亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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クルシュ・カルステンを団長とする青蓮獅子団は、魔獣大国ルグニカそのジャングル奥地へと向かった…



【FILE:51】魔獣大百科② 恐怖!枯れた水源の謎

 

『青蓮獅子団』

 

クルシュ・カルステンが率いるその新興勢力。

その噂は王都だけに留まらず、むしろ魔獣の生息域と重なる地方や辺境を中心に多く語られていた。

 

領主が手を焼いていた厄介な斑王犬の群れを無償で倒した。

騎士すら返り討ちにした異常個体の『凶鳥』ニッカポッカを生け取りに。

ついでとばかりに盗賊団を壊滅させた。

大罪司教を10人倒した。

復活した白鯨と大兎と黒蛇も蹴散らした。

風を起こせば空が落ち、大地が裂け、川が枯れるらしい。

 

ある事ない事が自由に語られているが、話題になるとはそういうことだ。

 

そして何より、『青蓮獅子団』にはあれがついてくる。『青蓮劇団』と呼ばれるものたちが。

 

王都で未だ燻っている若手の芸術家や音楽家。大道芸師や吟遊詩人から各種職人まで。

近い未来に王都の文化を担うものたちが、青蓮獅子団の滞在に合わせて期間限定で市場を開くのだ。

 

そこには王都から商隊が付き従い、それらの芸術を中心に店を出す。

 

武力で人と物を運び、芸術の花を各地に咲かせる。

これが『青蓮獅子団』の名声を大いに高めていた。

 

 

魔獣を減らし、娯楽をもたらし、交易まで。

 

以前のクルシュ・カルステン公爵の実直な人柄は、領民や王族には評価されていたが貴族や商人からの評判は良くなかった。

それが白鯨を落とした後は人が変わったように活動している。

 

まさかここまで多方面への配慮をするとは、訪れた先の領主の面子も保ちつつ魔獣を狩り取っていく。

 

そう。これは下手すれば領主の威厳や面子を潰して回るのではと危惧されていた。

そこはしっかりと対策され魔獣討伐の際には現地の騎士たちを伴い、その討伐方法の教示をお互いにしつつ事を成してきた。

 

白鯨すら落とした英傑とその戦力たち。通常の魔獣には正直言って、クルシュの風の太刀だけで大抵はなんとかなる。

ヴィルヘルムが向かえばきっと邪竜くらいまでなら斬り倒すだろうし、どれだけ時間と金がかかってもケイが殺すと決めればその魔獣は助からない。

 

戦力の過剰を持て余す事なく、魔獣の分析と対応策の教示という方向に活かしていった。

 

それは革命的な出来事だった。

魔獣については全て本番で体験するしかないのが普通だ。お互いに命懸け。その場合は遠距離からの魔法や弓矢による攻撃が主に使われる。

結果として近接戦闘を行う騎士たちの経験が育たないのだ。

 

これこそが遠距離攻撃をものともしない魔獣や異常個体が発生した際に被害が拡大する要因であるとケイが分析した結果であった。

 

地元の騎士や各村の狩人たちにその地域の魔獣を実地で戦わせて経験を積ませる。危険が迫れば過剰な戦力が魔獣を消しとばす。

もし怪我をしても『青』が即座に治療する。

 

この討伐行脚は、全ての領主が望むものになった。

 

 

ケイは事前に言っていた。

「一時的に魔獣を全国から消しても意味がない。それどころか反動で何が起こるか分かったものじゃない。だから各地域に対処の方法を学ばせて、一定の数に抑えたり傷付けて撃退する方法を学ばせるべきでしょう」

 

この提案は正直意外であると思った。これは単純な討伐より余程手間のかかるものであるし、芸術家や商隊を率いればその分移動の足は鈍る。

利益が見込めるからとそんなに時間をかけるのかと皆が驚いたものだった。

 

「歴史でも力あるものや富めるものが施しをする文化や取り組みは多くありました。しかし人々を救うための楽な支援は往々にしてその土地の支配者を肥えさせるだけで救いたいものたちに届かない。人は自分で苦労をしないと新しいものを受け入れないようですよ」

 

水を送っても消費されて終わりどころか、それをめぐって争いまで起きる。

わざわざ井戸を作ってやればその器具が盗まれたり、占領されたり壊される。

井戸を作る方法を教え込むことで、ようやく現地に仕事が生まれ、初めて水が行き渡るのだ。

 

「面倒に見えますが、きっとこれが最短で最適ですよ」

 

 

こういった背景で今の青蓮獅子団は成り立っている。

この数ヶ月の間、いろいろなところに出向いて現地の人々と交流し、魔獣や野盗を討ち取ってきた。

領主はクルシュの問いを意識して善政を敷き、その見返りを受け取る。

 

その結果は呼び名や異名に表れており、民衆からの視線も変化してきた。

 

『風見の聖女』『百獣一太刀』『芸術の導手』

 

時に慈愛と裁きを。時に武勇と決断を。時に芸術と交易を。

 

これまでのお伽話では聞いたことのない多彩な魅力を一人で振り撒きながら、訪れた地に影響を残していくのだった。

 

 

そんな青蓮獅子団が今回向かうのは、王都より一週間以上はかかる距離の領地。そこを起点に周囲を回る予定になっている。

 

「ああ、そういえばバーリエル領とも近いですね。王都にはいないらしいですし、挨拶に行きましょうか」

 

これまでもアナスタシア陣営の孤立のためにフェルトとも剣聖の運用で協働し、プリシラとは密に連絡を取っている。

 

特に意外性はない。

勤勉なクルシュと勉強家たるプリシラの相性も悪くなく、ケイという共通の話題もあってそれなり以上に仲良くしている。

 

「ええ、きっとここまで来て声をかけなければ、次に会う時に怒られてしまいますね」

 

楽しみです。とクルシュも対等な友人への笑顔を浮かべる。彼女ほどの地位と名声になれば友人を作ることにも苦労する。

地元の領主に挨拶をした後、プリシラへ手紙を送っておく。

 

さて、この地はプリステラへ流れ込む大河の上流にあたり、多くの渓谷や川が流れている水に恵まれた土地である。

水生の魔獣が何種か確認されており、それらを調査と捕獲、異常個体や大きすぎる群れがいるなら狩り取らねばならない。

 

川ごとに水竜が優勢であったり特定の魔獣が住んでいたりと縄張りは綺麗に分かれている。

 

しかしそれが集まる場所、湖はまさに苛烈な戦場となるらしい。

なぜかそこが最も水産資源が豊富なようで、日々漁師と騎士と狩人が一体となって野生の水竜や魔獣たちと鎬を削っているのだとか。

 

そうなるとここは、元からかなりバランスの取れた場所と言える。なぜ青蓮獅子団を呼んだのか疑問も浮かぶが、その理由が語られた。

 

 

どうやらここ最近、湖の水位が下がっているらしくバランスが崩れかけているらしい。

上流で川の進行方向が変わったり土砂崩れによって塞がったりしているのではと予想されているが、上流は魔獣の群生地である。

湖に特化したこの地の者たちは、川を遡って魔獣の群れに突撃をすることなどできはしない。

 

そこで青蓮獅子団に助力を依頼したということだ。

 

 

歓迎の宴では酒もそこそこに飲み食いをして、現地の騎士と交流を行い情報を得ていく。

 

ちなみに旅程によっては参加者は変わるが基本的には以下のメンバーが参加している。

 

ケイ、クルシュ、フェリス、ヴィルヘルム。そこにゴドフリーとメィリィが加わる6名が主要なメンバーでそこに青蓮獅子団の精鋭たちが加わっていく。

50名ほどに増えた団員であるが、全員は一度に動かない。

 

王都や領地に残るもの、訪問予定の各地を事前に調べるもの。その他の仕事を任されるもの。

 

商隊を伴うため輜重部隊に人数を割かないで済むのはこの構成の強みでもあった。

 

ちなみにだが、王国からの金銭的な支援がなくともこの青蓮獅子団は収支としてプラスであり、持続的に行うことができる活動になっている。第二隊を望まれることも多くなってきたが、今のところ予定はない。

 

黒字の上で王国からの支援があるため、カルステン家の懐はかつてないほど潤っている。武闘派かつ質実剛健といえば聞こえはいいが、卑怯なことを一つもしない貴族というのは金がない。実力があるため貧乏とは言わないが、公爵という地位においては資産はなかった方だったろう。

 

白鯨の褒賞も含めれば現在の王国貴族の中でも10指に入るほどの資産を築いている。

これも全てケイが来てからまだ一年が経っていないごく短時間のことである。

 

ローズが数年でいいから当家にと誘うのも納得だ。そして貴族女性たちのケイを狙う目は、この商才を目撃してからこそ激化している。金は人々を駆り立てるのだ。

 

それもあって地方に旅へ行けるこの施策は、ケイを救ったとも言えるのだった。

 

 

 

ケイは初めて知ったのだが、自分は旅が好きであった。

 

知らないものを眺めて、その地の成り立ちを聞きその場所の食べ物を食べる。

 

人と仲良くなることがやるべきことと言われればそれをやる男だ。

無駄話でなければ、話すのは嫌いじゃない。

 

気づけば同年代よりは白髪まじりのものたちと話し込んでいることが多いが。

 

同年代。特に異性の権力者が最もケイの苦手とするところだ。

 

今回ケイの令嬢危機一髪シリーズとして紹介するのは、痺れ薬事件だ。

自身の領地で気持ちが大きくなっているのか、薬を盛って既成事実を作ろうとするものすらいた。

 

「たす…けて…」

 

助けてくれないと、魔法で破れかぶれの自殺を試みることになる。

その声は誰にも届かないはずだった。

 

しかし、音というのはつまり空気の振動である。

風見の聖女は、その風の震えを見逃さなかった。自室の窓から即座に飛び立って、ケイの部屋の窓にそのまま突っ込む。

 

レイピアを犯人に向けて、ケイは難を逃れたのだった。

 

年頃の娘が恋心に我を失ってと、そんな理由で言い逃れができると思っていたのだろうか。

ケイはそれを材料としてその貴族からむしれるだけ取って。枯れさせてやろうと思っていたがそれよりも先にクルシュがキレた。

 

というよりは斬った。

 

いや、首ではない。流石にそこまではしていない。

綺麗に髪だけを風の太刀で切り飛ばしたのだった。

 

何も怒ってはいませんよという凪の表情がむしろ威圧感を増しており、その娘は領内の精霊教会へ出家することになった。

 

いい加減にしてほしい。もう本当に婚約してしまおうか。

しかしこれは一つの手札ではある。陣営としてはケイを餌に有利な釣りを続けることはできているのだ。

 

ケイとしての正直な気持ちは「結婚などどうでもいい」である。

なので、反射的に拒否はせず相手の必要性や緊急度を確認した上で毎回しっかりと断っている。

 

単純に優先順位が低いのだ。誰かと結婚すればクルシュが王位につけるなら別にしてやってもいい。

誰の命もかかっているわけでもない。真面目に取り合う必要がない。

 

この手の話題には無駄に思考を割かれるが、注目すべきはクルシュの蛮行ではなくその技量だった。

 

剣技を記憶喪失以前のように戻すことはしてない。才能はあるのだろうが、クルシュが直接剣を交えるなどという場面はほぼ負けの盤面である。そして多少才能があってどれだけ鍛えても、大罪司教には勝てないのは当たり前だ。

 

そんな消極的な訓練や準備は取りやめにして、別の方針で戦う力を備えていった。

 

それは風の太刀を極めるということ。

 

威力さえ抑えれば、風の刃は直線ではなく曲げることもできる。

それが首に傷一つ付けずに、髪を一直線に切り払う絶技を実現する。

 

風魔法は定期的にロズワールやベアトリスにケイと同じく指南を受けているのも大いに関係があるだろう。

 

そもそも、戦闘技能の習得は家族に隠れながら積み重ねたところも多かったらしい。

剣術がベースにあり、そこに風を乗せるだけ。それであれほどの高みに登った才能があるのだ。

 

風見の加護の助けもあり、風魔法には天稟があると偏屈な師匠たち二人も認めている。

 

「加護による補正は絶大なのよ。剣を振るうより風を起こした方がお前はいくらかマシかしら」

 

「風魔法は周囲の掌握が肝要だからね〜ぇ。それに一切の労力を割くことなく風を行使できるのは、大きすぎる利点だとも。魔法を使うのではなく手足を動かすように風を扱う。どれだけ習熟してもできないものはできない。ぜひ一度私もネクトでその視界を見せてもらいたいものだ〜ぁね」

 

近接は長剣をレイピアに変えて、突きのみをとにかく練習。

突いて離脱をするという戦法を自分のものにした。

 

その動きのすべてに風を背負って加速し、疾風のような一撃離脱を可能にしている。

 

 

話を戻そう。ケイは旅が好きである。

もう一つの理由はやるべきことがシンプルになることだった。

王都にいるならできることが無数にある。ありすぎる。

 

しかし一度旅に出てしまえばやることは絞られる。

選択肢というのは贅沢品だが、それに囲まれ過ぎても人間は疲弊する。

 

目標にまっすぐ進む方が疲れないのだ。

 

そしてそんなことを考えているうちに、ちょうど目的地に到着したようだった。

 

目の前に広がるのは谷間にある広大な湖である。

周囲の森は跡形もなく、湖の周りだけは背の低い草が広がっている。

 

これまで深い森と渓谷を川を遡るように進んできたら、なぜかこの光景である。

 

竜車では進めないような森も、地竜に直接乗れば進んでいける。

旅が始まる前に地竜に習熟したケイは、一頭の地竜を専用の騎竜として決めていた。

 

最初は指示を待つような態度が多かったが、ケイがぼうっとしがちだと気づくとこの地竜は自ら考えて前に進むようになっている。

素晴らしい動物だ。知能は幼子くらいありそうだった。こんな風にI B Mも自走させることができれば助かるのに。

 

 

またも逸れた思考は、同行していた狩人たちや地元の騎士の驚嘆の声に遮られる。

 

「なんだ、これは…」

 

「一体どうなってる?蓮見の沼はどこに消えた?」

 

「おい、あれを見てみろ!」

 

そう言って狩人が指差した先を一同が注目する。

 

 

 

「「「「えええええ〜〜〜!!」」」」

 

 

魔獣に気取られぬように抑えた声で絶叫するという器用なことをやっている。何してんだこいつらは…

 

 

果たして調査隊一行が目にしたものとは……

 

 

 

 

 

 

それは高さ10mを超える巨大なダムであった。

 

 

 

 

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