亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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この話のためだけに、ガメラVS大魔獣ジャイガーを初めて見たんですが泣きそうになりましたよ


【FILE:59】魔獣大百科⑥ ガメアVS大魔獣ジャイガ

 

クルシュとケイが『迷い森』の案件へ向かっている頃、ゴドフリーとメィリィの二人にはとある調査が任されていた。

 

それは青蓮獅子団の招待を領主でもない小さな寒村が出したという異例の事態から始まる。

 

ルグニカでも辺境にあるその村は、誰も聞いたこともない村だった。

村の近くに恐ろしい大魔獣が現れる。そんな与太話とも取れる連絡があったのだった。

 

それだけであればきっとケイは無視していたのだろう。しかし、その後に村を擁する領主からわざわざ対応しないでくれと連絡が届いた。

 

これは少しおかしい。村の非礼などこちらは知らない。注意しておくくらいが通常の対応である。

その時ちょうど魔獣コンビの手が空いていたので、手っ取り早く確認してくるようにとの命令だった。

 

 

メィリィが乗るのは、以前に捕獲したカモノハシの魔獣。『混成獣』プラタである。プーさんと呼ばれ最近のお気に入りとなったカモノハシは、実際かなり強力な魔獣であった。

 

ゴドフリーは自前の騎竜で共に進んでいる。魔獣に乗りたいが、村によっては入れないところもある。

許可ではなく、住民が怯えて仕方ない時もあるのだ。

 

魔獣への対処であればメィリィ単体で事足りるが、対人の戦闘も交渉もゴドフリーがいればスムーズだ。

人の敵がいれば魔獣たちが牙を向けばいい。

 

急ぐ旅路であるため、少数の調査隊からさらに二人だけで先行する。

足の遅い竜車や魔獣は遅れてくるだろう。

 

領主には気づかれぬように村へ潜入し、事情を探る。

 

そして件の魔獣がいるなら捕獲して持ち帰る。それで終わりだ。

 

メィリィは道中も忙しい。

ケイが作成した『算数ドリル』をやらねばならないのだ。

 

定期的に開かれる勉強会には、大人も子どもも参加する。さすがに同じ内容ではないが、それぞれの今の状態にあった問題をケイが作るのだった。

 

二次関数に苦しめられるローズ。

割り算すら怪しかった魔獣おじさんだったが、問題文の数字を魔獣に関連させた途端に中学数学までをクリアした。今は微分と積分をいかに魔獣に絡ませるかを悩んでいる。

 

 

この時間がメィリィは割と好きだった。

エルザは6の段で一度投げたらしい。色々お預けにされて参っていた。

 

メィリィは宿敵である7の段の掛け算と格闘中だ。35から先の魔境を今日こそ征服してやる。

 

メィリィはケイのことが嫌いではない。

無駄に話しかけてこないし、会うたびにこうやって何かをくれる。

 

日々、考えられるようになっていく。

ずっと従え考えるなと言われていた生活から今になって本当に全てが変わった。

 

だから宿題もちゃんとやる。

 

7の段を倒した頃に、中継地点に到着した。

 

 

道中の街に、願いを叶える泉という観光名所があった。

この付近一体に咲くという青い花。咲き誇るその青に囲まれた泉が郊外にある。

 

硬貨を投げ入れて心の内で願いを唱える。

そうすると、願いが叶うらしい。

 

「メィリィ!やるぞ!願掛けだ!」

 

やらないと言っているのに、魔獣おじさんは本当にうるさい。

こちらが譲歩しないと、本当に駄々をこね始めるのだこの大人は。

街中では流石にやらないが、外で魔獣関連のこととなると恥も外聞もなく本当に地団駄を踏んで譲らない。

 

大蛇の魔獣に一度丸呑みにされてみたい!という願いは、結局拒否しきれなかった。

地面を転げ回って癇癪を起こすおじさんの威力は魔法のように他の現実を上書きしてしまうものなのだ。

 

「はぁ。仕方ないわねえ。こんなの、お金を集めるだけの観光施設でしょお。まったくもお…」

 

そう言いつつも二人で並んで、硬貨を投げ入れて目をつぶる。

 

チャポンという水音。青い花の香りが、その静寂を包んだ。

 

何拍か置いて、二人が居直ると定番の対話が始まった。

 

「それでえ?魔獣おじさんはどんな悪い動物ちゃんとの逢瀬を願ったのお?」

 

「ガッハハハ!当方の願いは一つ。メィリィの健やかな成長!しかし言われてから思い出しましたわ!魔獣のことを願うのは忘れていたのでもう一回しても良いか?」

 

禿頭をパシッと叩いて、硬貨を投げ込み思い出した願いをもう一度。

 

「なによお。それ…」

 

「メィリィは何を願ったのか気になりますなぁ?」

 

魔獣狂いの変態的な願いをバカにするつもりが、思わぬカウンターを喰らってたじろぐ。

止めるまで願いをやめない魔獣バカを泉から引き離して、旅路に戻るまでメィリィは怒ったように顔を背けていた。

 

色々な経験をしながら目的地へ順調に進み、長い旅路をこなして村に到着する。

二人での長旅も、もう慣れたものだ。

 

 

到着を伝えると村長が現れ、感激に打ち震えている。

 

「ありがとうございます。ありがとうございます!まさか本当に来てくださるとは…」

 

 

村長が語るところによれば、こんな話であった。

 

この辺境にはとある伝説がある。昔から語り継がれていた伝承と言ってもいい。

 

悪魔の笛を動かすな。

 

その警句は付近の村々に浸透しており、その悪魔の笛というのは森の奥にある遺跡にある石像を指している。

 

あの笛が奏でる音色が大魔獣を封じているのだと。そう言い伝えられているのだ。

 

筒状の石像というか石柱は途中に穴が空いており、そこを空気が通ると独特の音色が響くらしい。

 

 

「その悪魔の笛を、代替わりをしたばかりの若い領主様が遺跡から持ち出してしまったのです!珍しい品だからと好事家バンパク伯爵に売ろうとするなど、とんでもない…」

 

これこそ村長が救援を要請した理由だった。

きっとこれから、伝承に従って大魔獣が暴れるのだと。皆が恐怖している。

 

あの遺跡に行って荒らしたのか。祟りが起きるぞと、周辺の村が恐慌しているというのだ。

 

「ほほう。大魔獣とは、興味深いですなぁ!」

 

「それってえ。本当なのお?誰か見たことある人はあ?」

 

 

そんな当然の疑問が浮かんでくるが、それに呼応したのはなんと大地の揺れ。

 

大きな地震であった。

 

ガタガタと揺れる村長の家。上からホコリが降ってくる。

 

 

「ああ、始まった…もう終わりじゃ…この世はおしまいじゃあ…」

 

 

何を一体…そう発言しようと思った時に、何かを裂くような、聞いたことのない遠吠えのような声が聞こえた。

 

バアアアアア!!!

 

先ほどの地震ですら逃げなかった鳥たちが、森から一斉に飛び立つ。

 

 

「ええ…ほんとにい?」

 

「どうやら、あの粉塵が舞い上がる場所に何かいるようですなぁ。先ほどの声量は、相当の図体ですぞ」

 

 

「もうこれでおしまいじゃ。これがジャイガの怒り。悪いことは言わん。すぐに逃げなされ」

 

そう言ってすでに絶望している様子の村長。

 

しかし、そこにお茶を持ってきた給仕の子どもが何やら異議を唱えはじめる。

 

「ちがうよ!ジャイガは確かに怖いけど、きっときっとガメアが助けてくれるんだ!」

 

「ガメア?ガメアとは一体なんであるのかな?」

 

「ガメアはね心優しい地竜なんだ!だって僕、弟と迷子になってたらガメアに助けてもらったことだってあるんだぜ!」

 

村長を見れば、首を振ってそれを柔らかに否定している。

 

「ガメアと呼ばれる地竜。大柄なアンキロ種のやつが付近におりましてな。懐きはしないが、危害を加えることもない。子どもたちは助けてもらうこともあるのです。けれど、とてもとても大魔獣などと相手ができるとは思えませぬ…殺されるのがオチでしょう」

 

「ねえ!魔獣おじさん?そろそろ出ないと見失うわよお!」

 

村での話はここまでとして、急ぎ粉塵の方角へゴドフリーとメィリィは村を後にした。

 

乗ってきた魔獣に跨り、二人はその粉塵を追う。向かっているのは領主の館の方角らしい。

相手はどうやら、森をそのまま突っ切るほどの性能があるようだ。

迂回することになる分、遅れてしまう。

 

「プーさん!がんばってえ!」

 

だんだんと離れていく砂煙を追って、魔獣コンビは森を駆ける。

プラタは本来陸生の魔獣ではない。しかしその身体能力に任せて走っているのだった。

 

そうして遅れて到着したのは、辺境においては比較的大きな街。

 

そこでは今まさに火の手が上がり、巨大な怪物が建物を蹂躙しているところであった。

 

10mを超える巨体。四足の足が地を踏んで揺らす。

その頭部は大きく、胴体ほどもある。

そこに大きな角が頭部から生えて、他にも口の横、鼻の上にも二本ずつ角が生えている。

地竜の一種にトリケラ種という角が発達した種類がいるが、それに少し似ているか。

 

背中には魚の背鰭のような赤い突起が並んでおり、毒でも持っていそうな雰囲気だ。

胴体からは太い尻尾が伸びており、その先にも角のようなものが生えている。

 

全体的にずんぐりとした印象であり、眠そうな瞳に威圧感はない。

 

今まさに、この街で最も立派な館を壊しその中庭から禍々しい彫刻の大きな石像のようなものをくわえて叫ぶ。

 

あれが、悪魔の笛だろうか。

 

こうしてはいられない。これ以上の被害が出る前に、メィリィの加護の範囲に入れさせなければ。

 

カモノハシは地を駆けて魔獣へ突き進む。

尻尾を含めれば4m以上の体長であるはずなのに、どうにも頼りなく感じてしまうのはメィリィが何か違和感を感じているからだろうか。

 

これまでの経験からも、十分な距離に近づいた。

 

しかし、様子がおかしい。魔獣が止まらない。

 

「なにい?これ。気持ち悪い。あの子、おかしいわあ。あの角が、全部そうなの?いや違う?あの子の中に、いっぱいいる?」

 

メィリィは何事かを呟き、呆然としている。

 

そのただならぬ様子に、ゴドフリーは瞬時に判断した。

 

離脱する。

 

カモノハシを操り、回れ右。即座に離れる判断を下す。

 

すると、魔獣はその石像を放り投げ、街の横にあった湖に投げ入れた。

咆哮し、次なる獲物を巨大なカモノハシに狙いを定めたようだった。

 

十分に逃げ切れる。そう思ったのも束の間。

 

「プーさん!避けてえ!」

 

メィリィが指示を出すと、尻尾を使っての急制動。そして右へ回避をする。

その加速度に二人は必死にしがみつく。

 

先ほどまでいた場所には、巨大な槍のようなものが刺さっている。

あれを、飛ばしたというのだろうか。

 

次々に射出される槍。だんだんと精度が高まっている。

このままでは不味い。

 

「湖へ行くのだ!水中に!」

 

プーさんの最大速度は地上ではない。水上こそが本来の性能を活かせる場所である。

 

森への退避を諦め、そこまで大きくはない湖に飛び込んだ。

 

水中の動きは先ほどとは比べ物にならない。

二人を水上に露出させながら、槍を見てから避けている。

 

どうやら諦めたのか、魔獣は湖のほとりで水を飲み始めた。

 

滑るように動き、湖を横断していく。追いつけないだろう。

 

ちょうど対岸に着く。ふう。と安心をしたのを誰が責められるだろうか。

 

 

次の瞬間。ジャイガの巨体が、湖の上を飛翔した。

 

「はぁ!?なによお!それえ!!!」

 

「なんと!跳びおった!いや、飛んでいますなぁ!!!!」

 

体のどこからか、水を噴射して飛んでいる。

 

そして今一つの飛距離で湖を越えきれず、着水。

 

しかしこちらは反転しなくてはいけない。これは、不味い。湖に閉じ込められてしまった。

 

状況は膠着する。

 

互いに決定打に欠けるが、それでも魔獣が優勢である。奴らは諦めも消耗も知らない。

 

後から追いつくであろう仲間にもそれなりの戦力はあるが、プーさんこそ最大戦力である。

 

端的に示すなら、絶体絶命だ

 

 

壁など一切ないはずの湖のほとりに、大魔獣という名の絶壁がそそり立っている。

 

「ねえ。どうにかする手立ては思いつくかしらあ?」

 

「当方とプーさんでの囮作戦くらいなものですかなぁ。この湖に他の魔獣は?」

 

「街の横だものお。いる訳ないわあ。飛んでる悪い動物さんも、森の子たちもみ〜んなもう逃げたあとねえ。でも感覚的には囮になっちゃうのは私かも。ずっと私のことだけ見てるわよお。あの子」

 

どうやら加護は少し影響を与えたらしい。それで狙われてしまったか。

 

「では囮は無しですなぁ。隙をみて仕掛け、毒にて痛打を与える。そしてどうにか逃げるか倒すかなりしますか!夜の前に動かねば死ぬでしょうなぁ」

 

行き当たりばったりというやつですわ!ガハハハハ!

そう言って心の底から笑うゴドフリーを頼もしく思っていたのだろうか。メィリィの手は少し震えゴドフリーのズボンを掴んでいた。

 

以前とは違い、彼女は死ぬわけにはいかなかった。もうメィリィは、エルザが悲しむと知っている。

まぁあとは、魔獣おじさんもきっとうるさいくらいに泣くだろう。きっとひどくやかましいので死なないでおいてあげる。

 

あの性格最悪のおばさんは、死んだら墓石にポエムを彫るぞと脅してきてる。ババアの思い通りになどなるものか。ぜったいに死ねない。

 

 

この魔獣の鉄壁に隙などないが、諦める理由なんてもっとない。

 

 

「共に壁越えと行こうではないか!メィリィ!」

 

「もう!やってあげるわよお!おじさん!」

 

そんな彼らの心意気が功を奏したのだろうか。あの魔獣に後ろから襲いかかる影があった。

 

ズドンという重苦しい打撃音が空気を震わせた。

 

大きな地竜のアンキロ種。一般に鎧竜と呼ばれるものだ。あれがまさか?村の子どもたちが言っていた?

 

街の子どもたちが、大きな声で叫んでいた。

 

「ガメア!ガメアが来てくれた!きっと、悪魔の笛を持ち去って目覚めた魔獣をやっつけに来てくれたんだ!!」

 

「ガメアの尻尾のハンマーにかかれば、あんなやつ一撃だよ!」

 

「槍だってきっと、あの鎧には通じないやい!」

 

背後からの奇襲で、その尻尾についてるハンマーのような甲殻によって痛打を与えていたのだった。

 

「今のうちに毒を。それが済んだなら離脱っ!今すぐ!」

 

その隙に、プラタが襲いかかる。

 

「やっちゃえ!プーさあん!」

 

その身に宿るマナを解放し、大魔獣ジャイガを寒波が襲う。

水に濡れたジャイガの表面は凍結し、その動きは鈍る。

 

その隙に、もう一度全身を回転させたガメアが尻尾のハンマーを見舞った。

全長8mにも及ぶかという巨体。そのハンマーの大きさや重さから生まれるのは想像を絶する威力。

 

ジャイガは悲鳴を上げて倒れ込む。

 

そこに駆け寄ったプーさんが、その足の毒爪で2度ほど引っ掻く。

物理的な神経毒と、呪いによる激痛がジャイガを襲う。

 

このまま殺せる。

 

ゴドフリーは冷静に見極めていた。

プーさんの毒は激毒だ。フェリックス様立ち会いのもと一度くらってみたが、あれは強者にこそ効くだろう。

 

どれだけ覚悟をしていても耐えられるものではなかった。あの涼しい顔で身を刻むケイ殿ですら悶絶したのだ。この世の誰も耐えられまい。

 

これまで天敵などいなかったものほど痛みに慣れていない

 

「ねえ。やっぱりおかしいの。瀕死になってるけど、まだ元気な子がいるようにも感じるの。あの子、まだ死なないわあ!」

 

そんなメィリィの悲鳴のような忠告が響いた時にはもう遅かった。

 

その尻尾が機敏に動き、ガメアの腹を刺した。

 

悲鳴を上げて仰け反るガメア。

 

そこに追い打ちをかけるように、槍が射出される。

よく見れば鼻の上にある角に、穴が空いている。そこから何かの液を出し飛んでいるうちに固まっているようだ。

 

手足の関節に槍が刺さり、突進される。

 

逆さに転がされたガメアは手足の自由を奪われて、自分で体勢を戻すことができないらしい。

 

これはまずい。

ゴドフリーはその一連の攻撃の詳細を、しっかりと観察していた。

現状ではきっと、メィリィを逃せない。戦って殺すか、致命傷を与えなくては。

 

そのために致命打を与えるためにはあの地竜は必要だ。

 

勝てる確証などないが、やれるだけをやるしかない。

 

『関心の加護』による極限の集中。魔獣に対してのみ、この男は英雄となれる。

 

「メィリィ、しばし奴の気を引いてくれい。湖から魔法で中距離戦だ。こっちに寄ったら接近戦を頼んだ!」

 

そして最後に大事なお願いをしてから、地竜に向かって駆け出した。

 

大魔獣ジャイガはその見た目に似合わず、それなりに知性があるらしい。魔法攻撃を受けながらも、最大の脅威である鎧竜の尻尾に食いついた。

 

凄惨な絶叫。

 

そして回転を加える。デスロールと呼ばれる行動によってその鈍器は食いちぎられた。次なる脅威は、妙な干渉をしてくる厄介な子供と、それを乗せた裏切り者である。

 

ジャイガはメィリィに視線を定めて狙い続ける。

 

 

 

ゴドフリーはガメアに到達すると、その顔に語りかける。

 

 

「信じろ!一緒にあいつを殺すぞお!!」

 

地竜の瞳に知性の光を見た。

ゴドフリーは自慢の斧槍を振りかぶって、盛大に刺した。

 

「ひでえや!あのおじさん一体何してんだ!?」

 

「ガメアのお腹を刺すなんて!なんてことなの!」

 

なぜか激戦の最中でも聞こえる子どもたちの声に疑問や苛立ちを感じる余裕はない。

 

先ほどの尻尾による攻撃。その尻尾はトンボを思わせるような複雑な構造をしていた。

そして何かを送り込むようにその内が蠢いたのをゴドフリーは見逃さない。

 

ガメアの腹に潜むのは、30cmほどのジャイガの幼体であった。それを切り捨てると、手足の槍を抜き始める。

 

ジャイガはそれを一瞥するが対応は遅い。あの鎧竜はもう脅威ではないと判断しているようだ。

 

しかしそれでも抜け目のない怪物は、トドメを刺そうとそちらに顔を向け、億劫そうに跳躍した。

 

「いっけえええええ!!」

 

メィリィの叫びと共に、氷柱が水面から斜めに上に伸びる。湖底に突き刺さったそれは、確かな重量を空に投げる。

 

射出されたのは、遅れて到着したビーバーの魔獣『()()()()()』。

その身にはためく青蓮の証。胸につけた識別番号は(4)である。

 

急ぎ向かううちに体に石やこの一帯の青い花がついたのだろう。

青いその巨体が、空を翔けてジャイガに襲いかかる。

 

より高く飛ぶのは私だと。そう言わんばかりの見事な跳躍で、ジャイガを追い越しつつ着地。回転しながらの一撃が無防備な背後に突き刺さる。

あまりの衝撃によろめき状態となったジャイガ。そこから繰り出すのは連撃だ。四肢と前歯を使った猛攻でジャイガを抑える。しかし、致命打は決めきれない。

 

やはりガメアほどの一撃でなければ…

 

その隙にガメアが体勢を立て直す。そうすると、湖に一つの氷柱が立った。

 

「あそこに向かえ!わかったな!?」

 

そうして満身創痍のアンキロを送り出す。

 

途中までその背に乗って、思いっきり跳躍した。

ゴドフリーはその大魔獣の背に取りついた。

 

「ガハハハハハ!!剣鬼殿やスバル殿ばっかりずるいですからなぁ!」

 

左手でナイフを刺し込み、振り落とされないようにして斧槍で斬れる範囲をズタズタにしていく。

 

深手にはならないが、その攻撃を嫌がってジャイガは身を捩る。

 

その隙に、メィリィは最大の攻撃を準備させる。

 

生み出すのは氷の塊。それを限界まで大きくして投げつける。

 

おじさんを巻き込む勢いで投げろ!そう言われたからそうする。

死なないでよねえ!

 

氷塊が直撃し、ジャイガはまた地に沈んだ。

その隙にとプーさんが再び毒爪で襲う。ジャスティが畳み掛ける。

 

かつての10m越えのダム。その壁の元で出会って以来の戦友が二頭並び立ち、巨獣に連撃を叩き込む。

 

3回ほど引っ掻いた時に、ジャイガの尻尾が襲いくる。

それをゴドフリーの全力による一撃で逸らす。

 

しかし角からの槍まで手が回らなかった。

プーさんに槍が刺さってしまう。追撃はカバーに入ったジャスティが体で幾本も受けきった。

 

二頭の魔獣が、倒れ伏す。

 

 

まだ、ダメか。

 

毒による行動不能の兆候は見られない。いよいよ。万事休すかと思ったその時、後ろから再びの衝撃によってジャイガが吹き飛んだ。

 

そして、その後には奇妙な音が響いている。

 

ジャイガはこれまでで一番の苦痛を受けているような反応だ。ゴドフリーはその隙を逃さず、ジャイガの目を片方潰した。

 

大魔獣が残った目で敵を見れば、そこにはおかしな形の生き物がいる。

 

石像の円筒に自身のちぎられた尻尾を差し込んで振り回しているガメアの姿がそこにあった。

 

その音がジャイガの自由を奪う。何も動くことができない。

残る目玉も潰された。

 

そしてダメ押しとばかりに、その石像の尖った先端が突き刺さる。

 

円筒状に穴の空いた槍に貫かれ、血がとめどなく流れ出す。

 

 

響き渡るガメアの咆哮。

 

 

大魔獣ジャイガはここに沈んだ。

 

 

ガメアはその後、再び悪魔の笛を尻尾に収めると、その大魔獣の死体を引きずって、森の奥へと消えていった。

奇妙な音色がすれば、きっとガメアがそこにいる。そんな伝承が語り継がれるのだろう。

 

その後確認が取れたが、領主は死んだらしい。

破壊されたのは悪魔の笛が置かれていた領主の館とその周辺が主だった。

 

ゴドフリーとメィリィは歓待を受けてから、遺跡の調査に向かった。

 

ジャイガが内側から開けた穴から、これまで誰も外から入った形跡のない場所に歩みを進める。

 

その遺跡は300年ほど前のものであり、どうやら暴食の魔女の信徒による研究施設らしい。

複数の生物を合成する研究が行われていた。ジャイガはその実験動物、もとい実験魔獣だった。

 

特定の音で制御可能な魔獣ということで生み出され、その体には確認できるだけでも4体の魔獣が混ぜられている。

 

邪精霊を核とした魔獣の融合実験施設。そんな禁忌の遺跡である。

 

途中で彼らは滅んだようだが、ジャイガは生き続けていた。

 

そんな伝承が付近には残っていたのだろう。

 

この遺跡は魔女教に関わる場所として侵入を禁止し、ケイに判断を委ねることになった。

人道を無視した魔獣研究の資料の山がここにはある。きっと魔獣調査の役に立つだろう。

 

 

全てが終わった帰路。プーさんとジャスティは負傷したため、ゴドフリーの地竜にメィリィは一緒に乗っていた。

 

流石に口数も減るが、行きよりも二人の距離は近づいていた。

互いに命を預けるなんてエルザ以外に初めてだったのだから仕方ない。

 

ふと、あの青い花の香りがした。思い出したので仕方なく、口をひらく。

 

 

「みんなが死にませんように…」

 

ボソリと呟いた言葉を、ゴドフリーはしっかり聞き取っていた。しかし意味がわからなかった。

 

「んん?いきなりどうしたメィリィ!」

 

「何ってなによお。教えろって言ったのはおじさんでしょお?願い…願掛け!あれの内容…」

 

「勘違いしないでよねえ。私たち姉妹の安全はそっちの陣営の力に依存してるんだしい。変なところで躓かれたりしたら困るんだからあ」

 

それを聞いて、うんうんと頷くゴドフリー。

内容を一拍遅れで理解し、その瞬間涙が溢れた。

 

ドバドバと止まらない涙。

 

抱えるように自分の懐にいるメィリィに浴びせないように、限界まで体を逸らして泣き続ける。

 

「何なのよお。その反応…嫌なんだけどお」

 

ゴドフリーも学ぶのだ。感激のあまり涙を流したまま抱きしめて以前に怒られたことがある。

次の休憩で、抱きしめて胴上げし万歳して歓喜の歌と踊りを披露せねばいけませんなぁ。

 

 

「メィリィ。よくやってくれた。おかげ様で命を拾いましたわ。また一緒に旅ができて嬉しいですな」

 

「魔獣おじさんは私と悪い動物ちゃんがいないとダメみたいだしい。しばらくは一緒にいたげるわよお」

 

 

青い花畑に囲まれた泉。

 

帰り道にそこで何を願ったのか。それは二人のみぞ知ることである。

 





ビーバーがジャスティということで、注意が逸れていたようだな戦友

      『外しはしない』
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