亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:25】大罪司教

怠惰攻略の作戦会議は大詰めだ。

 

「同時に行うのはエミリア様と周辺の村人など非戦闘員の避難。これはアナスタシア様とラッセルさんが手を回してくれている。周辺にいた商人たちも保護のついでに足として確保する」

 

これらは全て事前にケイが聞き出していた内容だった。大枠を確認し、その他の共有事項を詰めていく。

 

「おっしゃ!やったろうや兄ちゃん!」

 

会議はまとまりかけていた。最後の激励の時にその異変は起こった。

 

リカードの掛け声に反応がない。ふと呆けた表情になったスバル。

 

見兼ねたフェリスに耳を甘噛みされ、奇声を上げて驚いてから雰囲気が変わる。

 

 

スバルが泣き出した。号泣である。

 

 

「フェリス。君は時と場所を考えるべきだ」

 

「ええっ!?ってホントに泣いてるし!嘘だよネ?嬉しすぎて泣いてるだけって言って!」

 

「いや、すま…ねぇ。ぅう。でも嬉し泣きってのは本当だ…っ良いことあって…ってそうじゃない!コイツのセクハラに喜んだわけじゃねーよ!!裁判を求む!異議ありだ!ぜってぇ逆転してみせるから」

 

嗚咽し、取り乱したスバルは少し時間をかけて落ち着きを取り戻した。

 

他は暖かい目で見守ったり同情したりとしているようだが、ケイには違う光景に見えている。

 

この短時間で、立て続けに『ロード』をしたのだろうか。どんなきっかけなんだ?

コンティニューといっても死んだ時とは思えない。

 

死んだ時にセーブ地点に戻るというのなら、流石に自殺の手段を身につけるだろう。

スバルが抜けているといっても、何度も繰り返しているのならそうなっているはずである。

そうでないなら、トリガーは死ではないと考える。

 

 

そんな鋭い疑惑の視線に表情を返すスバルは全力での笑顔だ。心なしか距離も近い。時間を浪費しながらもニコニコとこちらを見る顔をぶん殴ってやりたい。何が面白い?

 

理由もわからぬ信頼や友情など気持ち悪いだけであるが一旦は我慢。ロードに対応しなくては。

 

「スバル、何か忘れてた内容や情報はないか?いまさらの内容でも構わない。お前の記憶力には想像がついてる。さっきのショックで思い出したことは?」

 

ケイが長々と冗談を言うなんてと周りは驚きかけたが、続くスバルの語りにさらに驚かされる。

 

端的に言えば、情報が増えすぎた。

 

スバルの口から語られるのは怠惰の能力とその詳細。魔女教徒が潜伏するまで詳細がズラリと並んだ。

 

それも初耳の情報が大量に含まれている。

あれだけ前日に情報はないのか問い詰め、先ほどまで作戦も固まりかけていたというのに。少し気まずそうにケイを伺うが、一切の横槍を入れずに聞き終わると、スバルは嬉しそうに目を輝かせてこちらを見ていた。

周囲の怪訝な目線は一切気づいていないようだ。

 

見えざる手という能力については昨日聞いていた。

見えないが実態のある脅威については偶然にも事前に対策済みだ。佐藤のIBM対策がここに来て活きるとは。()()()()()I()B()M()()()()()()が対策は当然行っている。

そして指先と呼ばれる魔女教徒への憑依と復活。仕込まれた自死による切り替え。その辺りも慣れ親しんだものである。触れれば一発アウトの霧を出す白鯨よりも余程やりやすい。

 

「後からこんな重要なことに気づいて恐縮なんだが、指先の排除と憑依の攻略。これらが必須だ。ちなみに俺も最終的に憑依先にされちまう。どうにかしてくれ」

 

キリリとした表情で紡がれる言葉は助けてというもの。皆が困惑している。

 

ここまでの不自然すぎる情報の提供に流石にこれはと、ティビーが異議を挟もうとするがケイはそれを抑える。

 

ここの指揮をとっているのは自分だ。常識的なやりとりで時間を浪費するつもりはない。

 

先ほどの推測は確信に変わった。彼はロードして情報を持ち帰ったのだろう。そうでなければ有り得ない質と量の情報更新だ。あとついでに自分に対する態度もだ。一体僕は何をした?

 

王都へ撤退する別働隊も移動が始まった。ちょうどすべき事もある。

 

「少しだけ時間をください。考えます」

 

予定していた通りにメモを開く。部隊を分けたときまでに必ずメモを確認すること。そう行軍計画に記入していたためだ。

1ページ目と2ページ目の半分までは白紙だったが気にもせず読み進める。

 

・白鯨の消失の霧に当たると、存在がかき消えて周囲の記憶や記録からも消える。亜人でも復活するかはわからない。

 

これは討伐前に散々シミュレートした内容だ。今更と思うが、なぜこれをここに書いたのかいまいち思い出せない。最重要なメンバーの不足は隊の管理表と照らし合わせても確認できなかった以上は損害は軽微のはず。

 

次のページ。なぜかいきなりIBMについての記述である。

 

・亜人だからといって全員がIBMを出せるわけではなく、I()B()M()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()者のみ。何らかの素質や覚醒が引き金となって突然に使えるようになる特殊能力であり、殺され続ける、誰かを恨み続けるなど、強いストレスがかかることで出現する事が多い。

・IBMは自走させると自我が育ち、自ら行動し始める。

・自走期間が長すぎると暴走する。

 

なぜこんなにIBMについての基本的な記述が多いのだろうか。()()I()B()M()()()()()()()()()()()()

また1ページ空白が挟まっている。こんな書き方はやはりおかしい。

 

・なぜお前に佐藤の記憶がある?

 

自らの筆跡で問われる。なぜこんな問いを書いたのか思い出せない。

佐藤の記憶があるのは当たり前だろう。なぜならあの時の戦いで色々あって…

色々とはなんだ?そんな大事なことがわからないことが異常だ。僕がそんな疑問を放置するわけがあるか?

 

亜人だからといって、相手の記憶を覗くなんて普通じゃないことだけはわかる。

 

()()()()()()()()()()()

 

この間、記憶喪失になったばかりだろう。考えろ。考えろ。

 

頭痛に思考を阻まれる。何かあることだけは確かだが、アプローチを変えなくては。

 

そうだ。自分は重要な情報は簡潔に記すはずだ。無駄な記述や遠回りの謎かけなんてしない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それが白紙になっている。2ページ以降には消された時の備えとして遠回りな言い回しを残しておいたとしたら。

 

白鯨の霧が関わっていることは間違いない。

 

さらに発想を飛躍させる。

そうだ。あの入間基地でのフラッドはどう考えても量がおかしかった。アレは全て佐藤のフラッドだと確かに記憶しているが、無感情のあいつが今更感情を高めることなんてあるか?

 

いや。絶対にあり得ない。あいつだけはフラッドはできない。ならあれは誰か別のフラッドである。それにあいつは何らかの形で便乗したんだ。

佐藤が一人で引き起こしたと思っているあの記憶は、絶対におかしい。

 

フラッドはおそらく、IBM同士の干渉で同調し再発し続けるのではないか。

 

その対象を覚えていないのはおかしい!ならきっと僕なのだ。そして佐藤の記憶はそこで混ざったとしか考えられない。

 

 

結論が導かれる。

 

 

 

 

 

———僕は、別種だ。  ———IBMを出せていた。

 

 

 

 

 

 

この周到すぎる準備から、何かしらの理由で()()()()()()()()I()B()M()()()()()()としか考えられない。

 

その可能性があるし、違ったとしても努力によって新たに発現する場合もある。ご丁寧に試すべき方法まで羅列してある。

 

「ケイ殿」

 

思考に沈んでいた意識が呼びかけに応じて浮上する。

深い思考に沈んでいたケイを呼びかけるヴィルヘルム。

 

「お待たせしました。スバル。先の情報は確かであっても、具体的な作戦詳細はまだないという状況で間違いないな」

 

「ああ、でも情報自体は確かだ。それをこれから料理したい。みんなでできれば嬉しいんだが…」

 

作戦を練り直す。いくつか穴を塞がなければ。

 

「まず指先の殲滅について。相手が少しでも考えているなら、一網打尽を防ぐため指先の何名かは辺鄙な場所に待機させるはず。その全てを網羅できている確信は?」

 

「ちょっとケイきゅんさぁ。さっきから確かとか確信なんて言葉使ってスバルきゅん追い詰めるのやめなさいよ。そんなのあるわけないでしょ?大人気ないったら」

 

フェリスの言を無視してスバルへ向き直る。

 

「お、おう。まさかのフェリスが俺の味方するレベルとはやべーな。えーっと、質問への回答はNO。いいえだよ。もしかしたらいるかもしれないけど潜伏してるのはちょうど10箇所だったはずだ。指先ってんなら10じゃねーかな」

 

「足を含めればさらに10人いてもおかしくない。世の中には通常より指が多い人もいる。10を超えるのは不可能なのか?」

 

そう言われると、不安になってくる。確かに確証はないが…

 

「いや、いやいや。もう一つヒントがあった。10人潰された後になってようやく、あいつは俺に乗り移るんだ。憑依って呼んでる。ストックがなくなった時の緊急手段。そういう見立ては間違ってないと思う」

 

恐らくスバルはすでに何度も怠惰と交戦している。ならもっと詳しいことを聞けるはず。

 

「想像でいい。乗り移った怠惰が言いそうなことを教えてくれ」

 

スバルはまた泣きそうになった。やはりこの時点でもケイはスバルの秘密に気づいている!

そうでなくてはこの質問は出ないだろう。かなり信頼を感じる。なぜと問わずに聞いてくれるのがどれだけありがたいか。

周囲の質問を無理に抑えるなんて怪しい本人にはできない。

 

ペテルギウスの妄言に意味があるとは思えないが必死で思い出す。

 

『実に良い!これほど馴染む肉体は何十年ぶりか、失われた指先の補充に最適な素材を引き当てたのデス』

 

『アナタ方がワタシの大切な指先を奪い尽くした結果、この肉体に宿る他なかったというのに!』

 

『そうデス!疑問はまさにそこなのデス!アナタの纏う寵愛は一介の信徒の比ではなく、大罪司教に匹敵するのデス!であれば、やはり今代の『傲慢』なのでは?『怠惰』に代わり、試練を代行するためにこの場に参じた『傲慢』では!』

 

『たとえ大罪同士でも、互いの手法に口出ししないのは不文律デス!その上で相争う結果になるのであればあとはより勤勉に!万難を排して愛に邁進するものが押し通るだけデス!横紙破りも潰し合いも、珍しいことではないのデスから!』

 

 

この辺りの言葉はうろ覚えだが、他にも可能な限り対話内容をケイに伝える。あくまでスバルの想像として。

 

「にゃにそれ、頭おかしいんじゃないの?」

 

「いま聞いた限りでは、素材として優秀だし、近くだから乗り移っただけかもしれない。自分の持ち駒を消費するより相手のコマを奪った方が得なのは明白だ。奪い尽くしたというのは嘘でまだ伏せ札があるのかも。嘘じゃないようだが、敵の言葉を信じるのは最後の手段にしたい」

 

側からみれば、傷心のスバルをケイがボコボコに詰めているように見える。本人たちにその気は一切ないのだが。

見兼ねて大人がフォローに回る。

 

「おいおいにーちゃん。あることないこと考えてケチつけんのは簡単や!代案ちゅうもんを出さんことには、にっちもさっちも進めへんやろ!」

 

「ええ、だから怠惰と会うのは自分にします。僕が怠惰を説得して指先を全て集めさせる」

 

実際に見たわけでもないのに、ここまで行動が変わるものなのか。スバルはこの作戦の変更とその内容に二重で驚き愕然とする。

 

「そんなん、どうやって」

 

「これだけ情報があればどうにかできる。やつは試練と魔女、そして福音とやらに固執している。その都合に合わせるだけだ。それにもし失敗すると思うなら助言してくれ。なんでも聞く」

 

スバルは考え逡巡しているが、ならこの提案は初めてなのだろうか。失敗も成功もありうるならやりがいがある。

 

「いや、正直言って村と屋敷の往復に、紛れ込んだ魔女教の排除。何度も色んなやつを説得しなきゃならねぇ。だから時間稼ぎと指先集めをしてくれるならありがたい。任せていいか?」

 

以前はスバルの提案に少し色をつけるくらいで計画をし、指先潰しに尽力してくれた。

 

共有する情報が増えると、別人のように行動を変えるケイ。

ループするたびに同じ反応を返されることの寂しさに慣れ始めていたスバルにとって、この反応の多彩さも心を軽くしてくれる。

 

この質問の仕方も。質問を取り下げることも。怠惰との対話も自分の下手くそな()()形式だけどしっかりと…

 

バカか俺は。いや、本当にバカだ俺は。

 

思い出した。感激や情報共有で後に回していたことを。あれだけ忘れるなと自分に刻んだ、重要な一言を。

 

いや、それこそ嘘だ。本当は怖かっただけだ。これはペナルティが来る可能性が高い。

そしてペナルティも、苦痛だけではないかもしれない。また死ぬかも。そう思うと動悸が激しくなるし身がすくんで動けなくなりそうだ。

 

だけど、怖がってあれを裏切る方が嫌だ。あの熱くて冷たい眼差しを裏切るなんて、そっちの方ができっこない。

 

覚悟を決めて、近づいて、伝える。

 

「最後に。ケイに伝言がある『1と2は失敗』だそうだ」

 

 

……

………

 

よし!許された。本当の意味で心臓に悪いぜ。

 

 

ポカンと口を開けたケイは思った通りの驚愕の表情。

 

へへっと鼻の下をこすり、意味深に頷く。

 

誰からの言葉かなんて伝えない。

これ以上の言葉はいらない。俺たちならこれで伝え合える。

 

 

 

 

「…最初に言えよバカが」

 

 

 

 

驚きの理由を全然汲み取れてなかった。はい。バカです。ほんま何度もすんません。見捨てないで!!

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 

行動は開始された。

 

スバルは先に行商に潜入している指先を処理し付近の潜伏場所も攻略するようだ。撤退路の安全を確保すれば避難を始める。内通者に偽の情報を流し、さらに時間を稼ぐとのこと。

ケイは1時間ほど待機ののち、怠惰の潜伏場所へ歩みを進める。

 

スバルらと別れ、森に一人残る。空いた時間を使ってIBMを出せないか試行錯誤する。()()()()()()()、普通に無理だった。

IBM研究の権威。実際に会えば胡散臭くてタバコ臭いおっさんだったオグラ・イクヤ博士の言葉を思い出す。

 

『IBMを出せるようになる方法?ないな、俺の知る限りIBM発現は運だ。亜人のIBM粒子は復活時最も濃度が濃くなる。その時何か特別な作用が起こるのだろう。方法があるとすれば』

 

『とにかく死にまくることだな』

 

さて、時間だ。向かおうか。

 

目標付近まで近づくと魔女教徒が襲いかかってくる。

その凶刃が振るわれ、なす術なく倒れるがその次の瞬間には立ち上がり。

 

彼らに決定的な嘘をつく。

 

すると彼らはそれまでの敵意が嘘のように武器をしまい、道を先導し始める。

 

「よくおいでになりました。寵愛の信徒よ」

 

森が開けるとそこには岩場を背にこちらを向く男が一人。

その双眸は爛々と輝き、ケイを歓迎していた。

 

「ワタシは魔女教大罪司教、『怠惰』担当」

 

自傷して指を潰しているのか曖昧な指先を揃えてこちらに差し伸べる。狂気の瞳はこちらを向いたまま男はのけ反り、舌を出し、カッと目を見開いて

 

「ペテルギウス・ロマネコンティ、デス!!」

 

狂人が手を叩きながら小躍りして喜んでいる。何がそんなに楽しいのか。

 

「よき日デス、素晴らしき日デス!まさか試練のその日に、こうして新たな愛の寵児を迎えられようとは!感涙、感動、感激でワタシの胸は張り裂ける寸前デス!」

 

すでに仲間認定してもらっているようだ。手間がかからず助かる。

それではこちらも名乗らねば。

 

 

「僕は、魔女教大罪司教『傲慢』候補。———佐藤と申します。よろしく」

 




【魔女教大罪司教について】

400年前に封印されたとされる大災厄、『嫉妬の魔女』サテラを信仰する謎の集団。
目的のためには手段を選ばず、各地で神出鬼没に犯罪行為を繰り返し、各国から危険視されている。
ハーフエルフの排斥を行い、かつての魔女に関わる事物に執着している。

その中心的な役割を担うのが大罪司教であり、嫉妬を除いた6つの大罪をそれぞれ担当しているものたちがいる。
活動的なのは怠惰であり、強欲もまた有名な事件を引き起こしている。

現在、傲慢は空席の模様。
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