亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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これより間章に入ります。



間章 雌伏の一年
【FILE:46】青蓮同盟① 精算と盛餐と


論功式が終わったあと、同盟の結束を固めるという趣旨でカルステン邸にエミリア一行を招いた。

 

その実態は、情報交換および今後の連携についての話し合い。

 

何よりも、メイザース辺境伯に各種の請求を行うためでもあった。

どうやら陣営内でも相当に揉めたようだが、ロズワールは許されている。

 

しかしこちらはその意図された不備に際しての負担を請求する権利を持っている。

事前にスバルやエミリアとも合意しており、その二人に降参をしたロズワールには拒否権は存在しない。

 

彼ら二人が認める範囲で補償がなされるだろう。

 

 

「では、早速なのですがいくつかの点において我々に協力いただきたいです。まずは何に対しての補償になるのかという話をさせてください」

 

 

そして語られるのは白鯨討伐から怠惰討伐、直近の魔獣襲撃に至るまでのロズワール側の不備についてだ。

 

白鯨討伐においては特に貸し借りは存在しない。それによって同盟が成ったことが対価と言えるが、対等な同盟でありここには問題がない。

 

そして怠惰討伐。ここが問題である。

まずは、魔女教に対しての備えを怠った結果スバルがクルシュ陣営に協力を求めた点についてだ。

これは予想が容易な領内での問題であり、同盟であっても本来ならこちらが全面的に戦力を貸し出すなどあり得ないことである。スバルとエミリア、そしてラムも奮戦はしたが対等とは言い難い。

 

「ああ、そうだね。その点について言い訳の余地はない。然るべき対応をしようじゃ〜ぁないの」

 

 

そして怠惰の討伐後、屋敷に戻った際フレデリカから突きつけられた要求は非礼と言って差し支えなく、まさに同盟相手へのものではなかった。

 

領内の村の安全はこちら任せ、死体処理や魔女教徒の物品調査もこちらがやった。屋敷の襲撃にこそ関わらなかったが、その後に残った魔獣の処理はガーフィールだけではなく調査隊も活躍している。

 

そして最後に一つ、逃げた『腸狩り』の確保はこちらがやったのだと報告すれば、一同に動揺が走った。

 

 

「なァ!?あり得ねえ。あいつ生きてやがッたのか!オレ様ァ確かに…」

 

スバルは無意識に腹を押さえつつ、それでもこの報告を喜ぶ。

 

大将と慕うガーフィールはあまり納得いっていない様子。それにスバルが対応するが、申し訳ないがと間に入って後ほど内部でやってもらうことにした。

ケイの調子にガーフィールが少しイラつきつつ、スバルはいつも通りと受け入れる。

 

 

「対等な同盟という我々の契約において、以上の6点についての補償を求めます」

 

 

「いやもうその通りなんだけど、思ったより多かったな。大丈夫かよロズワール。破産とかすんなよ?」

 

「相手の支払い能力を超えるような要求はしません。というより金銭的な要求はないのでご安心を」

 

「それは、そ〜ぉれは、金の方がいくらか気が楽だったね〜ぇ」

 

 

そしてケイが補償の要求を開示する。その内容は以下の5点であった。

 

・新たな魔造具開発における全面協力。

・魔造具職人の一定期間の派遣。

・魔法の開発、指南の協力。

・誓約魔法について開示および使用権。

・『魔獣使い』の身柄受け渡し。

 

 

「おお?なんか思ったより、大人しめっていうか。やっぱケイは良識あるって感じするよな」

 

「いやいや安心するのはまだ早いんじゃ〜あないかね。魔造具開発の内容によっては凄まじい要求になっている可能性もある。その点、どのような魔造具を作りたいのか当然聞かせてもらえるか〜ぁな?」

 

そしてケイはすでに資料にまとめていた魔造具の設計や要件を見せる。

 

ロズワールとベアトリスがそれを眺める中、ケイは話し続ける。

 

「僕の予想では、すでにこれに近いことを試している人はいるはずです。過去の事例でも構いませんが、これはそこまで珍しい要望ではないでしょう?」

 

「ああ、そうだ〜ぁね。多くのものが挑戦しているのは事実だ。けれど、誰も成功はしていない。という問題に目を瞑ればその通りだ〜ぁとも」

 

「昔からこの手のバカは枚挙にいとまがないかしら。記憶している中では過去、ロズワールの系譜にもいたはずなのよ。でも指摘の通り、誰一人として成功したものはいないはずかしら」

 

やはり先行研究は多いらしい。非常に助かる。そして今ならば十分に素材や技術もありそうだ。

 

 

「まぁこの設計はこれまで見たことがない点が多い。その上私とベアトリスの協力に加えて、素材や予算は青天井。過去最も恵まれた環境での開発となりそうだ。どうなるかはわからないね〜ぇ」

 

分の悪くない賭けになる。そう太鼓判を押すのはこの国随一の魔法使いだ。

 

「では補償について、大枠は認めていただいたと思っても良いでしょうか?」

 

合意し、あとは詳細を詰めることとなった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

その晩に当初の目的通り、同盟の親睦を深めるための晩餐が開かれた。

 

白鯨討伐からずっとカルステン家には張り詰めたものがあった。

クルシュの負傷と記憶喪失。そして報告会からはよくない雰囲気がずっと続いていたため皆が疲弊していた。

 

ここに来てようやく、本当の意味で緊張をとることができたようで家令たちの表情も明るい。

 

「なぁ。メイドさんとか執事のみんなも壁際で立ってないでさ。一緒に食べたり飲んだりとか、そういうのどう?」

 

本人に自覚はないが、英雄ナツキ・スバルの影響力は非常に大きい。そして今ここにいる権力者たちは全員が貴族社会の常識を知らなかったり、無視をしていたりする変人たちだ。

 

スバルの積極的な提案が速やかに実現され、メイドや執事も酒を飲む無礼講の立食パーティーに早変わりした。

 

これまでの苦労を労うように泣き笑い。大いに食べて飲み、各々が感情を溢れさせている。

 

エミリア陣営の屋敷は少数でありいつも人数は多くない。

このような賑やかで、でも味方しかいないという状況は初めてなのだろう。

 

「この料理、見た事なくて…その、良ければ…なんて名前なのか教えて欲しいの」

 

少し躊躇いがちに、エミリアがメイドに聞いている。

 

「エミリア様、こちらはカララギ地方の肉ジャグでございます。こちらを上手く作れる女性は、意中の男性の胃袋を掴めると言われているのですよ」

 

「胃袋を?それってすごーく危ないんじゃ…」

 

エミリアは目を輝かせてカルステン家のメイドたちに料理の説明を受けしきり頷く。

 

「ふふ。エミリア様。それは比喩というものです。実際に内臓を掴むわけではございませんよ」

 

クルシュも参加し候補者同士の友好を交わす。このところ人に何かを教える機会など皆無であったためクルシュの新たなスイッチが入り、エミリアへの世話というか教示が始まる。

 

お互いに未熟者であり精神的な幼さを自覚している王選候補者。

二人の会話は盛り上がり、まるで幼い姉妹のように打ち解けたようだった。終わる頃には名前で呼び合う間柄になれたようだ。

 

その姿にスバルはだらけきった笑みを浮かべて後方理解者面でしきりに頷いている。

しかしどんな時でも幼女と手を繋いでいるという、とんだ理解者である。

 

そんな華やかな区画とは全く異なる大声が響くテーブルがある。

 

「やるなァおっさん!負けッてらんねェ。大将!見てッてくれよォ!!」

 

「ガッハハハ!!素晴らしい食いっぷりですなぁ若人よ!」

 

ガーフィールはゴドフリーと大食い対決でもしているのか、張り合って肉料理を頬張っている。

しかし肝心の大将はエミリア観察に夢中で見てくれていないが、周りにとっては余興になっているようだった。

体格差を考えればゴドフリーの圧勝かと思いきや、デッドヒートを繰り広げている。

 

 

少し離れたところでは、酒好きが集まっている。

すでに出来上がったオットー・スーウェンが酒の勢いのままに語っていた。

彼は怠惰討伐の折に協力し、そのまま聖域でもスバルのサポートを行ったらしくエミリア陣営における内政官のようなことをしているらしい。

 

「ボカァね!皆さんには感謝しているんですよ!うう…本当にあの時は人生終わったかと…でもあれからの方が大変なことになるなんて想像できるわけないじゃないですかぁ」

 

「あらあら、随分と溜め込んでいますわね。どんな冒険をされたのか、お話ししてくださる?」

 

「あ、貴族様とは知らず申し訳ありまへん。僕なんかがご相伴に与っても良いんでしょうか…」

 

ローズは聞き上手らしく、オットーも次第に勢いを取り戻していく。

ちなみに会場にはローズが作成した『氷炎華』の装飾が随所に施されている。ロズワールの手前少し緊張をしたようだが、その精緻な造形技術はロズワールの極めた方向とは別の極地である。彼も珍しく感心していた。

 

最終的にオットーとローズは酔っ払い肩を組んで歌うところまで仕上がっていった。

 

 

そんな騒がしい一角とは対照的に、静かな喜びを酌み交わす老兵たちがいる。

 

「よくぞここまで、ついてきてくれた」

 

「悲願は果たしただろう。大したもんだよ」

 

「ヴィルヘルム殿。私は信じておりました…」

 

かつての戦争から、大征伐の後の騎士団の凋落までを共に体験し、最後には共に白鯨へと迫った戦友たち。

彼らは今家ごとカルステン家に忠誠を誓うか、家を出てまで誓いを立ててくれたものたちだ。

すでに一心同体であり、まさに忠臣と言える。

 

彼らは涙ながらに、そしてしみじみと酒を交わしている。

ヴィルヘルムが酒を飲む姿は若者たちにとっては初めて見る光景であった。

 

 

そして陽気なものたちが寄り付かない一角がある。

 

そこはロズワールとケイ。さらに先代当主のメッカート・カルステンがいるテーブルであった。

相対するのはロズワール辺境伯とメッカート元公爵。

かと思いきや、元公爵はケイとロズワールの間で滝のような汗をかいて、はわわ…と混乱する役に徹している。

 

「以前会った時は随分と猫を被っていたようじゃ〜ぁないかね。ケイ君」

 

「その節はどうも。おかげさまで白鯨を落とすことができました。そしてこれからも色々とよろしくお願いしますね」

 

「君は良い眼をしているね〜ぇ。その心根にはこの上なく共感するとも。目的のためには他の全てがどうでも良いという、人でなしと呼ばれる目だ」

 

「あ、あの〜。今日は懇親会ということであるし、そんなところで…あいたた。胃が痛い」

 

「メッカート様はお休みいただいても構いませんよ。僕はメイザース伯に聞かなければいけないことがありますので」

 

あわあわと動揺するメッカートはしかし、その場を離れるほどの度胸もなかった。

 

「未来へ導く大切な本。辺境伯はすでにお持ちでないとか?スバルに捨てられましたか?」

 

「ああ、命よりも大切だったものは燃やされてしまってね〜ぇ。今の私は一体なんなのか。この年にして自分探しをしているところさ。けれど捨てたのはスバルくんではないよ」

 

「へえ、そうですか」

 

お茶目なメイドが火に焚べてしまってね〜ぇえなどという戯言は聞き流して思考する。

そうか、捨てることも不可能ではないのか。聞いていたが、やはり魔女教徒に送りつけられる福音と叡智の書は別のもの。

大罪司教の福音が特別なのか。それとも大罪司教が特別だから福音に自我を奪われないのか。

 

大罪司教と戦う上で、何より重要なのは『福音』である。これは奴らの圧倒的なアドバンテージであり弱点だ。

それについてはスバルにも重々説明し、この度の福音と叡智の書に関することは聞き出せた。

 

福音に操られる魔女教徒。福音に従う大罪司教。複製された叡智の書を妄信し、それを捨てた辺境伯。

 

そしてその全てのオリジナル。それを僕は見たことがある。

 

あの強欲の魔女。エキドナが持っていた原典。

 

推測するには材料が足りなすぎる。論理的ではない。

けれどケイは確信していた。

 

きっとあの性悪の魔女が悪さをしているのだと。

 

 

「最後に一つ。あなたやエミリア様、スバルの願いを僕は邪魔しようと思わない。ただもし内容を明かさないのなら障害になってしまうかもしれない。そのうちで構いません、話せる範囲でお話しください。こちらはあらゆる対応をする用意があります」

 

「ほう。それはそ〜ぉれは。随分と弱気な発言に聞こえるけどね〜ぇ。最も勢いのあるカルステン陣営の参謀とは思えないが、またも猫を被っているのかな?」

 

「別に僕はあなたと同じように、スバルを買ってるだけですよ。僕の目的達成のためにも彼とは仲良くし続けますよ。あなたよりもよほどね」

 

 

読み合い、探り合い。牽制の応酬。

そのプレッシャーの全てを勝手に受け止めたメッカートは、翌日寝込んだ。

 





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