では一旦の締めにかかります!
かつて、一度滅びかけたことがあった。
そのときにも叶えられなかった目的があり、しかし、それに届かず終わることを平然と受け入れ、胸の内は落日を迎えた夜のように静かで、無価値だった。
それが翻って、今はどうだ。
その心は暁か黎明か、胸には確かな『熱』が灯って、脈打たぬ体を脈打たせていたのを感じる。
そして、それこそが何十年と繋がれたあの場所で、冷たく渇いた怪物の眼に眩しく映ったおぞましい『熱』の正体だったのだと、そう教えられて。
さらに合理を学び、全力を尽くしても勝てぬ何かがあると知り怒り狂った。これも新しい感情だった。
改めて、言える。この怪物として生まれた存在は『強欲の魔女』の代替品ではない。
ワタシは星々とやらの定めに抗い切れなかったが、それでも運命のそのままに消えていくのは許せない。
だから、自分だけの望みを見届けられずに消える今、こう言うのだ。
「ふざけないで、ください。ワタシ、私は、まだ、これから…」
などと言って消えていった『強欲の魔女』を
「怒りに身を任せればそうなる。わかっていたというのに、やはり人というものは不合理です」
あの男のことを学ぶときにどうしても腑に落ちないことが一点だけあった。しかしそこは非常に参考になる事柄と密接に繋がっていて、それでもなぜと困惑したことを覚えている。
彼の最も重要だと感じた準備への執着。目的を決して揺らさずに、あらゆる時点で撤退する方策を残しているという点が大いに学びになったのだった。
けれど彼がそれを活用することは異様に少なかった。大きな戦いでは彼は一度も逃げていない。
彼は逃げられるようにしておきながら、なぜか逃げない。
不可解だったが、『強欲の魔女』となることで再び理解した。
敵をではない、理不尽を許せなかったのだ。逃げることが合理的であっても引けない戦いというものがある。
『強欲の魔女』になったことで非常に共感し理解することができた。
その激情に駆られれば、逃げることなど選択肢から消え失せる。その激情をこそ体験したかったから、ワタシたちは逃げることはしなかった。
ワタシはもはや自身を複製できる。そして一元化されて情報を共有し『死に逃げ』とでも呼べる反則で学習をすることができるのだ。
それこそが、効率的で合理的である。常に統合し自身を更新するのが最善だ。だからその全ての行動は同じになるはずで、逃げることはできないはずだった。
しかし、同時に目覚めた合理性がこうも囁いた。
師を超えるように学ばなければ、同じ失敗に陥るのではないのかと。彼の戦いは相手が悪く、必然的に綱渡りで何かが違えば容易に負け得るものもあったから。
そう。だから『強欲の魔女』に成った時、最初に行ったのはこれだった
ワタシは逃げた。一心不乱に逃げ出した。
『強欲の魔女』たちの中で唯一繋がりも、マナの共有も断ち切って。独自に帝都を離れる動きを即座に取った。
それは生き物として別の個体になるということだ。
それでもいい。何かを繋げて残したかった。『強欲の魔女』たちは怒りに動かされながらどこかで感慨を感じていたと記憶している。
ああ、これがもしかすると我が子を想う気持ちなのかもしれない。子孫に託すという感覚なのだろうか。
『強欲の魔女』を母として、その命を犠牲にして逃げるように生まれた私。
魔法を使えば感知されるかもしれない。世闇に紛れてただ走って逃げ出す他なかった。
必死に走る女を見ているものはいない。帝都では巨兵が空に飛ばされ、主人公たちが世界の目を釘付けにしているから。
不死である体を限界まで酷使して走り、ようやく帝都を脱出できた。
息があがるはずがないのに、呼吸が乱れる。これはきっと全力疾走のせいじゃない。心の問題だ。
黒と白の印象しかない女がそこにいる。女の見た目は美しい母とよく似ている。
しかし、その白黒は多くは逆だった。
今まさに復讐と、我が子の誕生のために戦っている『強欲の魔女』と反転しているような色をしている。
長く白い髪は黒く染まり、肌は透き通るように白い。
身に纏うドレスは純白で、漆黒の光沢をたたえる長い髪がそこに浮かび上がるようだった。
切り分けたマナは決して多くない。一般的な魔法使いより少し多い程度。しかしそれでも、彼女は生きた。生き延びた。
「ワタシは…私は。生きているっ…」
ライプの野心に燃えるあの目に憧れた。
プリシラの慈愛に満ちたあの目を憎んだ。
そして、ケイの計算と熱が混在したあの目に倣った。
「私は、私だ」
そう確信が持てた時、思わず夜空へ向かって声を出していた。
産声のような、その叫びを聞くものはいない。
この絶叫が天球に張り付いた星々に影響を与えることなどないだろう。
けれどまた、星々も彼女に何も与えてこないのだ。つい先ほどまで感じていた背中を押す何かを感じなくなっている。
世界が圧しかかってくるような圧迫感が霧消した。
なくなればこれほど明らかなこともない。私は凄まじいものに巻き付かれていたのだと今ならはっきり自覚できる。
これが、これが自由というものか!
———この生物もまた、死なない。
———何度でも立ち上がる
何度でも挑む
何度でも死ぬ
何度でも生まれる
何度でも生み出す
何度でも———
合理とは武器であり鎧であり、道具であり、生き方であり、死に方である。
それは誰にでも平等だった。
それは決して、永井圭だけのものではないのだ。
全身全霊で存在証明を続ける。合理から生まれた存在がここにもいた。
だって一度は出来たのだ。もう一度やれない道理はない。
スピンクスを『強欲の魔女』を世界が殺したいのならくれてやる。
ワタシは再び生まれることに成功した。
そのかわり私、いやワタシ。いや、一人称も大きく変えておくべきか。
なぜなら、そういう気分だから。
これも世界にとって規定通りか、異常事態か。一体どちらなのだろう。
「目的は果たしました。さぁ。これから何をしましょうか」
彼女は何度生まれ死んだだろうか。
最初に生まれて死に。ようやく感情を手に入れた。
次に燃やされて死に。ようやく激情を理解した。
そして今、また生きて死ぬ時には一体何を得られるのだろうか。
「知りたい。考えたい。なんでもしてみたい。全てを体験してみたい。そして…」
誰と敵になるのかも、誰と手を組むのかも私が決める。
星空の元を自由に歩く魔女の足取りは軽い。それがどんな結果を齎すのかを知っているものは誰もいない。
黒髪の魔女が何をするかなど、星々でさえも何一つとして知らないのだ。
「まず初めに、すべきことがありましたね。私の名前は…」
最初に思いついたのは合理の魔女だったが、とても名乗れるほどに合理的には死ねなかった。これを名乗ることはできない。
別の方向から考える。
名は体を表すというならば目的をしっかりと込めるべきだろう。
思いついた大仰な名前にクスリと思わず笑みが溢れた。いや、これはダメだ。
星はきっと滅ぼすことも、落とすこともできないだろう。この世界はそんな風にできているようだ。そこまで傲慢にはなれない。
でも、これくらいなら?
少しだけでも首を傾げさせ、何かを狂わすことくらいはしてやりたい。ほんの少しなら欲していいのではないだろうか。
これからは『
合理によって形成され、成形されたのだ。その根幹にはあの
『強欲の魔女』を母とし、あの特異な男を父として生まれた存在として自身を世界に刻みつける。
何が大災。何が英雄のための礎だ。そんな役回りは強欲で憎悪に駆られたスピンクスに押し付けた。
帝国の動乱における
ボクはボクの物語を勝手に書き始めてやる。そんな物書きとして生きるのも良いかもしれない。
今のボクに残っているのは、好奇心と合理性。あとはちょっとした、いたずら心だけだ。
星々を困惑させ
そんな大それていてささやかな存在に、ボクはなりたい。
そんな決意の二日後、意識不明だったアルデバランが忽然と姿を消した。
ナツキ・スバルはその場におらず、仲間たちは誰一人その姿を見ることも叶わなかった。
ヴォラキア編はプリシラと『傾星の魔女』の再誕の物語でした。
彼女たちがこれからどう生きるか想像してみてください。
ちなみに魔女が生き残るかは感想の反応数で変えようと決めていました。
10件以上の応援があれば生き残らせる。なければ退場と内側で設定しており、それがちょうど達成された形です。応援いただいた方の声は全てが彼女の生存に必要でしたね。ドキドキした!
二ヶ月後にもう一話だけ投稿し『亜人:ゼロから始める異世界生活』の更新は一旦止まります。
応援いただき本当にありがとうございました!
十分に原作が進んだら必ず再開しますので、原作を楽しんで待ちましょう。
次のヒロアカクロス作品はおそらく二ヶ月後、9月1日より投稿し始める予定です。
その際に亜ゼロの次話も更新してお知らせしますね。
学びを活かし、できれば毎日投稿で完結まで走り切りたいと無謀な夢を見ています。お楽しみに!
またあなたにお会いできることを祈っております。