亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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…どこもかしこも、獣ばかりだ…
…貴様もどうせ、そうなるのだろう?


【FILE:34】Head Hunting

 

さて、状況が変わった。

これから聖域を脱出することを最優先として動くことにする。

 

エキドナとの約束について抜け穴を突くこともできそうだったが、あれだけこちらが穴を塞いだ後。こちらの穴を見逃すなど流石にしないだろう。あの魔女は決してバカではない。

 

あの態度はむしろ。僕が聖域で活動するように仕向けていると考える。

異世界の片鱗を観測したいなら、スバルと僕の両方を手元に置きたいと思うだろう。

 

どちらかではなく両方をとる。強欲の魔女らしいじゃないか。

 

そしてもう一つ。懸念していたものが的中した。

 

あのフレデリカの弟らしき人物。ガーフィールは匂いで索敵を行っていた。

竜車に仕込んだケイの足は、魔石で冷凍した上で匂いを封じていたから見つからなかったようだが、生身は非常にまずい。

 

そしてその動きはIBMより早く、当然戦闘力もあるだろう。

彼の索敵範囲に入れば僕は引き摺り出される。

 

なので逃げる。適当な理由すらいらない。

 

なぜならここには魔女がいるのだ。

 

魔女と大罪司教が魔女因子を共通とする何かであるなら、脅威度も近いと見るべきだろう。

そんな化け物があそこには複数巣食っている。

 

殺されても死なない程度の能力で立ち向かうべきじゃない。

立ち向かうならラインハルトでまず遺跡を更地にしてからだ。

 

 

 

移動だ。行き過ぎれば結界とやらに阻まれるだろうが、集落からは離れておきたい。

竜車から這い出して、遺跡と反対の方向に走り出す。

 

IBMには自分の服を各所に散らせておく。おかげで裸で移動することになったが、誰がみているわけでもない。

嗅覚による追跡にはカモフラージュが効くだろう。ついでに体には道中見つけた泥を被せておく。

 

特に何も起きず距離を取ることができた。

 

聖域から戻るために、豊富に持ち込んだ道具を活用する。

 

まずは体の関節部分に魔石を紐で固定し、それを一斉に起動する道具。

他の道具を安全なところに置いて保護。

 

 

躊躇いなく起動し、爆発する。

 

 

その場で復活した。

 

どうも胴体が残ってしまうようだ。背骨というのは結構頑丈らしい。

 

 

爆発音に誰かが集まってくるかもしれない。急ぎ離していた荷物を回収。

IBMに自身を背負わせて全力で離脱しつつ、目当ての場所を探す。

 

見つけたのはちょうどいい高さの断崖絶壁。

仕掛けを施していざと氷の魔石を起動する。

 

崖の際で体が凍っていく。そして胴体が凍りつく頃には体が傾き落下が始まった。

凍りながら落ちていく。落下の衝撃で起爆するように先ほどの道具も体につけて。

 

もしこれがダメなら、工夫をした魔法での自殺を試さねばならない。

いつかは成功するだろうが無数の失敗を覚悟しなければならないし、あれは一度でも苦しいので嫌だ。

 

 

 

 

願いが通じたのか、目が覚めたのは別の竜車の底。

アーラム村に停めている調査隊のところに戻ることができた。

 

手早く着替えを済ませて、ゴドフリーとローズに合流する。

 

顔を見せた時には二人ともホッとしているようだった。

周囲の調査と処理は進行し、残りの拠点を調べるのは明日以降となる。

 

 

報告を最低限に済ませて今後の方針を示す。

 

「方針は変わりません。この村を拠点に調査に徹してください」

 

聖域の場所も大体わかった。あの場所から見える山の位置は覚えている。結界があろうと地図上で場所は推測できるだろう。

 

「明日朝に屋敷へ招待されておりますね。恐らくこちらの動きを牽制する目的かと。いかがなさいますか?」

 

フレデリカから届けられたという招待状を渡しながら、ローズが意見を述べつつ対応を伺う。

 

「受けましょう。僕たちにはなんら後ろめたいものはない。堂々としておけば良い」

 

「ガハハ!屋敷の豪華な食事も楽しめますしな!相手がそういうつもりなら食べ尽くしてやりますわ!」

 

 

ケイの1日は終わらない。

 

夜も更け皆が寝静まった頃。

 

ケイは今日何度目かになるかわからないIBMを発現させた。アーラム村を抜け出して記憶の限りで魔女教の拠点を回ってみる。

 

IBMの運動性能は非常に高い。人間の限界を超えた力を常に出すことができ、息切れも起こさない。

爪を壁や木に刺すことで、壁すら登って移動をし続ける。

 

IBMの操作は少しずつ習熟しているが、まだまだ佐藤どころか他の亜人にすら及んでいないと思う。

やはりこういったイメージや感覚で扱うものは苦手だ。だからこそ、慣れなければ。

 

そして地を駆けて観察を続けていると、森の奥地で違和感を見つけた。

 

 

一本の木が折れている。

 

 

ただそれだけの光景に永井圭は違和感を覚えることができる。

 

ここは怠惰と戦う途中に一度見た場所だ。あの木は折れていなかったし、その後にここで戦闘はなかった。

 

よく周辺を観察すれば、足跡を消した痕跡を見つける。

森を進む大きな何かが邪魔だから倒したような。そんな印象。

 

何かがいる。巨大な四足歩行の獣を隠蔽をしながら森を進んだ何かが。

 

 

ケイはその進行方向へと走り出した。

 

 

そして微かな痕跡を辿っていくと、それが見えた。

 

森のさらに奥まった谷間に魔獣がひしめいている。

一種ではない。多種多様な魔獣がそこで静かに眠っていた。

 

あり得ない。この地域の魔獣は頭に入れてある。その知識に該当しないものが多すぎる。

領を超えての移動は至難だ。魔獣だけでやれるはずがない。

 

ならば、人の手が入っているはずだ。

 

奥の洞窟に、小さな火の気配。人の営みを感じる。恐らくあれがこの魔獣の統率者。その目的はなんだろうか。

 

そこからIBMを動かさず、ただじっとその洞窟を見つめていた。

限界が来るまで微動だにせず。ただただそこを見続けていた。

 

 

 

翌朝、一通の手紙を用意した。

 

その手紙をIBMに運ばせる。ケイ自身も屋敷へ向かいつつその作業を行うが、これがかなり難しい。

IBMに任せればそれくらいはこなせるだろうが、隠密行動をしつつそれができるかはわからない。

 

昨日よりもだいぶ時間をかけて、洞窟に到達した。

 

中には誰もいない。しかしやはり人が食事をとった痕跡がある。服や上着が二人分。大きさやデザインから見て女か子供。

 

椅子として使っているらしい、箱に手紙を置いてその場を後にした。そのまま周辺を偵察しておこう。

 

 

 

洞窟にその家主が戻ってくる。

 

「ねぇエルザ。これってなぁにぃ?」

 

濃い色の封蝋が施された上品な封筒がそこにあった。

 

エルザと呼ばれた女は素早くそれを受け取り、中身を改める。

 

「さぁ。何かしら。お母様からの伝言が手紙なんて珍しいこと…」

 

中身を読むと、その思惑が外れていたことがはっきりした。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

ここに魔獣を連れてきた方へ。

 

私は現在付近の村において、魔女教の痕跡調査をしている者たちに同行し共に調査を行っています。

 

私の目的は魔女教です。それ以外に興味はない。

もしあなたの目的が我々でないなら、我々は関わらずにそれぞれの目的を全うできるはずだ。

互いに何が目的か、それを信じられるのかなどと無益な疑問は置きましょう。

 

今日の夜にここに伺います。

不本意な邪魔を互いにすることがないよう打ち合わせをしましょう。

もしその気があれば魔獣を少しだけ遠ざけてください。

 

お互いが目的を達成できることを祈って。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「エルザ?結局なんだったのぉ?それぇ」

 

「訪問のお手紙だったわ。こんなに粗末な家にもお客様が来ていただけるなんて、楽しみね」

 

『腸狩り』エルザ・グランヒルテが妖しく笑う。

 

「メィリィ。失礼のないように夜になったら少し洞窟から魔獣を遠ざけてそこに一緒にいてね。私がおもてなしをするけど、もし戦いになっても手を出さないこと」

 

「エルザったらまた勝手なことして。ママに怒られても知らないんだからぁ」

 

彼女らは何も不安になど思っていない。エルザは依頼までの暇な時間にやるべきことができた幸運に感謝すらしていた。

 

 

 

 

 

太陽が沈み月光がほのかに照らす谷間には、昨日まで蠢いていた魔獣の姿はない。

 

それが歓待の証であると信じているのだろうか。人影が警戒もせずに歩み寄る。

 

目ぶかく帽子を被ったその人物は、大柄な男性のように見える。

手と足は包帯が巻かれその表情は伺うことはできない。

顔の形は人間の頭部ではなく兜か何かを被っているようだった。その上から包帯が巻かれている。

神父服の上から上着を着込み、スカーフが喉元を隠す。

手には木こりの大斧が握られており、それは血に濡れて薄汚れている。

 

どうやらここに来るまでに野良の魔獣とやり合ったらしい。

その服は血に汚れ、包帯も血が滲んでいる。

 

ケイはIBMによる武器を使用した戦闘の成果を振り返る。

これは非常に強力だ。大きなウルガルムであっても一撃でその胴を切り潰した。

気をつけねば大斧の柄の方が折れるところであった。

 

IBMに着せている服は今は村にいないが村の神父から服を拝借した。ルグニカでは土着の精霊信仰と神龍信仰が混ざるように信じられており、そのおおらかさ、または適当さが、日本に近い。教会などもなく葬式などの場合にだけ聖職者としての役割を果たす。神父には確か娘が二人いたはずだ。ことが終われば斧と服の代金を置いておこう。

 

 

「まぁ!男性だったのね。殿方からこんなに素敵なお手紙をいただくなんて。とても緊張したのだけれど、おめかししてよかった」

 

おめかし。彼女の中では完全武装のことを指すらしい。黒いマントに大きなナイフ。ククリナイフと呼ばれる形状に近い武器を持っている。

黒い印象の女であった。露出の多い服装に絶やさぬ笑顔。長い黒髪は三つ編みにされており、どこかの舞踏会にでもいくのかという格好だ。

 

そしてその条件から知識に照合を行い相手を特定する。

 

こいつは王都でスバルとエミリア、フェルトを襲った『腸狩り』であろう。この女はラインハルトによって撃退されたはずだ。ラインハルトは精神的には隙だらけであるため逃げることも不可能ではないのだろうが、それにしても卓越した生存能力である。

 

ならば雇い主は同じ者、目標はまたエミリアやスバルと考えていいだろう。

 

「余計な話は抜きにしよう。私の手紙を読んでくれただろうか。対話の意思があると見ても?」

 

「この上なく歓迎をしているというのに、つれないのね。もし決裂するなら今夜村に襲撃をしているというものよ」

 

「ああ、しかし私は手紙の宛名に魔獣を連れてきた方へとそう書いたはずだ。その方がどうにも見当たらないのでね。てっきり話す気がないのかと思ったよ」

 

確信のある様子に、はぐらかしても意味がないとエルザは悟った。

 

「私があの魔獣の統率をしているとは思わないのね。嫌だわ。覗き見の趣味でも?」

 

「いいや、そんな趣味はない。君は少し自分の容姿を気にするべきだ。王都に名高い『腸狩り』の特徴。噂に聞いたまま見せつけられてそれを見逃すというのは難しい。そして腸狩りには魔獣を率いる能力はない。あれば剣聖を前に出し惜しみなどするはずもない」

 

「へえ。それで。だとしたらどうするのかしら。『腸狩り』なら衛兵に突き出す?」

 

「魔女教でないなら関係ない。私は君たちとは関わりたくない。それも手紙に書いたはずだ」

 

「あまり女を急かすものじゃなくてよ。でもそうね、あなたの意図はわかった。こちらも別の仕事のために来ているから、あんなに魔獣に慣れた人たちと削りあっている余裕はないの。個人的にはすごく残念なのだけれど」

 

こちらから一歩、歩み寄る。

 

「調査隊は、定期的にメイザース邸に呼ばれることがある。もし接近しない方が良い時期があるなら聞くが」

 

「あら、仕事の日を教えるというのは少し踏み込み過ぎではなくて?」

 

「打ち合わせで具体的なことを話さないで終わるなど、そんなことはできないな。調査はあと3日もあれば余裕を持って切り上げることができる予定だがそちらは?」

 

「私としては調査隊の人たちとも深い仲になりたいと思っているの。それを避けるようなことは少し残念」

 

「ああ、それならそれでいい。敵対するということであれば魔獣を操るものを私が殺そう。そうすれば彼らは統率が失われ、襲撃どころの騒ぎではなくなる」

 

「そんなことができると思って?」

 

「どのように手紙が置かれたのか、私が普段どこにいるのか。一体どんな戦い方をするのか、何一つ知らないだろう。あまりやったことはないが暗殺は得意だよ」

 

「しかし、得意だからといって進んでやりたいわけでもない。殺して解決なんて安易な手段を取らせないでくれ。生産性があまりにもない」

 

女は本気で悩んでいるようだった。戦いたい。でも目的も大事。そんな趣味と仕事の両立を悩む普通の女性のような表情で、結論を出した。

 

「予定通りなら、二日後ね。その日に屋敷にはいない方が良いわ。それより前でも状況が動けば始めるから、明日以降はもう行かなければ確実。そこであなた達の姿を見かければ即座に敵対とみなす。これでいかが?」

 

エルザは考えていた。この相手は得体が知れない。

立ち振る舞いや体の動きが、これまで見たどんな人間とも違う。声もおかしい。何か発声自体が変だ。

 

だからこそ戦ってみたい。本業の方が終わっても村にいてくれるだろうか。

その考えを見抜いたのだろうか、証拠としての手紙と封筒を回収するついでに包帯の男は釘を刺してくる。

 

「村には魔獣対策を施しておくが、敵意はないと先に伝えておこう。一応の保険だ」

 

「私たちの気が変わるのがそんなに恐ろしい?意外と臆病なのかしら」

 

「ああ、怖いね。そして最大の危惧は屋敷の連中に統率者が殺された場合だ。その際に魔獣は付近で暴れるだろう?その備えをしておかねば」

 

皮肉でも揶揄でもなく、彼は失敗を考えている。それだけの力があの屋敷にはあるということだ。

やはり話に聞く精霊は強力なのだろう。今から精霊の腹の中を想像して興奮してくる。

 

「私たちの失敗を見越して。そんなの、ふふ。ゾクゾクしちゃう」

 

「では本題は済んだな。ここからは別の話だ」

 

 

おや、世間話などしそうな印象はなかったがなんだろうか。

 

 

「君たち二人とも、この仕事が終わったら私に雇われる気はないか?」

 

しばしの呆然。そして笑顔。

 

「あらあら!まぁ!素敵ね。それもいいかもしれない。でも私たちは高いわ。お金はあるの?」

 

大袈裟に喜んで見せて、条件を詰めてくる。案外傭兵のようなものなのだろうか。

 

「ふむ。今なら上級貴族程度の資金なら動かせそうだ。他に条件は?」

 

資金力など最低限の前提だろう。情報が正しいならこの女はきっとはるかに扱いづらい。

 

「今の仕事をくれる人にはね。少しだけ我儘も聞いてもらっているの。人のお腹を裂きたいという私の願いをね。だから次の職場でも同じかそれ以上は期待したいわ。あと、そうね。最近は強い人と戦いたい。なんて思っているから、そんなことができるなら最高ね」

 

「強いやつの腹を裂きたいか。どの程度の頻度でそれをしたいんだ?」

 

エルザはきっとここで断られると思っていたのだろう。

 

「本気で聞いているのね。驚いた。人をそんなに簡単に死なせることができるなんて、ちょっとした大物なのかしら。頻度なんて今まで考えたことはないのだけれど、そうね…月に一度できれば素敵だわ」

 

「いいだろう。本気で戦える強者を用意しよう」

 

「当然、お腹を開いて見させてもらうわ。『腸狩り』なら当たり前の要求でしょう?あとあなたともやってみたい。お相手いただける?」

 

「ああ、別に構わない。私も相手をしよう。お前にとってはつまらんだろうが」

 

「ドキドキしちゃう。もしあなたの言う通りに今回の仕事が失敗したなら本気でお世話になろうかしら」

 

恐らく、エルザはもともと受ける気などなかったのではないだろうか。無理な条件を提示してこちらから断らせるつもりが、案外全てを飲み込まれて困惑している。やはりこいつは頭脳労働担当ではなく実働部隊のようだ。

 

「最後に一つ。とっても大事なことがあるの。こんな仕事だからこそ、信頼って大事でしょう。腹のうちを見せ合うなんて言葉もあるし、今お世話になっている人は自分の内側をしっかり見せてくれたわ。あなたにもそれができるかしら」

 

もう我慢ができないと、ナイフをこちらに向けるエルザ。

多分こいつは、両方の意味で本気だ。ヴィルヘルムと同じ拳で語るタイプだろう。割腹しないと一緒に仕事ができないとは、孤高にすぎる。

 

そしてこいつはバカである。つい先ほど敵対しないと悩んで決めたはずなのに。なのに気づけば剣をこちらに向けている。こちらが雇うときには徹底的に矯正させてもらおう。

 

「ああ、構わない。それでお互い生きてたら、さっきの約束はしっかりと守ってくれ。ここでやるか?」

 

「ああ、最っ高ね。はじめましょう!!」

 

言うなり躍動するエルザ。その手の獲物を振りかぶり、男の腹目掛けて踊りかかった。

 

服の内に仕込んだ板金がその刃を阻む。硬い。鎧の奥の肉を感じることができない。

 

そしてその隙に思いっきり殴りつけられた。ガードをするも、想像を超える膂力。

 

洞窟の外まで吹き飛び、空中で体勢を立て直す。

 

「そんなの着込むなんて、私がここにいることを知っていたの?でもその感触は不思議。素敵だわ」

 

「『腸狩り』に会うかどうかなど関係なく、急所は守るものだろう。皆が無防備すぎるんだ」

 

「私は、気にしないわ」

 

この一言は、なぜか包帯男の機嫌を損ねたらしい。包帯男は大斧を振りかぶってこちらに向かう。

その足捌きは素人そのもの。しかしその速さはまるで魔獣のようだ。

 

荒々しく振り下ろされた斧は頭蓋を真っ二つにするように降りてくる。

それを避けつつ今度は踏み込みをしっかりと大型ナイフを振るう。これならばきっと薄い板金程度、それごと切り裂ける。

 

破壊音が三つ弾けた。

 

一つは包帯男の腹から。板金ごと割いて内側を抉った。しかしなんだこの手応えは。硬くて重い砂の塊に剣を突っ込んだような感触。

 

一つは包帯男の右腕から。斧を振りかぶっていたが、あまりに急な進路変更でその関節がもたなかったらしい。自身すら破壊するその力と、その精神性に驚きを隠せない。

 

最後はエルザの肩から切り離された左腕だ。自らの腕を破壊するほど強引な軌道変更はエルザであっても避けられなかった。

 

一度距離をとり、左腕をひろう。傷に押し当てて、少し時間を稼ごうかと思いきや相手からは攻めてこないようだ。

 

包帯男は痛みを感じる様子もなく、左手で斧を持っている。そして、壊れたはずの右腕に斧を持ち替えた。

何事もなかったかのように右手で斧を振るって状態を確かめると、こちらを見やる。

まだ治らないのか?とでも言うように。

 

「素敵。本当に素敵だわ」

 

そうして繋がった腕でいざ、再開かと思ったが別の声が待ったをかけた。

 

「もう!エルザったら結局戦うんじゃない。なら私の悪い動物ちゃん達で囲めば確実でしょう?」

 

「メィリィ。出てきてはダメと言ったのに。それにこの人とはすでに関わらない約束はできたわ。今しているのはそうね。転職活動かしら」

 

「意味わかんない!もういいわぁ。いいからみんなやっちゃいなさぁい!」

 

「ふむ。そろそろ終わりにしよう。また会えることを楽しみにしておく。約束を忘れるなよ」

 

最後にそう言って、大斧を投擲した。

その速度は凄まじく。柄を握りつぶすほどの力が込められていた。

 

文字の通りに間一髪で致命傷を避ける。頭部に大きく裂傷が生まれるが、脳には達していない。

 

魔獣たちが殺到する。

ウルガルムがその首や頭蓋に喰らい付いた。

 

しかし、魔獣たちは困惑に襲われる。先ほどまでの手応えが一瞬でなくなったのだ。

 

その包帯と神父服は、その場に落ちた。

まるで中身が消えてしまったかのように。

 

静寂と混乱が場を支配している。

 

 

お楽しみが消えてしまった。少しため息をついてから。落ち着きを取り戻す。

 

きっとまた会える。ああ、楽しみだ。あの未知の腹を切り刻んでみたい。

 

まぁ仕事に失敗しているならきっと、殺されてしまっているけれど。

そうでなかったなら、本気で考えてみようか。

 

 

そんなことを思いながら、メィリィの小言を聞き流すのだった。

 




皆様のおかげで10月の月間ランキングで9位を飾ることができました。
本当にありがとうございます。

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