メインキャラではありませんが、ここらで皆さんの知らない人物を出し始めます。
え?原作にもいましたよ。
いたけどきっと白鯨の霧にやられたんですね。そうに決まってる。
スバルは数日の間世話になったクルシュたちと別れを告げて、帰路についた。
5台の竜車にはアーラム村の住民が乗り、それとは別に先頭と最後尾の竜車にはケイやカルステン家の調査隊が控えている。
王都からメイザース領への帰り道。二人きりの竜車で、スバルとエミリアは気まずい沈黙に耐えていた。
空気を読んだのか、読めないのか。オットーがうまく空気を壊し、二人に会話が戻ってくる。
「もうサッと、隣に座るよね、スバル」
「そら、好きな女の子の近くにいたいと思うのは当然というか当たり前だから。なるたけ近くで、エミリアたんの吐いた空気で呼吸してたいね」
「途中まで恥ずかしかったのに、途中から急にすごーく嫌な感じになったんだけど」
好意を素直にぶつけられて顔を赤くしつつも、後半の変態性の高い内容にエミリアは顔をしかめる。その彼女の反応に首を傾げて、
「いやほら、いつもの俺でいこうと思うとついこういう発言が」
「そうよね、スバルってそういう人。そんなだから、いつだって私はスバルの言うことちゃんと受け止めてあげられなくて」
ジッと、エミリアがこちらを見つめて言葉の先を濁す。
頭を掻き、彼女が躊躇った先を引き継ぐべきかスバルは悩みつつ、
「ふざけてる風を装わないと本気で口説くのもできない男の子心理なんだよ。俺がエミリアたんを好きなのも、エミリアたんをエロい目で見てるのも、エミリアたんの助けになりたいのも全部本当の本気。信じてくれていいぜ?」
「信じるけど、受け入れるのとはまた別のお話だからね?」
「いいよ。信じて、その上で受け入れてもらえるように努力すっから」
振り返って、けっこう攻め気の強い発言が飛び出したな、と他人事のように思う。実際、スバルにそう言われたエミリアのどぎまぎぶりはかなりのものだ。
表情は平静を保つよう努力しているが、頬と耳がフォローできないぐらい赤い。きっとこうして、無条件の好意を示された経験がないのだ。もちろん、口説く側のスバルも経験がないものだから、なんだかんだで顔真っ赤なのだが。
それでも、
「気落ちして下向いてるより、こっちの方が俺らしいもんな。だろ、レム」
「……今、なにか言った?」
「エミリアたんの綺麗な髪の毛持ち上げて、うなじ視姦したいなって」
「すぐそうやって誤魔化す。……レムさんのこと、気にしてるでしょ」
軽口で逃げようとしたスバルの道を塞ぎ、エミリアがはっきりそう告げる。それを受けてスバルは苦笑し、寝台に眠るレムを見据えて、
「気にしてる。すっげぇ、気にしてる。どうにかしなきゃってずっと思ってるし、ずっと考え続けると思う。エミリアたんを一番に考えてたいとは思うけど……これは順番つけられることじゃねぇんだ。ごめん」
「怒ったりしたらすごーく嫌な子じゃない、私。そんな大事なことで怒ったりしないもの。……あの子がスバルにとって大事な人なの、見てればわかるから」
スバルと同じく、眠るレムを見てエミリアが瞳を細める。それから彼女は唇を震えさせ、しばしの躊躇いのあとで、
「好きな子、なんでしょ?」
「好き、大好き。エミリアたんとおんなじぐらい好き」
「こういうこと言うとなんだけど……スバルって、浮気性なの?」
この辺りからすでに希薄になっていた永井圭の意識は消えかけていた。
別の竜車の中でケイは思わずつぶやいた。
「こいつら、何してんだほんとに」
IBMを同乗させての盗撮と盗聴を当然の権利とばかりに敢行し、ついでにIBMの使用限界を試していたのだ。
30分が過ぎてもまだ限界がきておらず、彼らの会話をただ聞いているだけの時間が過ぎる。
その悪行には、因果応報とばかりに相応の罰が待っていた。
勘弁してくれ本当に…
その後に少し建設的な話し合いが行われたかと思えば、ロズワールに聞かねばわからないという結論に落ち着いたようだ。体感で9割5分は無駄話をしていたと思う。
比較的建設的な話し合いが落ち着いた頃、ようやく限界が来たのか、IBMが崩壊する。
あの二人のやりとりから解放された。
IBMの連続稼働時間は大体1時間前後か。もっと長居したいと思える場面ならより長く維持できる気がする。
絶妙な距離感の恋愛話?でいいのかあれは。そして世間話に無駄話。
当然勝手に聞いている身で文句などつけられようはずも無いが、それはそれとして辛かった。
ケイが普段、読書や勉強でシャットアウトしていた高校生の日常がそこにあった。高校生としておかしいのはどちらかといえばケイである。
しかしここは平和な日本のファーストフード店ではない。
これから敵と会いに行くというこの非常時に、よくもまぁそんなにゆったりと構えられるものだ。
しかしそれも、スバルの素養と力を思えば仕方ないのかもしれない。彼は普通の高校生だったのだろう。
だが彼のセーブとロードも万能ではないと気づいているはずだ。最も怖いのは、詰みの盤面でセーブをしてしまうこと。
だから普段から詰みを防ぐよう動くべきであると思うのだが、何か他に力があるのだろうか。
それよりも、向かうところにいるであろう。容疑者について考えなくては。
気づいていないようなので、その考察をスバルにも話すべきだろう。
ロズワール・L・メイザース辺境伯は、
これまでの事実を並べればそうなる。
しかし、それにしては殺意が中途半端ではある。スバルという力を遠ざけたと思えば、全権を与える用意をしていたり。
不在がここまで重なるところも怪しい。あの領地の武力はほぼあの辺境伯の独力だ。魔女教が活性化するこの機会にあそこまで無防備をさらすのは殺意があると受け取るしかない。
まるで、エミリアに対しての執拗な試練のようにケイには思えた。
『合えば擁し! 合わねば排し! 魔女に相応しき器であるか確かめ、それに適うのであれば我らの下へ受け入れるのデス! そのための試練を、行わねば!』
スバルから聞いた大罪司教の言葉が思い出される。
辺境伯が魔女教である可能性は高い。
わざわざハーフエルフを候補者に担ぎ出した男。王選開始の宣言の際、大森林を探索し大精霊との戦いを経て勧誘したとか言っていた。
そして魔女教の目の前にエミリアを放置してどうなるかを見る。
自ら殺そうと思えばいつでもやれるだろうに、その素振りは見せず他にやらせている。
スバルが治療を受けるきっかけになった事件。あれの詳細を聞くべきだな。きっと、その時も不在だっただろう。
そもそも魔女教徒であるというのはどんな定義なのだろうか。この世界の人々は魔女教を忌み嫌うあまり、思考を停止している側面がある。共通点はあの『福音』くらいか。あれに盲目的に従っていれば魔女教というのなら、彼もきっと持っているはず。
しかし、腑に落ちない。竜歴石と呼ばれる未来を告げる神聖なお告げ。魔女教の邪悪な『福音』。この二つにいったいどれほどの違いがあるのだろうか。そこに盲目的に従うのなら魔女教徒を馬鹿になどできるか?
逸れた思考を戻す。まずは屋敷に泊めてもらい、一人になる書斎などにIBMを貼り付けて辺境伯を観察しよう。そう決めた。
ちなみにスバルの魔女教疑惑は一応まだ残っている。無自覚でないと説明がつかないため確信犯でないことはわかっているが、状況証拠が手厚すぎる。ダメ押しにと彼は、怠惰の『福音』を今手にしている。詳しそうなやつに聞けるかも知れないと、ケイが奪ったそれを借り受けている。
自身の魔女教疑惑を進んで強化しすぎる姿勢に、逆に怪しさは薄れるがそれは事実ではなく感覚の話なので無視する。
『福音』に洗脳の効果があるならいつ魔女教徒として覚醒してもおかしくない。
辺境伯が魔女教であれば、次にまた試練を課すのはいつになるのだろう。
付近にいるであろう『強欲』か『暴食』か。はたまた別の何かか。
一応対策はしているが相手が暴食では、自分ですら致命傷を負いかねない。記憶を奪うというのは自分にも有効だと思っている。
以前経験した記憶喪失と違いやられた後に対策は難しいだろう。
亜人という言葉自体を忘れる可能性が高い。なぜなら数ヶ月どころではなくクルシュは全てを忘れている。
どれほど洞察ができようと、材料がなければ解けないパズルもあるのだ
そもそもリセットしても忘れている可能性が非常に高いとも思っている。脳損傷でない記憶喪失に亜人の復活が作用するのか?
脅威だからこそ、離れず逃げずにその脅威を観察しにいく。
だから、スバルから離れすぎず。暴食からも逃げない。
今回はできれば適切な距離をとっておきたい。ことあるごとに頼りにされて全てに巻き込まれるのは御免だ。
ケイはやれることをやり続ける。
さて、一旦やるべき事は済んだ。
目を開けると、護衛の戦士10人のまとめ役と、魔法使い2人のまとめ役がこちらを見ていた。
IBMによる調査の前に話しかけられたのだが、集中して考えることがあるので後でと待機を言い渡していたのだった。
現地では彼らが隊長として二隊に別れて行動する予定だ。
仮に魔獣の群れがいようと、魔女教の残党がいようとも十分に戦えるほどの戦力である。
魔法使いの女性が話しかけてくる。50半ばくらいだろうか。穏やかで上品な佇まいだが、その防具には相応の汚れがついており、その勲章から彼女もまた白鯨討伐を成した戦士であるとわかる。
「ご集中のところ失礼いたします。少しお時間をよろしいでしょうか?」
こちらは身分も不確かな若者であるにも関わらず、まるでクルシュに向けるような敬意と口調で伺ってくる。
にっこりと笑い、続けて名乗る。
「申し遅れましたがわたくし、ローズ・フローラインと申します。この度は、火と水に長けた魔法使いをご所望とのことでしたので手を挙げさせていただきました。討伐隊では第三魔法隊を率いておりましてよ」
優雅に一礼し名乗る。淑女然とした佇まいは貫禄がある。
「おお!フローラインといえば『氷炎華』ですな!」
隣の大男がよく通る声で感嘆を示す。筋骨隆々でスキンヘッドで大柄の男は豪快な様子で対話に混ざる。年はヴィルヘルムより少し若いくらいだろうか。
どうやら通り名のようなものらしいが、聞いた事はない。その疑問に答えるようにローズは指を上に向けると魔法を行使する。
指先に精緻なバラの氷像、というよりは彫刻が生まれた。芸術作品のような繊細な形どりだ。そしてこれまで見た魔法使いの氷よりも透明度が高い。
そして、その透明なバラの内に小さな炎が灯る。
氷の中に封じられた炎という不思議な光景に驚き、その美しさにはケイすら感心した。
「このような魔法による細工を得意としております。魔石を加工してこの魔法を閉じ込めると、一週間ほどは維持できます。貴族の皆様の間で流行したこともありまして、過分な評価をいただいております」
昔の話ですけどね。と謙遜するがその佇まいも貴族然としている。武名ではなく、社交界における通名というか特技が呼び名になったらしい。
「いやぁ!何を隠そう当方も若い時分には流行りの『氷炎華』で想いを告げたものです。いまだに愛好家は多く、婦女子は憧れると聞きますなぁ。ただ戦場においてもその名は轟いていたような記憶もありますが!」
どうやら武名でもあったようだ。
「嬉しいわぁ。けど、いけないですね。そんなわたくしの事などよりも、よければお名前をお伺いしても?以前にもご挨拶をしていましたら失礼をお許しくださいね」
ローズが促すとようやく気付いたのか。大男はスキンヘッドの頭をペシャリと打ってから話し始める。
彼のことは聞いている。ローズが人を覚えられないのでは決してない。
『眠り姫』になったものたち。そしてクルシュのように全てを忘れたものたち。その他にも実はとある被害を受けたものがいる。
「いや、これは失敬!当方は ゴドフリーと申します。騎士の家を出ましたが家名は捨ててきましたのでお気になさらず。『魔獣狂い』などと呼ばれておりまして、先の戦いでは分隊長を務めさせていただきましたわ!そんなことも誰も覚えておりませんですがな!」
「あら、そちらこそご謙遜されておりますわね、その鉄面についている証は、王家から直接賜ったものにしか刻まれぬもののはず。きっとわたくしも存じておりましたわ。名のある勇士でいらしたのね」
そう。彼らは世界から忘れられている。自身の記憶は残っているが、他者の記憶から一切が消えたのだった。
記憶を失ったものたちはクルシュのように困惑しているが、周囲から忘れられたものたちは皆絶望をしていると聞いた。
家族や友人。戦友にも存在を忘れられ、世界にポツンと置き去りにされたような孤独感。自己が曖昧になっていく恐怖。
アイデンティティを奪われた彼らの悲嘆は想像を絶する。
しかし目の前のこの大男は、そういった悲壮感を一切漂わせていない。
先の指摘にあった鉄面の兜。その面がついた兜はのっぺりとした印象で、無表情を表現しているらしい。
この男の証言と装備の消耗で測ったことだが、遊撃ですらなかったのに31本の槍を一人で白鯨に投げつけるという戦果を上げたらしい。皆が心を折りかけた際にも一切動揺せず槍を投げ続けていたというではないか。
「以前はまぁ『鉄面』などと言われるほどに無愛想で無表情でありましたが、今はご覧の通り!」
ニカっと笑う口元には豊かな髭が生えている。
「魔獣に狂わされてからはとても鉄面だなんて名乗れるような顔面ではなくなっておりますゆえ、魔獣狂いかゴドフリーかで呼び捨てていただければと思います。この度は怪力の戦士を募集されていたと聞いて飛び付きましたわ!」
ガハハと大きく笑うゴドフリーは、どこかリカードのような朗らかさがある。
そんな彼がなぜ『鉄面』から『魔獣狂い』になったのだろうか。
「なぜ魔獣狂いと呼ばれていたのか聞いても?」
そういえばこんな風に人とゆっくり話をしていて良いタイミングは、いつぶりだろうか。
逃亡生活は大変だったが。受験勉強をする必要も無くなった一種の自由時間もそこにあった。匿ってくれたおばあちゃんとの生活は良かった。
やるべきことをさっさと終わらせて、あんな風にぼーっとゆっくりと生きれたらいいなと思う。
きっと、やるべきことは尽きないのだろうけれど。
「面白くもない話で恐縮ですが。そうですな。ここで語らねば本当に誰も知らない話になってしまう」
彼なりに思うところがあるのだろう。思い切って話し始めた。
「家族が魔獣に殺されました。最初は息子が、森からフラっと出てきた
「そんな危険なところになんでって思うでしょう。それが出身の領はアウグリア砂丘を除けばこの世界で一番の魔獣の群生地に隣接してまして、魔獣被害なんて日常茶飯事のとこでまぁ、そこまで珍しい話でもない」
「でも、やられたこっちはたまったもんじゃない。もちろん
かなり短くしているが、そこにも紆余曲折あったのだろう。そして様々な地方や知らない種類の魔獣が出てくる話は、普通に面白かった。
「でも、それなら、『魔獣狂い』と揶揄される意味がわからない。『魔獣狩り』や『魔獣潰し』ならまだしも」
「ガハハ!!おっしゃる通りで!ええ、恥ずかしい話はこっからですわ。当方はとある加護を賜ってまして『関心の加護』なんてやつです。自分が何かに関心を寄せるほどに、その関心の対象について勘働きが良くなったり、動きが手に取るようにわかるようになる加護。なんて言って伝わりますかな?」
そうですなぁと例えを用いて説明を続ける。
「例えば、自分が剣鬼様に関心を向けるとする。当然勝てないでしょうが、一年もそれだけを鍛えれば打ち合えるようにはなるでしょう。凡人の当方が英雄たる剣鬼様と打ち合える。これは凄まじい恩恵ですな。けれど不思議なこって、その場合は剣鬼様と打ち合えるのにそこら辺の腕自慢には勝てなくなったりします。関心ごと以外には弱くなるんですなぁこれが!」
そうしてパシっと頭を叩く。落語家の扇子みたいな扱いだ。
これは面白い加護だ。これの本質を言い表すとすれば、最適化の加護とでもいうべきだろう。何かに最適化できるが、それ以外には無駄になってしまうらしい。
話が盛り上がるにつれて、どんどん敬語が崩れ落ちていく。
「息子の仇を討つときは、熊の魔獣に関心を寄せておりました。当然ですな!そうなった時の当方はめっぽう強い。悠々とその仇を討って数日後に帰ると、家があった村が魔獣に襲われてたんですわ。魔獣のテリトリーが愚かな当方によって変わったらしく、その余波でした。来ていたのは斑王犬の群れです。熊じゃない相手に勝手が掴めず、目の前で妻を殺されました」
「そっからですわ。この加護をしっかり使わんといかんと気づいたのは。若い頃の関心はずっと相棒の斧槍にしか向けていなかった。そっから熊でしたからな加護の危うい側面を知った時には取り返しがつかんかった。そっからは魔獣全般に関心を向けとります。そうすると魔獣退治には随分強くなりましたなぁ。人と戦うのは昔ほど得意じゃなくなりましたが!」
「そっからは傭兵として各地で魔獣討伐を送る日々ですわ。魔獣に子供を殺される経験は、誰にだってしてほしくない」
ローズは涙を抑えるようにうなづいている。
「そしてある日気づいたことが!これまで魔獣を憎んでましたが、魔獣について疑問を覚えると余計に関心が湧く。そうすると、もっと強くなる。もっと魔獣を殺せる!なんならもっと好きになってみようかなんて思いましてね。よーく見てみればあいつらも面白いとこや不思議なとこ、可愛いとこがあるもんですわ。そんな魅力を見つけて惚れ込むと、あら不思議。一人でその群れごと殺せたんですわなぁ」
彼は先ほどの若き日の告白を思い出すのと同じ笑顔で笑っている。殺すために魔獣に惚れ込み、結果殺戮を成したことを惚気話のように話すのだ。
なるほど確かに『魔獣狂い』である。ローズは涙が止まったようだ。共感が断ち切られたらしい。けれど思ったより引いていないように思える。
しかしながら、この人すごくないか?
「すごい。理性で好き嫌いの対象までを制御するなんて。どうやってそんなことができるんです?」
「殺すために好きになる。そこだけ聞くと理解は難しいですが、わたくしも子供を魔獣に殺された身。その想いと行動が素晴らしいと思います」
「これは、興味深いですわ。この話をしてこんなに好意的な反応されたのは初めてです。流石に白鯨と戦うだけはある。ただすみません!ケイ殿!どうやってというのは説明が難しい。きっとどこかで何かが狂っているんでしょう!」
ピシャリと頭を打ち、自分語りを区切ったようだった。
「これまで長いこと魔獣全般に関心向けてましたがね。この一月は白鯨だけに向けてました。それを魔獣全体に向け直さにゃならんと思ってますわ。今回は周辺の魔獣調査もあるとのこと、その点はお任せください!」
「ええ、魔獣については頼みます。ゴドフリーさん」
すると改まって、ゴドフリーがケイの前に跪いた。
「そんな『魔獣狂い』からケイ殿へ感謝をお伝えさせていただきたい。此度の討伐、全ての子を持つ親に代わり感謝を申し上げる!本当に、かの魔獣を討てたことは世界にとって何よりの祝い事です!ありがとう!本当にありがとうございまする!!」
「わたくしからも感謝を。当家は当主であった夫と息子を大征伐で失いました。運よく記憶はありましたが、その無念からわたくしはこの戦いで果てることも覚悟しておりました。その敵討ちの機会と勝利を感謝します」
涙ながらに感謝を語る二人。そうか、やはり情報で見るのと実際に聞くのは感じるところが違うものだ。
なんだかここまでされるとむず痒い。風景を見つつ、答える。
「その感謝と忠誠はクルシュさんとカルステン家にぜひどうぞ。しばらくは僕もカルステン家に世話になると思うので」
その姿を見てガハハ!あらあら。と笑いが溢れる。
どうやらこの若き公爵家の参謀は、意外と可愛らしいところがあるらしい。
作戦計画からは微塵も人間性や温かみを感じなかった。感じたのは冷徹で周到な鋭い知性の麒麟児という印象しかなかったので覚悟していたが、どうやら見当違いだったようだ。
心地よい沈黙が竜車を満たし、それぞれが思いを馳せている。
永井圭は、割と年配に好かれている。
話数表記に深い意味はありません。
【『関心の加護』について】
関心を寄せた物事に対して、勘や洞察が鋭くなり体運びや精神性も最適化される加護。
最適化には時間が必要であり、体感できる効果が出るには最低でも1週間以上は関心を向けなくてはいけない。
関心の対象が狭く少ないほど、効果は高まる。
ゴドフリーは魔獣について20年以上も関心を寄せており、魔獣討伐においては英雄の如き活躍を見せる。
若き日の武芸に関心があった時代に対人戦も上達し、それなりにこなすが今は苦手としている。
そのため白鯨討伐には参加するが、怠惰討伐は辞退した。
クルシュを助けるために暴食に挑み、あっけなくその権能に敗北する。