今日は白鯨討伐についての論功式がある。
討伐前から準備させていた品物も用意ができたし準備は万全だ。
王城の広間には以前の報告会と同じかそれ以上に人が集まっている。
スバルとは久々の再会となる。論功式の前に話す時間を作ることができた。
「ケイ!あの時はマジでありがとうな。村の守りも手を回してくれて本当に助かった」
そして語られるのは、聖域での苦労話。
しかし、ある程度情報を隠された感じがする。
根掘り葉掘り聞いてもいいが、もう少し別のアプローチを今は練習中である。早速試してみよう。
恐らく単刀直入に聞くよりも多く情報が取れるはず。
「スバル。今言うことじゃないかもしれないが聞いてくれ、僕は日本からここに来た。お前と同じ、異世界人だ」
「………………え、えええええええ!!!!????」
長々とした絶叫と驚きと懐疑は割愛する。それが事実と分かった時、またスバルは泣き始めた。
「くっそダメだ。最近向こうの家族を思い出すこともあって今はホームシック、とは違うんだけど向こうの香りを感じると勝手に涙腺がガバりやがる」
「でもそっか。その死なないって体質も、こっちに来てからか。いや、皆までは言わなくていいぜ。その辺はわかってるからな」
片目を瞑って、鼻の下を指でさすり理解者面を決めるスバル。同族が見つかって嬉しいと言った笑顔だが申し訳ない。
こっちは魔女に睨まれてはいるが憑かれてはいない。この前も魔女を一人丁重にお断りしたばかりだ。
「いや、これは元から。こっちでは死なないやつが多くて目立たず助かってるよ。元の世界の亜人って知らないよな」
また外した!?バカみたいだ俺は!いやこれは俺悪くねえだろ!?ありえねえ!
「ええ…元から死なないなんて嘘だろ。亜人ってフィクションの話をしてるわけじゃないんだよな?」
「ああ、やっぱり僕の世界とそっちの世界は違いそうだ。微妙な差みたいだが、亜人を知らない高校生なんてありえない」
驚愕と落胆から立ち直るのを待ち、いくつか質問を切り出した。
内容は聖域についての詳細だ。
ロズワールは魔女教ではなかったとのこと。しかし敵対に近い行為をしていたため懐柔し改心させたので心配しないでくれと無茶を言う。
信じられるわけがないのだが、その説得の際に非常に気になる魔法について言及された。
誓約の魔法。
魂にルールを書き込む邪法らしいが、そんなに素晴らしく、危険なものがあったとは。
白鯨討伐以降に作り続けた辺境伯への貸しを盛大に返してもらう時は近そうだ。
そしてメィリィの安否確認を行なった。屋敷で軟禁しているとのこと。
「スバル、こちらからも報告がある。僕たちの陣営で、死にかけの『腸狩り』を確保した」
スバルの腹に戦慄が走った。思わず腹を押さえるほどの一報である。しかし、衝撃はそこまでではなかった。
あれだけ混沌を極めた戦場で生き残ってもおかしくない。何よりラインハルトから逃げ切った女だ。どんなことをしても死なないんじゃないか?
そんなことより、スバルの脳裏には喜びが広がっていた。恨みや恐怖の対象である人物の生存に喜べるほど高潔な心というわけではなく、仲間の心配をしてのことだった。
ガーフィールがまだ人を殺していない。これは何よりの朗報だった。
きっと彼は気にしていた。早く伝えてやりたい。
「それで、どうするんだ一体?あいつはやべえぞマジで」
「彼女たちの仲介者というか上役に当たる存在。『お母様』について聞いてるか?」
「ああ、なんか失敗したら命狙われるらしいから匿ってるけど、それはエルザもそうなのか…」
ケイはそこで、一つの仮説を披露した。
「スバル。これは予想だが、『お母様』は大罪司教だと思う。憤怒か色欲か。聞き出した内容から推測して色欲である可能性が高い」
「はぁ!?マジか。でもなんでそんなこと…」
理由をいくつか挙げる。
まずその能力の異常さだ。姿形が一定でなくたまに別人の格好で現れる。骨格ごと性別すら変わるらしく、その能力ゆえに裏切ることができないとか。
ここまでなら、非常に珍しい加護持ちくらいで説明はつかないこともないが、次の能力はおかしかった。
人を変化させることもできるらしい。人ならざる怪物や小動物に。体を小分けにして鳥にされたとエルザは言っていた。
フェリスもしっかりと裏付けてくれた。そんなものは魔法や呪いの領分を超えている。ありえないと。
そしてことあるごとに愛がどうとか。肉欲がどうとか。オスメスがどうのと狂言を垂れる姿を聞けば、色欲担当を疑うには十分だ。奴らは自分の根幹について嘘はつけない。どうしてもその言動は目立ってしまう。
「メィリィに確認したいこともある。そのうち会わせてくれ」
予想が正しければ、魔獣が強い反応を示していたはずだ。それをエルザは多少感じたくらいと言っていた。
単純に強者としての異質さがあったため、何が理由で魔獣が騒いでいたのかはわからないとのこと。メィリィの制御もしっかりしており反応も薄く判然としない。
メィリィに聞けば判別できるだろう。了承を取り付けて、話は一旦落着した。
どうせ論功式の後にも会うのだ。その時にゆっくり話せばいい。
論功式における表彰。
白鯨討伐において特に働きが認められたものたちは勲章と別に特別な外套が送られた。
ヴィルヘルム。フェリス。スバル。クルシュ。ユリウス。リカード。そしてケイだ。
白鯨の毛皮で作られたそれは、ある程度の魔法を散らしマナに還元する。
そしてその背中にはとある意匠が描かれていた。
十字の上部分に円がついた紋章が目立つ。
それを囲むのは蓮のようなシンボルだ。青い花のように見える。
調和された美しい仕上がりである。
さらに貴族が見れば一目で分かったろう。この意匠はカルステン家とはあえて離されて作られている。
歴史的に見ても何かを想起させるものはなく、誰もが初めて見るデザインだ。
これは白鯨を討ったものへの勲章であり、政治的な意図はないのだと。そう主張している。
ちなみにだが、外套とは違い、宣誓をした貴族たちに渡されたハンカチには円十字(エジプト十字)と青い蓮は添え物として配置され、中心には獅子の頭部を持った女性が描かれている。
獅子の頭部を持つ女神。赤と青が使われたこれがクルシュを示すことは誰もが一目でわかるだろう。
しかしその出典を知るものはいない。治癒と破壊を司る『女神セクメト』の意匠であるとは誰も知らない。
これのデザイン案を陣営で考えているとフェリスがケイの弱点を探ろうと、美的なセンスや歴史的な知識を持っているかと試すように任せてきたのだった。
考えるのも面倒で、歴史から拝借したのがこの意匠である。
治癒と破壊。獅子の顔を持つ女神。
まさに現在のカルステン家にあっているし、死者の復活を暗示するエジプト十字も不死が複数人いる陣営ならではの共通点から紹介したのだった。
異世界の神話を語り、デザインを職人に発注する姿を見てフェリスはぐぬぬとハンカチを噛んでいた。
そして出来上がったエジプト十字のあしらわれたマントを受け取ったこの男は、全く別の感想を叫ぶ。
「死者蘇生じゃねーか!禁止カードだろそれは!流石にこのマークを青にするのだけはしちゃいけねえだろうがっ」
『いや今は制限カードに緩和されてたと思うけどねぇ』
なんの話だ。いや、もういい分かった。
カードゲームの話らしい。
エジプト十字、アンクが有名なイラストなのだという。
しかし亜人はいないというが、同じカードゲームはあるようだ。よくわからない世界の差異だった。
高校生がガラケーを使っている時点で自分よりも少し前の時代からスバルはきているだろうと思ったが、こんなくだらない事で、気になっていた年代のズレをそこそこ正確に確認できてしまった。
「あれパクるとか正気じゃねえよ!天下のKONANIさん敵に回す気かぁ!?」
その感じで決闘者とは…ケイ、恐ろしい男。と白目を剥いてショックを表現するスバルに説明してやる。
元ネタは古代エジプトだ。紀元前にはあった意匠についてパクリと言うならどちらに軍配が上がるか明白だろう。その来歴も話してやる。
スバルはひとしきり叫んで落ち着き、ケイの話を聞くと嬉しそうにしていた。
「カードは知らねえのか。でも、あれだよな案外こういのに詳しいのな。ケイから古代エジプト話が出るなんて思わんかったぜ。ちょっとしたマニアだろそれ、初めて見つけた共感ポイントに心躍るぜ!」
スバルは今日も一人で勝手に盛り上がっている。
「意外な一面はギャップ萌え狙えるしな。いや俺は萌えねえんだけど、好きな層はきっといるぜ」
妙な納得をしてサムズアップを決めるスバル。俺も星とか好きでさ!と語る姿はやはり馴れ馴れしい。
好感度が高いことはいいことなのだが、なぜだろう、気に食わない。
「いや別に、学校行事で行ったエジプト展の説明を全部覚えてただけ。何も好きなわけじゃない」
「あり得んほど共感できねぇエピソードだった…なんでお前はそうやって俺が肩組もうとすると外してくんだよ!俺のこと嫌い!?」
少し泣く。そう言って窓際で空を見上げるスバルを放置してその場を離れた。
論功式は無事に終わる。
多くのものが生き残り、そして多くのものが死んでいった。
死者を悼み。それすらできなくなってしまっていたであろう仲間を思い黙祷する。
そして最後に発表があった。
クルシュが前に進み出て、よく通る声で演説を始める。
その姿は数週間前の報告会とは全く違う。芯が通ったというか、なんというか以前のような苛烈さはないが確かに目を惹く。
「我々カルステン公爵家はこの度、褒賞に加えてある取り組みの提案を行い賢人会より許可いただきました」
「それは、この国における魔獣の調査。そして知識の体系化を目的とした大調査です」
おお!と会場が湧く。続く説明にも皆感嘆を示す。
クルシュの上達はもちろん精神的な変化もあるが、単純に何度も練習させたからだ。10回以上はやり直させた。
「これまで魔獣討伐は民間の傭兵、冒険者と呼ばれるものたちを中心に行われてきました。大きな脅威には領主や国が被害に応じて動いてきましたが、それでは失われる命が減りません。この度の調査では、魔獣被害の予防、抑制を目的に取り組みます」
「ここに、『ルグニカ魔獣大百科』の制作を宣言いたします」
万雷の拍手。魔獣に良い思い出があるものなどいない。人類共通の敵であり、魔獣大国たるルグニカにおいてはその憎しみは顕著である。
「私はこれから、各地を訪れ魔獣を討伐してその情報をしっかりと残しましょう。賢人会の皆様からいただく惜しみない支援に感謝を。王国のために魔獣対策を固めて参ります。皆様のご協力もどうぞよろしくお願いいたします」
「その際にはこの『青蓮の証』を旗として動きます。我々の調査及び討伐隊はこれより『青蓮獅子団』を名乗り各地の魔獣を討ちましょう」
そう、王都での一連の騒ぎの裏で進行させていた計画。
これがケイの本命。賢人会から『魔獣大百科』の作成許可を得ていた。
調査や編纂、流通までの予算は王国持ちである。
なぜなら一つとして抵抗できる要素はなかったから。しかしそれでも平時であれば特権を得るのは困難だったろう。
しかし、あらゆる貴族の目は黒い影に釘付けであった。あのアナスタシアさえも。
この許可だけを馬鹿正直にとりにいけば、こぞって対抗勢力から妨害を受けていただろう。
今やこの内容はクルシュという得体の知れない何かを王都から遠ざけるための、自分たちにとって都合の良い提案に見えている。
白鯨戦前と同じように、支援者も敵対者も称賛し支援を送る異常事態がここにある。
白鯨から生き残ったものたち。その恩に報いるために家ごと忠誠を誓ったものたち。家を捨ててでも剣を捧げにきたものたちも参加する。
そして記憶を失ったもの、周囲から忘れられたものも進んでこれに参加した。
騎士団とも違う。新たな力が動き始めた。
目敏いものは気づいただろう。
税を集め、軍を整えて脅威と対峙するのは国と国王の仕事である。
本来の意味での血税を捧げる臣民に支えられ、国の脅威と戦い、打ち勝つ。
これはまるで、王ではないか。
その日から『青蓮の証』を求め、宣誓を行う貴族がまた少しずつ増えていく。
青き蓮に彩られた獅子の群れは動き始める。このルグニカの歴史ごと動くような。
そんな予感を、高揚を、誰もが抱いて足を動かす。
脅威を待つのではない。無事を祈るのではない。
人として自ら脅威に向かい対峙するのが我々だ。
獅子の女神を旗に掲げ、その頭脳は冷徹に言葉を紡ぐ。
「じゃあ、やるべきことをやりましょう」
その一言で全てが動き始めたのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
一旦毎日投稿はおしまいで間章に入り、水門都市までの一年を描いていきます。
週に2,3話くらいを更新できればいいかなと思ってます。
xアカウント作りましたのでリマインドがてらフォローいただければ嬉しいです。
https://x.com/ZAT23_A0
※追記
そう思って上記の文章を用意してたんですけど、なんかスケジュールをミスってましてね…
書きたいエピソードが多すぎてこんなに間を空けることができないことに気づきました
なので毎日投稿が続きます。続かなくなるまで続けます(曖昧な表現)
嘘ついてごめんね?いつもありがと。