追いかけっこ。魔女にとってはその程度でしかなかったこれまでと、状況が変わる。

 

今初めて、逃げ隠れて待つだけの逃走という状況が、全霊をかけた闘争へと変わった。

 




そしてまた悲しみのない 無限のループへと
飲み込まれていく 孤独の観測者
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