亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:50】青蓮同盟③ 続・魔法の才能

 

ロズワールからの補償。

魔造具の製作協力は順調だった。並行して他の願いも対応してもらうことにした。

 

ケイの魔法の練習に付き合うことを、ロズワールかベアトリスに依頼するが、ロズワールはそれなりに多忙らしい。

魔法の師匠としてベアトリスが就任した。

 

「いいなぁケイは普通に魔法が使えて。俺はついにやらかしちまってな。いや後悔はしてないんだけど、単純に羨ましくってさ」

 

羨むスバル。以前の聖域騒動の際、治療中のゲートを酷使した結果、順当にぶっ壊れたらしい。

 

「ゲートが壊れるのは痛いよな。辛かっただろ」

 

ゲートの暴走による死は何度か体験しているが、あれは慣れない。どんな死でも毎回しっかりと辛いのだがあれは本当に辛い。

思わず共感と同情が口をついていた。

 

え、誰?別人なのではと言わんばかりの表情でスバルは訝しんだ。

 

「ケイが共感して思いやってくれてる?おいおい、そんなこと言われても陣営のとんでもない秘密とか暴露したりしないんだからね!」

 

そう言いながら、ラムの秘蔵の高級茶葉をどこからか取り出してお茶を淹れ始めるスバル。

鼻歌まじりにご機嫌であるが、後で殺されかけるという呪いのお茶だった。

 

実際のところ、マナが殺到して壊れたゲートにそのままマナが殺到するという過程を経て爆散しているのであり、スバルの感じた辛さとはまた違うのだが、二人は気づいていない。

 

 

「スバル!ベティのことを置いてきぼりにするんじゃないかしら!全く、敬意というものが感じられないとやる気もなくなるというものよ」

 

以前にフェリスから似たような文句をつけられたものだが、悪意がなければここまで違うものなのか。

素直に謝り、講義を願う。実のところ400年を生きる大精霊という存在であるこの幼女は、その敬意がこもった応対に気分をよくしたようで、ふんすと気合いを入れ直してやる気を取り戻す。

 

「ま、まぁまぁ礼儀は弁えているみたいかしら。その殊勝な態度は悪くはないのよ。最近、スバルを筆頭にこの屋敷の奴らは揃いも揃ってベティを軽んじ始めている雰囲気があるのよ。やっぱり一回ビシッと言うべき由々しき事態なのよこれは…威厳…そう威厳が大事…」

 

陣営ではかなり可愛がられているようだ。敬意に飢えているようなのでそれを全力で表現することにした。

世界に類を見ない、希少な陰魔法の専門家。

 

これでこの同盟には全属性の専門家が揃った。6属性に対して3人と偏りはあるが、魔法に関しては超専門的な同盟と言えるだろう。

 

 

そんなベアトリスに見てもらう魔法は二つ。いや三つか。

 

早速やりたいが、見学に来ているスバルとエミリアに忠告をする。

 

「結構危険だし、見てて気持ちのいいものにはならないと思いますが大丈夫ですか?」

 

何も気にしないという平穏な主従の答えに、少し先の展開を予想するもまぁいいかと続行。

 

まずはこれだ。

 

指で銃を構えるようにして手頃な地面を狙い発動する。

 

誰にも聞こえないほど小声で素早く、ジワルド。と唱える。

 

するとそれに合わせて体内のマナが渦巻き、無理やりに外に出ようと殺到する。

ゲートを閉じることだけは得意だ。指先以外を閉じるとそこに集中し、そして…

 

 

指先が光ったかと思えば、右手ごと焼失。

 

その後には焦げた地面が残る。指差した場所とはだいぶズレているように見える

 

 

陽魔法の基礎。ジワルドなのだが、結果は大きく変わっている。

威力は高いが、精度はお粗末。よほどの近距離で相手が油断していなければ当たらないだろう。

 

逆の指を使ってもう一度発動。今度は指が焼き切れるだけで済むが威力が弱い。

 

そう。ご覧の通り安定しないのだ。発動までは問題なくできるが、その先の精度については独学では無理だった。

フェリスも割と感覚派らしく、そもそも陽魔法なんてわかんにゃいとのこと。

 

 

さて次だ。重傷の両手を指差して絶句しているスバルと。口を押さえてショックを受けるエミリアを無視して、手刀を振るうようにして手を振りかぶる。

 

その腕が爆発するように風で弾けてケイが転がる。

 

「ケイ!?おい、大丈夫…な訳ねえよ!何してんだお前!」

 

エミリアは顔を青くして駆け寄り、治癒魔法をしようとしている。

 

右腕はすでに跡形もなく、風の余波で胴体も削れている。これは並の治癒魔法では間に合わない。ケイはよく知っている。

その惨状において、一切の悲鳴を発さずにまだ残っている手でナイフを取り出し喉に突き入れる。

 

流れるような自殺。

 

そして復活。

 

「すみません。驚かせましたね。でも大丈夫です。ご心配なく」

 

その光景を見せつけられたスバルとベアトリス。

スバルは気分が悪くなって、その場にへたり込んでしまう。

 

戦時や非常時における血や人の死にはそこそこ慣れたと思っている。

でもきっとそれはアドレナリンなどによる興奮状態がなんとかしてくれているのだ。

 

平時にこんなものを見せられて、平常でいれるわけがない。

 

そして何より。人の自殺を間近で見るのは初めてだった。

かつて聖域で見せられた、『ありうべからざる今』そのトラウマが蘇り、スバルは激しく動揺している。

 

「なんてものを見せてくれるのよ!スバル、大丈夫かしら。休むといいのよ」

 

そして衝撃にはもう一つ理由があった。

 

「いや、いや大丈夫だ。どっちかっていうとグロさよりなんつーか別のとこだから。ショックだったのは」

 

ケイは死んでいる。死んで魔法を練習しているのだ。

 

スバルもやろうと思えば死んで何かを練習することはできる。

以前屋敷での1週間をループする際には、文字を覚えた状態で初日に戻り、結果的に文字が読めるものとして扱われることがあった。

しかしそんなこと、やらないのが当たり前だと思っていたし、聖域を経て今はそんなことはしないと強く決心している。

 

それは決して揺れたりしない。強い根幹となってスバルを今も支えている。

 

だけれど、それを目の前で見せつけられると衝撃は大きかった。

自身の命を使い潰しても目的のために最短を走る。そんなロズワールが望んだような姿がきっとこれなのだろう。

 

スバルは確信する。俺にはきっと、これはできない。いや、しちゃいけない。

ケイの精神力や考え方があってできることなのだろう。スバルがやれば、きっと大切な何かを蔑ろにしてしまう。

 

あれだけ言われてようやく気づいた自分の生き方だ。

 

そしてそんな辛さを実際に知っているのはスバルだけだろう。

命を使ってでも全力を尽くすケイの力になりたい。スバルは心からそう思う。

 

「でもまぁ前言は撤回するぜ。何にも羨ましくない。こんなの絶対やだ」

 

「そうよね。スバルもここまで無茶はしないもんね。よかった。すごーく心配になっちゃった」

 

エミリアはこれ以上見ていられないと、屋敷に戻る。

 

「ゲートの開閉は割と得意そうなので、それをしながら魔力を最大まで活性化して魔法を発動。ジワルドの熱線は指先で、フーラの風刃は腕で切断するイメージをしているんですがうまくいきません。ベアトリス様に助言をいただきたいです」

 

「スバルの頼みだから仕方なくやってやるのよ。全く、あの剣士といいお前といい。スバルがなんでこんなに心を許しているのかわからないかしら」

 

指をひたいに当てられる。

 

「これは…お前、変なのよ。ゲートの開閉は問題なし。出力は非常に高い上にマナは潤沢。マナの固さが異常かしら、これが暴走、いや迷走の原因…」

 

ケイは覚えていないが、ここに以前は魔法の起動を阻害するイメージと、マナが暴走するイメージがIBMのせいで植え付けられていた。

今では起動は問題なく、暴走もそこまでひどくはない。

 

しかし生来の大量のマナ。それの粘度というか固さが魔法の運用の障害となっていた。これは自前の才能である。

 

「魔法は使えて当たり前。この世界の一般的な感覚がない上でずっとマナを動かさないとこんな有様になるかしら。スバルはずっとマナを使っていなかったけれど、魔法を信じていたからそうはなっていない。辺境の少数部族に見られるマナの硬化症。今の時代にお目にかかるとは驚きなのよ」

 

やはり症例はあるのか。それは本当によかった。

 

「ではベアトリス様。どうすれば良いですか?」

 

渋々といった表情で、ピースサインのように指を立ててこちらに選択を提示する。

 

「二択があるかしら。一つ目はマナをほぐす治療と、認識を変える訓練を進めること。これなら数年で魔法が使えるはずかしら」

 

「時間がかかりすぎますね。もう一つを教えてください」

 

「こんなに冒涜的な魔法。見るまで思いつきもしなかったけれど、さっきの失敗した魔法は一つの道ではあるかしら。ゲートの開閉に絞って訓練し、肉体の損傷は無視して魔法を行使する。そんなお前にしかできない方法。これは魔法というには過酷すぎるかしら。全力でおすすめしないのよ」

 

「僕は気にしません」

 

「そういうと思ったかしら。その方法を訓練するなら、普通に魔法が使えることはなくなると警告するのよ。マナの固さは上がっていくし、イメージは強化されていく。お前の才能なら一端の魔法使いにはなれる。それでも自滅をするというのかしら」

 

「はい。これでいいです。ぜひ教えてください」

 

「ゲートを閉じる感覚。それの感覚をもっと精細にするかしら。やってみせるのよ」

 

ベアトリスが外部からゲートを閉じると、これまでの自分の開閉というものがいかに杜撰であったか理解できた。

漏れ出る水を手で抑えるかのような状態。水圧が高まれば当然の如く漏れ出てしまう。

 

指先以外のゲートを閉じる。

 

そして詠唱、『ジワルド』

 

野球ボール程度の光球が凄まじい速度で飛んでいく。

真っ直ぐに飛んだその光の筋は狙っていた木にあたり、その表面を焼いて穿った。

 

激痛を無視するなら反動がない分、拳銃よりもよほど扱いやすい。

 

拳銃は有効射程は100mと言われるが、実際には50m程度でしか人は扱えない。これは動かない的を狙う時の話であり、動く人や動物を狙うなら10m以下でなければ当たらないのが現実だ。

 

ちなみに、至近距離での発砲。0~2.7mという距離においても実際の命中率は38%程度であり、7~15mも離れれば9%まで落ち込む。

拳銃を扱うなら近くとも複数の射撃が必須であることが伺える。

映画における中距離で嘘のように当たらない銃撃戦というのは、実は現実に即していたりするのかもしれない。

 

『力みすぎだよ。銃じゃないんだ反動はないんだからリラックスしないと』

 

うるさい。そんなことわかってる。

 

腕はまだ練習が必要ではあるが、一応の形にはなった。

練習方法も教授され、それを自分でも練習。定期的に見てもらうことで指摘を受けることになる。

 

しかしこれならしばらく練習すれば掴めそうだ。

 

これまで、魔法の練習を後回しにしていたのは理由があった。

 

忙しかったのもあるが、実はもっと深刻で致命的な問題があるのだ。

 

 

実のところ、僕の魔法の練習のためにも魔獣が必要だった。

 

魔法を練習するとどうしても血肉が飛び散るのだから。

 

散らばる肉片の処理はかなり大変なのだ。処理に関わる人間が精神を病みかねない。人肉を燃やした時の特有の匂いも人によってはトラウマである。

周辺では、角を折ったウルガルムが飛んだ肉片を探して食べている。

 

そんな異常な光景にも、ようやくスバルは適応してくれたらしい。

 

一応の完成かと思いきや、スバルから待ったがかかる。

 

「おいおいケイ。肝心なことを忘れてるぜ。名前はどうするんだよ。その魔法って新しいものなんだろ」

 

「銃。剣。と単純に呼ぶつもりだけど、命名なんてどうでも良くないか?」

 

意外なところからも突っ込まれる。

 

「それはやめた方が良いのよ。ジュウ?が何か知らないけれど他の名称と同じならむしろイメージの邪魔をするかしら。魔法にはそれに合った独自の名称や詠唱が必要なのよ」

 

なら従おう。適当に造語を作る。

 

「じゃあ、指銃(ゆびじゅう)腕剣(わんけん)でどうです?」

 

「おいおいおい。知らないのかよケイ。指の銃と書いてなんて読むかはもうきまってるんだぜ?『指銃(しがん)』に決まってんだろ!」

 

まぁ、そっちの方が短いしそれでいいか。

 

「それに腕の方も、『わんけん』じゃなぁ。犬要素が強すぎる。いつかきっと今日のワンコみたいな爽やかで朝を感じる柔らかな風が出ちまうかもしれねえ」

 

意味不明だ。もうスバルがつけてくれ。なんでもいい。

 

そうして、この魔法の名前は『太刀腕(たちうで)』となった。

 

名称をつけることで、実際に精度が上がる。太刀腕については、劇的に威力も精度も向上した。

 

なんだか腑に落ちない気持ちになってしまう。なんだよそれ。バカじゃないのか。

 

「魔法とは、世界の小さな改変かしら。その時のイメージはより強固で、多くの者が共通のものが優先されるのよ。だから魔法の詠唱は同じものが多いかしら」

 

バカじゃなかった。そこそこ理屈のある話であった。

確かに。同じフーラであっても相手を切り裂く一つの風の刃を出すものがいれば、複数の小さな刃を出すものもいるし、大きな風で相手を飛ばすこともある。

詠唱は同じでも、放たれる魔法は割と多様なのだ。

 

恐らく指銃と名称をつけることで銃とは別のものとして認識が強まり、さらにはスバルのイメージやその確信した様子からも僕の中のイメージが補強されたのだろう。

そして劇的に向上した太刀腕は明らかにクルシュの一振りだ。あれをイメージできるようになった。

 

 

指銃は左右で一発ずつ。太刀腕は右手で一回きり。

一生でこれだけしか使えない魔法など本来あり得ないが、奇跡的に生まれた二つの魔法。

 

最後にその学びを活かしてもう一つだけ別の魔法を練習し、今日のところはお開きとなった。

 

 

ウルガルムが満腹を訴えたから切り上げたというのが実際の血生臭い真実であるが。

 




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