回り曲がって、生死を追い越して
まがい物の影と戦うため走っている
怠惰とスバルが対峙する頃、ケイが主導する魔女教の拠点潰しは順調だった。
すでに相手の大まかな数などは把握しており、襲撃目標も知っている。
ケイはそこから敵の潜伏位置を逆算した。メイザース邸への包囲に有効な位置と、逃げるものを防ぐ街道周辺にあたりをつけると二箇所をすぐに発見する。
スバルたちからの合図、空へ撃たれた魔法を見るのと同時に奇襲をかけると一切の抵抗なく制圧。
複数の拠点を同時に、被害なく潰しきるという離れ業をやってのけたケイ。
リカードは素直に感心し、同時にしっかりと警戒する。
これで複数の戦闘指揮は初めてとか言うとったな。お嬢こいつは腕はからっきしでも、ヤバいで。
消耗もないままスバルたちが合流する。
「大罪司教は?」
端的にケイが尋ねると、スバルもその流儀に合わせて簡潔に返す。
「ヴィルヘルムさんが首をはねて、ユリウスが胴体を叩き切った。そのあと、小猫の姉が悪ふざけで死体も粉々に吹っ飛ばしたから確実だよ」
さすがのスバルも墓まで粉微塵にされたのは驚かされたが、その行いもスバルを思ってだと言い切られてしまえば文句も言いづらい。言ったけど。
ちなみに全員から容赦なく叱られた姉は完全に拗ねてしまい、今は唇を尖らせて弟の背中の上で丸くなっている。背負わされている弟は完全にとばっちりだ。
フェリスたちも合流が完了。次なる行動のための会議が始まる。
「全員、無事に合流……失敗したとことか、ないよな?」
「ここを含めて、戦闘が発生したようだけれど、問題はなしだ。さすがはヴィルヘルム様の旗下で鍛えられた方々だ。地力が違う」
「魔女教の大半は壊滅ってとこだが……問題は、あと二つのアジトが見つかってないことだ。頭は潰したから、楽観的に考えれば手を引くと思うけど……」
「相手は魔女教や。普通に考えるんは、やめといた方がえーやろな」
スバルの懸念を肯定するように、腕を組んだリカードがそう口にする。どうやら周囲の意見も彼に賛成らしく、その表情を厳しくして重々しく顎を引くものが多い。
実際、スバルもそれら不確定要素を放置したまま事を終えるのは論外と考えていた。故にそれらに対しても堅実な対処を選ぶ。
「森を探って、残りの魔女教も狩り出そう。皆殺しにしようって乱暴な話じゃないけど……少なくとも、捕まえてみる価値はあると思う」
「自決される可能性が高いとは思うけどねー。……これまでもずっとそうなんだし」
フェリスは不満げに唇を尖らせている。それは生け捕りに反対というわけではなく、自決を厭わない魔女教徒の在り方への嫌悪だ。治癒術師には許せないのだろう。
「方針を確認しましょう。すべきことは二つ、森での狩り出しと、村の住民の避難です。狩り出しにはスバルの囮が有効であるためスバル。ユリウスとリカードさん。鉄の牙もスバルに同行してください。見知らぬ傭兵が村に近づくのは避けたい。村の住民避難については自分とすでに屋敷へ訪問の経験のあるヴィルヘルムさんとフェリスで向かう」
異論はない。であれば動くだけだ。
本来敵同士のはずの三陣営の混合部隊。彼らは白鯨と怠惰討伐という偉業を通して、一個の群れとして完璧に機能し切っていた。
その後の魔女教徒狩りも、拍子抜けするほど上手くいった。
逃走経路も完璧に用意されていた拠点はしかし、スバルという異物が入りこむと一切の機能を失った。
特に何をするでもない。事前に知っていたその場所まで行き、少し声をかけて注意を引くだけだ。
それだけで、周囲の警戒を一切忘れたように魔女教徒たちはスバルに見入る。否、魅入ってしまう。
これよりは拠点を見つけるところからであるため、気合を入れていたがそこはケイが拠点予想の最新版を指し示し、怪しいエリアを当て続けた。あとはそのエリアをスバルが歩くだけで、向こうから現れる。拠点に案内させればあとは同じことの繰り返しだ。
4つめの拠点を潰した時、行商のグループが外の陣地に合流したと報告が入る。
スバルから預かった言質を元にすでにケイが話をまとめたらしい。一部の騎士が護衛として陣地に残ることとなった。もし拠点潰しが順調にいけば強制避難はしなくても良いかもしれない。言質とは、行商からの買取を言い値でロズワールに負担させるというものである。あのピエロにはぜひふっかけてほしいとスバルは願う。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
スバルを餌に釣りは続く。
4名が釣られ、拠点に戻れと指示を出す。三人は別の方向へ、その追跡を狐人と複数の鉄の牙メンバーに任せ、残る一人の後を追う。すると、見知った場所に出た。
ペテルギウスを葬った場所。その残骸に、10人の魔女教徒が群がっている。
スバルが気を引いて、殲滅。これまでと一切変わらない。
しかし何か引っかかる。一体何をしていたというのだろうか。
急ぎ、先ほど別れた狐人の方向へ向かう。
血臭が、その空間には残酷に立ち込めていた。
生暖かい熱気が木々の間に漂い、ぶちまけられた内臓の悪臭が鼻腔に突き刺さる。辺りには靴や白い装束が散乱し、それらにはいずれも『中身』が入ったままだった。
原形を留めたモノはない。常外の力によって、何もかも引きちぎられている。
一目見て生き残りはいないとわかる惨状。そこに誰よりも早く踏み込んで調べ始めるのはケイだった。
まずは安全の確認。死体に罠を仕掛けるのは基本的な戦術だ。魔石があればすぐに簡易な地雷は作れる。自分が地雷を踏まねばならない。
安全が確保されると、皆が確認しそれぞれに違和感を語る。
「一方的にすぎるこの有様は、普通ではない何かが起こったらしい。彼らのような精鋭が倍の魔女教徒に奇襲されたとて敵を一人も倒していないなど考えられない。そして何より」
「傷の具合からして同じやつにやられたみたいだけど、刃物の傷じゃない。もちろん魔法でもない。これ、力ずくに引き千切られてる。咬み傷でもないし魔獣じゃない。怪力でって感じ」
「なん、で当たり前みたいに」
「スバルは全方位を警戒。撤退しつつ総員奇襲に備えてください」
「大罪司教がいると想定して動きます。念頭に置くのは怠惰。復活か交代か元から複数か。別の大罪司教の存在もあり得る」
「…せめて、みんなの遺品くらいは」
「安全の確保が先。すぐに動くぞ」
そう冷たく切り捨てるケイの言葉に、我慢がならなかった。
他のみんなも、さっきまで話していた仲間がこんなことになっているのになぜ?なんでだ!?
「でも、これは、俺が…俺がもっと、ちゃんと…!」
誰もスバルのように狼狽するような人はいない。後悔に、孤独に、悔恨に頭を抱えてしまう。
そして気付くのが遅れた。
木々の隙間を抜け、音もなく忍び寄る漆黒の手のひらの存在に。
「しゃがめぇ——————!!」
その突然の指示に、とっさに反応できたのは半数以下だった。主力や上澄の戦力たちは問いを返す愚を犯さず。即座に屈み、地を蹴って移動する。
しかし、反応の遅れた者たちを捉える魔手は、ことごとく悪辣な威力を発揮した。
断末魔だけを残し、逃げ遅れた者たちの首を体を腕を足を。ただ乱暴に引きちぎる。
悲鳴と怒号が飛び交う。
狂乱に襲われた部隊にはなかなか指示が通らない。ケイも何か叫んでいるようだったが、聞こえない。
「———見えざる手だ!」
死んだはずの怠惰が、本当に生き返ったのか。
そう考える余裕もなく大量の黒腕が一気に森から出てくる。
「あっちから!めっちゃ来てる!」
そしてスバルは見落とした。自身の背後に迫る一本の腕を。
足を掴まれ、森の中へ引き摺り込まれる。止まらない。止まらない。
木に叩きつけられると、ようやく止まりスバルを逆さまに磔にする。
「ああ 脳が、震、える」
「お前、は。ペテルギウスの、なんだ?こ…の手を放せ!」
「『指先』デス」
「ワタシは指先!ワタシは寵愛に報いるもの!試練を執行し、愛の導に従いし忠実にして勤勉なる使徒!ああ!あぁぁ、アナタ、怠惰デスか!?」
血塗れの指を振り回し自らの血をばら撒きながら女は狂態を晒す。
あまりにも似過ぎている。あまりに多いペテルギウスとの共通点が横たわっている。
そしてケイが強く言っていた、一度殺せば死ぬというのは楽観であるという言葉。
それが繋がり、目の前の光景にスバルなりの答えを出す。
これは、コピー?
やつは自分の複製を、信徒に移動させることができるのだろうか。
「だとしたら、最悪どころの話じゃねぇぞ」
怠惰は滔々となぜ『見えざる手』が見えているのか。なぜその愛に報いようとしないのか。
意味不明な問答を重ねる。
「さて、さてさて、さてさてさて。こうなったのは大変遺憾なのデスが確認しなくてはいけないことがあるのデス。アナタ、何者で何を目論んでいるのですか?」
「俺が、何を…?」
「そうデス!疑問はまさにそこなのデス!アナタの纏う寵愛は一介の信徒の比ではなく、大罪司教に匹敵するのデス!であれば、やはり今代の『傲慢』なのでは?『怠惰』に代わり、試練を代行するためにこの場に参じた『傲慢』では!」
「何を言ってやがる。それに、身内か疑う割に容赦無く締め上げてくれるじゃねぇかよ」
「たとえ大罪同士でも、互いの手法に口出ししないのは不文律デス!その上で相争う結果になるのであればあとはより勤勉に!万難を排して愛に邁進するものが押し通るだけデス!横紙破りも潰し合いも、珍しいことではないのデスから!」
なおも発狂する怠惰。こいつはどうやらスバルの回収した『福音』を探しているらしい。
どんどんとキツくなる拘束。絞られる首。そのまま、意識が致命的な空白の底に沈む直前。
「なんデス?」
疑念の声に握力が緩み、刹那の間だけスバルの呼吸が和らぐ。
そして、見た。目を開けると眼前に、ゆらゆらと揺れる赤い光の塊を。
「精霊———ッ!」
憎悪に満ちた声を上げ、怠惰はそれを睨みつける。それと同時に光が炸裂し、二人の視界を白く染める。
網膜に針を突き刺されたような痛みに涙が溢れ、それを拭う。
手の拘束が、解けていると自覚すると足の拘束もなくなり、無様に地面に倒れ伏した。
怒りを叫び周囲を破壊する怠惰。しかし先程の光の珠はどこにも見当たらない。
とにかくまずい。真偽はおいても目の前の女は確実に怠惰と同じ力を持っている。これに対抗するには主力級の戦力が必要だ。
そう思った矢先、奥の森から上半身だけになった魔女教徒が切り飛ばされる。そこから駆け寄ってくるのは今一番に頼りたいと思っていた剣鬼の姿。
「ヴィルヘルムさん!」
剣鬼は駆けながら目礼し、ただひたすらに怠惰へ向かう。
「なんデスか?その首、その命、献上する気になったとでも?だとしたら賢明な判断デス!ワタシも敬意をもって」
その言葉に一切反応せず、駆ける剣鬼は加速する。
あらゆる無駄がない動き、一切の迷いも恐れもなく。一直線に。
だがそれでは…
「ッ———その愚挙、思考放棄に等しいのデス!思考の放棄、すなわち怠惰ァ!!」
迎撃する無数の手が迫る。避けられない軌道。先ほどの惨状がフラッシュバックする。
「まずいっ!ヴィル…」
その恐怖は文字通り切り捨てられた。あまりにもあっさりと。
銀閃が宙を走ると、障害である腕が消え、気がつくと女の首が飛んでいた。
首が地面を転がる頃にはすでに剣を納めている。あまりも早かった。早過ぎた。スバルも女ペテルギウスも斬った後にしか気づけないほど。
「攻撃を仕掛ける人間が目の前にいれば、不可視の攻撃であろうと見切る方法はある。目を見れば軌道が、戦意に触れれば機が。呼吸を読めば狙いが、透けて見える」
今は特に調子が良いと。全てが終わったのちにそう語る剣鬼。それは事実なのだろう。
だけれどその感覚を、スバルは魔法であるように感じる。生き物としてのスペックが違い過ぎて理解できない。
「やっぱヴィルヘルムさん半端ねぇ!」
「先ほどは失礼いたしました。ケイ殿より、目の前の敵を切り伏せるまで一切の言葉を聞かず、話さず、問答無用で最短で斬れと命令を受けておりました」
あまりの言い分に言葉を失う。ほんの少しだけ怠惰に同情しかけたのは、自分も小細工をする側だからだろう。さまざまな仕掛けで戦う者は、ハマれば強い。けれど地力が上の敵が全てを無視して突っ込んでくるとできることはほとんどないのだ。
無意味と思っていた怠惰のあの狂態も、相手の足や手を止め思考を奪う一種の攻撃であると今気づいた。
いつの間にか近くに寄ってきていた精霊。いやこの大きさはエミリアが戯れていた微精霊だろうか?
まるでついてこいというように、二人を先導しているように見える。
「恐らく、あれはユリウス殿の精霊かと。合流しましょうスバル殿」
先ほどの場所に戻り、被害を確認する。
奇襲によって3名が即死。その後の魔女教徒の襲撃では4名が負傷した。
「怠惰は?」
「少なくとも、今仕掛けてきた怠惰は倒した。ヴィルヘルムさんが一撃で」
「周辺の魔女教徒が尽きない限りは同じことが起こると想定して進む。一塊になりつつスバルが最後方から監視。注意を引くためにどんな手を使ってくるかわからない。知り合いの死体が囮にされるくらいは覚悟して、注意をし続けろ」
その言葉にかつて見た惨状を思い起こす。吐き気が込み上げる。
そんなことを言うなとここでケイに食ってかかってもいい。普段のスバルならそうだった。
けれどついさっき、それをしたから3人が死んだことを忘れていない。忘れることなんかできない。
あれはスバルが殺したようなものだ。ケイは何度も警告していた。
スバルの激しい悔恨を皆が感じている。全力で取り組んでいるし、そもそも彼は戦える人間ではないのだ。
誰がそれを責められよう。そう。ケイ以外に誰が。
「頼むから切り替えろ。早くしないと魔女教徒の動きはどんどん読めなくなる。フェリスと怠惰の死体を検分してくる。戻ったら狩り出しと村と屋敷の避難を開始する。リカードさんは陣へ戻り状況の共有を」
恨みがましいスバルからの眼差しを意に介さずケイは動き続ける。
そんなスバルにヴィルヘルムがフォローをするようだ。これでいい。僕の役割はこっちだ。
「損な役回り。いつか恨まれるかもよ?」
「全体で益が出るなら損でもいい。とっとと終わらせるぞ」
傷付いた群れはしかし、動くのをやめない。その頭脳は動き続ける。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
検分の結果、怠惰と思われる体には妙な術式が刻まれていた。それを判別方法とできるようだが、フェリスが触診せねばわからない。ならば全ての魔女教徒を殺すしかないだろう。捕縛も危険だ。
陣に戻り、そこから行商たちを引き連れて村へ向かう。
それぞれの会話を聞き流しながらケイは考える。
怠惰の視点を想像する。
これまでの戦闘は最後を除いて全て奇襲だった。だから気づけず対応できなかった。殺されるが自己の複製をして次はこちらを害そうと決める。
勝てると思っていたのだろう。逆に奇襲してから正面からやりあえば、見えざる手で全てを潰せると。だから先ほどは仕掛けてきた。
そして、奴の狙いはあくまでハーフエルフのエミリアである。
ならば次の動きは予想できる。
彼女を害するために立ちはだかる討伐隊と戦っているが、もし勝ち目がないと思えば即座にエミリアのみに攻撃を絞るだろう。
だからこそ急ぎ避難をさせるべく向かっている。竜車があるぶんこちらが有利だ。
そしてそれは向こうもわかっている。
普通なら、この辺りで撤退も視野に入れるだろう。怠惰自身は殺されても死なないのであればやるだけ得なのかもしれないが、指先が無尽蔵ではないなら現時点で撤退し、討伐隊が解散してから襲ってもいいだろう。これが一番やられて嫌な行動だ。
この辺りで少し違和感を感じる。
伝聞に過ぎないが、いかにも狂信者という振る舞い。それが本当ならもっと無軌道な行動をしてきそうなものだ。
しかしこちらの殺害という目的に対してはかなり論理的に振る舞っている。
論理と狂気。全体の意思決定と個人の言動。その乖離を感じる。
ペテルギウスに指示をしている者がいる?それは一体誰だ。そしてそれは、今ここでやれと言っている。
『福音』と呼ばれる魔女教の証。それに全ての指示が書いてあるとでもいうのか。
一体それは誰が書いている?
思考をしながら前方を警戒していると、不意に花の香りがした。
気にせず思考に戻ろうとするが、ふと考え直す。
なぜ花の香りなど意識した?普段の自分なら捨て置く刺激のはず。
そう疑問を感じた瞬間、突然吹いた強風に視界を閉じられる。
花の香りが混じる強風。反射的に閉じた目を開けると、異変に気づく。
長く並んでいた地竜の列が消え、一人きりになっていることに。止まった竜車から降りて周囲を見渡すも誰もいない。
状況が一切把握できない。そんな時にはどうするか。
おもむろにナイフを自分の腕に突き刺した。痛いが意識は変わらない。
はぁ。とため息をつきながら、胸を刺して抜く。
復活し覚醒する。
周囲を見渡せば、止まった竜車の車列と地竜たち。多くのものが騎乗したまま、意識を失っている。
「早すぎる。即時自傷だなんて、やはり魔女教…」
響く声は道はずれの茂みの遥か上。樹上からこちらに対峙する女のものだ。白いフードを目深く被り、その様子は伺えない。
恐らくこいつは魔女教ではないだろう。
「我々はカルステン公爵の討伐隊です。魔女教を討伐しています。あなたは誰ですか」
「あらそう。じゃあ、死になさい」
女はそう言い放っておもむろに飛び降りる。
それと同時にあまりに静かな風の魔法が飛び、首が両断される。
復活した。
くそっ!また断頭された!!
そう思ってあたりを見ても、別の頭部は落ちていない。
どうやら復活の範囲内に留まり、再度くっついたようだった。
亜人は復活の際に、体のパーツが近くにあればそれを引き寄せて繋ぎ復活する。
その時に近くになかったり、繋げない場合には新たに構成されるのだ。
「ッ…!」
理外の光景に距離を置き杖を構える襲撃者。
これを敵と判断してケイは状況を動かす。
近くにいたフェリスに蹴りを入れ、離れたヴィルヘルムにナイフを投げつける。
「に゛ゃ゛!」
「むっ!」
フェリスは未だ、寝ぼけ眼で意識が曖昧だ。
しかし剣鬼は即座にナイフを避けて意識を戻す。言葉より刃物での応答の方がより多くを語れるとはヴィルヘルムの談であったが本当らしい。
ヴィルヘルムが白い影と対峙する。
「恐らく魔女教ではありません。時間を稼いでください」
その間にフェリスがこれが幻惑系の魔法であると見抜き、リカードを覚醒させ始める。
こちらに有利な流れが加速する。
幾人かが自力で覚醒を果たす。
「勝負あり、だ」
囲まれた女は、剣鬼とリカードの猛攻を凌ぐも、参戦したユリウスが首に剣を当てると降参し戦闘が終了した。
「…殺しなさい。辱めは受けないわ」
「ま、まった!待った!待った!ちょっと待ってくれ!」
「———バルス」
「ああ、その呼び方も懐かしい。ってか。まじでお前かよ」
白いローブの人物はその覆いを外す。
現れたのは桃色の髪に、薄紅の瞳をした愛らしくも厳しい顔つきの少女。
「———ラム」
ロズワール邸のメイドである、ラムその人だった。
スバルがラムから聞いた話を整理すれば、行き違いからの勘違いと判明した。
事前に送っていたカルステン家からの親書。それが白紙になっていたという。白紙の親書とは敵対の宣言である。
それを受け取った上で、武装した討伐隊が領内に侵入。見知ったカルステン家の人物も確認し、その足止めと排除をしようとラムが出張ったという。
その説明に矛盾はない。魔女教の工作でこちらを仲違いさせようとしたのだろう。それより時間が惜しい。
この場は
「王都に残った目的を完遂した。エミリアとクルシュさんとこの対等な同盟。それを結んで、その証拠がここにいる人たちだ」
確かに陣営を超えて集まり一致団結する様は、寄ってたかって誰か一人を叩くようなそんな負の気配は一切ない。
切り替えたラムは我が物顔でケイが座る竜車の隣に腰掛けて、堂々と言い放つ。
「先ほどのこれは何なのか、それが説明されるまではお客様対応はできかねるわ。さぁラムに説明なさいバルス」
これと指さされるのはケイである。一緒に詰問される姿を見てスバルはしっかりと序列をつけ直した。
やはりラムは負けても強かった。
評価や感想をくださる方。いつも誤字報告をくださる方。
読んでくれる皆様に感謝します!
そして先人の方々にも畏敬の念を。