亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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【FILE:63】西方行脚④ 最も美しい死神

 

ケイ殿が消えた。

 

 

陽動のために時間をかけるかもしれないとは言っていたが、数時間経っても戻ってこないのは異常だ。

 

 

調査はその間に済ませてある。目的の洞窟周辺からは魔獣も移動し、なんの障害もない。

 

 

その人員をそのまま捜索に当てようとするが、遠くない場所に花魁熊の群れは発見されている。

ではどこに?戦うなら絶対に魔獣如きに殺されるような者ではない。いや殺されはするのだが、無力化などできはしない。

 

 

忽然と消えたその姿に、以前に言われていた言葉を思い出す。

 

 

「僕は前触れもなしに復活しなくなることもあるかもしれません。その時はしばらく待ってください。それまでの拠点や竜車の方から顔を出すこともあると思います」

 

 

ならばと調査から戻り、都市で捜索するが見当たらない。

 

これは異常事態だろう。どんな術法を用意していたのかはわからないがもしクルシュ様の方へ移動しているのならばそれでよし。とにかく確認が必要だ。

 

可能な限り早くクルシュへ届けるように厳命した封書を託して、周辺の探索を行い日々を過ごす。

 

5日が経った頃には、もしやルグニカまで戻ったということもあるのではと考えにいたり途方に暮れた。

判断ができない。しかし、彼が途中で何かを投げ出したり、死んだりするという方が想像はできなかった。

 

「おい、あれなんだよ!?」

 

その時、純白の天翼を惜しげもなく晒して戦乙女が第一都市に舞い降りる。

 

きっと、連絡を受けて即座にこちらに向かって飛んだのだろう。

10時間以上飛行したのではなかろうか。

 

その声は掠れているが、苛烈な色を滲ませる。果断な貴族の声だった。

 

「ケイの捜索を行います。現状の打ち手を教えなさい。移動しながらで結構です」

 

甘えというものが一切抜けた、女傑と呼ぶに相応しい公爵がそこにいた。

苛烈さはあれど、その冷徹さは以前にすらなかったものであり。まるで消えたケイの代わりをしているような冷静さであった。

 

しかし、それは表面上のところであった。

 

第一都市の都市長に全面的な協力をさせようとするクルシュの気迫は凄まじく。あるかもわからぬ相手の非や疑惑を突きつつ、利益を提示する手法は有効ではあった。しかし助力は得られても禍根が残りそうなほどではあるが。

 

そんな時に、彼ら全員にとっての吉報が届く。その無謀は実行されることは無くなった。

 

ケイが戻ったというのだ。

 

クルシュは聞いた場所へ駆けつける。文字通りに飛んで行った。

 

過去最悪の仏頂面がそこに待っていた。

 

よかった。よかった!本当に…

 

気づけばケイに抱きついていたが、その後力が抜けてしまう。

 

倒れるクルシュをケイは支えるが、まるでこれでは…

 

 

すでに身体の延長のように動かせるようになった天翼。反射的に翼を動かし、地面に刺して自身を持ち上げる。バク転のような機動を行い地面に立った。

顔が爆発するように熱い。ケイの方を見れないが、そのまま言葉を交わすことにした。

 

「ぶ、無事で何よりです!今まで、どこに?」

 

ケイはなんでもない調子で答える。いや、装い切れていない。

その声には切実な響きが滲み、激情が垣間見えている。

 

怒り。無力感。罪悪感。そして一番大きなものが喪失感による虚無の風。

 

「多分ですがグステコのさらに北方です。そこまで飛ばされて、戻ってきました。そしてすみません。カルステン家の財産である装備をほとんど失いました。僕の失敗です。言い訳の余地もなく」

 

クルシュは困惑している。グステコ?それで戻ってきた?そして装備を全て失ったというその言葉。

その全てに現実的な納得はできない。

 

しかし、ケイは初めて見るほどに動揺し、傷ついているように見える。

ケイが何かを大きくしくじるところをクルシュは初めて見たのだった。

 

ヴィルヘルムの動揺を見る限り、以前の私も見たことがないのだきっと。

 

 

ケイが落ち込んでいる。それだけがどんな事実より重要だった。

 

こんな時にこんな感情。本当に自分が嫌になる。

 

だけれどクルシュは少しだけ嬉しかった。喜びを感じてしまった。

だって今度は、私がケイを支えられるのだから。

 

抱きつくことはしない。しないが、今のケイと触れ合いたい。

 

妥協策として手を伸ばし、握手を求める。

 

ケイは困惑しつつも手を握り返した。

 

 

「その失敗は私のものです。私はあなたの主ですからね。色々なことを失っても、あなたは無事に帰ってきたのでしょう。私はそれで許します」

 

聖女のように優しく。王のような威厳に溢れた慈愛を伝える。

 

ケイは、目を瞑って苦悩する。それはこちらへの罪悪感というよりは失ったものを思う喪失感がそう言わせているようだった。

 

「ええ、すみませんでした。これからは同じことは起こしません」

 

いつもなら間髪入れずに次の行動を話すのだが、今日のケイは少し考え込んでから話し始める。相当に堪えているようだ。休ませてあげたい。

 

でも彼はきっと動き続ける。だからそれを支えよう。

 

「ではやることを確認しても良いですか?」

 

「ええ、そうしましょう。いろんなことを無視して飛んできてしまいましたからね、その分の巻き返しには期待していますよ、ケイ」

 

ハァ〜と。長く深いため息をついて、ケイは切り替えたようだった。

 

「そうですよね。もう戻ってもらって大丈夫ですよ。時間は無くなったけど、やれるだけやってから水門都市に向かいます。そちらで会いましょう」

 

「あまり心配させないで…いや、やっぱり少しくらい心配はさせてください。私だってがんばりたいんです」

 

 

あと、今度こそは色々と聞かせてもらいますかねと言えば、嫌そうなケイの顔を見て笑う。

そして、少しの休息を取った後急ぎ逗留していた都市に戻るべく飛び立った。

 

 

 

「ケイ殿。ご無事で、何よりです」

 

 

「ご迷惑をおかけしました。装備は失いましたがそれ以外に問題はありません。調査の結果は?」

 

すでに次を向いている。その様子にヴィルヘルムは目尻を緩め、そして引き戻した。

 

「件の洞窟で間違いはなさそうですな。調査隊が周囲を捜索しましたが、他に目ぼしいところはありません」

 

「だいぶ時間もなくなりましたが、当初の予定通りに精霊と会ってこようと思います」

 

 

やりたいことは無数にあった。そのための手段も用意していた。

しかし、全てを失ったため作戦はほとんどが白紙だ。

 

何はなくとも、最後まで。

 

そんな気持ちでケイは単身洞窟へ向かう。

 

『やっぱりRPGよりアクションだよね。装備やレベルで圧倒じゃなくてプレイヤースキル勝負の方が楽しいよ』

 

邪魔な声に本気でキレそうになる。心の底から余裕がない時には出てこなかったな。これはきっと僕の脳のリソースに余裕のある時に起こるのだろう。

 

この一番聞きたくない声が、自分の日常や平静の証だと思うと嫌すぎる。

いや、前言を撤回する。この世で一番聞きたくないのはこの声ではない。あの女の笑い声だ。

 

 

機嫌はと言えば過去最悪と言っていい。そしてそんな状態で向かうのは、あの『強欲の魔女』がお膳立てしてくれた洞窟である。

 

何が起こるかは知らないが、絶対に碌なことが起きないということだけは断言できる。

 

 

 

 

森を抜けた瞬間、風が肌を刺すように吹きつけた。目の前に広がるのは、異様なほど広々とした空間だった。そこだけぽっかりと穴が開いたように木々が失われ、地面はむき出しの土と砕けた石でが転がっている。

 

まるで何か巨大な力で薙ぎ倒されたかのように、辺りは荒れ果てていた。倒れた木々の残骸は無惨にも引き裂かれたまま散らばり、その切り口は鋭利な刃物で断ち切られたような正確さだ。

 

ふと目を凝らすと、洞窟の入口がぽっかりと口を開けているのが見える。

 

風に乗って聞こえるかすかな音。

 

まるで悲しい歌のようなその風を聞くと、体を引き裂かれた。

 

復活する。もはや何も持ってきていない。身一つで挑んでいる。失うものなどない。

 

その後も刻まれながら前に進む。

 

風の音色が体を切り分け、それでもケイは止まらない。

 

 

 

ケイは半ばヤケになっていた。普段なら眉をひそめるような苦境であっても、今なら別に気にしない。

 

 

 

その奥には、体を丸めて眠る女。

おそらく寝ている。その寝言のような、寝相のような風でこれまで殺され続けていたらしい。

 

「あの、すみません」

 

首を飛ばされかけ絶命する。

 

話しかけても、体を揺すっても殺される。

 

会話にならない。殺され続ける。

 

けれどこれは想定内だった。相手は殺人衝動があるとは言っていたが知性もあるらしい。

きっといつか消耗すれば、何か変化が訪れるはず。

 

 

大精霊という存在の規格外さをケイは過小評価していたようだ。

人類の最高峰たるロズワールであってもクルシュと1時間も魔法戦を行えばそれなりに消耗したものだった。

 

 

まさか三日も休みなしに魔法を放てるとは思わなかった。

 

 

そこからの三日三晩、これまでのケイの記憶の中でも最も短時間で多くの死を重ねたものになった。

 

いい加減にそろそろ期限だなと思い始めた時、その女が目を開けた。

 

「あんた、頭おかしいでしょ。なんなの?死ね。外に飛ばしても戻ってくるし。死ね」

 

今の短い対話の中でも二度殺された。

どうやら途中から起きていたらしい。

 

「話をしにきました。殺されるのは構わないので話しましょう」

 

「はぁ!?死ね!こっちは話すことなんかないんですけど?死ね」

 

「なぜ殺したいんです?でもなんで僕を追い払わないんですか?」

 

「どれだけ吹き飛ばしても、そっちが戻ってくんでしょうが!死ね死ね死ね!殺したいものは殺したいの!」

 

 

なんというか、話を聞き出せる状態じゃないな。

じゃあまぁ、こちらの話でもして相互理解に努めるか。

 

殺され続けながら、自分が不死になってからの話をした。

 

「ばっかじゃないの?死ね。いきなり自分語りとかあり得ないですけどしね!」

 

しかし、荒ぶり続けるその大精霊が永井圭の人生。その語りの中で一度だけその暴虐を止めた瞬間があった。

 

それは、ケイが実験施設に捕らえられた時の話だった。

 

佐藤に騙されて国に差し出され、亜人の研究のその前段階の確認として拷問を受けた。

10日に及んだその拷問は、特に何を聞き出すためでもない。どれだけ死んだことがあるかの確認ということで痛めつけられ、意図的に苦しめられていた。

 

 

「あんた、その時になんで殺さなかったの。魔法でも使えるんでしょ」

 

ザーレスティアには異世界のことなど詳しくは話していない。今のケイを見てそう思うのは自然だ。

事実としてはその時魔法は使えなかったが、IBMは出せていた。狙って動かすことはできないがきっと殺意を抱けば殺せていただろう。

 

 

「なんででしょうね。バカだと思います。今だったらわからない。けど、あの時はそう思ったんです」

 

今思い返しても、自分の行動を説明し切れる気はしない。あれは失敗だった。今なら別の行動を取るだろう。

 

でもあの時も自分にできる戦いを最後までやろうと思っていただけだ。

 

 

その答えは望むものではなかったらしい。

 

「死ね。死ね。死ね死ねしねしねしねしね」

 

溜めた分の殺意がしっかりとこちらに届いた。

 

少しこいつがわかった。

殺したいが、話したくないわけじゃない。

殺したいが、悲しみを感じないわけじゃない。

 

全ての感情よりも殺意が上回っているだけだ。

なら殺意を認めて受け止めてやれば、その間の短い間は対話できる。

 

「もういい。もうわかったから一度帰りなさい。死ね。あたしに惚れてでもいんの?こんだけしつこくして意味わかんないオスねほんと。死ね。どうせまた来るんでしょ」

 

一度帰れと、殺され続けながら言われ下がる。

 

確かに一度戻るのもいいかもしれない。対話はできたし、もう一度くらいなら帰るまでに顔を出せるだろう。

 

 

「まぁ確かに。服も跡形もないですし。じゃあ、また来ます。ザーレスティア様もお元気で」

 

その一言に衝撃を受けたようだった。

 

「死んでよ。ほんっとになんなのあんた」

 

下がりつつ殺される。

 

「ちょっと、待ちなさいよ。あんた、このあたしを無礼者にする気?死になさいよ」

 

困惑しつつ殺される。何が言いたいのか。

 

「あんたの名前。そっちだけ知ってるなんて公平じゃないわよ。とっとと教えて消えなさい」

 

「ケイ、と言います。これからよろしくお願いします」

 

「はぁ!?よろしくするなんてあり得ないんですけど!し、ね!」

 

そう言って洞窟から刻み出される。

 

重度の殺人衝動は一般人には致命的だが、やはりそこまで根本が狂っているようには見えなかった。

その証拠の一つ。ケイはこの三日三晩刻まれ続けたが、ザーレスティアは無意識に上半身だけを狙っていたのかズボンは無事である。

 

上半身はとっくに裸になっているが、別に相手は人間でもないし相手が人間だとしても気にしない。

 

流石に疲れた。

周囲に控えていた調査隊に着替えを受け取り、都市へ戻る。

 

ようやく休めると思ったその時。

 

 

また死んだ。

 

 

 

最近受けていたあの風の絶技とは雲泥の差ではあるが、人間を裂くのには十分な威力の風。

 

せっかく着替えた服が破れてため息をついた。

 

後ろから奇襲したのは女。その姿にはわずかに見覚えがある。

しかし、ここ数日は寝れていないため、思い出すのに時間がかかる。

 

確か調査の際に参加していた傭兵の女。名前は…レーゼ、であったはず。

 

不確定な記憶というのは気持ちが悪い。早く寝たいな。

 

「なんの用ですか?これはどういうつもりで?」

 

「殺す。私が殺す。絶対に殺してやる」

 

 

茶色いおさげ髪の少女。平凡だが愛嬌のあっただろう顔は今や殺意に塗れている。

薄い青の瞳がケイを射抜いて離さない。

 

 

なんだよこれは。カララギでは流行っているのか?

死ねだの殺すだの。もう飽き飽きするほど浴びせられた殺意をうんざりと受け流す。

 

相手にしなくていいか。指を上空に向けて光線を射出する。

 

そのうち青蓮獅子団かヴィルヘルムが駆けつけるだろう。

 

数分、殺されたり反撃したりを繰り返していると、ようやく救援が来た。

 

剣鬼が一目だけこちらを見る。指示は無力化。一行に治癒術師はいるが、致命傷はすぐに治せるものじゃない。

事情聴取のためにもほどほどにしておいてほしい。

 

ヴィルヘルムは一切の隙を見せずに肉薄し、対応しきれていないレーゼを切り伏せた。

 

もう終わったと思えば、再び立ち上がる。

 

その額には光る角のようなものが生えており、周囲からマナが流れ込んでいるようだった。

 

先ほどよりもむしろ強力な力を行使し立ちはだかるレーゼ。しかし、ヴィルヘルムには及ばない。

 

同じように無力化されて、今度こそ捕縛されたのだった。

 

 

殺意に塗れた供述は理解し難かったが、なんとなくの事情は判明した。

レーゼは魔女教への復讐者らしい。その鼻は魔女教の匂いを嗅ぎつける。

 

ケイはここ最近でそれが一番強く香ったらしい。

こいつは魔女教だ。だから殺すと言って聞かない。

 

 

「僕は魔女教大罪司教を殺したことがある。怠惰が死んだのは知ってるな?」

 

 

魔女教大罪司教を殺したと聞いて態度が変わる。

そして追加で話をしてやる。

 

レーゼのような個人を除けば、魔女教を探して堂々と排除すると宣言しているのは、この世界に二つの勢力だけ。

暴食を駆り出し、色欲を殺す予定のエミリアとクルシュだ。確実に襲われ続けるエミリアと同盟でもあるため実質一つの勢力と言ってもいい。

 

国なども対応はするが、積極的には狩り出してはいない。

 

「復讐したいならどちらかの勢力と関わればいい。幸いその二つの陣営は同盟を組んでる。つまりは僕達に協力すれば、魔女教を殺せるっていうことだ。魔獣よりも広範囲に魔女の残り香を嗅ぎ分けるその鼻は有用だ」

 

「でも、でもお前も、お前からもあの臭いがする!こんなに強く!これはあの女以来だ、絶対に碌な奴じゃない!」

 

「僕は被害者だ。つい最近魔女に呪われて死ぬほど大変な目に遭った。その残りだろう」

 

まだまだ納得には遠いレーゼに畳み掛ける。

 

「さらに言えば、お前じゃ僕を殺せない。ヴィルヘルムさんですら僕を殺しきるのは多分無理。能力がないくせにやりたいとだけ叫ぶのは無意味だ。あとで裏切るにしても今は提案を飲むのが賢い選択だろう。復讐をしたいんじゃないのか」

 

なん、だこいつは。

 

でも、決心できない。こいつの臭いは絶対に許せない。殺してやりたい。

 

「わかった。なら僕を最後にしろ。それまで一緒に魔女教を殺して回ればいい。最後に殺すと決めて今は協力しろ。対価として、お前が追う魔女教徒の女の情報を話してやる。それでどうだ」

 

最後の材料が決め手だった。レーゼは殺意をそのままに、ケイに降るのであった。

 

機会さえあればあの邪魔な剣士もろとも殺してやる。決して気を許したわけじゃない

 

 

殺意まみれの女の相手をし続けて疲れた。どれだけ連続で向き合っていたのだろうか。

 

 

 

そして一旦時間切れである。やはり雪山に飛ばされたロスが大きかった。

 

翌日の早朝にザーレスティアへ挨拶に向かう。また今度時間を作って出向こう。

何度か話せばきっと、対策も見つかるだろう。

 

そんなことを考えながら、洞窟へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

レーゼはこんなに早く機会が訪れるとは思わなかった。誰があんなやつを信用などするか。魔女教としての証拠を掴んでやる。

 

どうせ大精霊の力を使って悪逆非道の限りを尽くすのだろう。そんな猜疑心を原動力にケイを尾行する。

 

 

なんの気無しにケイとかいう魔女教徒は洞窟へ入るが、そこは殺意の奔流だった。殺意の暴風が吹き荒れるも、執拗にケイを狙い続ける。

レーゼは風を避けながら、気づかれないよう尾行する。

 

「本当にまたきたの?死にたいんだ?」

 

「死にたくないですよ。絶対に。死ぬのは恐ろしい」

 

挨拶を交わし殺される。

そして精霊が何かを男に投げつける。

 

「いっみわかんない。しね。死に続けてるくせに何言ってんの?」

 

「これ、なんです?」

 

「う、うるさいわね。なんでそんなこともわかんないのよ。ほら、それこの前ズタズタになったでしょ。あたしはあんたみたいな矮小な人間ごときに借りなんて作らないの。これがあれば気にせずに殺せるでしょ」

 

その白い毛糸で作られた腕輪のようなものをつけると、白い着物がマナで構成されるのだった。

 

「これならあんたをどれだけ殺しても裸になって不快な思いをさせられることもないってわけ!どう?感謝したら?」

 

素直に感謝を伝えたら殺された。

 

かなり良好な関係になってきたんじゃないかこれは。思った数倍は簡単そうだ。

 

また必ず会いに来ると挨拶を行なって、殺意で返事を受ける。

ケイは洞窟を出て行った。

 

誰も、レーゼに気づかない。

 

「何よ、あいつ。なんなの?頭おかしいんじゃないの?」

 

何年振りかわからぬ人との対話。その余韻に浸る。

思い出した。一人は寂しいのだと。自由とは孤独であるのだと。

 

人は空腹を自覚できない時がある。食べて初めてお腹が空いていたのだと実感することもあるのだ。

 

彼女はこの数百年でも一番の警戒が緩んでいた。

 

その決定的な油断の瞬間『光珠』に触れるものがいた。

 

「え?」

 

びっくりはしたが普通ならば風で殺しておわり。そのはずだった。

 

しかし、この時は別の何かが起こった。

いや、すでに起こってしまっていた。

 

ティアの意識で体が動かない。なのに、あたしの中の暗いものが勝手に声を出す。

 

「あたしは全てを殺したい」

 

「私も」

 

あり得ぬはずの共鳴。光珠がティアの元を離れ、意識が遠のいていく。

 

待って、まってよ。おいてかないで…

 

そして気づいた。

 

 

ああ。これが狙いか…

 

また、あたしを騙すのね…

 

 

 

強い怨恨。裏切り者と盗人の匂いだけが脳裏を埋め、ザーレスティアの意識は溶けていった。

 

 

 

 




さて、装備全ロスにティアさん敵対と。着地は散々ですが間章は一旦終了です。

水門都市の仕上げのためにここから1週間は投稿を止めようかと思います。
更新予定は12/7です。そっからは毎日投稿だ!

我慢した後がいっちゃん気持ちええらしいですからね。

水門都市が一段落したら書けなかったものを書く間章期間にまた入りたいなぁ
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